5話 真の聖女
「角付きオーガの攻撃を防ぎ、エネルギーを放出して倒したと?」
「はい」
ここはティティス教会。
神殿の一室だ。
リンは此処に、僕の事で相談に来ていた。
何せオーガの攻撃を弾いたり、
不安になるのもしょうがない。
オーガ討伐から3日。
ベテラン冒険者さんの手当ての甲斐もあって、リンの足はすっかり回復している。
この世界には魔法があるが。
それはあくまでも自己治癒力を高め、ちょっとしたプラスアルファを加えるレベルでしかない。
唱えればみるみる回復する、万能の力では無いのだ。
その為、回復には3日を要していた。
まあそれでも元居た世界なら下手したら1月以上はかかるし、傷跡だってきっと残っていただろう。
今の彼女の足に傷跡はなく、健康的は肌つやをしていた。
「うーん、私にも分かりかねます。ですが貴方の身を守ったというのなら、それはきっとティティス様の加護だったのでしょう」
神官は少し考えてから、リンの問に答える。
あくまでも口にしたのは予想であり、彼にも何故そうなったのかは分からない様だ。
まあ異世界人が人形に転生し、そのチートでオーガを退けたなんて、普通に考えれば分かるはずないよね。
まあでも、言っている事はあながち間違ってはいない。
僕を転生させてくれたのはティティス様だし。
そこで授かった力でオーガを撃退したのだから、それは間違いなくティティス様の加護と言っていいと思う。
「詳しく調べたい所ではありますが、貴方にはその人形が必要ですから、そういう訳にもいきませんね。何か問題がある様でしたら、その時に改めてお越しください」
「はい、ありがとうございました」
神官にお礼を言うと、リンは部屋を後にする。
教会をを出てしばらく歩くと、彼女は両手で高い高いする様に僕を持ち上げた。
「サイガ。貴方はティティス様が遣わしてくれた、私を守るためのナイト様なのね。これからも私の事を守って頂戴」
勿論だ。
口には出来ないが、この魂に誓って君を守ると約束する。
それにしても良かった。
ほっと一安心する。
あんな事があったから、僕の事を怖がってしまうんじゃないかと思っていた。
正直それだけが気がかりだったけど、今の彼女の笑顔を見る限りその心配はなさそうだ。
「じゃあ次は、ガイゼルさんの所にいくわね」
そう宣言すると彼女は駆けだした。
ガイゼルさんはあの時駆けつけてくれた片方――冒険者さんだ。
彼の手当てがあったから、リンは事なきを得ている。
そのお礼に向かうのだ。
ああ、そうそう。
初心者用の道だったのに、オーガが出たのはダンジョン内の看板を誰かが弄っていたせいらしい。
その為、初心者用と思っていたルートが実際は高難易度の方で、それでオーガと遭遇してしまったというわけだ。
誰がやったのかは知らないが、悪戯では済まない行動だった。
そんな不埒者には天罰が下る事を願うばかりだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「失敗したようだな」
「まさか、あれにあんな力が備わっているなんてね」
薄暗い部屋の中、2人の人間がしかめっ面を突き合わせている。
1人は老人――神官長だ。
もう1人はエルフ――聖女アリエだった。
「良い手だと思ったのに。配下を先回りさせての看板の入れ替え」
「あの娘を守ったのが本当にティティス様の加護だとしたら、迂闊に手を出せば此方が身が破滅しかねん。様子を見るしかないな」
その神官長の言葉を聞いて、アリエはやれやれと首を振る。
「欠片の力が思ったより大きかっただけでしょ?考え過ぎじゃないの?」
「これ以上危ない橋を渡るつもりはない。どうせ放っておいても、何れダンジョンで朽ち果てる。続けたければお主一人でやれ」
そういうと神官長はその場を立ち去る。
その扉が閉じ、足音が遠く過ぎ去った所でアリエは独り言ちた。
「ふん、所詮臆病な老人ね。いいわ、邪神の徒はあたしが始末して見せる。何が真の聖女よ。そんな物、私は決して認めないわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます