3 魔獣討伐のはじまり
「君は魔獣を見るのは初めてだったんだよね?」
そんな話を振ってきたのは、最弱の魔獣、一角兎をちょうど10羽討伐したときだった。
「まあ、そうだな。この一角兎を見たのが初めてだ。急にどうしたんだ?」
「いや、最初見たときどう思ったのかなーって。実際どんな感じだったか知りたいなー?」
「どんな感じって言われてもなぁ……まあ、こんなもんかって思ったよ。だって、見た目はただの兎に一本だけ角がついてるって感じだろ?魔獣っていっても大したことないんだな、って感じだったな。」
今言った通りだ。一角兎なんて、地球にもいた兎の額にそんなに長くない角がついてるような見た目だ。知能が高いといっても、全ての魔獣が人間のように高いわけじゃないそうだ。
魔獣の知能が高い、というのはそのもとになった生き物と比べてなのだそうだ。つまり、一角兎はただの兎よりは多少頭がいい程度。ほとんどただの兎と変わらない。魔獣がその程度だと考えると全く驚かなかった。
「頭がいい訳じゃなかったから驚かなかったんだろうな。いきなりもっとレベルの高いやつにあったら逃げてただろうしな。」
俺は冷静に分析しながらも索敵する。キュウソウは「カルウ君が成長するためだ」とかなんとか言って、手伝うつもりはこれっぽっちもないらしい。
11羽目を討伐したときに、キュウソウは立ち止まった。そして、
「私は、私は怖かった。自分が自分じゃないなにかになるのが……。」
と言った。俺はもちろん不思議に思った。
「何いってるんだ、キュウソウ?」
「……いや、なんでもないよカルウ君。忘れてくれ……。」
彼女らしくないネガティブな発言に違和感を覚えるな、という方が無理だった。だが、彼女はすぐにいつも通り-とはいってもまだ出会って3時間くらいだ-の振る舞いに戻ってしまった。
「そうだ!」
キュウソウの頭に何かが急に思い浮かんだようだ。
「カルウ君、あと……10匹くらい倒したら街に戻らないかい?今日は君の力を見るために来たようなものだからね。それに、今日は祭りの日なんだ。早く街に戻って焼肉でも食べようじゃないか!」
「お、おう。そんな早口で言わなくても……」
「いいじゃないか!年に一度の祭りだ!楽しみたいだろう?」
まあ、俺も楽しみたいといえば楽しみたい。だが、俺はまだ強食を試せていない。それ以前に、どうやって使うかすらわからない。
キュウソウならどうやってスキルを使うか知っているかもだな。
「ところでキュウソウ、スキルをどうすれば使えるか知ってるか?教えてもらいたいんだが……。」
「祭りのことはそっちのけで聞いちゃうのかー。まあ、いいけどね。」
うっ、そこを突かれると痛い……。でも、正直なところ祭りよりもスキルの使い方の方が気になってるんだよな……。
でも、せっかく誘ってもらったし……。
「そんなに悩まなくていいって。別に、行かなくても大丈夫だよ。」
「いや、祭りは……スキルで一角兎を倒したら行くことにするよ。」
「ふふっ、冗談のつもりだったんだけどね。君は優しいね。」
女性からの褒め言葉に慣れていないから、そういうこともあるだろうが、俺は自分の顔が赤くなっているだろうとすぐにわかった。きっとキュウソウは笑ってるんだろうな。そう考えると、さらに恥ずかしくなったが、安心もした……何故かはわからないが。
「それで、スキルの使い方だっけ。」
「そ、そうだ。スキルの使い方だよ。」
俺は俯きながらキュウソウに話す。
「そうだね……どんなふうに説明すればいいのかな…………私からは何ともいえないね。強いて言うなら、気合いだね!」
「は?気合い?じょ、冗談はよせよ。」
つい、恥ずかしくて見せていなかった顔をあげて聞き返してしまった。
自分でも、キュウソウの言っていることが冗談なんかじゃないとわかっていたのに、だ。
「それが冗談じゃないんだよ。気合いで、気付いたら出来ているものなんだよね。そう、まるで生まれたときから使えるかのように。」
「生まれたときから……。」
どういうことだ?スキルってのはこの世界に来るときに与えられるものじゃないのか?元からあったのか?スキルは向こうの世界では使えないだけなのか?
「あはは、そんな難しく考えないでも大丈夫だよ。」
「なっ、声に出てたか……。」
「いや、カルウ君の顔を見ただけでわかるよ。」
どうやら、自分で思っていた以上に悩んでいたようだ……。
「それに、原理なんて解明されてないからさ、考えても答えは出ないよ。考えるな、感じろってやつだね。」
「そ、そういうものなのか……。」
若干戸惑ってはいるが、理解はした。なんとなく、それで本当に出来るのかは不安だがやってみるしかない。
そんなとき、「ピギュウ!」と鳴いてそこに一角兎が現れた。
「よし、カルウ君!今こそ試すときだ!」
「よし、見てろよ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!強食!」
ばくり!
音をたてて、一角兎が消えた。
「は?一角兎は何処に行った?」
「……カルウ君、どうやら君がスキルで食べたみたいだね。」
「食べた?どういうことだ?」
食べる?魔獣を倒すことを食べるっていうのか?それとも……
「君のスキルのことだよ。君のスキルは強食でしょ?つまり、食べて魔獣を倒したってことだよ!すごいじゃないか!君のスキルはとても強いね!」
食べた……?何でも喰らうってのはそういうことか……。これがあればどんな敵でも一撃で倒せるんじゃないか?
「ピギュウ!」「ピギュウ!」
今度は2匹現れた。
「くっ、2匹同時に食えるのか?まあ、試してみよう!強食!」
ばくり!
「に、2匹同時も食えたぞおおお!これなら怖いもの無しだぜ!」
そうして、俺は一角兎が出るたびに強食で食っていった。
「強食!」ばくり!
「強食!」ばくり!
■■■
「強食!」
ばくり!
「はあはあ、こんなもんか……。」
十二分に倒したところで、
「カルウ君、そろそろ帰ろうか。もう充分だろう?もう暗くなってきたしね。
「そうだな……。そろそろお腹も空いてきた。何か食べたいな……。」
「じゃあ、街で私が奢るよ!帰ろう!」
そう言ってキュウソウは俺の手を掴んで街の方へ走っていった。
「あ、ちょっと待てよ!速いぞ!」
「えへへー!」
■■■
キュウソウと共に街へと戻ると、皆が楽しそうに踊っていた。
「お!帰ってきたか、新人の坊ちゃん!」
「キュウソウが何かやらかさなかったか?」
はっはっはっは!
このノリは、嫌いじゃないかもしれない。俺は、中学生の間は剣道をしていた。たった3年、いや、2年とちょっとだけだが。その時の優しく、強い先輩たちのノリに似ている。
「懐かしいな……。もう一回だけ、会いたな……。」
「どうしたんだー、カルウ君?思い出話ならこっちで一緒に話そうよ!」
そう言ってキュウソウは俺を連れて近くの酒場らしき場所に入った。
「うわ、どこに行くんだよ?」
「どこって、見たらわかるでしょ?酒場だよ、酒場。」
「酒場って、俺はまだ16歳だぞ。」
「大丈夫!この国では15歳以上なら飲んでいいことになってるから!」
「い、いや、それでも、なんかなあ。」
「大丈夫!一口飲んでダメだったら私が飲んであげるから!」
いや、日本にいたならそこは止めるべきだろう。
そんなこんなで席について注文した俺たちは、料理が届くのを待っていた。
ちなみに席には向かい合って座っている。
「で、さっき言ってた、懐かしいってのは何かな?」
「あー、あれはちょっと……、」
恥ずかしいよなあ……俺は自分からは絡めなかったのに、先輩は俺を気遣ってくれたもんな……。自分だけ何も出来なかったっていうのは恥ずかしいことだと思う。
「んー?何か恥ずかしい黒歴史でもあるのかな?」
「ま、まあ黒歴史みたいなやつだよ。」
「仕方ないね……それじゃあ話さなくて構わないよ。誰にでも黒歴史ってのはあるもんだよ。そう、私にもね。だから、無理して話さなくていいのさ。」
そう言ってキュウソウは自身の左手を伸ばし、俺の唇に人差し指を当てた。これは、「しー」と、静かにするように呼びかけるあのジェスチャーだ。
少し前のめりになっていて、ぷるぷる震えているところは可愛いな。そう思ってしまうのは俺も思春期男子高校生の端くれだからだろう。
「……///わかった、言いたくなった時にまた言うよ。だからな、その……///
「ふふっ。やっぱり照れてるんだね。でも、こういうことにも慣れていかないとだよ。今回はここで勘弁してあげるけどね。それに丁度……」
「こちら、ご注文の骨つき焼肉3つと、お米2皿と、ビール2杯になります。ごゆっくりどうぞ。」
丁度いいタイミングで料理(料理というにはあまりにも簡単なものだが)がきた。この辺はぱっと見日本にいた頃に食べた料理に見えるのだが、味はどうなのだろうか?
「どうしたんだい、カルウ君?お腹は空いてるよね?それとも、味が心配なのかな?もし味を気にしてるなら大丈夫!一気にがぶりって食べちゃえ!」
「そうまで言うならじゃあ、少しだけ……。」
がぶり!むっしゃむっしゃ。ごくん。
「お、美味しい……。日本のステーキとかにも劣らない!」
「でしょでしょ。あむっ。もぐもぐもぐもぐ。」
キュウソウも肉を食べる。これは会話が止まらないか心配なくらい美味しいな。
「ちょっと食事中済まないね。カルウ君、キュウソウさん。一緒に席に座っても?」
そんな時にいきなり現れたのはコニックさんだった。
「コニックさんじゃないか!どうしてここに?」
「いや、ただちょっと立ち寄っただけさ。偶然君たち2人を見つけてね。カルウ君がどんな様子か聞きたくて来たんだ。」
そう言ってコニックさんは丸いテーブルの空いている場所、俺の右側、キュウソウの左側に座った。
「キュウソウさん、カルウ君はどうだい?」
「カルウ君は強いスキルを持っていて、そこに関しては問題ないと思いますよ。剣の腕ですが、そこそこといったところですね。また後日別途で報告書を書かせていただきます。」
「わかったよ。ありがとう、キュウソウ。」
俺は話についていけず、なんだかよくわからなかった。
「カルウ君、君は剣も出来るのか。どこかでやっていたことはあるかな?」
「えと、一応2年前に少しだけやってたな。」
「少し……。元の世界では頑張っていたんだね。すごいじゃないかカルウ君。」
「いや、そんな褒められる程じゃないですよ。」
そんなに強かったわけでもないしな。公式な試合でも合計5、6勝しかしていない。
「それで、スキルを使った感想はあるかな?」
「スキル……は、楽しかったな。一方的に倒せる感覚。ちょっと癖になるな。」
癖になると思うとちょっと怖いがな。
「カルウ君は12回くらいスキルを使ってたからね。もうスキルの虜じゃないのかな?」
「そ、そんなことは……ない、よな?」
「さあ、どうだろうね?」
「キュウソウだけじゃなくて、コニックさんまで……。もうこれはダメなのか……。」
既に俺はスキルの虜だった?まあ、強いからわからなくもない。まあ、スキルだけに頼るつもりはないが。
「スキルといえば、スキルが進化するって知っているかい?」
「進化?」
「そう、進化。強くなるのさ。特定の行動をすると起きるらしいんだ。まあ、その特定の行動が何かはわからないけどね。」
進化……。ラノベとかだと進化すればチートスキルになるよな……。まあ、これ以上は強くはならないと思うけどな。
「まあ、私たちにはあまり関係ないね。それに、スキルだけじゃなくて、体も鍛えなきゃだよ、カルウ君!」
「キュウソウさんの言う通りだよ。体を鍛えるためにも、この肉をたくさん食べるんだ。こう、お肉むしゃむしゃって。」
「お肉むしゃむしゃって食べるのか……?まあ、食べるけどな。」
がぶり!むしゃむしゃむしゃむしゃ。ごくん。
「ふう、美味かった。」
「せっかくだからもっと頼もうか、カルウ君。すいませーん!骨付き焼き肉2つ追加で!」
「はーい。わかりました!」
「ちょ、キュウソウ!?頼まなくていいぞ!」
「まだ宴ははじまったばかりだよ!」
「そうだね、カルウ君。もっと楽しもう。」
「コニックさんまで……。こうなったら楽しみまくってやる!」
■■■
「うう、食べ過ぎた……。」
「そうだね……。じゃあ、僕が払うから二人は帰るといい。」
「いいんですか?コニックさん。」
「だって、キュウソウさんはもう酔いつぶれちゃってるでしょ?それに、今度はこっちが奢ってもらうことにするよ。」
「悪いな、コニックさん。じゃあ、俺たちは帰るな。」
「うん。また今度。」
そう言って俺たちとコニックさんは別れた。俺は酔いつぶれたキュウソウを背負って歩く。
「んー、カルウ君?」
「起きたのか?」
「起きてないよー。お肉をもっと食べるんだー。」
っく!この酔っぱらい、駄目だ。そう思った俺だが、あることに気づいた。
「まて、キュウソウ。お前の家はどこだ?」
「家ー?宿に泊まればいいじゃないかー。」
「宿?どこにあるんだよ……。」
「目の前じゃないかなー?」
そう言われて前を向く。確かに宿がある。だが空いているのか?まあ、入ってみるに越したことはないか。
「すいません。宿って空いてますか?」
「新人さんかい?一部屋だけ空いてるけど大丈夫かい?」
「はい、それでお願いします。」
「じゃあ、代金は……後払いで構わないよ。ここを出るときにでも声をかけてくれよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「二階の奥だからねー。」
よし、宿もなんとか借りることができた。これで問題ないな。
階段を上がって突き当たりの部屋に入る。
「初日からこれじゃあちょっと大変だな。」
そう言って俺はキュウソウをベッドに寝かせる。俺は荷物を下ろして、一息つく。
「ふう、今日は濃い一日だったな。明日からも頑張らなきゃだな。」
そうして俺は、椅子に座って、紙に今日の出来事を書く。いつもの習慣で書いていった。
これで異世界生活のはじまりだ。ずっと待っていた。明日からは仲間を募集しようか?もっと強い魔獣とも戦いたいな。そんなことを考えていたら、眠くなってきた……。今日はもう、眠ろうか……。
まってろよ、あともう少しだからな。異世界生活!
◆◆◆
報告いたします。
スキルが変更されました。
「強食」から、「おにくむしゃむしゃ」へと変更されました。
繰り返します。
スキルが変更されました。
「強食」から、「おにくむしゃむしゃ」へと変更されました。
繰り返します---------------------------------------------------
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