第56話 独り言

俺を見た杏様は一瞬だけ目を大きく見開きすぐに俺を睨んだ。

睨まれるほど嫌われちゃってるんだなぁ。

悲しすぎる。


「どいてくんない?邪魔なんだけど?」


そう言うと杏様は静かに目を逸らして降りた。


俺はすぐにエレベーターに乗ってボタンを押す。

閉まる扉の間に杏様の背中が見える。


その背中は小刻みに震えている気がした。


「杏!!」


その背中の震えに気づいた時思わず叫んでしまった俺はそのまま閉まるドア越しに手を伸ばす。


そのままエレベーターは下がり風紀室の階に着いた。


なんで、杏様は泣いてたんだろう。

俺のいじめが酷すぎたかな?


もう少し小学生みたいな感じでやるべきだったかな?


今までの行動全てを思い返すと、中々耐え難いこともしてきた。

それも全て杏様のためと思い。

原作では杏様は泣かずに立ち向かう強い人だった。

それはどのルートに行っても変わらず、やられたらやり返すなんてこともせず、ただひたすら関わらないように距離を取っていた。


そんな人が、今泣いていたのだ。

1人でも平気そうにしている人が、いじめなんかに一切動じない人が、何故だ。


俺はより気になった。


理由を考えながら進んでいるとあっという間に風紀室に着いた。

俺は中に入り必要な書類をカバンにしまい窓の鍵を閉めて部屋を出てドアの鍵を閉める。


ふぅ、とため息を着いて寮へと戻るため足を動かした。


夏の夜は星が綺麗だ。

俺はしばらく外で星を眺めてから心地よい風に当たりながら寮へと向かう。


「夏だってのに全然暑くないし、だからといって寒い訳でもない。いい感じの風も吹くし星だって綺麗だ。あ、ついでに月も。やっぱり元の世界とは作りが違う。季節だってあるのかも謎。女子は居ない。いやぁ、改めて、大変なところに来たんだなぁ。」


独り言っていいよね。

思ってることを言葉にして、音にして出すと、なんかスッキリする。


誰の返事もなくてただただ消えていくその言葉は俺のただの独り言。


「大変なんだねぇ。」


独り言…


「ところで、元の世界?女子?って何かな。」


独り言ぉぉおおお!!






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