第48話 声だけでいいんです

動き出した時間は元に戻ることは無い。

それこそ、魔法でもない限り。


「あっくん。」


「うん。」


「どうするの?」


「たっくんや、これは非常にまずいことになったね。」


「うん。だからどうするの?って聞いたんだけど…。」


「…しばらく待機!」


俺たちは今何をしているのかと言うと、簡潔に言えば、隠れている。


何から?


そんなの決まってるだろ。

目の前で突然始められたチョメチョメから。



俺とたっくんは今日も元気に杏様をいじめて、放課後風紀の仕事をしに風紀室に行くと、いつもあるはずの書類などがまだ無かったため生徒会室まで取りに行くことにした。


たっくんと2人で。


生徒会室に着き書類を手に帰ろうとした時、会長の机に付箋が貼られてたのに気づき見てみると、簡単に17時とだけ書かれており時計を見るとちょうど17時だったため、生徒会のメンバーに向けての置き手紙だと思った。


2人で書類を抱えてドアに向かった時、誰か来た。


俺たちは思わず仮眠室に逃げ込んでしまった。


いや、なんで逃げたかって?

だって、足音と一緒に、


「もっとキスしてくださぁい魁斗さまぁ。」


なんて甘い声が聞こえたから。


たっくんとの一瞬のアイコンタクトで通じた。


──これ、見れんじゃね?


いや、見たいというか、ドラマCDとかであるその場にいるような体験を…みたいなのを実際に体験してみたくて。


で思わず俺達は仮眠室に逃げ込んだ訳ですが、もう隣の職務室からは喘ぎ声が響いてきた。


「え、早くない!?」


「見たいような、見たくないような…」


「あっくんごめん。おれリアルは見たくない派…。声だけを楽しみたい。」


「なるほど…。あ、やばい!!」


小声で話していると今度はこっちに向かって足音がした。


「こっちに来るよー!」


「あ、あっくん!あのクローゼット!」


部屋にある少し大きめのクローゼットを開くと制服が何着かあった。予備だろう。


制服の間に2人で潜り込み静かに扉を閉めると同時に部屋のドアが開いた音がした。


直ぐにギシッとベットのスプリング音が聞こえて思わず目を閉じる。


相手がどんな子か分からない。

それでもその声は高くて女の子みたいで、時々魁斗の名前を呼ぶ時は猫なで声で呼んでいる。


どのくらいの時間がたったかは分からない。けれど行為はしばらく続いていた。


魁斗は甘く優しい声で囁く。

その声が頭にずっと残ってしまうほど直に響いていた。


俺が言われている訳では無いのに、こんなに恥ずかしいのは何故だ。


隣にいるたっくんを見ると耳を塞いで下を向いてブツブツ言っている。


俺達は謎の羞恥に耐えながらなるべく動かないように静かにしていると、音が少しづつなくなり静かになった。


終わったようだ。


「魁斗さま、ありがとうございました。あの、良ければまた…。」


「あはは、知ってるでしょ?僕は相性のいい子は好きだよ。」


あ、これって…


「魁斗さま、ありがとうございます。」


うっとりした声。その声を聞いただけでその子の表情がわかる気がする。


「じゃあね。僕これから生徒会の仕事があるから。」


2人はそのまま仮眠室を出たようだった。


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