第43話 いじめの対象

「みんな席につけ。編入生が今日からうちのクラスに来るんだが…、あれ?」


朝のホームルームの時に先生が転校生を紹介するはずだったが、教室には誰も入ってこず、先生が不安になり様子を見に行った。


ら、直ぐに入れ違いで杏様が入ってきた。

相変わらず綺麗でかっこよくて、みんなが目を奪われる。


「…」


無口で表情のない顔が本当は笑うとと可愛いこととか、すごく優しいことは俺たちしか知らない。


でも、今回は…


「お、入れ違いか。じゃあみんな、今日からクラスメイトの宇野安 杏君だ。仲良くやれよー。じゃあお前の席は…、海堂の後ろな。海堂手上げろー。」


「はーい。」


俺はニコニコとしながら手を上げると杏様はやっぱり真顔で、無言で俺の横を通り過ぎようとする。


俺はそこで足を出す。


ガタッと音が鳴って杏様は倒れるギリギリのところで俺の机に手を着いてバランスを保った。


「あ、ごめんね。でも、下もちゃんと見て歩いた方がいいよ?」


本当はこんなことしたくない。

俺は上手く嫌味な顔ができていただろうか。


変な顔してなかっただろうか。


きゃあきゃあ言ってた子がみんな黙り静かになる。


原因は俺。


俺が目をつけたやつはいじめの対象とみなされる。

たとえどれだけ顔が良くても、いい人だろうとも、海堂 新が目をつけたやつは、この学校全員のいじめ対象になる。

新は気に入らないやつは今までそうやって追い出してきた。

自分より注目されたりされると魁斗の目がそいつに行くから、それが嫌で今まで無理なことをしてでも追い出してきた。


「あ、そういえば、君の席もうひとつ後ろだから。」


俺は杏様の席になるはずだったところにたっくんを座らせたっくんの席だった場所に座るよう言った。


「…」


杏様は黙ってそれに従った。


席に着いたかと思うと直ぐに伏せて寝た。


あー、可愛い…。

ふわふわの髪が息をするのに合わせてひょこひょこ動いている。


触りたい。話したい。


「何無視してんの?」


俺は立ち上がって杏様の元へ行く。

机を軽く蹴って無理やり起こす。

先生も周りの生徒も何も言わない。こっちを見もせず、ただただ黙っている。


「…」


「ちっ、ねぇ、聞いてんの?」


「…うっさい。」


「はぁ?」


「あっくん…」


たっくんの牽制の一言で俺は黙って席について先生に目を向ける。

一瞬ビクッとした先生は急いでホームルームを続けた。


空気の悪いホームルームは10分で終わって、みんなさっさと教室を出る。

この教室には俺とたっくんと杏様しかいない。


杏様は呑気に机で寝ている。


誰もいないし、少しだけ、触ってもいいかな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る