第38話 愛だからこそ

自室に戻ってすぐに寝た俺はいつもより少し早い時間に目が覚めた。


部屋を出て少し外を散歩していたら足音が聞こえてきた。


「…あっくん。」


「なんでついてくるの?」


「ごめん…。」


「なんで謝るの?」


「俺は…うっ…ごめんっ…グスッ。」


「なんでたっくんが謝るの!?」


俺たちは草むらの中2人背中合わせに座って静かに泣いた。


これが最後だ。涙を流すのは。

だから、今だけは誰にも邪魔されずに、泣かせて欲しい。


今日からまた、頑張るから。


みんなを守れるように、生き残れるように、幸せになれるように。


俺は元の世界にいた時の記憶が戻っていたことに気づいた。


「そっか…、そうだった。」


俺は、平凡な高校2年生。腐男子で、みんなにはそれを隠してて、密かな腐男子友達とネットで話すことが好きだった根暗。


リアルにいる友達はみんな上辺だけだった。

家族からも嫌われ高校に入ると同時に寮に入れられた。


だからこそ死ぬ時は何も感じなかった。

あぁ死ぬんだな…くらいだった。

でも、前回の死は、怖かった。


すごく痛くて、怖くて、魁斗の死を目の当たりにして、恐怖しかなかった。


「あっくんっ俺、みんなを守れなかった、怖かった。…動けなかったんだ。」


静かに語り出すたっくん。


「地下に隠れてたら、急に明るくなってそこからはもう何があったか分からなかった。叫び声が響いて、みんなどんどん動かなくなっていって、紅秋先輩も、レオンも、クラスメイトも、杏も…みんな…そして俺も。一瞬だった…この能力があっても意味がなかった…。なんのための能力なんだろうね。」


「そんなの、俺も知りたいよ…、わかってたのに、守れなかった…俺のせいで…。」


「違うよ。あっくんは悪くない。必死に魁斗に伝えようとしてた。策を考えてた。それでもダメだったのは俺たちの力不足だよ…。」


今の俺達には後悔と、恐怖しかない。


あの時、たっくんが一緒に逃げようって言ってくれた時、逃げればよかった。そしたらこんなに辛い思いをしなくてよかったかもしれない。

それでも…


「次は負けない。」


「うん。俺たちはプレイヤーとして、ファンとして、推しを守り抜こう。」


「そして、俺たちも幸せに。」


これはただのファンとしての愛。

立ち上がる理由はそれだけで十分なのだ。


俺たちはこのゲームが好きで、このゲームの推しが好きで、この世界の生活が好きだから。


背中合わせに握られた2人の手はしばらく離れることなく、何も言わずとも手から伝わってきた温もりが2人を励ましあった。

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