第30話 始まりの始まり

目が覚めて身体を伸ばして寝室を出る。

この3日間誰かがいたため少し寂しく思ったが静かな朝も悪くない。


杏様が作ってくれたお粥を冷蔵庫から取り出し火にかける。


いい感じにグツグツと音が鳴って来たため火を止めテーブルへ運ぶ。


いい匂いだ。


「いただきます!」


部屋に響く声は反響して自分に返ってくる。

そこで静かすぎるのにもどかしさを感じテレビをつける。


番組はニュースのようなも。

画面の中の男がこの国の戦況など、淡々と報道している。


内容は違えど元の世界の日常が頭に浮かび恋しくなった。


お母さんとお父さんは元気だろうか。

友達は…


あの漫画はどこまで進んだだろう。


というかこの世界でまだ1度も腐れっぽいシーンに出くわしてない。

もっとこう、イチャイチャしてる世界かと思っていた。

探せばいるだろうか。


結局頭の中は腐れた思考ばかりで、欲望が膨らんでいく。


せっかくこの世界に来たならやっぱりそういうシーンに出くわしたりしたい。


…誰かと語り合いたい。


この世界に腐男子は居ないのか。


「探すしかねぇっすわ!」


俺はお粥をかきこんで急いで制服を着た。

準備できたタイミングでたっくんと杏様が迎えに来てくれて一緒に登校する。


そういえば、元の世界でもこうやって友達と一緒に登校して、周りバレないようこっそり腐れ仲間を探して、楽しかった。


俺は今その時の感情をそのまま感じている。


普通の男子高校生らしく新しい生活を満喫している。


世界は違えど、俺は今楽しいのだ。


2人の手を握る。


「新?」


「あっくん?どうしたの?」


「なんでもなーい!ほら!早く行かないと遅刻するよー!」


俺はわかっている。もう少しで状況がかなり変わる。


戦争が起き多くの被害が出て、この幸せが壊される。


それは決まった運命であるため無駄に足掻いたりはしない。

ただ、それまではこの充実した日常を感じていたい。

俺だって死ぬのは嫌だし戦争は怖い。元の世界で死ぬ危険なんてそうあることでは無い。

まぁ死んだけど。


だから、生きれなかった俺の、本当の俺としてもう少しだけこの日常を。


まだこっちに来て1週間も経ってないがゲーム内では1ヶ月のスピードでイベントが起きている。


俺は繋いでいた2人の手を強く握る。


2人は心配そうに俺を見ていたが俺は笑って大丈夫と一言。

たっくんはその意味がわかって頷いて笑ってくれた。杏様は何も言わず手を握り返してくれる。


さぁ、これからは気を引き締めて、挑もう。

この世界のエンドをハッピーエンドにするために。


俺は校舎の1番上の階の窓を見る。

そこには1人の見知った男がいて目が合うと笑った。


ここからが本編である。

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