第15話泥天使は泥より来たりて、泥魚の夢を紡ぐ。
泥天使は泥より来たりて、泥魚の夢を紡ぐ。
最後の晩餐は、安っぽい玉子料理がいいかな。オムライスとかかな、この魔導書を紐解く者達へ、食べ物が身体を作るのだから、異能の力の源泉もまた、食べ物にある事を忘れてはならない。
ユルシの美学より抜粋。
†††
時は20年前のあの日。
ああ、俺は死んだんだな。死んでも意識はあるみたいだな、魂ってやつか?
「わたしは泥に帰りたい。わたしは泥に帰りたい。わたしは泥に帰りたい。」
しかし、あの8枚羽の天使は、ずっと泥に帰りたいしか言ってない。泥に帰る?何のこっちゃ?
そこに、月の地面の一部が眩い光を帯びて、キュインキュインと鳴り出した。月には空気は無いから音って伝わるのか不明だけど、とりあえず気になったから、光る地面の地点へ向かって行く。
†††
時は現代。
わたしはユルシ。レベルアップして、全ての魔法が使える様になったよ。
「んじゃ、行くね。アゲハ、テン、サクラ。」
「ユルシさん、さよならじゃないですよね?」
「また、戻って来てください龍の事よろしくです。」
「ユルシさん、さよならはいわないでください。」
困った事に、アゲハ、サクラとは恋仲で、テンとは3Pの約束をしてしまっている。地下闘技場の経営は、妹分の六花に任せたとして、金にも困らないし、魔導書の修復も終えた。何より、元以上の自分に戻れた事もあり、正直、弟子達は重荷になってる。
とくにアゲハとは身体の関係にまで発展しているから、面倒な事この上無い。困った時はあれだよ!
「皆! ごめん! ユルシてね〜☆」
「え!? ちょっとユルシさん! テレポートで逃げるの辞めてください!」
†††
「ふう、何とか逃げたよ。」
行くあてはあるとしたら過去にしかない。おじさんを助けるんだ。
わたしは、時空間魔法を発動させて、20年前のおじさんが死んだ日の1週間前にタイムスリップして、おじさんが死地である月に向かった事を知った。
「行くあてって言ったら実家だよね。あっママただいま!」
「あなた誰? ちょっと勝手に人の家に上がったらダメだかんね?」
「ユルシだよ? 20年後の未来から来ました!」
「え? そうなんだ? 早くしないと、おじさんはもう月に向かうわよ?」
「そっか、月。月なんだね。分かった。」
おじさんの家に向かったが、間に合わなかった。おじさんはどこにも居なかった。
「遅かったか、まだ手はある!」
止めなきゃいけない。わたしの愛するおじさんが、死んでしまう前に、月に空間転移して、おじさんを死から救って見せる。
わたしは空間転移して月に向かった。
†††
月では、8枚羽の天使が居た。天使は、しきりに、「わたしは泥に帰りたい。」と言っている。そして、おじさんは居なかったのだが、クルシが火の魔法で、目に神経を集中させてと、心の中で念じたから、その通りにしてみると、空中におじさんが見えた。
「おじさん、助けに来たよ! ユルシだよ!」
「ユルシちゃん大きくなったね。助ける必要は無いよ。おじさんは、魔法使いから、死神に進化しただけなんだ。」
「死神? ユルシが昔5円チョコ13枚バレンタインにあげたのは関係ある?」
「まあ、運命だったんだろうね。」
「それより、さっきから、この天使が煩い。」
泥天使が、攻撃してきた。8枚の羽を羽ばたかせ、真空の刃が、襲いかかる。
「わたしは泥に帰りたい! 邪魔するなら、あなたも泥に還す。」
「火の魔法! 蜃気楼。」
わたしは、火の魔法、蜃気楼で幽体になって真空の刃を回避した……つもりだったのだけど、かすってしまった。
「なんで?」
「ユルシちゃん、火の魔法を習得したのか、大きくなったね。」
「そんな事より、攻略法無いの? おじさんがヒントくれたら勝てるパターンだよね?」
「幽体になったら、天使の攻撃が当たったって事は、多分天使も幽体に近いものだから、ユルシちゃんが幽体のまま攻撃したら、あるいは。」
おじさんの攻略法は単純なものだったが、確かにそれが良さそう。
「わたしは泥に返りたい。あなた、魔法使いね? わたしを泥に返して。」
「あなた、泥天使なの? 元は泥だったの?」
「わたしは泥に返りたい。」
どうやら、話し合いになったようだよ。泥天使は、泥に返りたいだけらしい。戦う意思は無い様だよ。
「ん? 魔法使いだよ? 泥に返せば良いのね? わたしは時間魔法も使えるから、簡単だよ。」
「1週間くらい前は泥だった。あなた、さっきのおじさんの恋人?」
「そうだよ。おじさんを死ぬ運命から助けに来たよ。まあ、間に合わなかったけどね……」
「わたしは泥に返りたい。わたしを泥に返せば願い事を一つ叶えてあげる。」
願ったり叶ったりの展開だよ。
「じゃあ、おじさんを生き返らせて。」
「わたしは泥に返りたい。」
「おじさん、生き返れるよ! 良かったね!」
「泥魚の鱗が無いとユルシちゃんが、風邪で死んでしまうかもしれない。おじさんの事はいい、泥魚の鱗を持ち帰るんだ。」
「そんな……でも、ユルシは今生きてる訳だし、大丈夫だよ。」
「そんな楽観的な事じゃない、多分ユルシちゃんが、タイムスリップしたのが、なんらかの影響を与えたのだろう。」
わたしは、おじさんが居ない未来を変える為にやってきたのに……
「分かった。おじさんの言う事聞く。」
「これでいいんだよ。おじさんは幽体になって漂い続けるから、いつも見守っているからね。」
「話は、終わったの?」
「うん。終わったよ。泥に戻る前に泥魚の鱗が欲しい。願い事はそれ。」
「分かったよ。わたしを泥に返せば置いてくよ。」
「わたしは、本当はおじさんを生き返らせたいのに……」
「鱗なんて、タダだから、願い事はそっちにしなよ。」
「え! 良いの!」
「泥の夢が見たい。魔法使いさん、早く頼んだよ。」
わたしは、空中に魔導書ユルシの美学を顕現させて、ありったけの魔力を込めて、時魔法の対象である。泥天使に幻覚を重ねて、ゲームのMAP画面の斜め見下ろしクォータービューのマス目のグリッドを瞬きをアンカリングしたものを引き出し、瞬きを速めて、グリッドを空中に……現実空間に呼び出す。
中央のマス目に泥天使を配置して、ユニットのぐるぐるのルーレットを出す。文字のルーレットで、黒いユニットを出して、ユニットの顔アイコンのルーレットで、黒いユニットを出して、魔法が発動する。
誰も1人じゃない。連綿と繋がってきた受け継がれし魔法の技術も、遂に、わたしの代で、天使である。泥天使にまで、効果を発揮する様になったとは感慨深いものだよ。
「わたしは泥に返りたい。やっと泥に帰れる。泥になれば、また、わたしは帰れるんだ。」
「泥天使は泥になってどうするの?」
「また次が来るんだよ。」
「そう。じゃあまたどこかで。」
「泥に帰る前に、最後に何か食べたかったな。」
「宇宙食のお寿司食べる?」
「ありがとう。美味しいよ。」
泥天使=ドロシーは、お寿司を食べて泥に帰って行った。月の地面には、泥魚の鱗が落ちていた。
そして、おじさんが生き返った。緑のスーツに、緑のシルクハット姿の、在りし日の、おじさんだ。
「ずっと、ずっと会いたかった! おじさんの事毎日想っていたよ!」
「ありがとうユルシちゃん。さて、帰ろうか。」
「うん。」
これで毎日一緒にいられるのかな? でも、小さな子供の頃のわたしには何て言ったら良いんだろ?
†††
わたしは泥に帰れた。泥の夢を見るんだ。
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