第14話魚は天使に天使は魚に、やがて泥の夢を見る。

魚は天使に天使は魚に、やがて泥の夢を見る。


 目的である。泥魚の鱗があれば、一番弟子のユルシちゃんは目を覚ますだろう。泥魚退治は、俺がやらねば誰がやる! アクマでもマジ!シャン!


 ユルシの美学より抜粋。


†††


 俺は気付くと虚空を彷徨っていた。煌く星々の中に、紛れた1匹の魚を見つける旅に出たのだった。


†††


 1day


 わたしは最初泥魚になりたかった。

 でも泥魚になれなかった。



 2day


 わたしは泥になりたかった。


 3day


 でも、わたしは泥になれなかった。

 形を持ってしまった人形になっていた。


 4day


 わたしは泥になりたかった。

 わたしは泥に戻れた。


 5day


 わたしは、また人形に戻った。

 わたしは、人形から人間になった。

 わたしは、片翼が生えた。

 わたしは、泥に帰りたい。


 6day


 わたしに、両翼が生えた。

 わたしは、天使になった。

 わたしは、泥に帰りたい。


 7day


 わたしの四肢に手足が生えた。

 わたしの手足は8本だ。

 わたしは、嫌だ。

 わたしは、泥に帰りたい。

 わたしの四肢に両翼が生えた。

 わたしの翼は8枚になった。

 わたしは、嫌だ。

 わたしは、泥に帰りたい。

 わたしは、そして泥天使になった。

 わたしは、嫌だった。

 わたしは、仕方無いと、泥天使になる。

 わたしは、泥に帰りたいだけなのに、ああ。


†††


 1day


 俺は、一番弟子であるユルシちゃんが、原因不明の高熱にうなされるのを、黙って見ていられる訳が無かった。

 ユルシちゃんは、39.9c°で、心拍数は200をゆうに超えていた。危険な状態で、一刻も早く下熱しないと命に関わるのは、誰の目にも明らかだった。


 俺はユルシちゃんを助ける為に、ありとあらゆる情報をインターネットで検索したが、これが確実と言う方法が無かった。医者もサジを投げた状態だった。

 何か情報が無いものか? と手をこまねいていると、商売敵が手を差し伸べてくれた。赤い服を着たその女が言うには、「泥魚の鱗を煎じて飲ませればこの子は助かるよ。貸し一つですからね?」相手を信頼云々よりも、俺と対等な立場くらいある会社の幹部が言う話しだ。乗らない手は無い。


 こうして、俺は神々の星に住うと言う、泥魚を退治しに行った。


†††


 2day


 魔法の箒で空を駆けて、大気圏をも貫き、後継者である、ユルシちゃんを助ける為に、月にまで来て泥魚を探す。


 見つからない。辺り一面月面の土とも砂とも言える物しか無かった。神々の住う星々ってここだろ?


 月は1周したが、泥魚は居なかった。代わりに泥があった。何なのだこれは?


†††


 3day


 俺は空腹感に襲われて、持ってきた、からあげを爆喰いした。美味いなと、食べていたら、そこに小さな、お人形さんが歩いてきた。


 なんだ? 泥魚か? いや、人形だよな?


 俺は空腹感を満たしてもう一度月を周り始めた。


†††


 4day


 人形は、宇宙飛行士の忘れ物か、置き土産だろうと思い。忘れる事にしたのだが、月を回って居ても、何もヒントが無い。


 あの人形がやっぱり怪しいよな?


 俺は人形があった地点まで戻った。

 しかし人形はいなくなって居て、辺り一面泥だらけだった。


†††


 5day


 目覚めたら、片翼の天使が居た。本能が警告する。


 コイツはヤバイ……


 しかし片翼の天使は、地面の泥に蹲るだけだった。


 ただ、シクシクと泣きながら、「わたしは泥に帰りたい。」それでずっと泣き止まない。


 悲しいのかな?


 俺はその場から逃げ出したのだが、泥魚を見つけるまでは、帰れないんだ! 自分を奮い立たせて、片翼の天使に、声を掛けてみた。


 6day


 あれから何日経ったのだろうか? そろそろ手持ちの食料が尽きそうだ。


 片翼の天使に、声を掛ける。「あの、天使さん? 泥魚を知らないか?」


 すると、片翼の天使が、いきなり発光しだし、青い光を放っている。


 ヤバ。


 光がだんだんと失せていき、そして、そこには、両翼になった天使が居た。


 「わたしは泥に帰りたい。わたしは泥に帰りたい。わたしは泥に帰りたい。」


 身の危険を感じた俺だが、その時気付いてしまった。


 ああ、多分コイツが、泥魚だ。


†††


 7day


 俺は、戦闘態勢に入った。


「俺を誰だと思っていやがる! アクマでもマジ!シャン!」

「わたしは泥に帰りたい。」

「ガチで、マジ!ック!」

「わたしは泥に帰りたい。」


 宇宙用に使える用にした。インチキ染みた。白炎の魔法を天使にぶつけたが、すり抜けてしまった。

 天使は、相変わらず。「わたしは泥に帰りたい。」を繰り返すばかり。


 すると、天使の手足から手足が生えてきて8本になる。


 なんだ? コイツは、マジで天使なのか!!


 俺は他に宇宙用に改良した魔法は無く。馬鹿の一つ覚えの用に、白炎の魔法を唱えては、天使の身体を擦り抜ける。


「わたしは泥に帰りたい。」


 天使から翼が生えてきた。8枚の翼になった。

 俺は消耗しきった身体に鞭を打ち。最後の魔法を唱える。


「神も裁き!」


 俺の最後にして、究極の魔法。自分の命と引き換えに、敵と認識した視界内の生物を皆殺しに出来る呪文だ。

 

 この天使さえ倒せば後はきっと、ライバル会社が手を打ってくれる。せめて、コイツを倒せば、泥魚の鱗は手に入るだろう。


 俺は、薄れ逝く意識の中で、ユルシちゃんが助かるビジョンと、5分のキョーダイである。ゴッ殿。ファンサたん。秘密。の顔を思い描いた。


「アバよ…ダチ公…」


†††


 わたしは、泥天使になった。

 わたしは、泥に帰りたいだけなのに。

 わたしは、泥天使になる。


「この世で作られた理なら、解決するのが必ずあるのもこの世の理。」


 ああ、泥には戻れないんだ。

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