第11話予知の魔眼。

予知の魔眼。


 俺はヘコ。予知夢を見る事が出来る。今日はぼろ儲けだったな。寝るのが楽しみだ。枕を高くして良い夢を引き寄せる。そしてそれが現実になる。簡単な話だ。俺は引き寄せの法則を現実化する能力者だ。


 夢を見た。来月の地下討議場に行くと、八百長疑惑で袋にされる夢だ。


 この夢はまずい。早く夢から覚めないといけない。

 俺は自分の頬っぺたを抓って、「痛くない。」と唱えて、夢から強制的に目覚めた。


「悪い夢だったな。さて、次は楽しい夢にしよう。」


 俺は引き寄せの法則を現実化する能力者。ならば、良い想像をして、良い夢を見て、良い結果を無理矢理引き寄せる……そう、ドラッグを使う。明晰夢サプリと言われる……明晰夢を見れるサプリだ。良く分からんがこれを飲むと良い夢が見れる。


「今日はぼろ儲けだったから近々また儲け話が無いかな? いや、自力で何とかする!」


 俺は明晰夢サプリを服用して床につく。


「空も飛べるのは夢の中だけだな。この馬はペガサスか、何頭もいるな、まるで天国の競馬場だな。」


 俺が見た夢は天国? の競馬場だった。空飛ぶペガサスが、1-5でフィニッシュする夢だった。


 目覚めから、俺はああ、競馬だな。と思うのであった。


「よっしゃ! 競馬だ競馬。」


 そこで目が覚めた。肝心のどこの競馬場の何レースかは分からないままである。


「しまった。また寝るとするか。」


 夢の中は公園だった。いや、公園まで追い込まれる夢だった。俺は八百長疑惑で泳がされていたところを、闘技場のファイターの1人に客と金の取引を見られてバックレる夢を見ている。


 闘う事になったが、相手は元チャンピオンのアゲハだ。夢の中だと俺は強さに更に磨きがかかっている。ボクシングスタイルでアゲハの目線と意識を上に向かせて、睨みを効かせながら、隙を見てタックルで転がす作戦に出た。


 ところがだ。目線を合わせた瞬間、夢の中の俺の動きが止まる。まるで時間が止まったかの様に、いや、これは時間停止の魔法だな、なるほどリアルで出会い頭にこれをもらっていたら負けるのは必定だっただろうが、予知夢はこれだから便利だ。


「なるほどな、まあ、リアルで会った時はてめえがヘコむ番だからな。悪い夢だぜ。」


 俺はアゲハの左ストレートを食らって目を覚ました。どうにも儲け話に繋がる夢を見れない。


 俺は瞑想を30分して、明晰夢サプリを服用し、また眠りにつく。


「ここは、競馬場か、ぴょんす競馬場か、家から近いな。さっきの続きかな?」


 ぴょんす競馬場は地下闘技場近辺の競馬場である。近くっちゃ、近くだが、嫌な予感がする。


「ふむふむ、第一レースから見ていくか、しかし人がゴミの様だ。」


 俺は人混みが苦手である。夢の中ですら苦手である。特に競馬場とか自分がモブキャラになった気分で何とも言えない気持ち悪い感覚がある。早目のレースで蹴りを付けたい。


 そう思って眺めていたら、第二レースで1-5オッズ100倍つまりは万馬券のレースがあった。

 配当を得た人がいたみたいで、もし俺がこのレースを明日1-5当てたらオッズが下がり、配当金も下がる。つまり俺の予知の魔法は、人の幸せを吸収しているとも言える。金に限った話でも無い。俺が予知で回避した不幸は必ず誰かに皺寄せが行く。


 賭け事で100%勝てる事を、鉄板レース、聖杯とか言ったりするが、俺は聖杯をいつでも手に入れられる。


「ふむふむ第二レース1-5か、明日買ってみるかな。」


 こうして俺が目を覚ましたら次の日になっていた。財布に現金が入っている事を確認して、朝飯のカップラーメンを啜り、家を出た。


†††


 ぴょんす競馬場の近くには公園がある。まさかな? と思いながら、キョロキョロ見回すと、アゲハの姿があった。俺の姿を確認するなり、スマホで誰かに連絡を入れている。まあ、予知通りではある。するとそこに、見覚えのある中年男がやって来た。地下闘技場の常連で、俺が八百長を持ちかけた最初の1人である。

 ちっ、こんなとこまで夢と一緒かよ。ヘコむぜ。

 中年男はヘラヘラした顔でこっちに近づいてくる。アゲハも動き出した。アゲハもさりげなくこちらに近づいてくる。

 中年男と接触したまでは良いのだが、いや、良くも無いのだが、中年男は、「この前の地下闘技場での賭け金の分配をするから。」と言い出した。


「いや、今は不味い。競馬場に急いでいるんだ。」

「いや、ヘコには世話になっているから、気持ちだけでも受け取ってくれ。」


 中年男は俺の懐に無理矢理札束を捻じ込んだ。ご丁寧に封筒に謝礼金と書いてある。

 アゲハがダッシュで近づいてきた。やばいがまあ、何とかなるだろ。


「お前地下闘技場のファイターのヘコだろ。それにそっちは常連客だな、八百長疑惑が掛かっているんだが、さっきの封筒はなんだ!」

「いや、ちょっと違うんだよー、あっしはこれで。」

「ん? 何だろうファンからの贈り物くらい別に普通だろ?」


 アゲハは色々聞き出そうとしているみたいだが、どうも腹芸は性分じゃ無い。それにもうすぐ、ぴょんす競馬場が開く時間だ。時間は掛けれない。

 ここは穏便に、ファイター同士の些細な喧嘩ってシナリオでどうだろうか? 俺の勝ちで終わるけどな。


「じゃあ何を貰ったんだ? 金の入った封筒みたいに見えたんだが?」

「そうだろうね。それがどうした?」

「てめぇ、舐めてんじゃねぇぞ! 事務所来いや!」

「頭冷やせよ雑魚が、ヘコ様に敵う訳無いだろ?」


 俺はアゲハを挑発してみる。


「なんだと? やるってのか?」


 案外安い挑発に乗ってくるが、話が早くて助かる。俺はファイティングポーズを取る。

 腰を落とし重心を低くし、いつでもタックルで転がせる様に構えた。

 アゲハも構えたみたいだ。タックルを警戒しているのか、膝に圧力がある。


「やっぱりファイター同士なんだから、拳でシロクロ着けよう。ヘコませてやるぜ!」

「話が早いな、後悔するなよ!」


 俺はタックルに行った。モロバレだが、俺の高速タックルにカウンターを被せたりとかは出来無いだろうと判断した。

 するとアゲハはカウンターの膝を合わせに来たが、難無く躱してそのまま、アゲハの膝を抱えてテイクダウン。

 マウントポジションからのタコ殴りである。


「どうした。時間停止の魔法も、相手の目を見ない事には発動出来無いのだろう? 俺の重たいパンチの連打で、ガードが精一杯かよ! ヘコませてやるぜ!」

「くっ、き、貴様。時間停止の魔法を何故知っている? それも細かいところまで!?」

「時間停止の魔法使いが戦いに来る夢を見ててな、まあ、夢の中じゃあ時間止められてボコられるから、俺があの夢見てなけりゃお前の勝ちだったんだよ。」


 俺はめいいっぱいの力を込めてマウントポジションからパンチを連打している。しかし中々ガードが固いし、思うようにダメージを与えられて無い気がする。

 アゲハが笑い出した。


「ヘコお前いいのか? 誰もお前を狩りに来たのが俺1人とは言ってないぜ?」

「負け惜しみ言いやがって、お前以外ここに来てるってのかよ?」


 そこに公園の入口に1台のベンツが止まった。

 なんだ? ベンツから人が降りてくる。増援か?


†††


 わたしはユルシ。アゲハから連絡があってここまで出張って来たものの、アゲハがヘコから一方的に殴られている。わたしはイラッときたのだが、冷静にスマホのテキストアプリを開く。

 テキストアプリには地下闘技場の全ファイター分(弟子達は、各流派のユルシしかデータは知らないのだが……)の聴覚年齢が記載されている。

 ヘコは、あったこれだ。聴覚年齢18.5歳。分かりさえすればこっちの物。


 わたしはスマホのモスキート音アプリを立ち上げて、聴覚年齢18.5歳の周波数に合わせて鳴らしてみる。


「……」

「アゲハもう大丈夫だよ。」

「え? あれ? コイツ動かない?」


 時間停止の魔法は、何も目をチャンネルに流し込むだけじゃない。地下闘技場の全ファイターは、病院で精密検査やメンテナンスと称して、何度も何度も繰り返し時間停止の魔法を掛けられているの。


 聴覚検査で聴覚年齢を調べる。

 聴覚年齢と同じモスキート音を聴かせながら、視力検査と称して、一定時間集中して、一点を見つめさせる訓練をさせている。

 その結果。聴覚年齢と同じモスキート音がトリガーとなり、集中して一点を見つめる、つまりは止まるがアンカーとして引き起こされる。

 まあ、人体実験の賜物である。無論アゲハの時間も止められる。


「いいから離れて。」

「は、はい。」


 頼むからちょっとのショックで動かないでくれよ? わたしは変な冷や汗をかく。

 アゲハはダメージがあるせいか、ゆっくり動いて、ヘコを退かす。


「退かしました。コイツ止まってますよね? 時間停止の魔法ですか?」

「まあ、そんなところだよ……凍れ!」


 わたしが軽く詠唱したら、大気中の水分が急速に冷やされてヘコの周りを囲った。ヘコが目を覚ました。


「う、ここは、うう、寒い。」

「ヘコって言ったね。予知の魔眼は便利そうだけど、大きな力を使うには、使い手の器も大事なんだよ。」

「何が言いたい。俺は軍門には下らないからな!」

「そう、残念ね。認識出来なかった時点でアナタの負けだったんだけどね。」

「認識? 何の話だ!」


 モスキート音を使った止まれは、聴いた瞬間認識出来なくなる。もしネタバラシをしたところで、認識する術は未来永劫手に入らない。ヘコの負けは、予知の魔眼でも、予知夢を使ったところで自分の聴覚年齢のモスキート音はもう認識出来無いのだから、ガード不能の止まれの魔法も、スマホ1台で成立する小技である。


「アナタが知る必要は無いんだよ……凍れ!」


 わたしは大気中の水分をヘコを中心点にして凍らせた。ヘコは絶滅して、目玉だけが、コロンと転がった。予知の魔眼だ。


「あのユルシさん。助けてくれてありがとうございます。」

「いいんだよ、アゲハは中々勝てないね。」

「すいません。」

「まあ、予知の魔眼の所有者相手じゃ部が悪かったね。」

「魔法使いだったんですか? クソ、魔法使い同士の戦いなのに初陣黒星なんて!」

「まあ、気にしない事だよ。」

「その魔眼どうするんですか?」

「あー、うん。わたしが食べるよ?」


†††


 わたしはユルシ。ギャンブルにイカサマというのは永遠に付き物だけど、今回のイカサマの種がまさか予知の魔眼だったとはね。百発百中の予知能力でも認識出来無い部分には効果が無かったね。

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