第9話三大流派。

三大流派。


 この魔導書は実践向けに作られている。水属性ベースの三大流派のカウンターとして、最後の魔法、火の魔法をここに記す。火の魔法は人類の英知の結晶。使い手が現れるとしたら、最強の魔法使いになるだろう。


 ユルシの美学より抜粋。


†††


 今日はユルシさんに付き添い付きでリングに久々上がるのです。わたしですかぁ?サクラですよ!あれからユルシさんから毎日の様に修行と称して、飲み歩き食べ歩きしています。ユルシさん持ちだから懐は痛まないのはいいのですけどね。


「サクラちゃん。今日も実践訓練だよ。ちゃんと重力系後継者らしく、魔法を使って、それと魔法だと悟られぬ様にね?」

「はいですぅ! 今日も重力操作でやるです!」

「それと、今日勝ったらご褒美あるから楽しみにね?」

「何か貰えるんですね! 頑張るです!」


 わたしの今日の対戦相手は、今快進撃中の挑戦者ジャンガ。彼女は男と見紛う恵まれた体型をしている。いわゆるゴリラだ。顔もゴリラっぽい。この手合いは、大体可愛い顔している女ファイターの顔面をぐしゃぐしゃにしたがる傾向がある。

 わたしみたいな華奢で顔もそこそこ整っているタイプからしたら、苦手なタイプである。


 会場に入り、控室で、アンカリングした幻覚をコーラにぶつけて、重力魔法をより深く確実に行える様に儀式を済ませる。


「ふぅ、一息付いたです。」


 試合会場に足を運び、観客席を見回すと、ユルシさんが、こちらに手を振っている。わたしも手を振り返す。

 試合が始まるからと、セコンドに促されてリングに上がる。リング中央で、対戦相手の挑戦者ジャンガにメンチを切る。

 レフリーが試合前の口上を述べる。


「本日のメインイベント! チャンピオンサクラが咲乱れるか? 挑戦者ジャンガが怒号を上げる事が出来るか? どちら様も御ゆるりと御高覧の程、隅から隅までレッツゴング!」


 1ラウンドのゴングが鳴る。わたしは先手必勝のワンツーに、重力魔法を掛けた重たい右ローキックを放つ。


「せや!」

「ぐっふぅ!」


 ワンツーは捌けたみたいだが、ローキックは速い上に重たく、ジャンガは、ローキックのカットが間に合わず直撃を食らわす事が出来た。ジャンガは足のダメージを堪えるので精一杯らしく、チャンスと見たわたしは、またローキックを同じ場所に当てに行く。


「でかい割にだらしないですぅ!」

「そいつを待っていた!」


 狙ったジャンガの左足は、わたしの右ローキックに合わせてカウンターというか、交差法でハイキックとして飛んできた。


「ぐっ、甘いです!」

「ちっ、掠っただけか!」


 わたしはジャンガの左ハイキックは直撃を受けているけど、重力魔法でダメージをカットしているので、全然平気です。というか打撃ではわたしは倒せないのに気付いていないんですかね? このまま打撃勝負を縺れさせれば勝ち確ですぅ!


「勝負を決めさせてもらうです!」

「殴り合いなら負けない!」


 わたしの打撃勝負に真っ向から受けてくれました。単純です。わたしは、丁寧に上下のコンビネーションを、短く速くコンパクトに、確実に撃ち込んで行きます。体格差もありジャンガは速い攻撃は不慣れな様で何発も当たります。ジャンガの反撃は空を斬るばかり。


「くっ何故当たらない? ぐぁ!」

「勝負ありですぅ!」

「ダウン!1.2……」


 レフリーがダウンを取ってテンカウントを数えている。ジャンガはゆっくり休みながら、カウント7で立ち上がり、ファイティングポーズを取る。

 わたし的には何回やっても同じだけどなぁと思いつつも、コーナーから中央に向かう。


「ファイっ!」


 レフリーが試合続行させる。またジャンガのパンチの連打は空を斬るばかり。ジャンガの攻撃が当たらないのでは無く、わたしが重力魔法で、ウェイトシフトして、身体を自在に操っているから、回避は容易である。回避するのと、空振りするのではスタミナの消費も違うのですぅ!


「はぁはぁ、何故当たらない!」

「遅いですぅ!」


 わたしはすっかりボクシングになっているジャンガの攻撃を見切り。カウンターで後ろ蹴り一閃する。鳩尾にモロに入り、ジャンガは悶絶している。


「あちょー!」

「ぐぅ! ぅぇぇ!」


 ジャンガはもんどりをうって、マットに沈みました。

 カンカンカンカンとけたたましくゴングが鳴り、勝者を告げる。


「勝負あり! 勝者サクラ! 1ラウンドKO勝ち!」

「サクラは咲き誇ります!」


†††


 こうして、今日も安定して勝ちを拾い、闘技場の女性チャンピオンの座に君臨し続けている。

 控室で着替えを済ませて出口に向かうと、ユルシさんが待っていた。


「待ちました?」

「待ってないよ。今日も勝ったね。ご褒美の前に、いつものBAR行こうよ。」

「えー、ユルシさん今日車は?」

「家に置いてきたよ! さぁタクシー拾って行こうよ!」

「わたしあそこの店長苦手です……」

「まあまあ、いいから、行くよ?」


 ユルシさんはタクシーを拾い。BARに着きました。

 BARアコの外観は、一目見て分かる事は、とにかく赤いに尽きる。建物も看板も赤い。中に入るとそれとは違い、黒いカウンターテーブルにカウンターチェア。カラオケの類は無い。なんでも、店長のアコ兄が、イケメンなのに音痴だから、カラオケの類は置かないらしい。


「いらっしゃいってユルシかよ! ゆっくりしてけ。」

「ご挨拶だね、ゆっくりしていくよ。」

「あ、こんばんは。」

「おー、サクラも一緒か。」


 このアコ兄は何者なのかは知らないけど、私が知る限り、ユルシさんにタメ語で話す人物である。イケメンって言ったらそうだけど、私は好みじゃ無い。


「今日はサクラちゃんの100連勝記念日だから、アコ兄なんか奢ってよ?」

「ユルシてめえしばくぞ!」

「まあ、ご愛嬌。」

「ユルシさん私コークハイで。」

「私はハイボールだよ。」

「しゃーない。奢りだからな。」

「ありがとうございます!」

「アコ兄優しい!」


 この人は何かあると、ユルシさんにしばくぞ言うから心臓に悪い。苦手なんだよね……多分ユルシさんが、気を許しているのも、こういう部分なんだろうけどね。


「はい、コークハイにハイボール。ゆっくり飲めよ?」

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

「ところで、100連勝記念日って事は、あいつの時と同じか?」

「ああそうだよ。準備してくれた?」

「あいつ?あ、察しです……」


 クインビーの事だと思う。しかし100連勝記念日に何があるんだろうか?するとアコ兄が奥に消えて、ケーキを持ってきた。ケーキは1人分のガトーショコラだ。


「サクラ100連勝記念おめでとう!」

「アコ兄ありがとうございます! ユルシさんこれ食べても良いんですか?」

「召し上がるんだよ。」

「いただきます!」


 わたしはフォークを刺してガトーショコラを食べているはずが? 不味いですよ、これ? しかし残す訳にもいかず全部食べた。食べたというか、コークハイで流し込みました。


「サクラちゃん美味しかった?」

「美味しかったです。」

「あ、ちょっと電話来たから俺裏に回る。ゆっくりしてけ。」


 アコ兄は裏に消えて行きました。私はガトーショコラの後味の不味さにコークハイをがぶ飲みしています。


「さて、さっきのケーキ不味かったでしょ?」

「不味かったです……」

「重力魔眼入りだからね。不味かったよね。」

「重力魔眼?なんですそれ?」

「クインビーの目玉だよ。死ぬ直前に摘出している。まあ、魔神化していない状態だから、大した御利益は無いけどね。」

「カニバリズムじゃないですか? 吐いてきたらダメですか?」

「サクラちゃんの為だよ。これから強くならないと、三大流派同士の戦いは苛烈なはずだからね。」

「三大流派ってユルシさんが前言っていた……よく分からないです。」


 ユルシさんが言っていた。三大流派というのは、よく理解していない。説明聞いただけだと、ユルシさんが3人いるらしく、それぞれ弟子がいるとか……


「三大流派というのは、昔って言っても今から30年前、アクマでもマジ!シャンという伝説の魔法使いがいて、ユルシの美学という魔導書を書きました。その魔導書が3分割されたのが、三大流派な訳だよ。」

「その三大流派同士の争いってなんですか?」

「魔導書が3分割されたものを、オリジナルのユルシのクローンの三姉妹が持っていって、その取り扱いをしている。」

「オリジナル?クローン?」

「ユルシはクローンなんだよ。」


 にわかには信じ難いけど、でもユルシさんは魔法使いだし、何でもありなんかな? そう言えば、前に、他のユルシさんも闘技場オーナーだから簡単に会えるって言っていた様な?


「どこに居るんですか?他のユルシさん。」

「多分もう会っているはずだよ。会ってないかもだけど、皆変わり者だから。ユルシも、他のユルシの弟子に会ってきたよ?」

「え? 争いしている割に穏やかですね?」

「皆変わり者だからだよ。」

「ユルシが会ってきたのは、テンというファイターだよ。長らくチャンピオンに君臨していたアゲハが辞めた後に、チャンピオンになったあの子だよ。」

「あー、確か、彼女の医療費を稼いでいるって、彼氏にしたいファイターNo1って女性ファイターの間で人気の! わたしもファンなんですよ!」


 そう、テンは、女性ファイターの中ではかなりの人気者。まさか、他流派の後継者だなんて、もしかしなくても戦う羽目になるんですかね?


「あー、残念なお知らせだけど、戦う事になるよ?」

「やっぱりですか……勝算はあるんですか?」

「うーん。テンが属しているのは、空間系だから、まともにやり合えば勝ち目は無い。時間系、空間系は実力が拮抗しているけど、重力系は一枚落ちる感じ。ただ、テンは修行して日がかなり浅かったみたいだから、今の内に叩けば、もしかしたら……って感じだよ。」

「それって消去法で言ったら今の内に叩く。もしくは時間系、空間系が潰し合うの待ちじゃ無いですか?」

「まあ、そうなるかな。」


 消極的だけど、私も戦いは避けたいです。死んだら元も子も無いですし……

 そんなこんな話していたらアコ兄が戻って来ました。


「戻ったぞ。話は終わったか?」

「終わったよ。」

「なんか複雑ですけどね。」

「そうか、悪い知らせがある。空間系のユルシからの連絡が入った。会いたいそうだ。」

「アコ兄立ち会い人になる?」

「立ち会い人って、危ないだろ?」

「それもそうね。」

「何ですか? もしかして、戦いです?」

「魔法使いは戦いの宿命から逃げられないよ。頑張ってサクラちゃん!」


 わたしは否応無しに、戦いに巻き込まれる。勝てるのだろうか?

 ガランガランと、その時BARのドアが開いた。そこにはユルシさんのそっくりさん……恐らく空間系のユルシさんと、テンが居た。


「久しぶりだね?元気だった妹のユルシ。」

「元気そうだね?ユルシは元気だよ。お姉ちゃんのユルシ。」

「そっちのが、サクラ?」

「そっちはテンだね。サクラは酒が入っているんだよ。見逃してくれないかな?」

「それなら心配無く。テンにも同じ量を飲ませるから。それで五分五分だかんね?」


 ユルシさんが2人で話している。どちらも同じ声で同じ服装だから見分けが付かない。

 多流派……空間系のユルシさんと、テンがお酒を飲み始めた。


「アコ兄。コークハイ2つ。」

「あいよ。てめえら、うちの店では暴れんなよ?」

「分かってるよ。」


 アコ兄が奥へ行きコークハイ2つ持って来た。それを空間系のユルシさんと、テンの前に置く。


「味わって飲めよ。」

「いただきます。」

「いただきます。」

「妹も飲めよ。ユルシ達が会うのも久しぶりだし。」

「そうね。アコ兄コークハイ2つお願い。」

「あいよ。」

「え?まだ飲むんですか?」

「まあ、良いから。」


 これで皆べろんべろんになるまで飲み明かした。

 それで、なんとユルシさん達が意気投合して同盟を組む流れになりました。


「ユルシ達は同盟を組もう。話したら案外悪く無い。昔は一つだったんだし。」

「ユルシもそう思う。空間系重力系が手を組めば最強の時間系に対抗できるかもしれないし、もしかしたら、時間系とも分かり合えるかもしれないし。」


 2人共酔い過ぎていますけど、大丈夫なんですかね? それに、昔は一つだった? というのは何ですかね?


「ユルシさん酔い過ぎですぅ。」

「あっ、サクラちゃん。アコ兄呼んできて、お愛想するから。」

「分かりました。お〜いアコ兄お愛想ですぅ。」


 奥のアコ兄を大声で呼び出して、勘定を済ませるユルシさん。否ユルシさん達。


「また来いよユルシ。」

「アコ兄また来るよ。」


 BARを後にしてタクシーを呼ぼうとした、その時だった。ユルシさんが3人に増えていました。

 あれ? 時間系のユルシさんも来たのですかね?

 わたしが惚けて、ぼんやりした目で見ていると、髪の毛が銀髪で、目がヴァイオレットの透き通る色味が、他のユルシさん達と違うなぁってぼんやりと考えていました。


「ああ、情報は確かだったみたいだね。始末しに来たよ? 初めましてだね。わたしの名はクルシ。そしてさようなら。」

「ちょっと待ってよ。クルシって誰だよ?」

「まさか、第4の存在って訳? 何者なの?」


 謎の人物クルシが風雲急を告げる中、ユルシさん達は、慌てた様子で、かなり混乱している。どうやらわたしも酔いが覚めた様です。


「ユルシさん達は逃げてください。ここはわたしとテンが食い止めますから!」

「そういう事です。なんとか時間稼ぎますから、逃げてください!」


 テンも応戦してくれるのは助かる。はぁこんなナイトみたいな、彼氏が欲しいよぉ(泣)


「弟子を残して逃げる師匠はいないよ?」

「サクラちゃん、気持ちは嬉しいけど、ここは4人がかりで行こうよ?」


 ユルシさん達も戦ってくれるみたいだ。


「ふん、雑魚が何人かかっても一緒だぞ?」

「────っ!?」


 驚愕の発言をされて面食らっているわたし達に、クルシが攻撃を仕掛けて来るかに見えたが、戦う前にタバコに火を付けている。


「ふん、ヤニ切れだ。ちょっと待ってろ。」


 わたし達は呆然と眺めているだけだった。どうしょうか?とテンに目配せをする。テンはある提案をユルシさん、多分空間系の方のユルシさんに告げました。


「龍化して願い事をこのクルシなる人物の死を願えば勝てますけど、これが最後の願いになります。それと、今0時前なんで、0時過ぎにしか発動出来ません。3分間だけ持ち堪えてください!」

「分かったよ。確かに後3分間で0時を回る。それまで奴の注意を引きつける。ただし、殺したらダメだかんね? 無力化出来たらいいかんね?」


 何やら千載一遇のこの一手がある様で、3分間だけ持ち堪えていれば良いのなら、その役目はわたしだろうけど、どうしたらいいのですかね?


「ふん、来ないのか? こっちから行くよ!」

「────!!」


 クルシが100円ライターを出したと思ったら、それをこっちに投げつけた。

 わたしは咄嗟に重力魔法を脚に掛けて、ハイジャンプをして5メートルくらい跳躍して難無く回避した。ユルシさん達も、テンも100円ライターの起動から逸れて距離を置く。


「ふん、まあ、1人は片付けたな、火の魔法! 爆撃!」


 わたしはただ上に飛んで避けただけを後悔した。100円ライターが落下した地点で爆発が起こった。わたしの身体は落下するままに、このままでは、爆発に巻き込まれて、命は無いだろう。


 何とかするです! 重力魔眼を食べたのですから、きっと空だって飛べるのです!


 わたしは必死に考えて、死を回避する方法を考える。今際の際に空を飛ぶ妄想をしているのは情け無くもありますが、飛べると確かに念じました。


「飛べる。飛ぶんだ! 飛んでぇぇぇ!!!」

「ああ、サクラちゃん!」

「ふん、やったか?」


 爆風に吹き飛ばされる刹那。わたしは飛んだのです。空を舞ってみせました。


「やった!飛べました!」

「ふん、避けたね? しかし、脚に炭が付いたままだとは浅はかだね! 爆破!」

「なんです? わたしは遥か上空ですよ?」


 バーンっっ!!!


「え、何これ?」


私の脚が木っ端微塵に吹き飛びました。もうダメです。助かりそうに見えません……


「ふん、今度は直撃させる!」

「サクラちゃん逃げて!!!」

「ごめんなさいユルシさん……」


 空中に100円ライターが雨霰の様に向かって来る。クルシが連打して投げつけたのだろう。


「ふん、終わりだ!」

「ユルシさん……ダメだよ。逃げて……」

「ダメです! 逃げましょうユルシさん! もう0時跨ぎましたから、勝てます!」

「サクラちゃん! 嫌────っ!!」


 爆破が迫る中、わたしは最後の力を振り絞って、重力の最大魔法って何だろうと考え……


「やっぱり重力100倍とかかな? 多分上手く行く! 重力百倍!」


 わたしは目線をクルシに打つ、そしてこれは妄想なんかじゃ無い。願いだ!


「グッ、腕が、ぐぁ、折れただと!?」

「まだまだ、サクラはね。散る時が一番美しいの!」

「グッ、ここは、一旦引く。多勢に無勢だし。」

「逃がさない! 重力魔眼出力最大! 重力千倍!」

「ぐぁぁぁぁ!あ、脚が、なんてね、お嬢ちゃん、詰めが、甘いよ!」


 わたしは見る目を疑った。もうだいぶ出血しているからだろうけど、クルシの折れたはずの手足が元に戻っていく。な、なんで?


「火の魔法……蜃気楼。クルシはここにいる様でいないんだよ。チッ、騒ぎが大きくなったな、出直すとしよう。」


 わたしは無駄に死んでいくだけなのだろうか、誰からも愛される事も無い人生だったな、いや、魔法使いなんだから、人間じゃないから、人生ってのも変だよね……


 謎の人物クルシは姿形も無く消え去っていった。

 テンは何か勝算があるみたいな事言っていたけど、ダメだったのかな?


「クルシは名前が分かったから、無効化出来ると思ったら、クルシは1人であって、1人では無いと龍から聞いて、ごめんねサクラ。願い事は大事で、サクラを助ける事も出来ない、いや、しないんだ。」

「なんでなの! なんでサクラちゃんを見殺しにするの!?」

「ユルシがユルシの立場だったら、必ず同じ選択をする。いいかい? 元は同じ人間だったんだから、当たり前だよ?」

「なら、力付くでも、言う事を聞いてもらうよ!」


 なんでユルシさんはこんなにも、わたしの為に必死になっているんだろう?


「冷静になれよ、脚が木っ端微塵に吹き飛んだくらいで魔法使いは死なない。救急車呼んだ方がまだ助かる見込みはあるんだよ? ここでユルシと事を構えても、何もメリットは無いよ。」

「馬鹿! お姉ちゃんの馬鹿!」

「スネるんだったら、こっちで救急車呼ぶからね?」


 ユルシさんはわたしの事こんなに思ってくれるんだ。なんか、目覚めちゃいそう。ははは、痛みでおかしくなりそう。


†††


 気付いたらわたしは病院のベッドの上でした。歩けなくなるんですかね。不便ですね。


「あ、起きたね。今林檎剥くからね。ゆっくり休むんだよ。」

「ユルシさん、なんで?」

「ん、まあ、師匠だからね一応。」

「そうじゃ無くて、なんであんなにわたしの為に必死だったですか?」

「さあね。」

「わたし、ユルシさんの事ちょっといいなって思ったです。」

「嬉しい事言ってくれて。」


 ユルシさんは、林檎を剥きながら、横目でたまにチラリとこっちを見ます。なんだか、照れます。ユルシさんがこんなに、イケメンだったなんて知らなかったです!


「ユルシさんって、もしかして、わたしの事好きだったりします?」

「好きだけど?」

「それは弟子としてですか?」

「まぁそうだよ。大事な弟子だかんね。」


 ユルシさんから林檎を食べさせてもらう。なんだろうこのドキドキは?

 一口食べるたびに美味しいんだけど、そんな事より、ユルシさんが気になって仕方無い。

 こんな夢みたいな生活がずっと続くのなら幸せかもしれない。


 でも、わたしにはやるべき使命がある。クルシからユルシさんを守らないといけない。幸いにも、重力魔眼のお陰で空は飛べる。


「ユルシさんはわたしが守ります。」

「ふふ、嬉しい事言ってくれて。」


†††


 わたしはクルシ。オーバーテクノロジーには、必ずカウンターが用意されているものだよ。水の魔法は、確かに変幻無限で、形に囚われない。しかし、水だけが人類を豊にした訳では無い。水の魔法も然りである。

 対になる魔法として、用意されていた、火の魔法。火の魔法こそが人類を導く魔法である。

 水の魔法の使い手であるユルシ達は、水面に映る月を斬ろうとしているのに似ている。ならば、水面を蒸発させて、夢から覚ましてやれば良いよ。


 情報収集している中で、弟子達の中で一番劣るサクラを狙ったが、まさか空を飛ぶとは、龍化出来るテンが居たのはリスクだったが、収穫が大きかったよ。

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