第8話マジシャンズサークル。

マジシャンズサークル。


 誰もが見た事は無く、しかし誰もが共通のイメージを抱くモノがある。これは集合的無意識と呼ばれる。魔法の顕現も、イメージの力が大きなファクターを占める。イメージの力が大きく作用する。


 ユルシの美学より抜粋。


†††


 闇夜に1人佇む俺は虚空に視線を彷徨わせる。今日が運命の日だからだ。彼女のソラが、俺の影響で身体を、長年に渡り壊していた事を最近知って、それを治してくれた恩人がユルシさんだ。

 ユルシさんから退院前に身体検査を受ける様にと言われて、検査をしたものの、肺癌が見つかってしまった。しかも運悪くステージが進行していて、現在ステージ2である。

 今夜は手術という訳だ。医者からは、「万が一の場合もあるから覚悟しててください。」と言われて、途方に暮れている。


 最終回病院の玄関と、手術室の間の廊下を行ったり来たりしながら、頭の中は手術成功を祈る気持ちで一杯だ。

 そんな時だった。ユルシさんが病院の玄関口に立っていた。わざわざ来てくれたみたいだった。


「ユルシさん!来てくれたんですね!」

「ソラ大変な事になったね。助ける方法があるよ?」

「また、魔法ですか?」

「魔眼を何でも良いから食べさせたら、生命力を増幅させる事が出来るから、肺癌くらいなら治るよ。」


 魔眼を食べさせるって、生物の目玉の事だろうけど、四の五の言ってられない。それを食べさせたらソラが助かると言うのなら、俺に迷いは無かった。


「どこにあるんですか?」

「ユルシには今手持ちの魔眼が無い。他の流派から奪うしかないよ。取りに行く?」

「はい!今からでも行きます!」

「頼もしいよ。知り合いに連絡入れてみるよ。誰かしら他流派と繋がりあるからさ。」


 ユルシさんは、「電話してくるよ。」と言って表に消えて行った。残った俺は、やる気になっていた。ソラの為なら誰かを巻き添えにしても必ず魔眼とやらを手に入れてみせる。そう強く念じた。その時だった。

 空が暗雲に包まれ轟音が鳴り響き、そこには、誰も知らないはずだが、誰もがそれを何だかを知っている生き物がいた。


 マジかよ……ドラゴンじゃねぇか?いや?細長いのは龍って言うのかな?


 マジマジと観察してみるが、龍は此方に気付いて身体をうねらせながら、近付いて来る。


 ヤバ。どうするよこれ?逃げたいけど、足が言う事を聞かない。


「召喚されたのか?一体誰が呼んだの?」

「え、ユルシさん?いつの間に隣に居るんですか!早く逃げましょう!」

「いや、多分魔界から流れてきた龍だよ。契約しに行くよ!」

「契約って何ですか?」

「良いから来る!」


 ユルシさんに捲し立てられて、龍の側にこっちからも歩み寄る。

 龍は空中でうねうねと、くるくる回りながら、頭と手の爪を立てている。


 そこにユルシさんが、龍に話しかけた。


「君。魔界からの流れ者だね? 良かったら私と契約しない?」

「マスター、お懐かしゅうございます。」

「え?いや、会うのは初めてだけど?」

「ユルシさん何か俺の事みたいですよ?」


 龍は左手に球を持っていた。そこがさっきから薄く光っていて、そこには、俺のソックリさんが、コスプレで侍装束を着ている姿が写っていた。


「ユルシとやら、すいませんが、マスターと話をさせてください。私のマスターは獄蔵以外には居ませんので。」

「獄蔵?ここに居るのはテンだよ?」

「もしかして、その球に映っているのって? 440年前の俺とか?」

「今回の転生では、外れを引いたのですか? マスターの強大な魔力が、酷く小さな器に収まったみたいですね?」


 ユルシさんが言っていた440年に一度の魔法使いは、どうやら俺らしい。それと、440年前の俺……獄蔵は、どうやら途方も無い魔力の持ち主だったみたいだ。ユルシさんから俺は、計測不能なくらい魔力が強いと言われた事があったが、その俺を持ってしても、矮小な魔力だそうだ。

 龍の手にある球の名前が気になったので、聞いてみる事にした。


「その手に持っている球の名前は?」

「龍球です。龍球は確認されている限り3つ存在します。440年に一度どんな奇跡も起こす球でございます。」

「!? じゃあ、今すぐソラの肺癌を治してくれ!」

「対価をお支払い頂ければ、可能でございます。」

「対価?なんだって払う! 何を払えばいい?」

「7つ道具を頂ければ、もしくは龍球を1つ、あるいは契約を結びさえ頂ければ。」

「7つ道具は何か分からないし、龍球も持っていない。契約とはなんだ?」


 さっきユルシさんが言っていた契約というやつはなんなのだろうか? ゲームや漫画の世界では、召喚獣みたいな感じだが? やはりそんな感じなのだろうか?


「契約を結ぶと、私とマスターは一心同体になります。龍化と言って、マスターの眠れる力を解放出来ます。ただし、龍化を使い過ぎると、龍化のまま、になってしまいます。御用心を。」

「分かった。結ぶぞ! その契約!」

「御意。またアナタと戦える日を夢見ていました。」


 こうして、龍は名前も言わず俺の体内に吸い込まれた。俺の身体が青白く光る。電撃が走ったかの様な痛みを感じる。横にいるユルシさんは、おろおろしている。なんからしく無い。


「大丈夫? テンに電撃走っているよ?」

「大丈夫です。もうじき収まるはずです。」

「ソラの様子見てくるよ。」

「俺も行きます。」

「ダメだよ。そんな電撃帯びていたら病院入れないよ。」

「分かりました。」

「行ってくるよ。」


 こうしてユルシさんは、病院の中に消えていった。残された俺はこの青白く光る稲光をどうにかしないといけないと思いながらも、立ち竦むしか出来ない。


「マスター、力を解放してください。一度龍化が必要です。」

「どうやるんだ?」

「念じるのです。」

「念じるって言われても何を?」

「自分は龍だと念じるのです。」

「分かったやってみる。」


 俺は心の中の龍から言われるままに、自分は龍だ……と強く念じた。すると、俺の身体が幽体離脱した。俺はてっきり龍になるものかと思っていたのだが?

 幽体離脱したまま、俺本体になっているであろう龍に話かける。


「おーい。どうなっている?」

「マスター。解脱に成功しました。今のマスターの力だと、これが手一杯の様です。」

「これって幽体離脱だよな? まさか、幽体離脱から龍化って流れ?」

「左様でございます。」

「龍化したら、さっきのお前になるの?」

「左様でございます。」

「その間、俺本体はお前なの?」

「左様でございます。」

「もし、龍のままになったら、どうなる?」

「私めがマスターの代わりを務める事になります。」


 なんだろう、新手の詐欺かもしれない。不安が頭を過った。不安も伝播するものらしい。龍が説明を始めた。


「不安に感じるかもしれませんが、龍化を乱発しないなら、その様な事態にはなり得ません。」

「不安も伝わるのな。」

「ええ、一心同体ですからね。マスター願い事を叶える時には、私に気持ちばかりのお供え物をして頂ければ、その対価に合わせた願い事は叶います。」

「え?契約するだけって、言わなかった?」

「私めは、寿司が食べたいです。回らないやつが食べたいのです!」

「今何時だと思っているんだ。明日食べさせてやるから、はよ、ソラの肺癌治せ!」

「いえ、それは契約時の願い事なので、叶えました。」


 そこにユルシさんが帰ってきた。


「やったよ! ソラ治ったって!」

「願い事は叶えたので私めはここいら変で、と言いたいところですが、回らない寿司を食べるまで帰れないのです。」

「ユルシさん、そいつ龍です!」

「回らないお寿司か! 明日食べさせてあげるよ!」


 ユルシさんには、俺の声は届いて無いっぽい。ユルシさんも明日にしなさいと言っているのだが、この龍は全く聞かん坊だ。


「いえ、今日中に食べないと、魔力循環が出来ずにマスターと結んだ契約が、このまま切れてしまいます。」

「えっと、アナタは龍で、今テンは? どこにいるの?」

「ユルシさん。俺幽体離脱してます!」

「マスターは幽体離脱しています。このままでは、マスターは幽体離脱したまま本体に戻れなくなります。」

「それは困るわね。」

「ええ、ですから、最寄りの回らないお寿司屋さんに連れて行ってください。」


 ええ?! 困るんだけど? こいつなんだが、寿司食いたいだけなら回転寿司なら空いてる店もあるかもしれないのに、回転寿司じゃダメなのか?


「うーん、困ったな、今21時だからこの時間帯は回転寿司も空いている店少ないし、手作りとかダメ?」


 すんなり龍がOKを出したから良かったものの、ゴネていたら、俺はヤバかった。


 それで、ユルシさんは電話で知り合いを呼び出している。


「もしもし、なーちゃん。寿司作ってくれない? え? 今からだよ、車で迎えに行くから、待ってて!」


 知り合いのなーちゃんを呼び出し。今、ユルシさんの車の中で3人で話している。俺は会話に混ざれないからノーカンだ。


「なんで夜中に寿司作りなの。」

「んーとね、テンってこの人なんだけど、この人じゃないんだよね。」

「なんなの。」

「テンは幽体離脱して、今中の人が入れ替わっていて、龍なんだよ。」

「龍って人が入っているの。」

「龍は龍だよ、ドラゴン。」

「龍なの。」

「手作りお寿司楽しみです。よろしくお願いします。」

「わかった。」


 食材のブリとハマチと酢を買って、ユルシさんの家に皆で上がる。家というか、コンテナマンションだ。日本だと珍しい。

 部屋の中はビーカーだらけ、コップ類は全部ビーカー。観葉植物もビーカーの中。メダカをビーカーで飼育しているのは、ちょっとびっくり。それと調理器具らしき物がやたらとある。料理が趣味なのかな?


「ユルシは相変わらず人使いがあらいよ。」

「なーちゃん。お願いね。」

「はいはい。」

「頑張ってください。」

「わたしだけ、頑張るの。」


 なんだかんだで、なーちゃんは、ブリとハマチを捌いて、酢飯を握った物に、ちょこんと乗せた。寿司の完成だ。


「サビ抜きも美味しいですね。」

「なーちゃん、お寿司上手だよ!」

「美味しいなら良いの。」

「皆楽しそうだなー。」

「ご馳走様です。」


 龍が手を合わせてご馳走様した瞬間に俺の意識は、肉体に戻っていた。

 ユルシさんが、なーちゃんを送って行くと言って車に乗る様に促した。


「ユルシさん。俺、戻れましたよ?」

「良かったじゃん! なーちゃんにお礼言いなよ?」

「ありがとう! なーちゃん!」

「お役に立ったの。」

「なーちゃん、明日、マジシャンズ集まれる? 六花にも声掛けててね。」

「明日か、マジシャンズサークルだね。声掛けするの。」


 なーちゃんを家まで送り届けて、次は病院を目指す。

 マジシャンズサークル?なんだろうか?魔法使いの集会? 俺は期待と不安に、胸が熱くなった。


「ユルシさん、マジシャンズサークルって?」

「ん? ああ、ここいらに、群雄割拠高校ってあるでしょ? あそこの奇術部の手品師サークルの事だよ。」

「マジシャンってそっちですか!」

「まあ、マジシャンって意味は手品師と魔法使いと2つあるからね。まあ、勉強だと思って!」


 ユルシさんはなんだか、ウキウキしている。まあ、明日になれば分かる事か。


†††


 病院に戻りソラの病室に向かう。ソラはけろっとした顔で出迎えてくれた。


「遅かったね、テンちゃん。」

「ああ、ちょっと寿司を食べていた。」

「何それ。」

「じゃあ、ユルシはこれで失礼するよ。」

「お疲れ様でした。」

「ユルシさん。テンちゃんの事ありがとうございます。」


 ユルシさんが病室から去った後、ソラはすやすやと眠りについた。俺は一安心して、車で家に帰った。


†††


 次の日。俺は言われた待ち合わせ場所である群雄割拠高校駐車場に来ていた。何分か経ったらユルシさんが来た。ユルシさんはタバコを吸いながら車の中で時間を少し潰して降りてきた。


 学校の中に入るユルシさんの後ろを歩く俺。そこに出迎えの女子生徒が3人渡り廊下で待ち構えていた。1人は昨日の、なーちゃん。なーちゃんは、赤髪ロングストレートの目立つ子だ。それに引けを取らない派手な子がいて、金髪碧眼の異国風な子と、もう1人もかなーり派手で、髪の毛がピンクの姫カットちゃんだ。挨拶をされたから、挨拶を返す。


「こんにちは。」×3

「こんにちは」×2


 それからユルシさんが俺を紹介する。その後3人の紹介に入る。


「こっちの赤髪ロングの子は昨日のなーちゃん。」

「よろしくなの。」

「こっちのピンクの姫カットちゃんは、ぷかぷか。」

「よろしくね! ぷかぷかー。」

「最後のこの金髪碧眼の子は、六花。私の妹分だよ。」

「ちょっとユルシねぇ、わしゃわしゃ止めて!」


 さっきからやたら、金髪碧眼の子……六花にべったりだ。頭をわしゃわしゃやっている。


「今日、お母さん達来ているから!」

「え、まず!」


 なんだろう、あからさまにユルシさんの顔色が悪くなった。そこに教室……奇術部と書いてあるから、奇術部の部室なのだろう。部室から人影が2つ出て来た。


「やかましいな、なんなん?」

「あれ? ユルシちゃんじゃないか!」


 女性が2人出て来た。さっきお母さん達って言っていたけど?1人は、黒髪ショートな中世的な外見だけど、女性特有の柔らかさがある。もう1人は金髪碧眼で六花に良く似ている。こっちが母親なのだろうが、はて。


「お久しぶりです。姉さん達。」

「ユルシちゃん、今日マジシャンズサークルの集まりって聞いたから来たけど、そっちの新顔は、魔力の匂いがするけど、誰なん?」

「ユルシの弟子だよ。440年に一度の魔法使いの生まれ変わり。」

「初めましてテンっていいます。よろしくお願いします。」

「ああ、六花の母親のゴッ殿だ。こっちも六花の母親のファンサたん。よろしくな。」

「2人共母親??」


 どうも説明する気は無いらしく、有耶無耶にされて、本日の本題である。マジシャンズサークルの開催になった。


「本日の手品はこちら、穴が動くカード!」


 確かにトランプに空いたパンチの穴が移動している。タネはあるのだろうけど、よく分からない。


 こんな感じに1人1つ手品をして終わった。俺は何も手品を知らないから、奇術部部長である六花から1つだけ手品を習った。


「リターンカードを習得しようか?」

「よろしく頼むわ。」

「まず、デッキの上から1枚目と2枚目をくっ付けて持ちます。」

「こうかな?」

「そうしたらデッキに置くように下ろして、それをめくる様に観客に見せて。」

「こうだな。」

「そうそう、そしたら観客には2枚目のカードが見えているのは分かる?」

「なるほど!」

「それから、デッキに置いて、1枚目をデッキの中に入れる。」

「そうか!」

「そうそう、デッキから1枚めくったら、仕込んでいた2枚目が1番上に来る手品よ。」

「手品って凄いな。」


 俺は感心しながら、自分に注目が集まっている事に気付いた。

 なんだろうか? 初歩的な手品で気を引いたとも思えない。

 そこにユルシさんから声を掛けられた。


「テン。昨日龍と契約したんだろ? 見せてくれないか?」

「俺も見たい。龍ってなんなん?いるん?」

「僕も見たいな。アクマでもマジ!シャンですら到達出来なかった魔法を。」

「わたし達も見たい!」


 一人称が俺って言っているのが、六花の母親の1人で、ユルシさんの姉さん?の、ゴッ殿。僕っ子は年甲斐も無いが、これまた同じく六花の母親で、ユルシさんの姉さん?の、ファンサたん。

 皆から見たい見たいコールされて、引くに引けなくなった。


「分かったよ分かりましたよ。」


 見せるって言って、どうやるのか、方法を思い出す。確か念じるんだったな。


「マジ!ック!今から俺は龍になる!」


 強く念じる。吾輩は龍である!

 すると、幽体離脱が出来た。するとやっぱり本体に龍が入る。


「マスター、乱発はよろしく無いですぞ? いつか後悔しますよ?」

「分かったよ。」

「これで龍化は2回目。ここ一番に使って頂けたら幸いです……しかしもう後が無いです。」

「どういう事だ?」

「龍化はどんな奇跡も叶えますが、叶うのは3つの願い事までで、3つを叶えたら、宿主は完全龍化してしまいます。」

「次は無いって事か。」

「左様でございます。」


 幽体離脱した俺と、本体に入った龍の会話だ。幽体離脱した俺は人には見えないし、龍が本体に入ったのも側から見たら分からない。まるで俺が虚空に向かって独り言を投げているかの様に映るだろう、奇妙な光景だ。

 皆呆気に取られている。そこにユルシさんが、龍に話しかけていく。


「龍。願い事ってのは何でも良いの?」

「何でも叶います。ただしマスターの望む物に限ります。」

「そうか、テン。お願いがある。アクマでもマジ!シャンを復活させて欲しい。頼むよ。」


 俺は迷った。アクマでもマジ!シャンが復活したら、そもそも魔導書集め自体無意味になるから、俺や会った事無いライバル達の争いも止む?

 しかし同時にお払い箱になるのでは?魔導書集めの為に弟子になったのだから、魔導書が別の手で復元可能なら、確実に俺やソラは要らない子になってしまう。

 うーむ、困ったものだ。ユルシさんの願いも無下に出来ないのが人情だし、龍は叶わぬ願いは無いと言っている。


 俺が迷っているのが、ユルシさんに伝わるのに、充分な時間が経ってしまった。

 ユルシさんは、俺の迷いを吹き飛ばすのに充分な呪文を唱えた。


「うな重うなぎ二倍!」


 俺の迷いの霧は晴れた。俺は龍に願い事を頼む。


「アクマでもマジ!シャンを復活させてくれ。」

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」


 少々お待ち下さいから、大分時間が経った。龍は座った状態で、龍球を取り出し、コンピュータを操る様に指で、龍球をしゃーしゃーと動かしている。どのくらい待っただろうか、龍が口を開く時間まで、俺は幽体離脱が出来るのを良い事に、現役女子高生3人のパンツを眺めていた。ユルシさんのも見たいけど、座ったままだから、チャンスが無い。


 その時龍が口を開いた。


「残念ですが、アクマでもマジ!シャンというのは、あだ名か何かではないでしょうか? 検索にヒットしません。」

「えっ、本名じゃないの!?」

「なんなん? ユルシちゃん、そこは違うんじゃないん? ファンサたん何か知らない?」

「僕は知らないなぁ、アクマでもマジ!シャンのやっていたカルト宗教団体マジシャンズの初期メンバーだったら知っているかも?」

「初期メンバーって確か、おじさんが死んだのを前後に、全員自殺していたはずじゃ……おじさんにやっと会えるって思ったのに……」


 ユルシさんはボロボロと泣き崩れた。


 その時だった。虚空に確かに人影が浮かんだ。幽霊の様だ。

 俺にしか見えていない様だ。緑のシルクハットに緑のタキシードを纏っている。何よりこのタイミングだ。アクマでもマジ!シャンに間違い無いだろう。


「なあ、アンタ。名前は、アンタの良い人が泣いたままだよ?」

「ユルシちゃんは次を見つける強い子さ。」

「いや、泣いているだろ?」

「ユルシちゃんから何て聞いている? 魔導書集め争いがどうたらとか、クローン3姉妹やオリジナルとか吹き込まれたか?」

「それがどうした?」

「魔導書は3分割されたのは本当だ。クローン3姉妹やオリジナルは出鱈目だぞ。」

「どういう事だよ? アンタ何者なんだよ?」

「余の顔見忘れたか!」

「そんな誤魔化し要らない!……いや、アンタどっかで?」

「ユルシちゃんの事頼んだよ。」


 俺がアクマでもマジ!シャン!と進まない会話をしている間に、ユルシさんが泣き疲れて、ぐだっと机に突っ伏して、静かになった。

 皆も解散な流れである。俺はこのままでは、身体に戻れ無いから、願い事も消費していないのだが、身体に帰る為にまた、回らない寿司を食べに行く事になるのだろう。


「今日は解散しよう。」


 ファンサたんが告げて各々帰って行く。

 ユルシさんはボロボロと泣きながら帰って行った。


†††


 俺は案の定、回らない寿司屋に行く羽目になった。人の金だと思って、加減を知らない。自分が乗っ取られて飯食っているのを眺めるのは、複雑な気分である。


「ご馳走様でした。」


 龍が合掌したタイミングで、身体に戻る。俺はムシャクシャしたから、また同じ店に入り回らない寿司を食べる。しかし、身体は共通なので、あまり入らない。少し食べただけで、満腹になってしまった。

 爪楊枝でしゃーしゃーしながら、一人ごちる。


「しかし、アクマでもマジ!シャンって誰かに似ている気がする。誰だろう? ちょっと探ってみるか。」


 気になった俺はもしかしたら、地下討議場のファイターかも?と思い当たり、歴代のチャンピオンから眺める事にして、地下討議場のアプリを開いて、チャンピオン名鑑を眺めたらズバリコイツって奴がいた。


「アゲハか、厨二病全開な名前だな。」


†††


 わたしはユルシ。440年に一人の魔法使いがテンだったのは、幸運だったみたい。アクマでもマジ!シャン……おじさんの復活は叶わなかった。


 そうそう3姉妹やオリジナルは嘘なんだ。私達がオリジナルと言えばそうだし、3姉妹では無いんだよ、厳密に言えば違うってだけで、似た様なモノだから便宜上3姉妹って言っているよ。


†††


「世界は悪意に満ちている。その悪意が牙を剥く先は、誰も選んでいないが、必ず誰かに牙を立てる。」

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