第6話ユルシの嘘。
ユルシの嘘。
敵を欺くにはまずは味方から、しかし敵なんて居ない場合には、一体誰を欺いているんだろうね?味方を欺いているつもりでも、それは自分が味方だと思っていないのかもしれない。
ユルシの美学より抜粋。
†††
僕はハル。今日は久々にアゲハの病院に着いていく。記憶障害どころが、傷一つ無いくらいに回復してしまったけど、ユルシさんから月に1度メンテナンス?を受ける様に言われて、それに従っているのだそうだ。アゲハは、「ダリィけど、ユルシさんの言いつけだからなぁ。」と言いながら支度をしている。
一緒に住んでいるんだ。結婚している。お腹には子供もいるよ。
「アゲハ、早く準備して、いつまで鏡見ているの?」
「いや、だって今日病院だし……」
「病院に行くのに何かっこつけているの!早くいくよ?」
「分かったよ、あ、ハル車の鍵忘れているぞ?」
「あ、ありがとう。早く乗りなよ。」
アゲハが念入りにおめかししている理由は、きっとあの人だな。なんか不安しかない。前に1度問い詰めた事あったけど、あの人がそんな事するとは信じられないけど、私の口腔に広がった鰻の臭いが全てを語っていた。アゲハの言い訳は、「鰻屋で、タレを零したんだ。」って苦しい言い訳していた。
シートベルトをして車を病院まで走らせる。アゲハときたら、地下闘技場のチャンプなだけあって、勉強は苦手で、更に言うとどうも脳みそも筋肉な様子で、自動車学校の筆記がクリア出来ず、未だに車の免許も無い。というか国家資格が一つも無い。
病院に着いた。2つ病院がくっ付いている病院で、青い看板の方が、最終回病院。白い看板の方が聖魔導病院。どちらも総合病院だから何故同じ立地に立っているかと言ったら最終回病院は急性期病棟で、聖魔導病院はリハビリ病棟だからである。
着くなりあの人が、手を振りながら玄関で出迎えていた。僕は内心毒吐く、『盛りのついたビッチめ!』『鰻だけ食べてろ!』内心とは裏腹に、和かな表情を浮かべ、「ユルシさーん。今行きますねー」って短く言って、車を駐車場に止めて、車を降りる。
あの人=ユルシさんである。最初は、再起不能になったアゲハを魔法で治してくれた恩人だったのに、今や憎たらしい存在である。
玄関口で待つユルシさんに手を振りながら近づくアゲハ。後ろからついて行く僕。
上手い話だとは思ってはいたけど、なんでユルシさんはアゲハなんかと、なんかって言い方は無いとは思うけど、ユルシさんは金はあるし、多分権力者だし、容姿も恵まれている。
高身長でスタイル細くて、顔立ちも若々しく美人だし、貧乳だけど細いから仕方ない部分だし、魔法が使えるから人間か怪しいけど、モテそうというか、高嶺の花過ぎて敬遠される感じがする。
それはおいおいだけど、よりにもよって僕のアゲハに手を出している。まぁ手を出している疑いが掛かっているだけだけどね?
「ユルシさん、お待たせしましたー」
「遅くなりました。」
「金持ち人を待たずって言いたいけど、待ってたよ。月に一度のメンテナンスだからきっちり受けに来たのは偉いぞー」
次の瞬間、僕の目の前で、僕のアゲハなのに、僕のなのに、ユルシさんから頭を撫で撫でされて、照れているアゲハがいる。ムカつく、いや、ムカつくを少し超えて、わなわな震えている僕がいた。悔しい!腹ワタが煮えくり返るとは、この事だろう。デレデレしているアゲハは、嫌がる素振りが無い。
「よきよき!」
「ちょっ、照れますから辞めてください!俺より身長高いからって、からかいすぎですからそれ!」
「照れ屋さんだ!よきよき!」
「ちょっwハルの目の前で恥ずかしいですから!」
「……」
この2人いつからこんなに仲良しさんなんだろ、鰻はさぞ美味しかったのかな?僕の気持ちなんかどうでも良いのかな?やっぱりあの時別れたままにしといたら良かったのかな?
「ん?まあ時間無いし、メンテナンス受けに行こうよ?」
「時間無いですか、そうですよね、あー今日も身体検査か、だるいなぁ」
受付を済ませたアゲハは、視聴覚検査室に消えて行く。
「ユルシさん……あの、アゲハがメンテナンス受けている間に、ちょっとお話いいですか?」
「なんだろう?ユルシはアゲハのデータを出来ればリアルタイムで見たいのだけど?」
「その、アゲハとは、どんな関係なんですか?」
「魔法使いの師弟関係だよ?知っているよね?」
「それは、そうなんですけど、私といる時間より長い気がして、その、あの、何かの間違いは起きてませんよね?」
「……」
ユルシさんは沈黙してしまった。何だろう、聞かないなら良かったかな、答えられないってつまりそう言う事だよね……
「黙っているって事は、つまりそう言う事ですよね?」
「……」
「僕のアゲハに手を出さないで!」
「……」
僕が泣き崩れていたら、そこに視聴覚検査を終えたアゲハが廊下に戻って来た。僕達の異変に気付き歩み寄ってくる。
「ハルどうした?何で泣いてるんだ?」
「鰻は美味しかったみたいだね?この裏切り者!」
「鰻?何の話だ?」
「アゲハは黙ってて!」
「何だよ?言いたい事あるなら聞くけどさ?」
ユルシさんは席を外した。多分会う事はもう無い。
「アゲハはユルシさんと、間違いを冒したんじゃ無いの?」
「間違いって何だよ?」
「男女の仲になったんじゃないの?」
「またその話?違うって言っているだろ?」
「ユルシさんは、ずっとだんまりだったよ、沈黙って事は、認めたって事でしょ!しらばっくれないで!」
「ユルシさんは、ほら変わり者だから、たまにだんまりなる時もあるさ、それにほら、いきなりそんな話されて、ビックリしたんだと思うよ!」
そう言われたらそうかもしれないけど、でもこの際はっきりさせたい!私はこのままグダグダは嫌だった。
「はっきりユルシさんの口から違うって聞かないと納得出来ない!」
「って言ってもユルシさん外行ったままだし……」
「呼んでくる!」
私は外に出てユルシさんの姿を探したが、ユルシさんは車ごと居なくなっていた。なんだったんだろ?
「まずい事あるから逃げたんだよね……」
そう私がぼやいていると、1台の車……ユルシさんのベンツがまた戻ってきた。
車を降りてきたユルシさんはレジ袋を下げている。なんだろうか?またうなぎだろうか?
「お待たせ、なんかお腹空いてそうだから買ってきたよ。うなぎの蒲焼きだよ。食べよ?」
「あの、そんな事より、アゲハとは何も無いって言えますか?」
「大丈夫だよ、心配しないで!」
「本当ですか?」
「うん。」
それを聞いて私は安心した。ひと段落付いたって思った。
ユルシさんと病院の中に戻り、アゲハが待合室の椅子に座っているのを見つけて、誤解だった事を謝る。
「アゲハ、ごめん誤解だったみたい。」
「分かれば良いよ。」
「お腹空いてるから、そういう事もあるよ。うなぎ食べて落ち着こう。」
ユルシさんが、「レンチンしてくる。」って言って、食堂の方に消えた。アゲハと待っている間に少し話す。
「ごめんね、あまりに仲良くしてたから、疑っちゃった。」
「大丈夫だよ。あっユルシさん戻ってきた。」
「お待たせうなぎ温めてきたよ。」
「うなぎ好きですね?スーパーで特売だったとかですか?」
「そそ、今日セールだったの思い出したから。」
「ユルシさんって言ったらうなぎですよね。」
「さあ、食べた食べた。」
皆でうなぎを食べる。美味しいものだなぁ。黙々と食べて、食べ終わると、ユルシさんがアゲハに検査の続きを促す。
「アゲハ検査の続きだよ。その前にデータ見せて。」
「はい。視聴覚検査は、右目1.5左目1.5変わりないです。聴力検査は耳年齢23.8歳です。これも変わりないです。」
「あー、そうみたいだね。これなら問題無いね。」
「ユルシさん、あの、今日の検査はここまでって言われました。」
「そうなんだ?まあここが分かれば問題無いから大丈夫だよ。」
「そうなんですか?」
「まあね。帰ろうか?」
こうして促されるままに、車に乗って帰る。ユルシさんは何も無かったって言っていたから信じる。
帰り道ユルシさんのベンツを見かけた。それも2台も見かけた。なんだろうか?運転していた人の顔も確かにユルシさんだけど、連続して見かけたから、あれ?って思った。なんだったんだろ?
家に着いて今日は休みだからって、アゲハはゴロゴロしだした。地下闘技場の便所掃除からまたファイターに復帰する為の身体検査をやっているが、身体検査だけでもう3ヵ月くらい病院通いだ。病院通いの間はファイトマネーも出ないし、検査費はユルシさん持ちだから良いけど、世帯じみた事を言ったらガソリン代は手出しである。
私は高校卒業したあと、ユルシさんの紹介で出版社勤めになった。だからユルシさんにはあまり強く出れないんだけど、アゲハの事は別。
アゲハがゴロゴロやっているのは、気に入らないので、私がアゲハを急かす。
「家でゴロゴロばっかりしていたら、格好悪いから、ロードワークでも行ってきなよ?」
「まあ、待って今スマホで動画見てるから。」
「もー、そうやって、毎日だらけてる!」
「毎日じゃないぞ?たまにユルシさんから呼び出し掛かったら修行しているし。」
「私の言う事もたまには聞いて!」
その時アゲハのスマホに着信があり、ユルシさんからまた呼び出し掛かって、アゲハはフラフラと出て行くのであった。こんなんで続くのかしら?
†††
私はユルシ。嘘は付きたく無かったなぁ、嘘を付くのは魔法使いには似合わないからねー。
お腹の子は魔法使いのサンプルとして回収するしかないし、それが難しいなら家族ぐるみの付き合いにするしかないからねー。ハルちゃんの扱いには困ったものだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます