第3話440年に1人の魔法使い。

440年に1人の魔法使い。


 勝利者だけが獲れる快感がある。しかしそれが一時的なものであれば、敗者が苛まれる敗北の道へと続く。


 ユルシの美学より抜粋。


†††


 俺の名前はテン地下格闘家をやっている。ファイターなんか、好き好んでやっている訳でも無くて、彼女の医療費を稼ぐ為にやっている。

 今日は彼女の面会に来た。病室には先客がいた。


 誰だろうか?


「あ、テンちゃん来てたんだ。この人ユルシさんって言って、なんか……」

「ここから先はユルシが話すよ。」

「何ですか?アナタ?」


 ユルシと名乗った女性はこちらの質問は遮り話を続ける。

「テン。君に魔法の才能があることが判明したよ。ユルシの元で魔法修行する?」

「お断りします。」

「まあまあそう言わずお話だけでも聞いてみるんだよ?」


 こっちがNOときっぱり言っているのにも関わらずズケズケと話を進める。

「まあまあテンちゃんもユルシさんの話聞いてみて。」

「う、うん。」

「じゃあ簡単に説明するね、ユルシは、ある会社のオーナーでお金はあるから、テンが魔法修行するなら、原因不明の病のソラを助けられるんだよ?」


 ほうほう、そういう話か、怪しいなぁ。

「ソラの病気が100%治る保証は無いだろ!それに今だって俺のファイトマネーで何とかなっているし!」

「テンちゃん落ち着いて、ユルシさんの話聞いて!」


 ソラからこう言われると俺は弱い。

「ユルシの経営している病院なら多分原因は分からなくとも完治できるよ?」

「何それ怪しい。」


「テンちょっと来なさいよ!話があるよ!」

 ユルシさんが俺の手を引っ張り廊下に連れ出した。なんだろう?

「ソラを抱きたくないの?100%治るよ?原因は分からないけど、簡単に治るから、魔法修行やるだけだから?ね?」


 それを聞いた俺に迷いは無かった。

「ユルシさんの元で修行って事は、ユルシさんの事今日からお師匠様とお呼びします!」

「素直でよろしい!」


†††


 こうしてお師匠様の元で修行開始したのだが?修行場所は、ソラの病室だった。

 やってる修行は携帯ゲーム機でシュミレーションRPGを遊ぶだけ……

 大丈夫なのかコレ?


「ちゃんとやっている?集中が大事だよ?」

「ちゃんとやってます!早解き意識しながらきっちりと……」

「ちょっとここ一手ロスしているよ?」


ユルシ師匠に怒られながらゲームの修行をしている。こんなんでソラの病気治せるのか?

 ソラも茶化してくる。

「ちゃんとやってよー、テンちゃんは世界記録取るんでしょ?」


 痛い事に世界記録が取れる事が条件だった。ただ救いだったのは、ゲーム序盤まで良いという事。

「はあ、いくら序盤とは言え世界記録もしくは世界記録タイだろ、きっついなぁ」


 ユルシ師匠が攻略サイトをスマホで見ている。小説投稿サイトに攻略記事を載せてあるのを見つけたらしい。

 どれどれ?とユルシ師匠は見入っている。


「ほうほう、これは世界記録超えるのは無理だわぁ」

「え?えー!?」

「でも世界記録はあくまで目安だから、そこは重要じゃないよ?」


 じゃあ何をしたら良いんだろうか?もう1週間経つのに、まだゲーム以外の魔法修行は無い。


「うーん?何したら良いんですか?お師匠様!」

「とりあえずクロワッサン買ってきて。」

「テンちゃん私の分もお願い。」

「クロワッサンですね。ソラの分も買ってくるから。」


†††


 私はユルシさんと病室で2人になった。ユルシさんがわざと2人に仕向けた様に思えた。何だろうか、胸騒ぎがする。


「ねねテンのどこが好き?」

「え?そりゃあ、子供の頃からずっと私を守ってくれるナイトですから、どこと言われても……」

「ねねそれじゃテンより強い人が守ってくれるなら心変わりするの?」


 何だろ?急に口調が子供っぽくなったユルシさん。不気味だよ。それにちょっと不躾な質問な気もするけど、無視は出来無いから真剣に答える。


「それは無いです。テンちゃんはずっと私だけを見てますから、私もずっとテンちゃんを見つめます!」

「ふーん?じゃあもし、テンが誰かに心変わりしたら、その時はどうするの?」


 私はかぁーっとなった。


「テンちゃんは私のモノです!誰にも渡しません!心変わりなんてあり得ません!」

「そか、ごめんね気に触ったね。」

「いえ、大丈夫です。お世話になる身ですから、多少は無茶な質問にも答えます。」

「じゃあさ?身体が治ったらテンに抱いてもらいなよ?」

「ふぇぇ!?」


 ずっと私を襲っていた違和感の正体に気が付いてしまった。勘違いかも知れないけど、ユルシさんはテンちゃんを奪うかもしれないと、不安が過った。


†††


 俺は病院から出てコンビニに向かった。その途中大きな葬儀があった。確か俺と同じ地下闘技場に所属する女性ファイターのクインビーの葬儀が行われていた。

 リングの禍だそうだ。男性ファイターも何人か参列している。参列者の列に見覚えのある人影を見つけた。どうやら外に出るみたいで、慌てて追いかけてみる。


「ユルシ師匠!何故ここに?」

「ん?あぁ、そういう君は何の?」

「そりゃユルシ師匠からクロワッサンを買ってきてってお使い頼まれて……」


 ユルシ師匠は不思議そうな顔をして、こう言った。

「んー、クロワッサンの他に何頼んだんだろう?」

「いや?クロワッサン2つだけですよ?」


 ユルシ師匠は難しい顔をしながら、こう続ける。

「うなぎも買ってきて!」

「はあ、うなぎってどこにありますか?」

「今時スーパーにもあるよ?」


 ユルシ師匠はうなぎもついでにと言って先に帰ると言い黒塗りのベンツの後部座席に乗って帰って行った。病院とは反対の方角だ。

 気にしても仕方ないのでスーパーに寄ってうなぎの蒲焼きを買って病院に戻る。


†††


 俺は病室に着くなり頼まれた物をユルシ師匠に渡した。


「クロワッサンとうなぎの蒲焼きです。」

「うなぎの蒲焼きは頼んで無いよ?」

「いや、でもお使い途中葬儀会場で見つけて、その時頼まれましたよ?」


 ユルシ師匠は、「ふーん。」と短く言ったが、ソラの方は、「ユルシさんずっとここに居たよ?」って不思議がっている。


「ユルシさんのそっくりさんだったんじゃない?」

「いや、それだと何でうなぎを追加注文したんだろ?」

「まあ、不思議な事もあるって事だよ。」


 ユルシ師匠は、「電子レンジ借りてくる。」と言ってうなぎの蒲焼きを持って行った。なんだか久々にソラと2人になった。


「ユルシ師匠から何か新しい病院に移るとか話は出た?」

「ううん?テンちゃんの事どう思うか聞かれたくらい。」

「なんだそりゃ?」

「私の事重荷になる?」


 話が変な方に向かっている。


「重荷なんて思ってないぞ?」

「それならいいんだけどね。」

「ユルシ師匠がきっと病気治してくれるから、気負いすんなよ?」

「うん!」


 気がつくといつの間かユルシ師匠が病室に戻っていた。


「うなぎの蒲焼きチンしてきた。食べよう。」

「いただきます。」×2

「クロワッサン、ソラの分だよ。はい。」

「ありがとうございます。」


 飲み物が無いなぁと思っていたらユルシ師匠が、バッグから魔法瓶とビーカーを取り出した。なんだろうか?ビーカーは大小2つある。


「ここに500㎖のビーカーと、300㎖のビーカーがあります。このビーカーを……」

「それ知ってます!メモリ使わずに400㎖計るやつですよね?」

「人の話は最後までちゃんと聞くんだよ?魔法瓶から300㎖のビーカーに注いだ100㎖のコーヒーを、手を使わずに500㎖のビーカーに移しましょう。はい。やってみて!」


 え?手を使わずにってどうやって?魔法でも使うって事?習っても無いのに?


「ユルシがお手本見せるよ。じゃあ100㎖分のコーヒーを300㎖のビーカーに注いだ状態から、手は使わないから良く見てて、はい!出来たよ!」


 確かに一瞬で300㎖のビーカーから500㎖のビーカーにコーヒーが移動した。


「どんな手品ですか?」

「魔法だよ?次はテンの番だよ!」

「えっ?もしかしてゲームやってたら出来るんですか?」

「早くしなよ?」

「は、はい!」


 ビーカーからビーカーにコーヒー移すってどんな手品なんだろうか?とりあえずビーカーを眺める。特に仕掛けは無さそうだ。ふむ、本当に魔法みたいだな。困ったな、どうするんだろ?


「ゲームの事を思い出して!集中して見るんだよ?」

「分かりました!」


 集中して見るって言ったって何を見るんだろう?見ると言ったらゲームしていたら、たまにユニットとヘックスの幻覚が見えるなぁ、それとBGMの幻聴だな。


「ん?もしかして見るってゲームの幻覚の事ですか?」

「そうだよ?他に何かある?」

「ゲームの幻覚って意図的に見えるんですか?」

「あー、アンカリングがまだだったね。ちょっと待ってね。」


 ユルシ師匠はバッグから携帯ゲーム機を取り出して、俺に渡した。プレイしろって事らしい。しかしこのバッグは4次元ポケットなのか?出る道具が、普通の物っちゃそうだけど、ユルシ師匠が使うと魔法道具になる。


「ちょっと遊んでみて、そうだなシナリオ9から遊んでみようか?」

「はい、このMAPのBGM独特で苦手なんですよ。」


 俺はゲームをしながら苦手なBGMを聴いていたら、BGMが幻聴として聴こえてきた。


「ユルシ師匠、BGMの幻聴が聴こえてきました!」

「そのまま遊んでいたら幻覚が見えてくるよ。」

「いや、そのもうヘックスの幻覚は見えてます!」


 俺は窓を見て、ガラスにヘックスが移るのを確認した。


「じゃあ、瞬きしてヘックスを眼球に焼き付けるイメージを保って、やってみよー!」

「了解です!」

「じゃあそれをしながら、今度はユニットのグラフィックに目を集中させて、このMAPクリアしてね。」

「了解です!」


 言われるままに、MAPクリアしたら、ユニットの幻覚とインターミッション画面のユニット一覧のユニットの名前の文字一覧が、グルグルと視界中央辺りで幻覚として見え出した。


「なんか、ユニットの顔と文字が交互にグルグルしだしました!」

「それを寄り目で集中して引き出せる様にするんだよ?」

「分かりました。とりあえず寄り目にします。」


 俺はこうやって、ユニットとヘックスの幻覚をアンカリングに成功させた。自在に幻覚を引き出せる様になった。


「よし、100㎖のコーヒーが入っている小さなビーカーにアンカリングした幻覚を引き出して見つめるんだよ。」

「はい!」

 俺は瞬きをして、ヘックスの幻覚を出し、更にビビッドにイメージ出来る様に、ゲームのMAP画面を出した。明瞭な幻覚は現実に侵食している様にクリアで、一種の芸術品の様ですらある。


「瞬きヘックス出しは上手くいったみたいだね。次は寄り目ユニット出しだよ。」

「はい!」

 俺は寄り目をして、ユニットの幻覚を出す。まだ慣れていないのか、ユニット名の文字のグルグルとユニットの顔アイコンのルーレットの様なグルグルが見えてはいるが、コントロールが分からない。


「師匠、ルーレットが出ました。ユニットの文字と顔交互に、どうしたら良いですか?」

「ユニットの顔を見る様に集中して、それから顔だけ見えたら黒い一つ目のユニットでルーレットを止めるんだよ?」

「了解です!」


 俺は意識を集中して、ユニットの文字のルーレットを、無理矢理にでも意識して念じながら、ユニットの顔のルーレットにした。後はもう一息して、じっと見つめていたら、黒い一つ目のユニットでルーレットが止まった。


「師匠!出来ました!」

「まだ早いよ!小さなビーカーから、黒いユニットを寄り目のまま、大きいビーカーに移して、その瞬間、黒いユニットの名前の文字のルーレットに切り替えて!」

「んな、無茶な!」

「つべこべ言わない!出来るまで何日も訓練だからね?」


 俺はユルシ師匠に言われるまま、小さなビーカーから大きいビーカーに、手を使わず幻覚を利用した魔法で、コーヒーを移すというシュール極まり無い魔法修行を続ける羽目になった。モチベーション上げないと何日もどころか、何年経っても出来そうに無い。


「師匠、これどのくらいで習得出来ますか?」

「モチベーションさえ上げれば今日中だよ?」

「テンちゃん頑張って!私も応援してるから!」


 ソラも応援してくれる。ここはソラの為にもばっちり習得したいところだけど、コツとか無いのかな?

 そう思っていた時ユルシ師匠から手を引かれてまた、廊下に出る。何だろうか?モチベーション上げてくれるのかな?


「うなぎ美味しかった?ユルシの好物なんだよ?今度一緒に食べに行く?」

「うなぎ美味しかったです。何かの打ち合わせですか?それともデートのお誘いですか?」

「うなぎ嫌い?2匹食べても良いよ?」

「え?どゆこと?ですか?」


 ユルシ師匠の言葉の裏を考えたら、多分。ユルシ師匠=うなぎ。うなぎ食べて良い……2匹!?どゆこと?


「うなぎ嫌い?」

「好きです!2匹ってなんですか!?」

「ふ、ふ、ふ、モチベーション上がったみたいだね?行こうか?」

「はい!」


 病室に戻って小さいビーカーから大きいビーカーに100㎖のコーヒーを移す為に、幻覚をアンカリングで引き出し、小さいビーカーに黒いユニットの顔の幻覚から、大きいビーカーに視線を移す時、一瞬弛緩する感じで寄り目を緩めて、文字のルーレットにして、黒いユニットの名前で止めた。すると?


「あ、あれ。今大きいビーカーの方にコーヒーが!移った!移りました!!」

「おめでとう、テン、君は440年に1人の逸材かもしれん。空間系魔法はド派手な事も可能だし、強力な部類に入っている。後継者が見つかって良かったよ。」

「え?あ、ありがとうございます!空間系魔法?後継者?ってなんですか?」


 ユルシ師匠の話を聞いて不安が過った。俺はどうやらとんでもない貧乏くじを引かされたみたいだ。


「魔法使いの系譜の中で時間、空間、重力は御三家と呼ばれている強力な流派で、ユルシのところは空間系魔法使いの系譜なんだよ。後継者が見つからない日々が続いて、テンを見つけれて良かったよ!」

「何で俺にそんなチカラが眠っているって気付いたんですか?」


 俺は最もな疑問を投げる。


「魔法使いは他の魔法使いの魔力を感知出来る。良くアニメとか漫画に出てくる設定と同じだよ。飛び抜けた魔力を放出していて、地下闘技場で一体誰の魔力か分からないくらい強大だから、一目瞭然って訳じゃ無かったけど、一目瞭然だよ?」

「俺ってそんな才能が、じゃあ他流派の魔法も習得出来たり?」


 ユルシ師匠は、「うーん。」と唸った後にこう言葉を綴った。


「恐らく三大流派のは習得可能だよ。空間系はそれだけ難しいから、でもそれぞれの得意分野には及ばないから、時間系が最強って事になっているよ。」


「あ、でも、これが出来たから、ソラの身体治して貰えるんですよね?」

 俺は最もな疑問を投げる。ソラも嬉しそうだ。


「お願いします。私もうこんな生活嫌だ!」

「よしよし、今すぐ治してあげるからね、このビーカーのコーヒー飲んで落ち着いてね?」

「はい。」


 自然な感じで、ビーカーのコーヒーを渡しているけど、あれって魔法修行に使ったコーヒーだよね?もしかして?


「はい、今日から自由だよ?ベッドから出れるよ?」

「え?身体が、熱い……ベッドから出れるんですか?」

「ソラ大丈夫か?」

「何か、身体中熱いけど、あ、足が動く!」

「魔力を得たからだよ。人より少し身体が弱かったから、あちこち動かなかっただけ、魔力で筋力を補えるから、もう立てるはずだよ?」

「は、はい!」


 ソラはベッドの柵に手を乗せて力一杯上半身を起こし、足を一回膝を曲げて折り、床に向かって足を着いて、ベッド柵を杖代わりに立ち上がった。立ち上がったソラは泣いている。俺も釣られて泣いてしまう。


「よいっしょ!」

「ソラが立った!」

「私立てたよ!テンちゃん!私立てるよ!」

「良かった。これで、外の世界が見れるぞ!」

「やったよー!うわーん!」

「泣くなよ、こっちまで泣けてきやがる……」


 こうしてユルシ師匠の元、魔法修行をしたら、魔法使いになれた上に、ソラの脚も治った。しかし、原因不明だった割に呆気なく治ってしまった。原因は何だったのだろう?治してしまったユルシ師匠に聞いてみよう。


「ユルシ師匠ありがとうございます。原因は何だったんですかね?原因不明でも治るってどういう事だったんですか?」


 ユルシ師匠の答えを聞いた時胸が締め付けられた。


「んとね。原因はテンの強大な魔力を浴び続けたから生命エネルギーそのものが、消耗しきった状態だったんだよ?だから、万能薬である魔法で眺めた水で中和したんだよ?」

「お、俺が原因だったんですか!?」

「とんでもないナイトもいたもんだよ。」

「大丈夫だよ、テンちゃん!私は平気だから。」


 そうは言っても、微妙な感じだな。まぁ結果良ければってやつか、まだまだユルシ師匠に聞きたい事がある。


「ユルシ師匠、440年に1人の逸材って何か特別なんですか?その使命とかあったりしますか?」

「440年に1人全知全能の魔法使いが生誕すると言われているよ。ユルシ達の中の誰かじゃなかったみたいで、ユルシ達は躍起になって弟子を集めている。」

「ちょっと待ってください。それって俺以外にも候補はいるって事で、それとユルシ達って何ですか?師匠はクローン人間ですか?」


 ユルシ師匠は不適に笑み。こう言った。


「ユルシ達は3姉妹のクローン人間だよ。」

「でも、それって、国際条約で禁止されてますよね?」

「ユルシの美学より抜粋。生存競争の上では、あらゆる手段を用いないと敗者になるだろう。負ける事は死を意味する。」


 急に芝居がかった口調に変わって呆気に取られた。


「ユルシの美学って何ですか?魔法の教科書か何かですか?」

「ふふふ、今から約30年前に書かれた。ただの御伽噺の本のサブタイトルだよ。」

「ユルシさん何歳なんですか?」

「あ、師匠って呼ばなくなったね?」

「いえ、ちょっと気になったもので、気に障ったらすいません。」


「ねね何歳に見える?」

「え?そう言われても、俺と変わらないくらいですか?」


 ユルシさんはなんか口調が幼くなった?


「ねねテン何歳?」

「30、もうすぐで31ですね。」

「ねねユルシの方が若いよ?」

「はいって、その口調何ですか!?」

「ちぇ、面白かったのに、ユルシは28だよ。」


 そこにソラも割って入った。


「そういえば、ユルシさんが経営している病院に移って治療って何だったんですか?」

「あー、ここユルシが経営してるよ。それとリハビリ施設が整った隣の病院に移るからね。筋力自体増やさないと自立が出来ないから、頑張ろうね?」

「あ、はい。」


 俺は思い出した!そうだ!うなぎだ!うなぎ食べるんだった!


「ユルシさん!うなぎはどこの店のが美味しいんですか?専門店知らないもので!ソラの分も買って来るんで!」

「うなぎは柳家のが美味しいよ?一緒に行く?ソラの分はテイクアウトでうな重でいいかな?」

「ん?テンちゃん?お祝いには早くない?私抜きでうなぎ食べに行くの?」

「それもそうだね……」

「まあ、下見に行こう。着いておいでよ。」

「了解しました!」


†††


 俺は心の中でソラに謝りながら、柳家って変わった屋号だな。って思いながら大人の階段上がるのを、楽しみにしていた。ちょっと変人……もとい魔法使いだから人間かすら怪しいユルシさんだが、ルックスはモデル並みである。末の善というやつである。

 楽しみにユルシさんの運転する車の助手席で、ニヤニヤと、白いであろうビル的な建物を探した。が?


「着いたよ。ここが柳家。行きつけなんだよ。」

「へ?うなぎ屋じゃないっすか?」

「うなぎ屋だよ?」

「いやいやいや、モチベーション上がる的なあれは?」

「あー、お楽しみは後からがいいよ?」

「でも、昂るこの気持ちは?」


「お前童貞だろ、上手いもん食って落ち着くんだよ?」

「うなぎは我慢ですか?」

「いや?目の前にうなぎ屋あるよ?」

「いや?そっちの意味じゃなくて!」

「はいはい、我慢したらちゃんとそっちの意味でうなぎ2匹食べれるから、ソラには、ユルシから話通しておくよ?」

「ま?」

「ま」


 俺は仕方無しに、うな重で食欲を満たした。暫くはうなぎ屋でうな重を食べる日々が続きそうだ。ソラが退院したら、もしかする?と期待を膨らませている。

 これから起こる恐ろしくも過酷な運命も知らずに。


†††


 私はユルシ。ユルシはクローンの3姉妹で、ビーカーを使うのは、オリジナルのユルシが考案したのを踏襲。

 先代のユルシが残した流派は数知れずだけど、御三家と言われる三大流派が、魔法協会の最高機関なんだけど、そもそも数多の雑草流派はほとんど現存してない。

 テンはこれから先、魔法使いの宿命に立ち向かう事になる。その先に、魔法使いの矜恃があるのか、ユルシの美学はあるのだろうか?

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