第2話一か八か、チートか。

一か八か、チートか。


 勝ち逃げが難しいのは、その場をコントロールする支配者がいるからだよ。


 ユルシの美学より抜粋。


†††


 私はサクラ。地下アイドルがあまりに向いて無くて、今は地下闘技場のファイターをやってます。顔はまあまあイケてるんですよ?でも私すぐ手が出て、地下アイドル時代マナーの悪いファンに手をあげちゃって、てへぺろ!あんなこんなでファイター生活です。私の人生色々です!まずデビュー戦を振り返りましょう!


†††


 今日は地下アイドル卒業してから、初めてのお仕事の、地下闘技場ファイターのデビュー戦。デビュー戦勝たないと生活苦しいだろうなぁです!


「相手はクインビーですか、強そうってか、チャンプじゃないですか!」


相手は現在のチャンプのクインビー。リングネームだと思うけど、蜂の様に刺すスタイルですかね?当て馬だと思って舐めてかかってくれたら、ワンチャンありますね!


 私はワクワクしながらリングに上がった。


「東西東西!本日も晴天なり、皆様におきましては連日の満員御礼改めて御礼申し上げ奉ります!そうそれも我が地下闘技場のアイドルクインビーのKO劇の雨霰。御緩りと御高欄の程隅から隅までずずずいーと、レッツゴング!」


 カーン!


 1Rが始まった。クインビーのジャブ、あれ?モロに食らった!見えない……けど軽い。これなら無理矢理中に入ってリーチを潰せばまだ!そう思って、ガードを固めて懐に踏み込んだ。


「遅い!」

「そんな軽いジャブじゃ止まらないですぅ!」


 パンチの雨の中に入り込み華麗に大外刈りを決めた私だけど、クインビーは倒れ様に、足首を掴んできた。そんな体制で足首だけ掴んで何になるですか?と思ったんです。はい。


「アンタ軽いね?これならこのまま投げさせてもらうよ。」

「え?」


 明日の方向にというか足首だけ持たれたまま、場外へ投げ飛ばされた。観客とぶつかってしまい。私は、「すいません。」とお客さんに謝った。


 カンカンカーン!


「1R場外で勝者クインビー!」


 負けたのは釈然としないけど、こんなKOばかりなのかしら?これが何故人気になるんだろうかな?と思っていたんですが、答えは直ぐに分かった。お客さんの何人かがナンパして来た。ナンパというか、売春目的のトークをしてくる。慌てて出口に向かう私。怖かったです。


「はぁ、ついてないなぁ、デビュー戦黒星なんて、街をうろつくです!」


 地下闘技場出口に男の人が出待ちしてた。アイドルでも無いのに出待ちされるのは、ちょっとと思ったけど、初めてのファンだから大事にしようです!


「あのさっきの試合見てました。良かったらお茶でもしませんか?」

「はあ、また今度ではダメですか?」

「その一目惚れです。付き合ってください!」

「私も手が早い方ですけど?よろしいですか?」

「はい!俺はカンロって言います。よろしくお願いします!」


 こうしてカンロさんと付き合いだした。速攻が信条の私的には、地下闘技場に足を運んでいるカンロさんの経済事情に興味があるのです!


 何回かデートを重ねてもいつも豪華なホテルで食事とお泊りを繰り返してる。金持ちなのは分かるけど、つまんないです!


「これ付き合った1ヶ月記念日に、どぞ開けて。」

「わぁ、嬉しい。何だろ?」


 指輪。重たいの来たな。刺激の方が欲しいです!


「指輪ですか、ありがとうございます。」

「婚約指輪って事でダメかな?」


 重たい。どうしよ?


「ちょっと考える。」

「何で?お金だってあるし、大丈夫だよ。」

「逆に言えばお金しか無い。」

「何が欲しい?何でも買ってあげるから!」

「刺激が欲しい、です。」


 私に嘘は無かった。どうもこの人とは合わない。というかつまらない人だな。でも何で地下闘技場に来てるんだろうか?お金の為かな?


「地下闘技場で君を見てから世界が変わったんだ。君が刺激が欲しいならそれも叶えよう。」

「どうやって?」

「八百長ってのはどうだろう?」

「八百長?ダメ!バレたらどんな目に合うか分からないですよ?」

「刺激的だろ?じゃあ賭けをしよう。八百長をやって、バレたら俺は身を引く。バレなければ君に賭け金を全部渡すよ?どうだい刺激的だろ?」


 確かに刺激的な提案だった。八百長がバレるかバレないかの賭けなんてやった事無いし、これは楽しそう。


 ここで引いていたらと、思ってしまう人生のターニングポイントでした。良くも悪くも。


「どんな八百長するの?」

「サクラがわざと格下に負ければいい。それこそ1R負けで、バレないなら俺の賭け金全部サクラのもの、バレたら婚約は無かった事になって、俺は身を引く覚悟だよ。」

「でもバレたら怖そう。」

「スリルが欲しかったんだろ?それにバレないって思うよ。どうやって八百長を証明するだい?」

「それもそうですよね。」


 食事が終わり一夜空けて、私は次の対戦表を見た。次の相手はシグレだ。格下と言えばそうだ。近頃の対戦相手の中では唯一勝ち星しかない相手。いけると思ったのでした。


 ジム通い後に、八百長が上手く行くか不安だったので、友達の話なんですけどの体裁で、良く当たる占い師に占ってもらう事にした。


「こうこうこうゆう訳で、上手く行きますか?」

「んー、友達なら止めてあげなさい。バレたらタダじゃ済まないわよ?お金よりももっと話し合ってその、友達カップルの仲を取り持つと良いわよ。」


 なんか、ありきたりな説教されて終わった。


「うーん。お金よりも話し合いか、そだよね。」


 私はカンロさんに電話して、八百長は辞める旨を伝えた。ところが、カンロさんが、「何か言えないけど手術が必要な病気を患い。今は話せない。」と言われた。


「それって急に大金が必要って事ですか?」

「まあ、そうだね。億は掛かる。俺達別れよう。」

「そんな、黙って見過ごせ無いです!八百長やりましょう!」

「でも、それだと、君に利益が無い。」

「カンロさんの身体が大事です。死なないで。」

「分かった。じゃあ次の試合はいける?」

「いけます!対戦者はシグレです。シグレ1R勝ちに全部張ってください!」

「分かった。じゃあ次の試合でまた会おう。」


†††


 運命の試合の日。シグレには悪いけど、わざと負ける。


ゴングが鳴った。激しく攻めるシグレのパンチや蹴りを浴びて失神KOされた私。ああ、これでカンロさんが助かるなら。



 医務室?で目覚めた私。そこにはカンロさんもいた。何故カンロさんも居るんだろうと思ったけど、気がついて、周りを見渡したら何回か来た事務所の中でした。


「八百長がバレないって思ったの?賭け金見て即バレだよ?裏も取ってあるよ。占い師とホテル従業員の証言がある。言い訳あるなら、今いいよ?」


 カンロさんはお腹を抑えている。殴られた後みたい。


「すいませんでした。急に大金が必要になったので、つい出来心で、勘弁してください。」

「私からも謝ります。どうか、寛大な処置をお願いします!」


 土下座して平謝りだ。ユルシオーナーはどんな人かは詳しく知らないけど、とても怖い人らしい。困ったな。


「まあ、野郎の方は賭け金が大きかったから、まあ良しとしよう。女の方、サクラだっけ?風俗に沈むか、一生ここでタダ働きか、何が良いかな?」


 うわ、最悪だ。どっちも嫌!


「他に選択肢があれば教えてください。」

「うーん。魔法使い見習いなって、私の元で修行する?この場合なら賭け金も返金してあげるよ?」


 願ったり叶ったりの話だ。でも魔法使い見習いってなんだろうです。


「それと男の方、病気してるな、それもかなり重度な疾患。」

「は、はい。それで大金が必要で。あのその。」

「サクラが魔法使いになるまで人質になってもらうよ?まあ、死なれても困るから、ちょっと待ってて。」


 そう言ってユルシオーナーは、ビーカーと魔法瓶と計量器を持ってきた。何をするのでしょうか?


「今からマジ!ックを見せる。ここにビーカーがあります。魔法瓶には水が入ってます。計量器の上に乗せます。さあ、ご覧あれ!マジ!ック!」


 ユルシオーナーが手をかざすと、ビーカーが宙に浮いたのでございます!


「凄いです!目の前で手品見たの初めてです!私も手品師になるのでしょうか?」

「これは手品じゃないよ?魔法だよ?」

「魔法って何ですか?」

「これからみっちり仕込む。それとその男は人質になってもらうから、持病があるから、サクラが早く魔法習得しないと、そいつ長く無いよ?」

「ちょっと困ります!早く渡米して手術しないといけない身体なんですよ!」

「まあ、これを飲ませる訳にはいかないから、サクラが早く魔法習得するべきだよ?」


 手品覚えて何になるの?でも帰れない以上早く手品覚えて解放してもらうしかないな。


「分かりました。魔法覚えます。どうしたら良いですか?」

「サクラはゲームは好きか?」

「はい。音ゲーは好きです。」

「シュミレーションは好き?」

「シュミレーションって苦手です。」

「シュミレーションRPGは好き?」

「やった事無いです。何ですかそれ?」

「ヘックスがあってユニットを動かすゲームだよ。」

「あー、将棋やチェスみたいな感じですか?」

「そうだよ!じゃあやってみよう!」


 なんかゲームの好みを聞かれたけど、選択肢は無かったのです。


「なんか、これ難しくないですか?」

「今は流しプレイしてるだけだよ。早解きじゃないとあまり効果無いから。」


 しんどいゲームを何時間もやらされる。疲れたです!


「あの、休憩は無いのでしょうか?」

「あー、何時間もプレイしてるね。1時間置きに15分休憩するの忘れてたよ。」

「じゃあちょっと休みます。お腹空きました。」

「パンならあるよ。水も。」


 なんでパンしかないのだろう?


「パン以外は食べられないって事ですか?」

「このゲームにはパンしか出ないから、パンだけだよ!水はサービスだよ?」


 鬼がいる。ゲームにパンしか出ないからって何故パンだけ?まあ飯抜きよりはマシか、まあ良いかです。


「どう?掴めて来た?」

「何がですか?ゲームの攻略はまだまだですけど?」

「頭にBGM流れて来てない?早い子なら幻聴は聴こえてくる頃だよ?」

「幻聴どころか、ヘックスの幻覚見えますよ!」

「早いってか、優秀な方だよ!見込みあり!」

「え?何ですか?そろそろ手品教えてもらえるんですか?」

「あ、ちょっと待ってね。カンロ君にもパン上げてくる。」


 そう言ってユルシさんはカンロさんにパンを上げに行った。行ったと言っても直ぐ隣の部屋だ。私はお腹が空いていたので、パンを一つ二つと一気に食べた。そう言えばユルシさんはビーカーに水を注いでから宙に浮かせていたな。どうやるんだろ?下に敷いてあった計量器に透明な板が押し出るトリックなのかな?


「ちょっと今置いてあるから、やってみよう。」


 私は勝手にビーカーに水を注ぎ。計量器の上に置いてみた。何も起こらないけど?仕掛けはどこかな?計量器が怪しい。しかし、仕掛けが見当たらない。変だなと思いながら観察してみる。


「この幻覚じゃまだなあです。」


 ビーカーを見ながらユニットの幻覚が見えるので鬱陶しいのです。すると?また幻覚なのか、計量器の表示が200gだったのが、210gに変わって見えてきました。


「お、やってるね!まだ早いって思ったけど、サクラは天稟があるよ!」

「あ、ユルシさんすいません。勝手に手品道具弄って、申し訳ないですぅ。」

「これに仕掛けなんて無いよ?ただのビーカーと計量器だよ?」

「えっ!でも、そしたら水は重くなったんですか?」

「ユルシはね?重力系最高位の魔法使いだよ?これは育て甲斐あるよ!」

「ユルシさんは本当に魔法使いなんですか?重力系って事は空飛んだりですか?」

「見たいなら見せるけど、誤解しないでよ?」


 ユルシさんが、「舞え!」と短く大きく発声した。すると?


「きゃあ、スカートが!」

「重力操作って言ってもせいぜいスカートくらいの重さか、ペットボトル500ml程度くらいが限界だよ。」

「それって何か役に立ちます?何故魔法使い見習いなんでしょうか?」

「重力を少しコントロールするだけで、人体は多大な力量を得る。ウェイトシフトとか格闘家なら分かるよね?」

「あっ確かに、上手く応用したら凄そうですね。打撃なら威力が増すし、投げなら少ない力で簡単に、無理のある体制からでもワンチャンありますし!」

「そこだよ。最近一番弟子のクインビーが勝ち過ぎて、賭けにならなくてね。赤字なんだよ。人気あってアイドルしてるのは良いけど、金ばら撒くだけになってるから流石に手を打ちたくてね?分かるよね?」


 どうやら話は思ったより更に簡単でした。クインビーを倒すだけのお仕事らしいです!


「クインビーを倒せばカンロさんは解放してくれますか?」

「いや?魔法が仕上がったら解放するよ?後もう少しだから頑張って!」


 それから幻覚を出すアンカリングを覚えて、幻覚をビーカーに照準を合わせて、ユニットのグルグルを黒いユニットで止める訓練をしました。


「うーん、サクラは天稟があるから、もう一段階上まで引き上げよう。ユニットのグルグルを今度は白いユニットで止めて、意識的に幻覚を更にコントロールするよ!」

「はい!何かこんなに楽しい時間ってあるんだなって感じしてます!頑張ります!」

「どう?」

「白いのを止めるのはユニットは何が良いでしょうか?」

「そんなに細かく指定出来るんだね!末恐ろしいよ。」

「じゃあ適当に一番強いユニットで止めます。」


 すると、計量器の数字がどんどん0に近付き。0になったと思ったらビーカーが浮いた。


「浮きましたね……手品じゃ無いですね。」

「マジ!ックだよ?」


 これからが心配になった。何が怖いかと言ったらユルシさんがめちゃくちゃ優しい。怖いよ。助けて!


「これならクインビー戦は問題無しだよ、サクラ?私の流派の三代目にならない?」

「考えます!」

「それとこの水を一口カンロ君に飲ませてあげて。」

「は、はい。」


 隣の部屋に行ってカンロさんに久々会う。優雅にパンを食べていた。こんな時まで金持ちの気風があるのは流石ですけどね。


「あの、カンロさんに一口水を飲ませてってユルシさんが。」

「ああ、うん。ありがとう。」


 すると、顔色がみるみる良くなっていくカンロさん。これは一体?


「少し飲むだけなら万能薬なんだ。沢山飲むとダメだよ?」

「もしかして、病気も治ってたりしますか?」

「まあ、そうだよ。」

「ありがとうございます!もしかして、帰れますか?」

「ああいいよ?君に用事は無くなったから帰って。」

「えらいあっさりですけど?他に何かありますか?」

「ああ、サクラの事は忘れてね。」

「それは困ります。結婚を考えた仲ですから……」

「別れようともしてたよね?病気が治った途端に意見を変えるの?」

「ユルシさんがそう言うなら、私は別れます!」

「なんでだよ!」

「ごめんなさい住んでる世界が違ったんです。私の事は忘れてください。」


 こうしてカンロさんを助けたのだけど、割と覚めていたから自分でもビックリするくらいあっさり別れてしまった。


†††


 クインビー戦前日。ユルシさんから呼び出された。何でも仕上げがあるそうだ。


「待った?」

「いえ、今来ました。」


ユルシさんがファミレス行きたいそうで、ランチはファミレスになった。庶民の味も好きなんだなぁです。


「ドリンクバーを浮かせてみようか?」

「えっ?人目に付きますよ?」

「その時は手品って言えばいいよ。」

「ばれますよ?」

「ばれないって、魔法って言って信じる人はいない。手品って言ったら信じるよ。そんなもんだよ。」

「確かに……」


 我が身を振り返るとはまさにこの事でした……ドリンクバーでカルピスを注ぎ浮かせてみた。成功した。他の色も試したが、黒いコーラだけは浮かなかった。


「あれ?浮かないですね?」

「ちょっとアンカリングしたままで、グラスを持ち上げてみて。」

「重くなってますね。」

「体感でどのくらい?」

「1キロくらいに感じます。」

「よし、じゃあ、このコーラを一気飲みして。それで仕上げだから、帰りは送って行くよ。」

「分かりました。」


 コーラを一気飲みしたら身体が重く鈍い痛みを感じ出した。うう、痛いよ。


「痛いのは我慢出来そうに無いよね?家まで送るからそれまで我慢してね。」

「なんですか?この痛み。」

「成長痛だよ。魔法使いに進化する為の大事な痛み。」

「苦しいです……」

「この痛みがサクラを強くするよ?」


 ユルシさんから車で家まで送ってもらい。家に上がってもらって、お茶を出す。痛みは車で寝てたら引きました。


「今日はありがとうございました。魔法使いになるのって痛いんですね。」

「どのくらい痛かった?」

「うーん。関節技で骨を脱臼するよりは痛かったです。」

「それって死ぬ程痛い?」

「うーん慣れっこですから、そこまで痛くは無いです。」

「そっか、それじゃあトラウマってある?」

「うーん。地下アイドルやってた時にファンからストーカーされてたのは軽くトラウマですかね?」

「うーん、それってトラウマって程でも無かったんじゃないの?」


 ユルシさんが質問している内容は、恐らく魔法使いとしての強さを測っているのだと、直ぐに思い当たったが特に飾らずありのままで答える。


「まあ、トラウマは無いと言ったらそうですね。」

「うーん。何か強いコンプレックスとかは?」

「アイドルやってたくらいですから、正直言って何も不自由していないので、コンプレックスは無いです。」

「ふむむー、魔法使いとして、こうありたいとかは?」

「極めたい、ですかね。」

「ん!それは良い事だよ!大事にしてね。」

「明日のリマッチ見ててくださいね。」

「応援しているからねー、客から全部回収出来るかも知れないから気合入れて頑張って!」


 お金の話になるとユルシさんは元気になります。ユルシさんが帰ったのを見送って、明日に備えて早目に眠りにつきました。


†††


 リベンジマッチ当日。


 控え室で、コーラを飲む私。炭酸飲料はあまり良くないイメージだけど、魔力になるから試合前に飲んでいる。控え室から出てリングに向かう。

 チラッと観客席を見てみるけど、カンロさんは居なかった。もう会う事も無いのだろう。


「本日のメインイベント!東西東西!本日は鷹座より御免を被りまして、以下略。レディー、ゴング!」


 カーン!


1R。開始早々に私は仕掛けた。速くて重いジャブで牽制する。幻覚をアンカリングし、クインビーに照準を合わせて重力操作の魔法を使う。自分自身のウェイトも僅かに操作しながらのウェイトシフトで、軽いステップインのジャブから強烈な打撃が伸びる。ガードしたクインビーの腕が赤く腫れ上がる。たまらず撃ち合いを嫌ったクインビーが、低空タックルに来たところに膝を合わせる。カウンターがモロな上に重力操作で威力が増した状態で膝が顔面に正面衝突した。グジャって嫌な音がした。


 カンカンカーン!


「1R KO膝蹴りカウンター一閃!勝者サクラ!」


「サクラは返り咲きました!これからも変わらぬ応援よろしくお願いします!」


 ユルシさんが観客席で手を振っている。良かった。これで、何もかもから解放されたんだ。


†††


 数日後。クインビーの葬儀に私は参列していた。リングの禍だった。ユルシさんからも、「サクラはやり過ぎたよ。」とだけ言われて、めちゃくちゃ怖かった。


「安らかにお眠りくださいまし。」


ユルシさんから呼び出しがきた。慌てて電話に出る。


「サクラ残念だったよ。今後の身の振り方について相談しようか。」

「では、直接会って話したいです。どこかで待ち合わせしませんか?」

「いや、サクラには情があるから、直接会って話は出来ない。」

「それって私は用済みって事ですか?風俗に売られるんですか?」

「うーん、三代目を継ぐならその選択肢は回避出来るよ?」

「じゃあ三代目継ぎます!お願いします!」


 ユルシさんからやっぱり会って話すと言われて、うなぎ屋に呼び出された。


†††


 うなぎ屋で、ユルシさんが上機嫌に酒に酔ってた。私を見つけるなり、「サクラちゃーん。こっち!」とまるで親友の様な感じの話し方をしてます?かなり怖いよ。


「今日はユルシの奢りだからじゃんじゃん食べて!」

「あ、じゃあ柳川丼とビールお願いします。」


 本題に入る。三代目ってなんだろうか?


「三代目襲名って事ですか?魔法使いのですよね?」

「そだよ?クインビーはあれでも一番弟子だったから、ユルシを継いで欲しい。」

「ユルシを継ぐ?ユルシさんは世襲か何かですか?襲名って感じでしょうか?」

「んー、まあ、正確には、重力系最高位を継いで欲しいだね。たまたま相性が、良かったからだよ?」

「重力系最高位の襲名ですか?」

「んー贅沢を言えば他の流派も襲名して欲しい。」


 話が見えないというか分からなすぎる。


「えっと、魔法使いの他流派も襲名して欲しいって事ですか?」

「そうだね。他の流派は重力系よりかなり強い。」

「ちなみにどの流派が強いんですか?」

「うーん。時間系はヤバい。」

「時間?ヤバそうですね。」

「うーん。性格キツいのが、空間系かな?」

「はぁ、ユルシさんよりもですか!」

「サクラちゃん?誰も無礼講とは言ってないけど?」

「あ、すいません。」

「それに他の流派もユルシだよ?全員ユルシ。」


 益々分からなすぎる。全部同じ流派なのかな?それとも全員がユルシって名前を継ぐのかな?


「意味がよく分からないんですが?」

「ユルシを継げば分かるから。まぁ、他のユルシに会ったらよろしく言っといて、とりあえず他流派のユルシか、跡継ぎを最低1人狩る事が三代目襲名の条件だからね?」

「狩るって、まさか?」

「そのまさかだよ。他のユルシも地下闘技場オーナーだから、会うのは簡単だけどね?」


†††


 こうして私は八百長したばかりに人をリングの禍とは言え殺めてしまう結果になった。そして過ちは繰り返す事になる。ギャンブルなんてするんじゃ無かった。私は八百長という人生のターニングポイントを悲しい形で通過してしまった。


†††


私はユルシ。ユルシと言っても最後までユルシを与えていない存在。ギャンブルで八百長なんかしたらとんでもない目に会う。こんなもんじゃ済まされない。


「ギャンブルは身を滅ぼす。」

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