* 5 *

 泉貴が待っている公園。

 そこは、私たちの思い出の場所。大学生時代、よく公園に寄って二人で遊んだりしていた。大学生が公園で遊ぶって、なんか変だけど楽しかった。

 公園に近づくにつれて、心臓の鼓動が速くなっていくのが分かる。すごく感じる。

 よく、『浮気は一度だけなら許せる』という人がいる。確かにそれは、分からなくはない。自分のところにもどっつえくれば。

 ただ、それとこれとは訳が違う。泉貴は、私に仕事だと嘘をついてあんなことをしていた。だから、浮気は一度だけ許せるとかそういうことではないんだ。


 公園に着いた。小さな子供が遊具の下で何かを探して楽しんでいるのをベンチに座って眺めていたのが……。


「泉貴?」


 ベンチに座っている男性が、こちらを向いた。泉貴だ。


「萌……」


 泉貴は、静かに立ってこちらに来ようとした。だが、私は止めた。


「私が行く」


 泉貴はゆっくりベンチに座った。その隣に、私も座った。

 二人の間に、少し間が空いている。私は、この隙間を今の私たちの距離なんだと捉えた。私たちが沈黙だから、子供たちの楽しそうな会話が響いてくる。


「あの子たち、クローバー探しているんだって」

「クローバー?」


 沈黙を破ったのは泉貴。


「あの二人、可愛らしいね」

「そうだな」


 泉貴から始めてくれた会話も、一言二言交わしただけで終わってしまった。

 えっこれだけ? なんだか、さみしくなってしまった。


「「あのさ」」


 二人の声が重なった。


「いいよ。そっちが先で」


 私は、泉貴に譲った。


「……。あのときは、本当にごめん……」


 その瞬間、あの日がフラッシュバックする。嫌になる。でも、向き合わなきゃ。

 頑張って泉貴の話を聞く。

 泉貴は、とても悲しい声であの日のことをゆっくりと喋りだした。

 あの日、記念日であることはしっかりと覚えていた。だけど、数日前から連絡を取り合うようになった学生時代の友達から、どうしても会いたいと言われたらしい。


「まずさ、そこからおかしくない? 友達でいることは百歩譲っていいことだよ。

私も、昔からの知り合いとかで男友達いたりするから交友関係は邪魔する気なんてサラサラないし。でも、なんでそこで断れなかったの? もしかして……、津野さん?」


 学生のころ、一緒にお昼をすごしたことがある津野さん。

 泉貴は、その子からモテていた。それは知っている。


「違う。津野じゃない。また別の奴だよ」


 少しキレ気味にきた泉貴の声が響いたのか、子供たちがこちらを向いた。

 泉貴は冷静になって話をつづけた。

 暫く話を聞いていると、自分の器の小ささに気づいた。いつの間にか、自分も謝っていた。


「私もごめん。あの時、気持ちだけが先走って冷静になれなかったの。嘘をつかれたことがすごく悔しくて……」

「萌。俺ら、気持ちの確かめ合いが出来ていなかったんだな」

「そうだね」


 やっと、私たちの気持ちが確かめ合えた。お互いにすれ違っていたんだ。

 それが今分かって、とても安心した。

 泉貴は、ポケットからあるものを出した。


「あ、それ……」


 取り出したのは、四葉のクローバーのペンダント。

 あの時怒りに任せて、要らないと置いていったんだ。


「これさ、捨てられなかったんだ。俺らは、ちゃんと向き合えば元に戻るだろうって信じていたから。萌、もう一度つけてほしい」

「うん」


 後ろから、ペンダントを付けてくれた。これがなかった首元は、何か大切なモノが一気に無くなったように寂しかったんだ。とても寒く感じた。

 これがあるおかげで、私らしくいられるんだって実感した。


「萌、ずっと大好きだよ」

「私も。ずっと大好きです」


 綺麗な夕焼けの下で、私たちは改めて愛を誓った。



「お姉ちゃんとお兄ちゃん?」


 そこに、子供たちが寄ってきた。


「ねえ見て! 見つけたよ!」


 女の子が私たちに差し出したのは、可愛らしい四葉のクローバー。


「すごい! 見つけたの?」

「うん! これ、あげる!」

「いいの?」

「うん! はい、どうぞ!」


 女の子は、クローバーを差し出してそれを受け取ると、バイバイって可愛く手を振って行ってしまった。


「これ、このペンダントと同じだな。可愛い」

「んふ。そうだね」


 先に立ち上がった泉貴が手を差し伸べた。

 その手を握り返して、立ち上がると泉貴は歩き出した。

 夕焼けが輝く中、手を繋いで歩いた。私の手の中と首元には、可愛いクローバーがある。首元のクローバーはキラキラと輝き、手の中のクローバーは可愛らしく咲いていた。

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