第14話 集った者達⑨
雪に覆われた景色、そして、枯れ果てた木々に覆われたその北方の大地での上では、
その静寂の中、熱い視線を交し合う者達がいた。
「それでは、ネイア・バラハよ。
ここから見える範囲の的なら何を選んでもよいのだな。」
「はい。どこでも好きな的をお選び下さい。」
冷徹の大地の上で、レイセウスとネイアの間には、火花が飛び交うような視線がぶつかり合っていた。
そんな状況下、レイセウスは冷静に挑まれた勝負の内容を考察していた。
(この勝負、侮れん。
この者は、先に弓兵とは思えぬ攻撃を仕掛けてきた。
歴戦の戦士と違わぬ程の殺気と共に・・・
そんな者が自信満々に挑んできたのだ。
この無謀とも思える勝負を―
・・・・・・。
私のこの勝負の勝利条件は、相手が射貫けない的を提示する事。
・・・・・。
これ程、簡単な勝利条件はないだろう。)
レイセウスは、自身の周りを見回して勝負の対象となる的を探す。
(いっそ、潔く諦めさせる為に、明らかに無理な的を選んでやるか。
それならば、お互い、遺恨を残さない形で終われる。)
レイセウスはそう考え、誰もが傷つかない方法を模索する。
それは、レイセウスが生来持つ性分だった。
レイセウスは、誰もが傷つかない、誰もが幸せになる方法を模索する癖が付いていた。
その癖は、レイセウスが敬愛した者に影響されたモノかもしれない。
―誰もが幸せに、誰もが笑顔になれる国を創ろう―
などと、果てしない妄想を口にした大馬鹿者の―
自身の周りを見回してレイセウスの視線に真っ先に飛び込んだのは、天空に輝く太陽だった。
(ハハハ、これでいいではないか。
これならば、誰も傷つかない。)
空に輝く太陽を見たレイセウスは、杞憂した。
(私は、ここで何者にも知れず、老いて朽ち果てるだけでいいのだ。
そう、それでいいのだ。
私は、充分、生きた。
共に生きた輩が果てる程に・・・・
ならば、私は、提示するだけでいい。
人という存在では、どうしようもない条件を―)
そう思ったレイセウスであったが、その条件が余りに大人気ないものだと気づき、猛省する。
(いや、これはないか・・・
余りに大人気なさすぎる。
『空に輝く太陽を射てみよ!!』
などと・・・・
突然、こんな事を言ったら、完全に頭のおかしいヤツだと思われるな。
・・・・・・。
それに、その勝負を提示した場合、最悪、相手は絵に書いた太陽を射て、『はい、太陽を射ましたよ!』なんて返してくる可能性すらあるではないか・・・。
では、どうするか・・・)
頭の中でいろいろと考察をするが、考えがまとまらないレイセウスは思う。
(・・・・・・いつもなら、今頃、この猪(ドスファンゴ)を食しながら、飲んだくれている頃だというのに・・・・。)
そう思ったレイセウスは、ここから見える最も高い雪山の中腹にある自らの山小屋に視線をやった。
その時、レイセウスの体に電撃が走る。
こ、これだ――――――!!!。
—と。
「ネイア・バラハよ。
それでは、アレを射てみよ。」
レイセウスはそう言って指さした。
レイセウスが指さしたその先には一里程先にある山があった。
「なんですと!
あんな遠くにある山の頂上を射ろとは、余りに横暴ですぞ!」
レイセウスの指さした先を見た者の中の一人であるデルトランが即座に反応して叫びを上げた。
「お前は、何を勘違いしている?
私が指さしたのは、あの山の中腹にある私の山小屋だ。」
確かにレイセウスはその雪山の山頂ではなく、その中腹にある場所を指さしていた。
しかし、それでも余りに遠い。
その雪山の山頂がここから一里であったとして、その中腹でも一キロメートルは離れていた。
「そ、それでも、余りに横暴ですぞ!!
こんな距離では、矢を的に当てるどころか矢が届きようがない距離ですぞ!!」
「お前は、何を言っている。
私は、お前達が提示した勝負の条件に則って提示したまでだ。
この条件が不服なら、即刻この地を去れ。」
レイセウスは、憮然とした態度を振る舞った。
「わかりました。レイセウス様。」
そんな中、ネイアは静かに口を開いた。
「そうか。わかってくれたか。」
ネイアの返答に安心したレイセウスは思う。
(そうだ。この者なら分かってくれると、思っていた。
この者も、私のように自らの一部であった者を亡くしている。
大抵の者は、自らの一部であった者が失われた時、果てしない喪失感、後悔に蝕まれる。
今でも、共にあった時、ああしておけばよかった、こう返答しておけばよかった―と夢でうなされる程に。
今の私がいい例だ。
私は、今、この世界から早く去りたい。
そして、早くあの世にいるアイツに会いたい。
まあ、死んだ所でアイツに会えないのは、頭ではわかっているのだがな・・・。)
そんなこんなに想いを馳せていたレイセウスに向かってネイアは問う。
「それでは、あの山小屋の何処を射貫けばよろしいのでしょうか?」
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