第67話 それぞれの進路(中編)
日は沈み、薄暗くなった王都ホバンスの市街地は、夜の闇とは対照的に光り輝いていた。
その輝きは、魔導王によってもたらされた魔力によって光を灯す街灯や、夜になると輝きだす街道の敷石によるものだけではなかった。
その地に住まう者達の活気がその市街地には満ち溢れていた。
そんな中、その市街地の隅に佇む激安のコスパ最高と評される一酒場では、若者二人がお互いの再会を喜び合っていた。
そんな若者の一人―
元聖騎士、現魔導兵団の五番隊隊長のバラックは注がれた酒を一気に飲み干すと目の前のもう一人の若者に言い放つ。
「プハーーーーー。まさか、お前が聖騎士見習いになってたとわ。
驚いたわーーーーー!!!」
「そうだよね・・・。驚くよね・・・。」
バラックに飲みっぷりに圧倒されていた、もう一人の若者-ロウルは少し困った顔をした。
「それにしても、お前もモモン様に同行する部隊に招集されたってホントか?」
「うん、応募はしてたけど、まさか、通るとは思ってなかったよ。」
「カァァァ!!、お前、ホント、運がいいよな!!
あの村の中で、お前だけ生き残るとか、ホント、ツいてるわ!!!」
そのバラックの発した大声で、酒場にいる同じく騒いでいた他の客達が一瞬、無言になり、その発信源であるバラックに目を向ける。
そんな状況になりながらも、それに気付かないバラックは己の話を続けていた。
「ホント、あの戦は、今思うと、一体、何だったんだって思うわ!!
結局は、人間と亜人とかの戦いじゃなくて
魔を統べる魔導王と悪魔の王とかの闘いだったんだろ!?
そんな神話のような戦いに俺達みたいな弱小の存在を巻き込まなくてもいいじゃんな?」
そのバラックの発言により、酒場の空気は最悪となっていた。
しかし、そんな空気の中、即効に酔いが回ったバラックは、まくし立てる様に発言する。
「そもそも、この戦いも、魔導王・・・へいか?
に派遣されたんだっけ!?
そのモモモ‥‥ンが?
様?に任せてウチラは、何もしなくていいじゃねぇ?」
酒を飲んで早々に、酒が全身に行き渡ったバラックは、またもトンでも発言を繰り返していた。
その発言を聞いた周りの客、いや、客だけではない・・・
その酒場の従業員ですら、すでに眠い目となった虚ろなバラックに殺気立った視線を飛ばしていた。
「す、すいません!! すぐ、お会計をお願いします!! すぐに退散しますので!!
この人、酔っちゃうと心に思ってないことも言っちゃうんです!!」
ロウルは、そう言うと酔ったバラックを肩に背負い、そそくさとその酒場を退出しようとする。
「ロ、ロウル!! なんだよ!! まだ、飲み始めたばかりじゃねぇか!!」
そんなバラックの言葉を無視してロウルはバラックは、持っている身銭をすべて酒場の店員に投げつけるように…いや、そんな素振りであるが、その寸前で店員の手に、丁寧に渡すとその店を後にした。
そうして、ロウルはバラックを軽く担ぎ上げ、王都の市街地を疾走する。
そんな芸当ができるのは、ロウルが巨漢の体躯をした、大太りの男であったからだ。
そして、バラックは、その巨漢のロウルに比べて、いや、一般の成人男性と比較してもかなり、細身の男であったからできた、芸当であった。
ロウルは、巨漢な体躯をしていたが、その顔は実に優しい顔の青年であった。
坊ちゃん刈りの茶色の髪、穏やかつぶらな瞳、そのすべてが心優しいを物語っているような顔立ちであった。
それに比べてバラックは、細身の体、長髪な銀髪、そして、その顔立ちはある程度整っているが、目の下にクマのような跡があり、病んでいる感丸出しの男であった。
そして、ロウル達は、ある程度、王都の街道を疾走した後、王都に設けられている公園に行きついた。
ロウルは、その公園のベンチにロウルを丁寧に座らせる。
「な、なんだよ!! ロウル!!
俺は、別に間違っちゃ事は言ってないだろ!!」
そんな憤るバラックに、ロウルはたしなめる様に言った。
「バラック・・・。確かに、間違ってはいないよ。
だけど、ここでは、言っちゃいけない事があるんだ…。」
「もう、何だか、わかんねぇよ!!
ロウル!! 酒、買ってこい!!
こんなんじゃ飲み足りねえわ!!」
「で、でも、バラック、飲みすぎじゃない!?
たった、一杯でそうなってるんじゃ、これ以上飲んだら、心配だよ・・・。」
「何、言ってるんだ?
俺は、至って平静だぞ?
俺の年は、二十二で、リーチだ!! もう一つ揃えば、フィーバーだぞ!!」
「バラック・・・。何言ってるの!?」
ロウルは、心配そうな顔でバラックの顔を見る。
「そ、そうだな。考えてみれば、二が揃っても嬉しくないよな‥‥。
じゃあ、とりあえず景気づけに酒飲まないと…。
酒を飲んで、いい感じにならないとな…
ロウル!! 酒だ、酒!! 話はそれからだ!!」
そう叫んだバラックは、かなり、イッた瞳でロウルを睨みつけた。
「わかったよ。バラック…。」
ロウルは、バラックのその圧力に屈した。
暫くして、ロウルは近場の商店に行って酒を買って戻ってくる。
ロウルが公園に戻った時には、バラックは、大きなイビキをかいて公園のベンチで気持ちよさそうに熟睡していた。
そんな光景を見ても、ロウルは幸せそうな顔をしていた。
(バラック‥‥。本当に生きててよかった…。
僕が初めに憧れたのは、聖騎士じゃないよ…
僕が本当に憧れていたのは、バラック…。
君なんだ…。)
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