第65話 同行と動向

 魔導教団の本部、その最奥の魔導教団教主の部屋には、多くの書類が山積みとなって聳えていた。


 その山積みとなった書類の隙間には、頭を抱えて蹲っている魔導教団教主—ネイアの姿があった。


 (想定していたとはいえ、これは想定以上ね‥‥。)


 そんな頭を抱えていたネイアは、数日前、聖王城で行われたモモンの進軍会議を回想する。


 「モモン様。決はとれました。この作戦の…、いえ、この聖王国の未来をモモン様に委ねさせて頂きます。」    



  誰も声を発しない状況を見て、ネイアはモモンに告げる。


  己の想いを、希望を偉大な我らが神―アインズ・ウール・ゴウンが遣わせた英雄に―



  「フッ。それは責任重大だな。」



  モモンは、まさに英雄にだけ許されるような余裕な態度を見せつける。


  暫くの沈黙の後、モモンは言葉を発した。


  「それでは、ここからの戦いは、私に任せて頂こう。」


  モモンのその発言が、静寂であったその空間に響き渡る。


  「そ!それは、なりません!!」


  モモンの発言にいの一番でネイアが叫びを上げた。


  「ネイア殿。どういう事だ。


   先程、この戦いのすべてを私に委ねると言っていた筈だが・・・。」


  「い、いえ、確かにそう申し上げましたが、この戦は、そもそも聖王国で起こったものです。


   本来であれば、私達でどうにかしなければならない戦いです。


   なのに、救援で駆けつけて下さったモモン様達にすべてを押し付ける事など出来ません!!!」


  「・・・・そうだな。ネイア殿。其方の想いは当然だと思う。


  しかし、其方達では、あの敵に対処する事はできないだろう。

  

  今回の敵は、おそらく、まだ本領を発揮していない。


  これから更なる凄惨な戦闘に発展する可能性が高い。


  そんな中で、こちらとしては足手纏いになる者を率いる事は出来ない。」


 「・・・・・。」


 モモンの言葉にネイアは下を向き無言となる。


 しかし、ネイアは顔を上げて力強い瞳をして叫んだ。


「モモン様!! 私達は決して足手纏いにはなりません!!


 もし、足手纏いになるというのであれば、いつでも切り捨てて頂いても構いません!!」


「・・・・。それは、本気で言っているのか?」


「勿論です!!モモン様が命を懸けて戦われているのに、我々が命を懸けないなんて…

我々も戦います!!!

モモン様と共に!」


「・・・・・・・・・・。」


 ネイアの叫びに暫くモモンは無言となる。


 暫くの沈黙の後、モモンは口を開いた。


「いいだろう。では、一師団、そうだな。千人程で構わない。

 

 聖王国の兵士を同行させて頂くとしよう。」


 そのモモンの言葉にネイアは満面の笑みを見せた。


「は、はい!! 畏まりました。


 選りすぐりの精鋭を編成させて頂きます。


 勿論、私も同行させて頂きます!!」


「待ってくれ。軍隊の編成、参加するメンバーについてはいささか口を挟ませてもらう。」


「そ、それは、一体?」


「先程も言ったが、今回の敵は、私の手に余る可能性がある。


 そうなった時、同行する兵士達の命の保証は出来ないのだ。」


「そんな事は、構いません。


 その時は、いくらでも私達をお見捨てになって結構です。」


「そう言ってくれて感謝する。


 しかし、私としては、皆に生きていてほしいのだ。」


 そのモモンの言葉に、ネイアは再び、モモンとアインズの姿を重ねていた。


(この御方は、本当にアインズ様に似ている。


 その優しさ・・・。偉大さ・・・。


 この御方こそ、神であるアインズ様の代弁者として遣わされた人間の王ではないのだろうか…。)


 そんなモモンの姿に一瞬、見惚れていたネイアは、我に返りモモンに問う。


「モモン様。それでは、どのようなメンバーを招集致しましょうか?」


「そうだな。先ずは、先程も言ったが、今回、参加する兵士の命の保証は出来ない。ならば、近親者がいない者が望ましいであろう。


 親、子がいる者、また、結婚している者、恋人がいる者などは避けてほしい。」


「畏まりました。そういった者は編成しない様に致します。」


「それに、こちらとしても同行したくない者に強要したくはない。


 命を失っても構わない、という希望者だけで編成してほしい。」


「畏まりました。では、兵士達にその旨を伝えて、希望者のみを編成する事に致します。」


「そして、最後に、ネイア殿。其方の参加は許可しない。」


「畏まりました。それでは、私は参加しない様に致します。


 ・・・・・・・えっ!?」


 その時、ネイアはフリーズする。


「そっ、それはどういう事ですか!! モモン様!!」


ネイアは、慌ててモモンに向かって納得できない叫びを上げた。


「言った通りだ。其方の参加は認めない。


 この王都で待機、いや、ここに駐屯して王都を守ってほしいのだ。」


「モモン様!! 私もモモン様について行きます。


 そ、それに、カリンシャに攻め込むのであれば、私は先の戦で、カリンシャに潜入した事が御座います。


 道案内として、お役に立てる筈です!!」


 ネイアは声高々にモモンに懇願した。


「それは必要ない。こちらには其方以上に適任な案内役がいる。」


「そ、それは、一体・・・!?」


 ネイアがそう小さく呟いた時、モモンのすぐ横に黒い靄の球体が出現する。


 明らかに異様な状況であるが、その光景を幾分見慣れた周りの者達は、その球体よりもその球体から現れるモノを注視していた。


 すると、その球体から小さい影がゆっくり歩き出てきた。


 その小さい影が黒い球体より姿を現すと、ネイアは叫ぶ。


「シズ先輩!!!」


 黒い球体の中から出現したのは、ピンクの髪をした美幼女―シズであった。


「ネイア。おひさ…」


 多少、緊迫気味であったその場で、シズは片手を上げて、緊張感の無い挨拶をした。


「どうかな?


 これでわかってもらえたかな?


 彼女が案内役という事だ。」


 モモンのその言葉を受けて、ネイアは半場納得する。


(た、確かに、シズ先輩ならば、カリンシャ内部の道案内役として私以上に・・・


 いや、私では足元にも及ばない程の適役だ・・・


 先の潜入の時も、シズ先輩に助けてもらったから成功したに過ぎない・・・


 で、でも・・・)


 「確かに、私は、道案内役としての責務は果たせないかもしれません。


  でも、私は、命を落とす事になろうともモモン様に同行したいと思いますし、


  なにより、先の戦いで両親を失っています。


  私には、近親者はいません。


  只の一介の兵士としてモモン様に同行させて頂きたいと思います。」


 「只の一介の兵士?


  ならば、聞きたい。ネイア殿。


  只の一介の兵士がなぜこの場にいる?


  どうしてこの会議に参加し、そして、今、発言しているのだ?」


 「そ、それは・・・」


 「其方は、今はこの国の魔導教団の教主、言わば組織の長だ。


  そのような者が、気軽に己の命を賭けるなど言ってはならない事だ…。」


 モモンの重い言葉を、ネイアは心の中で噛みしめた。








 

















 






 







 










 












 








 

 


 



 



 




 

 





 

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