第63話 幕間

 

 聖王城内で会議を終えた漆黒の英雄モモンは、聖王城から聖王の別邸に向かう玄関口に立っていた。


 そして、その場で周りに控えている兵士達を達観していた。


 そんな時、魔導兵団五番隊隊長—バラックは、その英雄モモンに自らを売り込む決断をする。


 (俺がこんな所で燻っていたのは、この人に出会う準備期間だったんだろうな・・・)


 そんな想いを巡らしていたバラックは、漆黒の英雄モモンが一歩前に踏み出した時、その進行進路を塞ぐように意気揚々と躍り出て叫んだ。


「モモン様!! 俺は魔導兵団五番隊隊長!! バラック・ブラハイドと申します!!

 

 是非とも!! モモン様の弟子にして頂きたい!!」


 その叫びは、英雄の登場で訪れた静寂の中で高々と響き渡った。


 その光景を周りで見ていた聖王の親衛騎士団の兵士達、魔導兵団の兵士達は、一瞬で凍り付く。


 そんな中、その叫びをあげた当の本人はこんな事を想っていた。


(俺のようなダイヤモンドの原石を、この人が放って置く筈ないよな…。)


—と


しかし、その想いは杞憂に終わる。


「そうか。では、頑張ってくれ。」


 漆黒の英雄モモンは、そう小さく呟きながら、前方の立つバラックの横を何事も無かったのかの如くスルーして通り過ぎる。


 「ちょ! ちょっと待って下さいよ!!」


 バラックはそんなモモンの肩に触れようと手を伸ばす—が…


 「バ、バラック!! お前、何してんだー!!」


 「モモン様に向かって失礼ではないかーーー!!」


 「このバカは、一体どこの所属のモノだーーー!!!」



 そんなバラックの伸ばした手がモモンに触れる寸前で、その場にいた有象無象の兵士達が、バラックを圧し潰す勢いで降ってきた。


 バラックはそんな有象無象の兵士達に一瞬で揉みくちゃにされる。


 「このバカを、牢屋にぶち込んで置け!!」


 その場にいた親衛騎士団の位の高そうな兵士がそう言うとバラックは十数人の兵士達に羽交い締めにされながら連行されたいった。


 そんな一騒動を何事も無かったかのように、英雄モモンは、自らが現在拠点としている聖王の別邸の正面玄関へとゆっくりと歩みを進めていた。


 しかし、何かを思い出したかのようにその歩みを止めると、自らを見つめている本日、モモンの従者として集まった兵士達に向き直った。


 そして、その集まった兵士達を見回して口を開く。


 「今まで、ご苦労だった。


  もう、私に従う必要はない。」


 そのモモンの発言に、その場にいた一兵士が独り言のように呟く。


 「そ、それは、一体?」


 その言葉にモモンは反応する。


 「そうだな・・。ちゃんと説明しなければならない事であったな…。」


 そんな一兵士の呟く声に反応する英雄の所作に周りに控えていた兵士達すべてが感歎していた。


 「私は、これからカリンシャを占拠しているヴァンパイアの殲滅に向かう。


  だから、もう私の従者としての任を解く―と、いう事だ。」


 そのモモンの発言から一呼吸を置くように、その場にいた一兵士が大声を上げる。


 「そ、それならば!! 私もモモン様と共に!!!!」


 その大声が発せられた後、その場にはまた、一瞬の静寂が訪れた。


 「・・・・・。残念ながら、貴公達は、この戦では足手纏いになる…。


  これからの戦いは、私に任せてほしい…。」


 モモンのその切実な願いともとれる発言に、その場に居合わせた兵士達は苦々しい、悔しい顔をした。


 なぜならば、その兵士達は知っている。


 モモンが、その命を、寿命を縮めるであろう神々の武器を使用している事を—


 そして、その武器を使用して他国の民である自分達を守ろうとしている事を—


(な、なんなんだ…。


 この御方は、何でこんなにも勇ましいのだろうか・・・。


 どうして、こんなにもお優しいのであろうか・・・。)


 そんな中、一人の兵士がそう思っていた。


 いや、その兵士だけではなく、その場に居合わせた全ての者達が似たような事を想っていた。


 「―—――と、言ったのだがな‥‥。先程の会議で、この国の一師団が私に同行する事になった。」


 そのモモンの言葉にその場の兵士達に歓喜の感情が沸き上がる。


その歓喜の感情が渦巻いた兵士達に向け、モモンが一言、水を差す発言をした。


 「まあ、それに参加するには、一応、条件を設けておいた。


  その条件を飲むというなら、志願するといい…」


 「そ、その条件とは、一体どういう?」


 「条件については、魔導教団のネイア殿に問い合わせてほしい。


  私は、いろいろあって疲れているので、これで失礼させてもらう…。」


 モモンはそう言うと、聖王の別邸の中へと姿を消していった。


 その一連の流れが終わり、聖王城の別邸の広場に一時の静寂が訪れると、その場にいた兵士の一人が叫んだ。


 「ま、魔導教団の本部に向かうぞ!!」







 その頃、聖王城内の地下にある牢屋にバラックは詰め込まれていようとしていた。


 「なんで、俺がこんな目に合わなくちゃならねぇんだ!」


 バラックはそんな中、必死に抵抗するが、数十人の兵士達に羽交い締めされている状態では、その抵抗も空しく、その牢屋にぶち込まれる。


 しかし、バラックは、その牢屋にぶち込まれた後も、鉄格子にを掴みながら、足掻き倒していた。


 「こんな事してタダで済むと思うなよ!!


 俺は、この国じゃ納まらないようなビックな男なんだからな!!」


 誰も居ない牢屋の中で、そんな空しい叫びを上げている時、その牢屋の外に控えていた一兵士がバラックに近づいて来た。


 「もしかして、バラック?」


 その一兵士は、バラックの顔をマジマジと見ながら、その大きな瞳を輝かせていた。


 「や、やっぱり、バラックだよね!!


  生きていたんだ!! よかった‥‥」


 バラックは、その一兵士の顔をこれまた、マジマジと見入って驚いた。


 「お前、もしかして、ロウルか!?」


 「そうだよ!! 僕だよ!! 僕!!」


 その一兵士―ロウルはバラックに向かって嬉しいそうな声を上げる。


 「お前、生きていたのかよ⁉」


 「それは、こっちのセリフだよ!! バラック!!」


 バラックとロウルはお互いの再会を心の中から、喜んでいた。


 「お前、生きていたんだな。


 それなら、村の連中もみんな無事なのか??」


 バラックは、嬉しそうな声でロウルに聞いてきた。


 その言葉を聞いたロウルは、途端に暗い表情になる。


 「いや、村で生き残ったのは、多分、僕だけだよ…」


 ロウルは、悔しさを滲ませながら、バラックの問いに答える。


 「・・・・・・。そうか。そうだよな・・・・」


 ロウルのその答えに、バラックは納得した。


 「それよりも、バラックも生きていてよかった・・・。


 ―――って、言っていていいのかな?


  なんで、こんな所にいるの?


  この牢屋に入るって事は、何かとんでもない事をしたの?」


 「そんな事する訳ないだろ!!


  俺は、只、モモン様に弟子入りしようとしただけだ!!」


 そんなバラックの言葉を受けて、ロウルはある程度の状況を把握した。


 「バラック…。


  それが今、この王都でどれ程、無謀な行いかわかっている?」


 「わかる筈ないだろうが!!


  そうモモンに頼んだだけで、こんな牢屋にぶち込まれているんだからな!!」


  そのバラック発言に、ロウルは頭を抱えた。


 「バラック。


  大体、理解したよ。どうしてこうなっているのか・・・」


 「わかったなら、お前の上司に俺を開放するように言ってくれ!


  こんな理不尽な事をして後でどうなるかって!」


 「・・・。わかったよ。掛け合ってくる…」



 その後、ロウルの交渉の末、バラックは無事解放される事となった。


 そして、聖王城の牢屋から無事解放されたバラックは、ロウルと共に、市街を闊歩していた。


 「それにしても、お前が、まさか、聖王親衛隊にいたとはな。」


 「それは、こっちのセリフだよ。まさか、バラックが魔導兵団の部隊長になっているなんて思わなかったよ。


  さすが、バラックだね…。


  相変わらず、無謀な行動をとるのもね…。」


 「そうか? 俺はモモン…いや、モモン様に弟子入りしようとしただけで、別に咎められるような事はしていないぞ!」


 その発言に、ロウルは困りながら口を開く。


 「その行動自体が、咎められてもしょうがないよ…。」


 「なんでだ? モモンは、・・・いや、モモン様は、別にこの国では、只の友好国の一兵士だろ?


  その人に弟子入りを志願して、なんで、こんな目に合わないといけないんだ?」


  その発言に、ロウルはさらに頭を抱えた。


 「バラック。わからないかな?


  今の聖王国にとって、魔導国は我々を良き方向に導いてくれる大切な友好国だ。


  そして、この度の聖王国に訪れた未曾有の危機に際して、自国の重臣を遣わされた。


  それが、あの漆黒の英雄―モモン様だ。


  そのような御方に、直接、只の一兵士が弟子入りを進言したら、罪に問われるのは当然じゃないか!」


 ロウルは、少し語気を高めてバラックに詰め寄る。


 「そうか?


  別に、重臣と言っても魔導国の一兵士だろう?


  そんな人に弟子入りを志願して、何でこんな目に合わないといけないだ?」


 そのまるで状況を理解していないバラックを見て、ロウルは心の中で呆れていた。


 (バラックは、本当に変わらないな…。)


 ロウルは、村でバラックと出会った時の事を回想していた。


 ロウルは、村の中で下女と呼ばれる女の子供として生まれた。


 そんなロウルは、子供の頃から、いや、物心つく前から、下級の者として扱われていた。


 そんな環境の中、ロウルは、そのすべてを受け入れていた。


 しかし、こんなロウルの前に一人の同年代の少年が現れた。


 「お前達!! なにしてるんだ!!


  弱い者をイジメて何が楽しい!?」


 その少年は、ロウルをイジメていた悪ガキ達をまるで勇者の様に薙ぎ倒していった。


  少年ロウルはその突然現れた少年を憧れの瞳で見つめる。


  そして、熱い目線を向けた先には、無邪気に鼻をすする少年がいた。


 「おい、お前、俺の手下にならないか?」
















 

 






 


















 

 


























 

 







































 


 


 





 




























 


 


 

 


 

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