第57話 英雄の混沌

 聖王城の会議室にて、聖王国の要人を招集して行われていた会議が終了した。


 会議室のドアが開かれるとモモン、ダークエルフの少女達―の他に、ピンク色の髪をした幼女が姿を現す。


 その幼女は、メイド服のような漆黒の衣装を纏っていた。


 首には見た事も無いような緑や黒が混ざったデザインのスカーフをまき、目をケガしているのかこれまた漆黒の眼帯をしていた。


 そんな一行に後ろから声を掛ける者がいた。


 「モモン様!!」


 「何かな。ネイア殿。」


 モモンに声を掛けたネイアは、モモンに一礼をする。


 「モモン様。私が至急、モモン様に同行する軍隊の編成を行います。


  しかし、その・・・・軍隊の編成で希望者が集まらなかった場合…


  私をメンバーに加えて頂けないでしょうか?」


 ネイアは、オモチャを買ってほしい子供のような目をしてモモンに懇願した。


 「ネイア。諦めワルイ…」


 モモンの横に控えていたピンク色の髪をした美幼女がネイアに向けて冷ややかな視線を送る。


 「シズ先輩!! 先輩と私の仲じゃないですか!!


  そこは少しはフォローしてくださいよ!!」


 少し涙目になったネイアがその美幼女―シズに向かって納得できない想いを言葉にした。


 「ネイア。コネ入社は、軋轢を生む…。」


 そんな中、シズは己の知識からカワイイ後輩に向けて教授する。


 「コネニュウシャ? アツレキ? シズ先輩、それはどういう意味ですか?」


 「その言葉を知らないという事は、ネイアの今いる組織は恵まれているという事。」


 「先輩!! 一体どういう事ですか!?」


 「『コネニュウシャ』は、『仲がいいからお前のショクバに口利きして』という浅はかな者の愚行…。そして、『アツレキ』とは、その浅はかな者とショクバのガーディアンであるゴーレム達との凄惨な戦…。

 その戦のスサマジサ‥‥

 星の数ほどのショクバがその戦によりホウカイした…。」


 「崩壊!? 星の数ほど!?」


 ネイアはシズの発した現実味溢れる言葉に衝撃を受ける。


(なんて事なの!! 私の我儘でこの国が、いや、この世界が崩壊する危険があるという事!?)


 「…すいません。私が間違っていました…。シズ先輩。」


 ネイアは事の重大さに気づき、シズに深々と頭を下げる。


 「ネイア。まだ若い。知らない事多い。


  でも、安心していい。


  先輩の私がキッチリキッカリ教えてあげる…。」



 「シ、シズ先輩!!」


 ネイアは尊敬する先輩の金言に感涙して、シズに抱きついた。


 シズはそんなネイアの肩をなだめるようにポンッポンッと叩いていた。


 そんな光景をその真横で見ていたモモンは、心の中で強く想う―


(何‥‥。見せられているんだ。これ…。)


―と。


 そんなやり取りもネイアが明るい笑顔で去って行った事で一段落する。


「シズ先輩!! 私、ガンバります!!」


 というポジティブ発言をして―


 モモン―ていうかモモンに扮したアインズはその一連の流れを見なかった事にして聖王城内を退出し、現在の拠点である聖王の別邸へと向かう。


 城内を出ると、その外には今朝、モモンの従者として集められた兵士達や青の薔薇のメンバー達全員が未だその城外に待機していた。


(し、しまった!!

 会議に向かう前に、この者達に『今日の視察は中止にする』という連絡をしていなかった!!)


 そう思ったアインズは、その者達を見据えて言った。


 「待たせてしまったようですまない。」


 アインズというかモモンはそう言うと深々と一礼をした。


 その英雄の行動に、待機していた面々は衝撃を受ける。


 (なんでこの御方は、こうもいつも低姿勢なのだ⁉)


 ―と。


 そんな中、青の薔薇の魔法詠唱者―イビルアイはその男の態度に苛立っていた。


 (本当に何なのだ。この男は。


  先程は、あんな高飛車な態度を取りながら、この低姿勢。


  行動に高低差ありすぎなんじゃないか!?


  コイツ、まさか、二重人格かなんかなのか!?)


 ―と、その時であった。


  そんな中、モモンの眼前に迫る一つの影があった。


  その影は、モモンの前に立ちふさがり、叫びを上げる。


 「モモン様!! 俺は魔導兵団五番隊隊長!! バラック・ブラハイドと申します!!

 

  是非ともモモン様の弟子にして頂きたい!!」


 「・・・・・・・。」


  あまりに突然の乱入者の登場に城外の広場に何とも言えない沈黙が舞い降りた。


  そのしばらくの沈黙の後…


 「バ、バラック!! お前、何してんだー!!」

 「モモン様に向かって失礼ではないかーーー!!」

 「このバカは、一体どこの所属のモノだーーー!!!」


  モモンの周りに控えていた兵士達から大きな罵声が飛び始めた。


  そんな状況を俯瞰して見ていた漆黒の英雄モモン―ていうかアインズは思う。


 (また、ヘンなの現れたーーーーーーーーー!!!)


―と。


  アインズは、深く想う。


 (どうしてこうもヘンな者達が、モモンの元に集まってくるのだ…

  

  ・・・・・・・・・・・・・・・。

  

  そうだな。とうにその答えは解っていたな‥‥。

  

  そうだ・・・。すべてはアイツがその元凶だという事に‥‥)


  アインズは、広場の端に控えていた青の薔薇のメンバー達の姿を垣間見て、あの凄惨な事件の事を思い出す。


  そう、あの『モモンハーレム王事件』の事を―


 



 





  


  


  




 





 


 



 





 

 

 




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