第51話 女帝の思考(前編)

 魔導国の王城の執務室では、殺伐とした空気感に支配されていた。

 その余りの状況を前に、本日のアインズ当番であるシクススの顔色は、かなり青ざめていた。

 そればかりか、本日の決済の書類を持ってきたエルダーリッチ達もその骸骨の頭部(表情)を蒼白にして、恐る恐るその場に立ち尽くしていた。


 そんな者達に見つめられながら、その執務室の机に座るアルベドは、鬼気迫る表情で目の前の机を両断する勢いで机上に置かれた書類に判を押していた。


 当然の事ながら、いつもはそんな事はない。


 いつもであれば、アルベドは至福の顔をしながら、その席に座り、天女かと見間違うが如く穏やかな表情でその業務を行っていた。


 しかし、それとは余りに違う現状に引いた、いや、ドン引きした者達は、腐ったミカンの様な毒々しい表情をしながらその光景を冷ややかに見守る事しかできなかった。


 そんな中、机を粉砕する勢いで判を押しながら、アルベドは昨日の出来事を回想していた。




 モモンガ…いや、アインズからメッセージにて、急遽呼び出された時、アルベドはかなりの違和感を覚えた。


(一体、何が起こっているのかしら?

 パンドラズ・アクターが、謎の猛毒によって戦線離脱…

 これは、私、いえ、私とデミウルゴスが想定していなかった出来事…

 今、聖王国で行わているアインズ様のご計画は、今後ナザリックに敵対する勢力を想定して行われた実践演習であった筈だわ。

 いえ、アインズ様の計画は、それに留まらないでしょう。

 アインズ様は、それと同時進行で、聖王国の支配を加速しようと考えていられた筈…

 しかし、これは、あくまで私とデミウルゴスがアインズ様のご計画を分析した見解に過ぎないわ…

 あの御方は、私達の遥か高みにいる…)


 そう即座に思考したアルベドは、アインズの要請をこれまた即座に受諾した。



 そうして訪れた敵の刺客との対面でアルベドの冷静沈着な思考は吹き飛んだ。


 アルベドの思考を吹きとばしたのは、敵の刺客が対面するやいなや発言したある言葉であった。


 「パパ!!大好き!!」


 アインズの背後に控えていたアルベドは、その言葉を聞いてすぐさま激昂する。

 いや、その表現では追い付かない程の激怒プンプン状態に陥る。


(このメス豚が!!下等アンデッドのくせにアインズ様の御子になりたいだとぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!)


 そんなアルベドとは裏腹にアインズは、冷静沈着にその状況を見守っていた。

 そもそも、あの下等アンデッドがこの部屋に入ってきた時、アインズがその者に送る視線に何か暖かいモノをアルベドは即座に感じてた。


(アインズ様?

 これは、一体どういう事なの!?

 パンドラズ・アクターに猛毒を盛った相手を前に何故、そんな暖かい視線をおくるのですか!?)


 そう思考したアルベドは、即座にアインズの横に姿を現す。


 その後、アインズは、その敵の刺客の女ヴァンパイアに交渉を持ち掛けた。


(・・・・。なぜ、アインズ様はこんな下等な女ヴァンパイアに下手に出ているのかしら?)


 その時、アインズからあの言葉が発せられた。


 「まあ、今は、その事は不問としようか…。では、私に何を望む?

  お前の望みは何だ?」


 そのアインズの言葉を聞いたアルベドは焦る。


(もしや、アインズ様はあのメス豚の望みがわかっていられないの!?

 そうだったわ…。アインズ様は、あらゆる事においてすべてを見透かされる方だけど、他者の願望という事に関しては、鈍感な方だったわ…

 そうね。もし、その事に関してもすべてを見透かしているのであれば、私はすでにアインズ様と結ばれていたかもしれない‥‥

 ‥‥‥。でも、そんなアインズ様だからこそ、愛おしいのよ…)


 そんな一瞬惚けながらも、アルベドは即座にアインズに向かって発言する。


「アインズ様!! これからの交渉は、私にお任せ頂けないでしょうか!!」


 


 そうして女ヴァンパイアとの交渉権を得たアルベドは、その者をソファに座らせて見下した目で見つめていた。


 (この下等ヴァンパイア…。たしか、『青の薔薇』の魔法詠唱者だったかしら。

  こんな者が、パンドラズ・アクターを再起不能にするような毒を盛ったの?

  それに、この服装は何?

  まるでシャルティアを創造したペペロンチーノ様好みの服装ね…

  シャルティアが保有している衣装にもこういうものがあったかしら…

  確か、『魔法少女‥‥)


 そう思考したアルベドに、雷を受けたような衝撃が走る。


 (そ、そう言う事!? アインズ様は紛れもなく、この世界の魔法詠唱者の頂点に立つ御方!! その御子になりたい!! つまりは、世界一の魔法使いの少女になりたい!!

  だから、『魔法少女』の服装でこの場に現れたという事なの⁉)


  目の前の下等ヴァンパイアの意味深い(?)服装に相当の覚悟を感じたアルベドは、その者に向かって言い放つ。


「貴方が王国の『青の薔薇』の魔法詠唱者…。『ヴァンパイア』のイビルアイでいいかしら?」

 






 

 


 



 


 

 












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