第47話 初めの一歩

 ハムスケに戦場(女の醜い争い)を任せ、その場を後にしたイビルアイは、聖王城の外壁を飛び越え、モモンが現在、定住している聖王の別宅の前に到達していた。


 聖王の別宅の屋敷の前にイビルアイは静かに降り立つ。


 空より降り立ったイビルアイは、自らの仮面を外し、その屋敷を感慨深げに眺める。


 (ここが、私とモモン様が初めて結ばれる場所になるのだな…)


 頬どころか、全身を真っ赤に染め上げたイビルアイは、慌てて自分の着ている衣服の外装チェックに入った。


 (‥‥。なんだかんだでダメージを受けてしまったが、まだ、大丈夫そうだ。

  しかし、内部にはかなりのダメージが残っているな…

  しかし、それももう少しだ。

  もう少しでこの衣服は役目を終える。

  そうなったら、この衣服が、体を成している意味はなくなるからな…)


 イビルアイは、あらゆる覚悟を決めて、聖王の別邸である屋敷の正門の扉を開いた。


 扉を開くと、その先には、煌びやかな玄関口が拡がっていた。


 数十メートルに及ぶその空間には、天井には豪華なシャンデリアが釣り下がり、足元にも真っ白な大理石でできているであろう洗練された床石が敷き詰められ、これまたその床を豪華な金糸を模様した絨毯が其処ら中に覆い尽くしていた。


 (…。聖王国は羽振りが良いな…。

  これが国民達から捲き上げたモノだとしたら、この国も長くはないがな…。)


  そんな事を思いつつも、イビルアイは自分の我が君であるモモンの姿をその空間の中を探す。


  しかし、その空間にはモモンの姿は見当たらなかった。


  そればかりか、人の気配すらなかった。


  そんな現状に、少し落胆しつつもその豪華な内装の玄関口に立ったイビルアイは、その場で次の行動に出た。


 「モモン様-----!!。このイビルアイ、約束通り参りましたーーーーー!!。

 

 イビルアイは、元気よく大声を張り上げる。


 イビルアイは、実はそんなに落胆してはいなかった。


 (モモン様が人払いをしているという事は…。やはり、ここが私とモモン様の初めての愛の巣に‥‥)


 ―—―――という、邪な考えバリバリであった。


 そんな時であった。


 『イビルアイ。よく来たな…


  それでは、目の前の階段を上がって来てはくれないか…。


  階段を上がった先の部屋に私はいる…。』


 そんな野太く響くモモンの声が、イビルアイのいる玄関口の空間に響き渡った。


 「は!はい!!このイビルアイ、すぐさまモモン様の元に参ります!!」


  イビルアイは喜々揚々と声を張り上げ、目の前の階段を光の速さで駆け上がる。


  そして、階段を上った先に扉を見つけ、その扉をぶち破るかの如く勢いよく開いた。


  その扉の先には、応接室のような空間が拡がっていた。


  しかし、そのあまりに煌びやかな内装とその広々とした空間にイビルアイは啞然となる。


  (な、なんだ?ここは、本当に聖王の別邸なのか?外観で見る限り、こんな構造あり得ないだろ!?

  これはまるで、魔導王の城の中で見たような‥‥。

  まさか!!今、ここは魔導王の城の一部と直結しているのか⁉)


 そんな状況の中、イビルアイはその部屋の奥に立つモモンの姿を見つける。


 その瞬間、イビルアイは、今思考している事のすべてが吹っ飛ぶ。


 (モモン様…。このイビルアイ、モモン様にすべてを捧げる為に参りました…)


 イビルアイは、この時、自分がこの瞬間を迎えるために、今まで途方もない長い時間をただ、生き抜いて来たのだと確信していた。

 そして、その瞬間、イビルアイの思考は、更に暴走する。


 (・・・・。私が想像していたシチュエーションとは違っているが、今、『銀翼の閃き亭』のあの御仁から叩きこまれたあの奥義を発動する時ではないか!?

  そうだ。先ずは、先制攻撃でモモン様をノックアウト(悩殺)するのだ!!)


  即座にそう決断したイビルアイは、奥義を発動する為、両手の指を合わせるとその指たちでモモンに向けて翳すようにハートの型を形作る。


 そして、大海の中、荒れる船の船上に立つが如く体をクネクネさせ始めた。


 異様な、と言うか異次元の空気感がその場に漂いまくる。


 イビルアイは、そのハートを象った掌を前面に突き出すとカワイイ声を張り上げた。


 「パパ!!大好き!!」


 イビルアイがその言葉を発した瞬間、その場には何とも言えない痛々しい雰囲気を漂わせた空間が…シーンという音を発したいのに発せられないある意味ジレンマのような異次元の空気感にその場が支配されていた。


 (ヨシ!! 先制攻撃は成功した。

  これで今のモモン様は、『萌えキュン』状態に陥ったはずだ!!)


 無駄に余計な知識をジャンポールに植え付けられたイビルアイの思考回路は、すでに末期の状態に到達していた。


 イビルアイは、ジャンポールの指示通り、目の前の目標(モモン)に向かって熱烈なハグをする為、突っ込もうと、前のめりに野獣の如く体制を整える。

 そして、モモンに向かってパチンコ玉のように発射しようと―—――


 ―その瞬間であった。


 突如、イビルアイはその場にフリーズする。


 なぜならば、その時、モモンの後ろ隠れていた一つの影が姿を現したからだ。

 

 その影は、モモンの横に寄り添うように現れた。


 イビルアイは、その者を見てフリーズした。


 いや、イビルアイは、その者のあまりの美しさにフリーズしたのかもしれない。


 その者は、イビルアイが長年、見てきた女達の中で群を抜いて美しかったからだ。


 長く、そして艶やかな美しい黒髪。


 誰もが見惚れるであろう黄金に光り輝く瞳。


 純白のドレスを纏うその腰元には漆黒の翼の装飾がされていた。


 そして、頭部には不釣り合いな悪魔のような角を生やしていた。 


 イビルアイは、その者の姿を眼孔を開き、マジマジ見入る。


 それは…なにより…ムチムチプリンであった…からである…




 

 


 




 


 



 











 




 




 


 


 


 


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