第45話 女の戦い(前編)
※こちらは、泥酔して書いてます。
後に、修正等行いますのでご容赦ください。
日が暮れた聖王国の市街地は、すっかりと夜の街へと姿を変えていた。
つい数日前に、滅亡の危機に瀕していたとは思えない程、夜の街には多くの人々が行き交っていた。その行き交う人々の表情は、どれも明るかった。
それもこれも今、この国に英雄と讃えられる人物が滞在しているが故であろうか…
そんな人々が行き交う街道の中、市街地の中央に位置する『白銀の輝き亭』の玄関口の扉がひっそりと開く。
開かれた扉からは、仮面を被った小さな体躯の者が勢いよく飛び出し、街道へと降り立った。
その人物の姿を見た街道の人々は、一瞬、動きを止め、その人物の姿を目で追う。
その人物は、そんな視線を受けつつも、毅然とした態度で街道の中央を闊歩しながら、聖王城に向かって進み出した。
(やはり、あの御仁の言っていた通り、この衣服はあらゆる者を魅了してしまうようだな…)
その人物―イビルアイは、その状況に満足しつつ、軽やかな足取りで街道を突き進む。
―時間は少々遡る。
『白銀の輝き亭』の支配人であるジャンポール=ホバンス三世は、その手に持っていた服をイビルアイに見せるように高々と掲げた。
イビルアイは大きな息を呑み、目を輝かせてその服を見上げた。
いや、輝いていたのはイビルアイの瞳ではなかった。
イビルアイの瞳に映る衣服自体が光り輝いていたのだ。
そのコス…いや、衣服は、ラメっぽい光り輝く素材で装飾されていた。
そして、ピンク色を基調とした、その衣服は、日常生活ではお目にかかれないであろう彩色であった。
「こんなの着れるかーーーーーーーーーーーー!!!!」
その衣服を一目見たイビルアイは、大声を張り上げた。
大声を張り上げた後、その感情を抑えるかのようにビクビクと体を振動させる。
「何か、お気にさわるような事がございましたでしょうか?」
ジャンポールは、掲げた衣服の横から顔を覗かせて少し困った表情をした。
「い、いや…。その服があまりにアレなのでな…。
いろいろ相談に乗って貰っている身で言うのもなんだが、その服…おかしくないか?」
そう、ジャンポールが持参してきた服は、いろいろおかしいものであった。
その配色も常軌を逸していたが、それだけではなかった。
その衣服は、あらゆる部位が欠落していた。
二の腕、お腹、太腿、そういった箇所には布が施されていなかった。
また、それだけに留まらない衣服であった。
そのコスプ‥いや、衣服には至る所に謎のヒラヒラが付与されていた。
そのレースかなんかのヒラヒラはこれまた、キラキラであった。
言葉で表現するのは、これ以上は難しそうなので、一言でまとめよう…
それは、某―魔法少女コスプレ衣装に酷似していた。
「いや、その色味もおかしいのだが、何よりいろいろ肝心な場所に布が施されていないんじゃないか?
そのお腹とか太腿とか…っていうかそんな丈ではパンツが見えてしまうではないか⁉」
「イビルアイ様…」
「なんだ?」
「そこは、『パンティ』で御座います。」
「そんなんどうでもいいわーーーーーーー!!!」
「イビルアイ様は、まだお子様で御座いますな…」
「な、何?」
「この世の殿方の趣向がわかっていないと言っているので御座います…」
「なんだと!!その詳しくは言えないが私はそれなりに年長者だぞ!!この世の事にもそれなりに詳しいぞ!!」
「そうですか…。では、なぜ、私に助言を求められたのですか?」
「ウッ…」
「それは私のような年頃の男性の好みをお知りになられたかったからではないでしょうか?」
「…まあ、その通りだな…」
「ならば、私はこの服であなた様の大事なお方にお会いになられることをお勧め致します。」
「し、しかし、そのような服で会いに行って、おかしい奴とか思われないだろうか?」
「何を言いますか。この服は、私のような年代の者からしたら鉄板です。」
「な、何!!鉄板なのか!?」
「はい、超激熱です。」
「しかし、私にはその恰好の良さがイマイチわからんのだが‥‥」
「そうですか。では、お時間があまりおありになられないとの事ですので、完結にご説明させて頂きます。先ずは、『萌え』という言葉の意味を‥‥」
それからジャンポールの『誰でもわかる萌え講座』は小一時間に渡ったという―
そんなジャンポールの熱心な指導を受けたイビルアイは、聖王城に向けて歩みを進めつつ、萌えを修得した自分自身に心酔していた。
(フフフ…。この姿で会えば、モモン様も私に惚れなおしてくれるに違いない…)
もはや、思考回路が異次元に到達していたイビルアイは、街道の人ごみの好奇の視線をモノともせず、突き進んだ。
そして、街道の人ごみを抜け、人気の無くなった聖王城前の陸橋へ辿り着いた。
そこは王城の近辺が故、一般人の通行が禁止されている区域であった。
イビルアイは、モモンに会うべくその陸橋を越えようとその橋の袂に差し掛かった所で、足を止めた。
それは、橋の中央に佇む人影を確認したからであった。
そして、その人影は一つではなかった。
一瞬立ち止まったイビルアイであるが、再び、橋を越えようと静かに歩み出す。
橋の中央まで到達したイビルアイはその人影に向かって口を開いた。
「お前達、こんな所でどうした?食後の散歩でもしているのか?」
「そうね…。そんなところかしら。私達、そろそろ宿に戻ろうと思うんだけど、あなたもいっしょに戻らない?」
イビルアイに声を掛けられたラキュースはイビルアイに提案する。
ラキュースの後ろには、ガガーラン、ティア、ティナ達も控えていた。
ラキュースの言葉は提案であったが、その場の雰囲気を加味すると半ば命令である事は明らかであった。
「…悪いが私は、もう少し、一人で散歩したいのでな…。お前達は先に戻っていてくれ。」
イビルアイはラキュースの提案を拒絶する。
「そう…わかったわ…。」
イビルアイの言葉に納得したラキュースはその場を去ろうと歩みを進める―
筈がなかった。
「って、いう訳ないでしょ!!
イビルアイ!!あなたは私達と一緒に宿に戻るのよ!!これは提案ではないわ!!
青の薔薇のリーダーとしての命令よ!!」
「お、お前は、な、何を言っているのだ!!散歩を許さないリーダーなど聞いた事がないぞ!!」
「散歩…ね‥‥‥。」
ラキュースはイビルアイにかけられた言葉を噛みしめた。
すると、イビルアイを指さし吠える。
「そんな恰好して散歩に行く奴なんかいないわよーーーーー!!!!!」
ラキュースの絶叫はその場に一時の静寂を生んだ。
「どうせ貴方の事だから、モモン様に会いに…。いや、もしかしたらモモン様の寝こみを襲いに行こうとしてたんでしょ?
イビルアイ。いいから宿に戻るわよ。これはあなたの為に言っているのよ…」
イビルアイに諭すようにラキュースは語りかける。
「なんなんだ!!お前達は!!別に私がモモン様に会うのは私の勝手ではないか!!」
イビルアイは体を震わせて反論する。
「私達は、貴方の事を大事な仲間と想っているだけよ…
貴方は気付いていないかもしれないけど、モモン様―いえ、モモンは危険よ。
貴方がこれ以上モモンに接触しようとするならば、力づくで止めるわ。」
ラキュースは、真剣な瞳をイビルアイに向ける。
「………」
そんなラキュースの言葉を聞いたイビルアイは、黙り込み静止した。
「…フフフ、フフフフフ…」
しかし、次の瞬間、肩を小刻みに震わせながらイビルアイは笑い出した。
「そうか…。そう言う事か…」
魔法少女の恰好をしたイビルアイは、その姿とは裏腹に邪悪なオーラを発し始める。
「イビルアイ!?」
その異様なオーラを感じ取ったラキュースはイビルアイに呼びかけるようにその名を発した。
「お前達全員がモモン様を狙っていたとはな…。まあ、その可能性は十分あると想定してはいたが…」
「イビルアイ。貴方、な、何を言っているの?」
邪悪なドス黒いオーラを纏ったイビルアイの発言を理解できないラキュースは戸惑う。
「…わかっている。わかっているぞ…。もう、誤魔化さなくていい…」
その時、魔法少女(コスプレをした)イビルアイは、ラキュース達を指さし叫んだ。
「お前達!!モモン様の貞操を狙っているなーーーーー!!!」
「本当に何を言っているのーーーーーーー!!!!」
イビルアイの発した意味不明の発言にラキュースは食い気味に絶叫した。
しかし、イビルアイの暴走は止まらない。
「お前達を傷つけないようにオブラートに包んで伝えたかったのだが、お前達の為を思ってあえてストレートに真実を伝えよう‥‥」
一呼吸、大きな息を吸い込んだイビルアイは、大声を張り上げる。
「この際だ!!ハッキリ言ってやる!!」
「私とモモン様は‥‥」
「付き合っている!!!」
「ラブラブ状態だーーーーーーー!!!!」
イビルアイの叫びはその空間に大きく響き渡った。
「……………………」
その時、その場には白い虚無の異次元が舞い降りる。
そして、その場に居合わせたイビルアイ以外の者達すべてがその虚無と一体となった…
「ア…アイツ何を言っているんだい…」
そんな虚無の中、白き石像と化していたガガーランが小さく口を開いた。
「理解…」
「不可能…」
ティア、ティナも石化したような放心状態の瞳でイビルアイを見据えつつ、小さく口を開く。
「こ、これは想定以上に深刻な状態ね…」
そんな中、顔面蒼白状態のラキュースが苦虫を噛んでいるかの形相で言葉を発した。
「おそらく、イビルアイはかなり高位の洗脳系魔法にかかっているわ…。
考えてみれば、あんな恥ずかしい恰好で公衆の面前に立てるのよ。
もはや、羞恥心が‥‥
いえ、そんな次元じゃないわ。
イビルアイの自我は完全に崩壊しかけているわ。」
ラキュースは己の見解をガガーラン達に伝える。
「まあ、そうだな。あれで洗脳状態じゃないとしたら、完全に頭のおかしい奴だわな。」
「『頭のおかしい奴』じゃない…」
「あれは、『完全に頭のおかしい変態』…」
ガガーラン、ティナ、ティアが、ラキュースに真剣な瞳を向ける。
「で、どうするんだい?」
「現状、イビルアイに掛けられた洗脳魔法を解除する手段はないわ…。ならば…私達がとれる方法は一つしかないわね…」
ラキュースは、目を瞑り覚悟を決める。
「そいつは分かりやすいね!!」
「了解!」×2
そのラキュースがこれから取ろうとしている戦法を熟知しているメンバー達は同意の意を示す。
ガガーラン達の同意の意思を感じたラキュースは目を見開き、決意の元に命令を下す。
「力づくで止めるわよ!!」
ラキュースの力強い言葉に応えるようにガガーラン、ティア、ティナはイビルアイに向かい、駆け出す。
しかし、ラキュース達が決死の攻撃を決意した最中、イビルアイは、只、橋の真ん中で無防備に立ち尽くしながら項垂れていた。
「…そうか…。それがお前達の決断か‥‥。」
イビルアイは寂し気に呟くとその後、更に勢いを増したドロドロしたドス黒いオーラを発し始めた。
「お前達……。覚悟はいいか?
人の恋路を邪魔するからには、それなりの代償を払ってもらうぞ…。」
そう小さく呟くイビルアイは、仮面の下では寂しげな表情をしていた。
イビルアイは、両手を前に翳す。
その両手の掌の前に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
「お前達!!これで頭を冷やすがいい!!」
イビルアイは、叫ぶ。
「アブソリュート・オール!!〈絶対氷結領域・全体〉」
その途端、イビルアイの前に出現した魔法陣を起点に極寒の冷気が橋の全体を覆う。
イビルアイに迫っていたガガーラン達はその極寒の冷気を浴びて、一瞬で氷像と化した。
そのすべてを氷つかせる冷気が過ぎ去った後、その氷像達の間をイビルアイは、ゆっくり歩み始めた。
「そこで頭を冷やしていろ…。女の嫉妬は犬も食わんというからな…。」
―ヒュン―
イビルアイが氷像と化したガガーラン達を通り過ぎようとした時、イビルアイの元に迫る数多の光の刃が小さな金切り音を発した。
イビルアイは、即座に後方に飛び退く。
その刹那に、イビルアイがコンマ数秒前立っていた石畳には光輝く刀身の刃が突き刺さっていた。
後方に飛び退いたイビルアイは、氷像の影に隠れていた人物を見据える。
「お前、大分、腕を上げたんじゃないか?あの一瞬で私の魔法を防ぐ防御魔法を展開するとはな…。」
イビルアイの視線の先には、先程の魔法攻撃を無傷で防ぎきったラキュースの姿があった。
「イビルアイ。あなたがいくら洗脳されているとは言っても、これ以上は冗談じゃすまされないわよ…。」
ラキュースは鬼気迫る表情でイビルアイを睨みつける。
「‥‥。‥‥ハーハッハッハッハ!!」
イビルアイはラキュースの言葉を受け、笑い出す。
「お前達こそ、失恋を素直に受け入れるべきではないのか?
モモン様と私が恋人同士という事実を知り、傷ついているお前達の気持ちも分からないでもないが…
ここは仲間の幸せを想い、身を引くべき状況ではないのか?」
「本当に、あなた、どうかしてるわよーーーーー!!!」
ラキュースは食い気味にイビルアイにツッコんだ。
その刹那、ラキュースは、氷像と化したガガーラン達に向けて両手を翳す。
その途端、ガガーラン達の氷結は解除され、元の姿へと戻っていった。
「…どうやら、助けられたようだね。」
「鬼リーダー。ありが…」
「…十匹。」
氷結魔法から回復した面々は、ラキュースに各々感謝の言葉を述べる。
(…状態回復魔法を無詠唱で使うか‥‥。お前はやはり天才だよ…
お前が私のような不老の存在であれば、数十年後には私をゆうに越えていただろうな…)
「フフフ…。いいね、いいねぇ。お前とはもう一度ガチでやりたいと思っていたからね。」
ガガーランが戦鎚を構え、餌を目の前にした犬のような表情でイビルアイを見据える。
「…そうか?こっちはお前のような奴とは二度と戦いたくないと思っていたのだがな‥。はっきりいって、メンドクサイからな…。」
「そいつは気が合うね。」
「お前!!やっぱり脳筋だわ!!」
イビルアイが、いつものようにガガーランにツッコむ。
その時だった―
ラキュース、ガガーラン、ティア、ティナ達は、そのイビルアイのツッコミの僅かな瞬間に挟撃、いや、包囲撃を仕掛ける。
それは、イビルアイ以外の青の薔薇のメンバー内で話し合われた対イビルアイを想定し、考案された戦術であった。
無尽蔵な魔力を有し、あらゆる苦痛に耐え、どんな敵でも臆することない仲間がもし、悪の道に誘われたら‥‥を想定してこの戦術は考案された。
魔力では敵わない…。あらゆる物理攻撃も効かない…。どんな敵にも無鉄砲に突っ込む…。そんな核爆弾のような仲間がもし、万が一、敵の手中に落ちた場合、どのように抑え込むかをメンバー内で話し合った。
その話し合いは、解決策もなく、数年来、平行線を辿った。
だってそうだろう?
あらゆるステータスが桁違いなのだから…
しかし、ある人物が何気なく漏らした言葉でこの平行した世界線から脱出できる事となる。
「アイツ、ツッコんでる時、無防備じゃね!?」
その言葉に活路を見出した面々は、その機会を、この一瞬を待っていた。
「お前!!やっぱり脳筋だわ!!」のツッコミの際、『お前!!』の時にティア、ティナは、〈忍術―闇渡り〉を使い、イビルアイの背後へと廻る。
『やっぱり』の時、ラキュースは、「浮遊する剣群」を操ってその剣戟をイビルアイをかすめるように放つ。
『脳筋だわ!!』の時に、ガガーランはイビルアイの眼前に迫り、己の戦槌をイビルアイを圧し潰そうと振り下ろす。
その一瞬、冒険者チーム『青の薔薇』の全てがそこに集約していた。
しかし、次の瞬間、そのすべては無に帰す。
イビルアイの背後に廻ったティア、ティナは、イビルアイの〈魔法最強化・結晶散弾〉で吹き飛ばされ、橋下の運河へ叩き落とされる。
ラキュースの「浮遊する剣群」は、イビルアイの〈水晶防壁〉に弾かれ、力なく地に落ちる。
ガガーランの戦槌は、イビルアイの魔法によって造り出された水晶の二振りの大剣によって粉々に粉砕される。
その一瞬ですべての勝敗は決していた。
その圧倒的な力を前に、ラキュース、ガガーランはその場に放心状態で立ちすくす。
そんな中、イビルアイは、その場にいる者に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声量で呟いた。
「前にも言ったかもしれないが、今一度言おうか…
確かにお前達は強い…
しかし、私はそんなお前達よりもさらに強いのだ…」
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