第44話 残念な暗殺者(後編)
聖騎士訓練場は、もはや修羅場と化していた。
武技を操る魔獣と人間の限界をゆうに超えた鬼人との超絶の戦場となっていた。
両者は、訓練場の中央で睨み合う。
「それでは、いざ命の奪い合いでござるよ!!」
ハムスケはその言葉を発っした瞬間、その姿を消した。
その刹那、レメディオスの真横へと姿を現す。
そして、両脚でのドロップキックをかます。
ハムスケのドロップキックーそれは、絵面で見れば「カワイイ」と表現できるものであるが、その威力は、成人男性十人分を肉塊のミンチにするには十分なほどの威力である。
その瞬間、即座にレメディオスは、両手で持っていた大剣から片手を放し、腕を曲げ防御態勢でその攻撃に反応し、防御に徹する。
―ドゴォォォォン!!
ハムスケのドロップキックが決まり、凄まじい音が鳴り響いた。
今までならば、レメディオスがパチンコ玉のように吹っ飛び、訓練場の壁へとめり込む筈であった。
しかし、今回は違っていた。
その威力ゆえ、体は僅かに吹っ飛ばされたが、レメディオスは、そのド級の威力の攻撃を生身の片手で受けきり、さらには大剣を片手で構え、戦闘態勢を取っていた。
その一連の攻防が終了した時、一時の静寂が訪れる。
(な…)
(なんですのーーーーーーーー!!)
その戦況を一部始終見ていたレイナースは心の中で叫んだ。
(魔獣の攻撃を生身で受けて耐えられる人間なんて見た事ありませんわ!!っていうか、数ある英雄譚の中でも聞いた事がありませんわ!!)
レイナースが、驚愕の表情でその戦闘を見つめている中、レメディオスは、再度、今使った武技に感謝していた。
(なんだ?この武技、使えるじゃないか。なぜ、皆、使おうとしないのだ?)
武技―『鉄壁』。
それは、この世界では武技というくくりであるが、それは武技ではなく、実は魔法であった。
ユグドラシルの中でも、初期魔法に位置づけられる魔法である。
どのような種族でも身につける事ができ、そして、どのような職種でも使用できた。
なおかつ、その魔法のMPの使用量は、己の全MPの一パーセントであった。
ユグドラシル上での魔法名は、『ガード』
しかし、そんな魔法もユグドラシル上では軽んじられていた。
それ理由は、その魔法の効果にあった。
初期モンスターとの戦闘でも、ダメージを1軽減する効果しかなかった。
それ故、ユグドラシルの中でもその魔法は、笑いものになっていた…
「『ガード』って言っても、全然ガードしないじゃん!!」と。
しかし、そんな魔法にも実は、隠れ要素が存在していた。
ある一定の条件を満たした暗黒騎士がその魔法を使用すると、上位スキル『唯我独尊』が発現するという…
―暗黒騎士の上位スキル『唯我独尊』
それは、究極の力を求めた暗黒騎士だけが修得できるスキルである。
その効果は・・・・
攻撃力、超超超超・・・・上昇。
防御力、超超超超・・・・上昇。
俊敏さ、超超超超・・・・上昇。
HP、超超超・・・・上昇。
MP、超超超・・・・
ともかく、すべてのステータスが超絶に上昇するチート級のスキルである。
運営側もその発現条件を設定したプログラマーがトンズラしたため、闇に葬ったスキルである。
故に、その全容は謎に包まれていた。
しかし、その謎に包まれた全ての条件を満たした事でレメディオスはユグドラシル史上、いや、この世界で唯一のスキル『唯我独尊』の使い手となった。
「貴様、その程度か?」
ハムスケのドロップキックを受けきったレメディオスは、言い放つ。
「フフフ…。言うではござらんか。某に一撃すらも与えられない分際で…」
そう言った瞬間、ハムスケは、武技「縮地」を発動する。
縮地を発動したハムスケは、再度、レメディオスの背後に回り込んだ。
そして、即座に武技「斬撃」を放つ。
魔獣の武技の連撃、それは人間という弱者では通常であれば太刀打ちできない攻撃であっただろう。
しかし、スキル『唯我独尊』を発動したレメディオスは違っていた。
レメディオスはハムスケの斬撃を、持っていた大剣を片手で扇風機のように高速回転させ、その威力を散らせた。
それを見たハムスケは、その場から後ろへと飛び退き、後ろ足を大地に滑らせながら、戦闘態勢を取る。
その攻防が一段落すると、訓練場には、僅かな静寂が訪れた。
(どうなってますのーーーー!!)
その光景を目の当たりにしたレイナースは、心の中で絶叫する。
(あのバカ女、なんでメチャクチャ強くなってますの?
闇落ちすると人間はあそこまで強くなれるんですの?)
「やるでござるな。正直、ここまで強い人間は初めてでござるよ!楽しいでござる!」
後ろに後退り、戦闘態勢を取ったハムスケは、布の裂け目から目を輝かせながら嬉しそうに言った。
「そう言ってられるのも、今のうちだろうがな。」
大剣を小枝のように振り回しながら、レメディオスは答えた。
そんなやりとりも束の間、再び、ハムスケは『縮地』を使い、レメディオスの真後ろへと回り込む。
しかし、ハムスケが姿を現した時には、すでにレメディオスの姿は掻き消えていた。
刹那にハムスケの野生の勘が危険を知らせる。
その勘に頼ったハムスケは、即座に後ろに飛び退いた。
その途端、ハムスケの眼前にレメディオスの大剣が天から隕石のような勢いで大地に突き刺さる。
その余りの威力に石畳はまるでクレーターのように歪み、土煙が舞った。
ハムスケは、後ろに飛び退いた勢いで、その体をクルクルと回転させ、その場から数十メートル後方へと着地する。
四脚にて着地したハムスケは、前傾姿勢を取り、本気モードの戦闘態勢にて土煙を睨みつけた。
土煙の隙間から、地に突き刺さっている大剣を握り、片膝をついて俯いているレメディオスが垣間見える。
「なかなか素早いじゃないか…。次は、外さなぬぞ…」
ボロボロの下着姿のレメディオスはそう言うと、大地にめり込んだ大剣を軽々と引き抜き構える。
そこに映る姿は、もはや人ではない。まさに鬼人であった。
月光に照らされた訓練場内に、一時の静寂が訪れる。
(どうなっていますのーーーーー!!)
その場で唯一、真面な人間であるレイナースは心の中で驚きの声を上げていた。
そして、唯一その戦闘を俯瞰して見ていた立場で今の攻防を考察する。
(あの女、あの魔獣が姿を現す前に、宙に飛んでいましたわ。
まるで、あの魔獣がそこに姿を現す事がわかっていたかのように・・・・
どういう事ですの?
人間はバカを極めると未来を予知できるようになるんですの!?)
レイナースの考察は当たってはいないが、あながち間違いでもなかった。
ハムスケが使用した武技『縮地』は、瞬間移動ではない。
その名の通り、距離を縮める高速移動の武技だ。
故に、姿を消してから現れる間にタイムラグが存在した。
その間に、スキル『唯我独尊』を発動しているレメディオスは、高められた能力でその動き察知し、そして高められた戦闘勘でハムスケの動きを予測していた。
しかし、初見の相手であった事。そして、そのスキルに目覚めたばかりだった事で戦闘勘に誤差が生じた。その為、今の攻撃を命中させるには至らなかったのだ。
ハムスケの動きを見切ったレメディオスは、次は宣言通り外さないであろう。
月光に照らされた聖騎士団訓練場の石畳の上で、そんな人外の強者達が睨み合う。
(今のは危なかったでござるな…)
そんな睨み合いの中、ハムスケは思った。
(この人間やるではござらぬか。殿に会う前の拙者ならば、今の攻撃でお陀仏でござった。)
そう、もし仮に、今のレメディオスとアインズに出会う前のハムスケが対峙していたならば、瞬殺されていた。
しかし、ハムスケはアインズと出会ってから、血が滲むような、いや、血を吐き出して、その血がちょっとした池ならば満杯になるような訓練を積んできた。
(そうでござるよ!!
某は殿の役に立つため、必死で頑張ってきたのでござるよ!!
デスナイト殿と浜辺で追いかけっこをしたり、リザードマン殿達と湖で水遊びをしたり、トレント殿達とお花畑で花飾りを作ったり、料理長殿が作ってくれた美味しいお菓子を食っちゃ寝してきたでござるよ!!)
―本人にはその自覚はないが…
そんな血を吐きだしちゃって池満杯の訓練を積んできたハムスケのレベルは以前とは比べようがない程、上昇していた。
上位スキル『唯我独尊』を発動したレメディオスの力に匹敵するほどに―
「それでは、今度はこちらから行かせてもらうぞ!!」
両者睨み合う中、最初に動いたのはレメディオスであった。
レメディオスは力強く足元の石畳みを蹴る。
―ドン!!
人外の一歩で、足元の石畳は爆発したように吹き飛んだ。
その音がハムスケの耳に届く頃には、レメディオスはハムスケの足元に到達していた。
レメディオスは、ハムスケの首を一思いに刎ね飛ばそうと高速の刃をハムスケの首元へと薙ぎ払う。
ハムスケは、その攻撃に反応できてないのか微動だにしない。
(―殺ったな…)
レメディオスは、確信した。
大剣の刃は、ハムスケの首を切り落とそうと目前まで迫っていた。
しかし、次の瞬間、その刃を避ける様にハムスケの体はクニャっとなる。
レメディオスの渾身の刃は、ハムスケに当たらず空を切った。
(ナニィィィィーーー!!アレェェェェーーー!!)
異様な瞬間を目の当たりにしたレイナースは驚愕の叫びを心の中であげた。
その光景を一番目で疑ったのは、レメディオスであった。
その後、躍起になったレメディオスは、何度も何度もハムスケを切りつけるが、その度にハムスケの体は、クニャッとなり、クニュッとなり、ツルッとなり、ビチョッとなり、一向に当たらなかった。
(ビチョッてナニィィィィィーーーー!!)
物理変化ではありえない光景にレイナースは、ツッコミを入れる。
一向に攻撃が当たらないレメディオスは、動きを止め叫ぶ。
「なぜだ!!なぜ、私の攻撃が当たらないのだ!!」
「これが某のスキル『凪』でござるよ。」
ハムスケは得意満面に己のスキルをばらした。
―スキル『凪』。
高レベルの武芸者クラスが獲得できるスキルだ。
その効果は―低レベルの斬撃の自動回避
文字通り、低レベルの斬撃を自動で回避してくれるスキルである。
特段、希少なスキルではない。
高レベルのプレイヤーが低レベルのモンスターを相手にする時、面倒くさいから獲っておくかぐらいのスキルである。
当然、上位スキル『唯我独尊』を発動したレメディオスが低レベルの筈がない。
しかし、レメディオスが、今、装備している大剣に問題があった。
レメディオスが今装備しているのは、聖騎士団の重騎兵用の大剣である。
それも、訓練用の使い古しだ。
耐久性は、その造りから低レベルの中でも高位の方であるが、命中補正に至っては、大幅にマイナス域になっていた。
いかに今のレメディオスを以てしても、その命中補正を低レベル域から脱する事はできなかったという事だ。
もし、レメディオスが普段装備している聖剣で戦っていたならば、この戦いの勝者はレメディオスだったかもしれない。
しかし、ハムスケのスキルで無効化されるだけの武器で戦っているレメディオスの勝算は皆無であった。
そんな中でもレメディオスは、当たらない斬撃を無数に繰り返す。
これが『斬撃』ではなく、先程の攻撃の『刺突』や『殴打』であれば、もう少しマシな戦いになっていたのかもしれない・・・・・
しかし、頭に血が上ったレメディオスではその判断はできなかった。
訓練場には、大剣が大気を切る音だけが暫く鳴り響く。
誰もが無駄とわかる状況で、鬼気たる顔でレメディオスはひたすら大剣をハムスケに目掛けて振り回していた。
そして、その間、ハムスケはレメディオスの高速の剣戟を自動回避にて躱し続けた。
「私は!!私は!!モモン様について行くのだぁぁぁ!!」
そんな中、レメディオスは悲痛の叫びを上げていた。
その光景を見つめていたレイナースは思う。
(この女…本当にバカだわ・・・・。自分が今戦っているのがモモンの魔獣と気付かず・・・それもモモンに死んでほしいなんて言われて…なんてバカな女ですの)
そんな攻防も永遠には続く訳もなかった。
―ガラン!
「グワァァァァァァーーーー!!」
レメディオスは、振るっている大剣を突如放し、大声を張り上げた。
その光景を目の当たりにしたハムスケは、不思議そうな顔で見守る。
「どうしたでござるか?戦いはまだ終わっていないでござるよ?」
レメディオスは激痛に顔を歪め、その場に立ち尽くす。
そして、その場は一時の静寂に包まれた。
―これは、スキル『唯我独尊』を発動した代償であった。
チート級とは言っても、このスキルはチートではない。
その効果は有限であり、当然、代償もある。
このスキルにMPの消費はない。『ガード』は発現条件であって、発動条件ではないのだ。
そして、使用時間も決まっている。
―五分。
それを短いととるか、長いととるかは使用者次第であろう…
それを使った代償は、レベルに反比例して身体的ダメージを受けるという事だ。
ようは、レベルが高ければそのダメージは皆無に等しいし、レベルが低ければ、身体的大ダメージを負うという事である。
それにより効果が切れたレメディオスは、相当量の身体的ダメージを受けた。
相当量のダメージを受けたレメディオスではあるが、その高い精神力で何とか立っていた。
しかし、耐えきれなくなった体は、両膝を地に付けて蹲る。
それは、完全なレメディオスの敗北を意味するには充分であった。
(勝負はついたようね・・・・。というか、あのバカ女、確実に殺されるわ…)
その様子を傍観していたレイナースは思う。
何がどうなってこういう結果になったのかは正直、俯瞰してみていたレイナースには理解できていなかった。しかし、レメディオスがあの魔獣に敗北し、これから命を奪われる事だけは理解できていた。
「なんだかわからないでござるが、これで終わりのようでござるな…残念でござる…」
ハムスケは消化不良なのか、少し落胆気味にレメディオスに語りかける。
「それでは苦しまない様に止めを刺してあげるでござるよ。」
そう言って、蹲ったレメディオスに近づこうと歩みを進めた時であった。
一筋の強風が訓練場に吹き込んだ。
それにより、先程の攻防で緩んでいたハムスケの頭部の布の結び目が解けた。
そして、その風により頭部の布がスルスルとはだけていく。
レメディオスの目の前に来る頃には、その布は、風に乗り、ハムスケの頭部を離れていた。
蹲っていたレメディオスは顔を上げ、素顔をあらわにしたハムスケと目を合わす。
ハムスケは視界が開かれた事に違和感を感じ、自分の顔に両手を当てた。
「ギョェェェェェーーーーーーーー!!」
ハムスケは、自分の顔に布が被さっていないのを確かめると絶叫を上げる。
すぐさま、風に流されゆく己の頭部に巻いていた布を見つけるとそれを掴み、顔に押し当て、慌てて言った。
「拙者は、殿のペットのハムスケではないでござるよ!!」
(今さらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
その光景を俯瞰しながら見ていたレイナースは心の中でツッコんだ。
「今日の暗殺はこの辺にしとくでござるよ!さらばでござる!」
ハムスケはそう叫ぶと、逃げるように訓練場の外周外へと大ジャンプを決めて去って行く。
その一連の流れの後、突如、訓練場にはいつもの静寂が訪れる。
そんな静寂な空間に取り残されたレイナースは、狐につままれたかの顔で呆然と立ち尽くした。
「なんだったんですの・・・・」
そんな顔で、レイナースは小さく呟く。
(結局、あのバカ魔獣は何をしたかったんですの?
どうして、このバカ女の命を奪っていかなかったんですの?
顔を見られたから?
そうだとしても顔を見られた者をすべて殺せば、それは見られなかったのと同じ事になるという事がわからなかったんですの?
そんな事もわからないバカなんですの?)
混乱しながらレイナースは、頑張って状況を把握しようとしていた。
そんな中、激痛で動けなかったはずのレメディオスがゆっくりと動き出す。
「あなた!動けますの?」
レイナースは、レメディオスに駆け寄り声を掛ける。
「ああ…問題ない…」
激痛に顔を歪ませながら、レメディオスは答える。
そんなレメディオスを見て、レイナースは己の疑問をぶつける。
「それにしてもあの強さは何なんですの!魔獣の攻撃を生身で受けて耐えられるなんて聞いた事がないわ!」
「私に聞いて分かる訳がないだろう?」
レメディオスは、もっとも的確なコメントを発した。
(そうですわ…私に分からない事がこの女に分かる訳ないですわ…)
そう思ったレイナースは、自らで先程までの出来事の考察を行う事にした。
(モモンの騎獣がこの女を暗殺に来て、結局、殺さなかったのはなぜ?確実に殺せる状況でしたわ…
そもそも、なんでこの女を殺しに来たの?
自分の主が『死んでほしい』と言ったから?
モモンが本気で死んでほしいと思って言った訳でもないのに?
そんな理由で人間を殺していたらキリがないわ…
それでは、暗殺というのは、嘘?……)
レイナースが頑張って考察している中、レメディオスは、地に落ちた大剣を拾い上げる。
そして、剣を構え呟いた。
「しかし、あの暗殺者には感謝せねばな…
アイツがいなければ、この強さを手にはできなかっただろう…」
—――――――!!
レメディオスの何気ない一言で、レイナースの頭の中に散らばったピースが一つ一つはまっていく。
(モモンの騎獣は暗殺に来たんじゃないわ!
この女を鍛えに来たんだわ!!
そう…
あの魔獣は嘘を言っていたんじゃない…
真実とはすべて逆の事を言っていたんだわ!!)
レイナースの推理は迷宮から脱した。
つまりは、こういう事よ…
「モモンの命令で来たんじゃない」→「モモンの命令で来た」
「モモンの騎獣じゃない」→「モモンの騎獣です」
「暗殺に来た」→「生きていけるように鍛えに来た」
(そう考えれば、すべての辻褄があうわ…
あの魔獣があんなしょうもない変装していた事も…
あの魔獣は、恐らくモモンから真実を言うなと命令、もしくは躾られていたんだわ…
しかし、あの魔獣なりに主人の想いを私達に伝えたかったのね…
だから、あえてあんなバカのような変装をして、バカのような立ち振る舞いをしたんだわ…
さすがは「森の賢王」だわ…ごめんなさいね。バカ王なんて思って…)
レイナースがまさにこの出来事の真相の全容(?)にたどり着いた時だった。
なにか心に引っ掛かるものを感じていた。
(あの魔獣…確か、言っていましたわ…
モモンがこのバカ女に「死んでほしい」と言っていた、と…)
レイナースは、目の前で大剣を素振りしているレメディオスに視線を向ける。
「ん?どうした?訓練の続きをするのか?」
すると、レイナースの視線に気づいたレメディオスが能天気な顔を向けて聞いてきた。
その能天気な表情を見たレイナースがブチ切れる。
「―っていうか、あなた。あの魔獣の顔を見ましたわよね!まだ、モモン様の騎獣って気付かないの?」
「そうか?まあ、似ていたような気がするが…。
本人が違うと言っていたから違う魔獣ではないのか?」
(この宇宙一のバカ女ぁぁぁぁぁ!!)
「あなた!!目ついてますの!!昨日、間近で見たでしょうが!!」
「何を言っている?モモン様と一緒に居られるときに、私がモモン様以外の者になど目を向けている筈ないだろうが。」
(この色ボケバカ女ァァァァァァーーーーー!!)
「もういいですわ!!私は帰りますわ!!」
レイナースは体を翻し、訓練場を後にしようと歩き始める。
振り向き様に能天気に大剣で素振りをするレメディオスの姿を流し見ながらレイナースは思った。
(真実を教えてあげる気が失せましたわ…
バカは幸せ者と言うけれど、不幸ですわね…)
レイナースは、口を緩ませながら、そして僅かに笑みをこぼしながら訓練場を立ち去った。
(あの男の本当のカッコよさに気付けないのだから…)
その頃、訓練場を立ち去ったハムスケは、聖王の城に戻るため、市街地の建物を屋根伝いに猛ダッシュをしていた。
「危なかったでござる‥‥。あやうく、正体がバレるところでござったよ…」
そんな時、ハムスケの口の中のアイツがハムスケに語りかける。
「なんでござるか?フムフム…『なんで殺さなかったんじゃー!!』でござるか?」
「正体がバレそうになったからに決まっているでござる!
シズ殿が言っていたでござるよ…
暗殺者は正体がバレたら、その場で腹を裂き、腸を取り出して、その腸で首を吊って死なねばならないのでござる。拙者、そんな惨たらしい死に方はしたくないでござるよ。」
「え?『とっくに正体バレとるわー!!』でござるか?
そんな事はないでござるよ。完璧な変装をしたでござる。
最後、バレそうになったでござるが、『三秒ルール』が適用されたので無効でござる。」
「フムフム…『三秒ルールってなんじゃい!』でござるか?
お主、そんな事も知らないでござるか?
ルプスレギナ殿が言っていたでござる。何か失敗しても三秒以内に元に戻せばタイムリープしてなかった事になるでござるよ。」
「・・・・・」
「どうしたでござるか?なんで、無言になってしまったのでござるか?
ともかく、お主と計画した『殿に内緒で暗殺して後で正体明かして褒められよう』作戦は延期でござる。」
そうしたやり取りをしている間に、ハムスケは、聖王の城の外周間近まで迫っていた。
そして、あと一飛びで聖王城の外壁を飛び越えようと速度を上げる。
―ドガァァァァァァァン!!
その時、ハムスケの走る屋根下から大きな衝撃音が響いて来た。
「なんでござるか?」
ハムスケは走りながら音がした方向に顔を向ける。
その瞬間、ハムスケの目の前に、天空から仮面をつけた魔法少女が降ってきた。
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