第27話 新たな試練
アインズとモモンが同じ馬車にて、魔導教団本部の訓練施設を目指している頃、イビルアイ達は、他の兵士達と共に徒歩にてその場所へと向かっていた。
「ラキュース。」
イビルアイが並んで歩いているラキュースの名を呼ぶ。
「何?イビルアイ。」
「ガガーラン達は、まあ、軽い気持ちだと思うが、本気でモモン様の配下になるつもりだ。しかし、お前は違うのだろう?」
「…そうね。私は、あくまでモモン様に仕えるというよりは、近づく口実が欲しいという所ね。」
「!!!!」
(もしや、ラキュースもモモン様を慕っているのか‼どうすればいいんだ…。
私とモモン様の関係を知れば、ラキュースを傷つけてしまう。私は何と罪作りな女なのだ…。ここは、ラキュースが傷つかないように伝えなければ…)
「今後、魔導国と王国の間に戦争が起こる可能性があるわ。そうならないため、モモン様に魔導国と王国の仲介をお願いしようと思うの。」
ラキュースは説明するが、イビルアイからの反応はない。
「イビルアイ。どうかした?」
「は、れ?」
思考が別次元に飛んでいたイビルアイは、ラキュースの声で現実世界に戻ってくる。
「なんだ?」
イビルアイは聞き返す。
「だから、モモン様に仲介をお願いするという話よ。」
「仲介だと…」
(ラキュースのヤツ。よりにもよってモモン様との仲を私に仲介してほしいといっているのか…。どうすればいいのだ。ますます言いづらくなってしまったではないか…)
「すまん。残念ながら私にはできない。」
「わかっているわ。これは私の問題よ。あなたには関係ないわ。」
(無茶苦茶関係あるわぁ‼)
「…しかし、モモン様が受け入れるとは思えないのだが…」
(ここは、ラキュースのためにも諦めてもらわねば…)
「簡単ではないと思うけど、誠心誠意お願いするつもりよ。」
「な、なんだと…」
(ダメだ。こいつマジだ。誰よりもモモン様の魅力を知っている私ならわかっていた筈ではないか。モモン様がこの世界で一番カッコいいお方である事は!しかし、誠心誠意?)
「そのなんだ…誠心誠意とは具体的にどのような事をするのだ?」
ラキュースがどのような手段でモモンに告白するのかイビルアイは探りを入れる。
「そうね。まずは、二人きりで話し合いをするべきだと思うわ。」
「な、なんだと‼」
「そんなに驚く事?お互いに親睦を深めないと話が進まないと思うけど…」
「し、親睦だと?」
「そうね。まず、お互いに心をさらけ出して話さないとね。」
「さ、さらけ出すだと!」
(まずい!こいつは色仕掛けに出るつもりだ!)
ここでイビルアイの思考は別次元へ飛んでいく。
(モモン様は人間、そして私はヴァンパイア。ただでさえ、種族の壁がある。その上、私はモモン様を満足させるような女の体をしていない。モモン様はそんな私でも構わないと言って下さったが、(※言ってません)
人間の男は、女を感情ではなく、本能で求めるという。英雄、色を好むとも言うし、ラキュースは私から見ても、人間の男からしたら魅力的な体をしていると思う。ラキュースに求められたら、もしかしたら、モモン様も体を許してしまうのではないか?)
「イビルアイ。どうかした?」
「い、いや、何でもない…」
イビルアイは別次元から帰還する。
「ラキュース。その件だが、私に任せてくれないか?」
「イビルアイ。しかし、これは私の問題よ。あなたに任せる訳にはいかないわ。」
「決して、悪いようにはしない。こういっては何だが、私はお前よりもモモン様と過ごした時間が長い。こういった事は、気心がしれた相手の方が話しやすいのではないか?」
「…そうね。…わかったわ。今回はあなたに頼んだ方が良さそうね…」
「…しかし、一つ言っておくが、モモン様のお気持ち次第ではその願い叶わぬものになる事だけは覚悟しておいてほしい。」
「…それは、仕方のない事だと思うわ。その時は、別の手段を考えるわ。」
「べ、別の手段とは⁉」
「ごめんなさい。これはあなたにも今は言えないわ。」
「そうか…」
(こいつ、ま、まさか、実力行使(夜這い)に出るつもりなのか…。なんて恐ろしい女なのだ。モモン様の貞操は私が守らなくては…)
そうこうしている内に、魔導教団本部の訓練施設に到着するのであった。
―魔導教団本部、訓練施設
魔導教団本部に隣接し、天候不順でも訓練が行えるよう、巨大なドーム状の屋根に覆われており、広さは百メートル四方以上はある。
その内装も豪華で天井部分には大きなステンドグラスがはめ込まれており、壁面は輝くような真っ白い塗装がなされていた。
この施設は、魔導教団の魔導騎士、魔導兵の中でも、選りすぐりの者しか踏み入れられない神聖な訓練施設として位置づけられていた。
聖戦後の聖王国は、戦争とは無縁となったため、兵士達のモチベーションが著しく、低下した。そのため、苦肉の策で選ばれた者しか訓練できない施設を造ったのだ。
そして、この訓練施設で訓練する者には、特別手当が支給されるようにした。
それにより、信仰のためか給金のためかわからないが、兵士達のモチベーションは向上した。
今では、この施設では、日々、百人を超える選りすぐりの兵士達が鍛錬を行っている。
しかし、その訓練施設には、その兵士達はいない。
なぜならば、これから、魔導王陛下立ち合いの元、モモン様の配下になれるかどうかの選抜テストが行われるからである。
訓練施設内では、魔導王を前にして明らかに緊張している親衛騎士団、魔導兵団の四十一人の兵士達が隊列を組んでいた。
その最前列には、レメディオス、レイナース、青の薔薇のメンバーの姿があった。
モモン、ナーベ、ネイアは魔導王の横に控えている。
「それでは、テストを始めるとしようか。」
魔導王の言葉に、皆、体を一瞬震わせる。
「それでは、改めて聞こう。このテストに参加を希望する者は手を上げてもらえないだろうか。」
魔導王のその言葉に、皆、一瞬不安な顔を見せる。
それもその筈だ。
超越者から出題されるテストがどのような過酷なものになるのか誰も想像できないからだ。
しかし、その兵士達、レメディオス、青の薔薇のメンバーは迷いなく、その腕を高々と天へと上げる。彼らの目は、狂信者のような何かを信じる真っ直ぐ瞳をしていた。その手が一斉に上がるのを見た後、レイナースが恐る恐る手を上げた。
「そうか。わかった。では、全員という事でいいな。」
魔導王は、そう言うとネイアを見る。
「ネイア嬢。それではテストを始めよう。」
「魔導王陛下。それは、どのようなテストなのでしょうか?」
ネイアは恐る恐る聞く。
「鬼ごっこだ。モモンと彼らのな。」
魔導王のその言葉に、周りは静寂に包まれる。
「鬼、ごっこですか?」
ネイアは聞き間違いをしたのではないかと思い聞きなおす。
「ああ、鬼ごっこだ。」
魔導王は同じ言葉を繰り返す。
「しかし、それはモモンが適用するルールであって、相手側は普通に戦闘を行ってくれて構わない。」
「それは、どういう事でしょうか?」
「モモンは一切、相手に攻撃をしない。相手は、魔法だろうが、飛び道具だろうが、剣だろうが、攻撃をして構わない。そして、一撃でも当てる事が出来たなら、彼ら全員、合格という事だ。」
魔導王の言葉を、皆、目を丸くして聞いていた。
「しかし、モモンが体に触れたらその人物はアウトとして、退場して頂こう。モモンが全員を捕まえたらテスト終了だ。」
「魔導王陛下、それでよろしいのですか?それではあまりに不利なのではないですか?」
ネイアは思わず口を出すが、すぐに魔導王の意図を察する。
(そうか。アインズ様は、みんなを合格にしてあげようとされているんだ。なんてお優しいのだろう。)
その言葉に、魔導王―アインズ・ウール・ゴウンは反応する。
そして、言った。
「そうだな。それではあまりに不利だったな。それではモモンが後ろから肩を叩いたらに変更しよう。」
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