第26話 反省会
王国でヴァンパイアの襲撃が始まった頃、アインズは、ナザリック地下大墳墓内にて遠隔視の鏡を使ってその様子を観察していた。
遠隔視の鏡には、マーレがメテオフォール〈隕石落下〉を発動しているのが映し出されていた。
(マーレが魔法を詠唱しているにもかかわらず、それを妨害する気配がない。どうやらプレイヤーは、この中にはいないようだな。)
そして、マーレのメテオフォール〈隕石落下〉が発動し、ヴァンパイアの軍勢が屠られる。
(どうやら、これで決着がついてしまいそうだな…)
その時、遠隔視の鏡にイビルナイトの召喚が映し出される。
(ほう、中位悪魔召喚か…。どうやら一筋縄ではいかないようだな。)
そして、問題の”はみ出し”事件が勃発する。
「アイツ、やりやがったぁ‼‼」
思わず、アインズは声に出して叫ぶ。
至急、ナーベにメッセージを飛ばす。
―ナーベラル・ガンマよ。
―はい。アインズ様。
―聞いていたか?
―何のことでしょうか?
―パンドラズ・アクターが武人武御雷になる事をだ。
―いいえ、聞いておりませんでした。
―…そうか。
―如何いたしましょうか?
―何をだ?
―コピーとはいえ、至高の御方のお姿を見たガガンポ共を放置できません。滅ぼしますか?
―待っ‼待て待て‼救援に行った者が護るべき対象を滅ぼしてどうする‼
―しかし…。苦痛です。
(ナーベラルを創造した弐式炎雷さんと武人武御雷さんは仲が良かったもんな。ナーベラルにしたら、親戚の伯父さんみたいな存在なのかな…。って、それでも滅ぼしちゃまずいだろ‼)
―と、とりあえず、今回はあくまで救援としての責務を果たせ。それと、これからパンドラズ・アクターが何かおかしな事をした際は、すぐ、私に連絡するように!以上だ。
―はい。畏まりました。
聖王国での戦いが終わった後、ナザリック地下大墳墓第九階層の執務室にてアインズは一人、考え事をしていた。
議題は当然、『アイツ(パンドラズ・アクター)をどうしようか』問題である。
(アイツにも責任があるが、元はといえば、それを許可したはこっちだしな。
それに任命責任はこっちにあるし、一方的にアイツを責めるのは、間違ってるよなぁ。
こっちから出張を頼んでおいて、お前使えないから本社に戻ってこい、とか言われたら自分だったら間違いなく凹むよな。)
(そうだ!出張先で『後の仕事はこっちで引き継ぎますから、ありがとう御座いました』的にすれば、それほどダメージは受けないんじゃないかな?)
(そうすると、斬神刀皇の回収を兼ねて、次はコキュートスを派遣する方向で調整するか。後は、カスポンド・ドッペルゲンガーに話を通しておけば丸く収まるよな。)
そう決断したアインズは、カスポンド・ドッペルゲンガーにメッセージを飛ばす。
翌日、魔導国のエ・ランテルの執務室にてアインズは、日課となっているビジネス書の読書に励んでいた。
当然、アインズ当番のメイドにバレない様に表紙は別のものに変えている。
(帝王学って、難しいよなぁ。実際、ケースバイケースだし、結局、実践の積み重ねが重要とか書かれてるし、その実践がわからないから勉強しているのに…)
そうしている中、アインズにメッセージが入る。
―アインズ様。
―どうした。ナーベラル・ガンマよ。
―聖王城内の様子を遠隔視の鏡で見ておられますか?
―いや、見ていないが何かあったのか?
―はい。パンドラズ・アクター様がまたしても暴走しております。
―な、なんだと!何があった?
―はい。モモンに更なる裏設定を追加致しました。
―な、に?裏設定だと?
―はい。証拠隠滅の為、ここにいるガガンポ共をすべて滅ぼしますか?
―ちょ、待て‼お前はすぐに滅ぼすとか言うな!
アインズは、急いで遠隔視の鏡を起動する。
その様子を、アインズは掌で顔面を覆いながら見ていた。
(アイツ、一体どこまで黒歴史増やせば気が済むんだ…)
更に、その結末は、昼ドラ真っ青の自殺を仄めかして懇願する女という衝撃的な展開に発展していた。
(別に、この女が死ぬのはいいのだが、この状況で死なれると間違いなく黒歴史の一ページになるな…)
アインズは、即座に転移魔法を発動する。
黒い靄の中から魔導王アインズ・ウール・ゴウンがその姿を現す。
昼ドラ展開からの神降臨で、その場は静寂に支配された。
自殺を仄めかしていたレメディオスも動きを止め、立ちつくす。
「モモンよ。」
アインズはモモンの名を呼んだ。
「は‼魔導王陛下‼」
モモンはすかさず、アインズの目の前でひざまずく。
「お前の主は誰だ?」
「魔導王陛下、あなた様で御座います。」
「そうだな。それではお前の配下については私に決定権があるという事でよいか?」
「はい、間違い御座いません。」
「そうだな。それでは、お前の配下になりたいというものにテストを受けてもらうというのはどうだろうか?」
「テスト…で御座いますか?」
「そうだ。足手まといは要らないという事であれば、足手まといになるかならないかのテストを実施する義務がお前にはあるのではないか?」
「はい。陛下の仰る通りで御座います。」
大広間のすべての者が魔導王とモモンのやり取りを見つめていた。
そこには、歴然とした主従関係があった。
そして、そこにいるのは、間違いなく王とその配下であった。
「ネイア嬢。」
アインズは、ネイアを呼ぶ。
「は、はい。魔導王陛下。何でしょうか!」
「どこか、王都内に戦闘が行えるような施設はあるか?」
「はい。御座いますが、どれくらいの広さが必要でしょうか?」
ネイアは質問する。アインズの戦闘がネイアの想定する戦闘とはかけ離れている事を理解しているからだ。
「そうだな…。弓矢や魔法等の使用も考慮した上で数十人程度が同時に戦闘が行える広さがあれば構わない。」
「それでしたら、魔導教団本部の訓練施設でしたらそれぐらいの広さはあると思います。」
「そうだな。ではそこでお願いしようか。」
アインズ達は、魔導教団本部の訓練施設へと向かう。
魔導教団本部の訓練施設に向かう際、魔導王とモモンは同じ馬車に乗りこんで向かう。その馬車内で魔導王とモモンの話し合い(反省会)が始まった。
「パンド…いや、モモンよ。」
「はい、なんでしょうか?父う…魔導王陛下。」
「いや、今回はいろいろ苦労を掛けてすまなかったな。」
(まずは、部下の功績を労う、と。例え、やらかしてしまったものでも、決して頭ごなしに責めてはならない。なぜなら、人間(?)は誰でもミスはするものだ。)
「勿体なきお言葉。魔導王陛下のご期待にそえるように努めるのが我が使命であります。」
「そうか…では、どうして、はみ出したのだ?」
「はい。父う…魔導王陛下のご期待に応えようと思いまして…」
「そうか…」
(コイツなりにいろいろ考えてたという事か…。元の世界じゃ子供なんていなかったけど。子供が何かやらかしてしまった時の親っていうのは、こんな感情を抱いていたのかなあ。)
「お前、行った行為は決して間違ってはいないぞ。まあ、いろいろと問題があったのは確かだが、お前が良かれと思って行動したのだから、それはそれで正しい行為であったと私は思う。」
(部下の行動を、理念を決して否定してはいけない。それを理解した上で、それを正しい方向に導く。って言われても、正しい方向ってどこなんだろう…)
「有難う御座います。父う…魔導王陛下。このパンド…モモンは、嬉しゅう御座います。」
「それで…。パン…いや、モモンよ。どれ程の裏設定をモモンに盛り込んだ?」
「裏?設定でございますか?」
「ああ。ナーベラルから少し聞いているが、いろいろモモンに設定を追加したらしいな…」
「はい。まあ、まずはモモンが架空のお伽話の王子という設定を盛り込みました。」
「は?」
「いえ、あくまで架空の設定ですから、モモンの設定に影響は御座いません。」
「ど、どういう設定を盛り込んだのだ…」
「はい。モモンがヴァンパイアを追っているという設定でしたので、その理由付けのため、家族を殺された王子というお伽話を盛り込みました。」
「…そ、そうか…他に無いか…」
「そうですね。後は、先程、カスポンド・ドッペルゲンガー殿が任務を引き継ぎたいとの事でしたが、それは困るのでモモン設定に少々脚色をした程度でしょうか。」
「…どのような脚色をしたのだ?」
「はい。至高の御方々の武器を人間に使用させないため、その武器を使用すると命が奪われる的な設定を追加させて頂きました。」
「…そうか…。それならばなぜ、武御雷八式と斬神刀皇を持ち出したのだ。それがなければ、そのような設定は行わずに済んだであろう。」
「それは、父う…魔導王陛下が、全力で対処せよと仰られましたので…」
その言葉を聞き、アインズは沈黙した。
(そうだな。すべては私の責任だな。パンドラズ・アクターは、私の命令に従ったに過ぎない。コイツはコイツなりに全力で私の為に尽くそうとしてくれたのだ。)
「そうか。わかった。すべて私が悪かった。」
「い、いえ、アインズ様に失態などある筈が御座いません。何か不都合があったならば、すべて私の責任です。」
パンドラズ・アクターが扮したモモンは、ひざまずき許しを請う。
(こんなの支配者失格だよな。頑張っている部下に謝らせるなんて…。ここは上司として部下に名誉挽回の機会を作ってあげないといけないよな。)
「パンドラズ・アクターよ。それではこれから行うテストでお前の力を見せつけてみよ。それで、お前の罪を許そう。」
「は、はい!有難う御座います!」
アインズ達を乗せた馬車は、魔導教団本部の訓練施設に到着した。
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