第18話 英雄の証明
雲一つない空の中、太陽の光が燦燦とネイアを照らしていた。
いや、雲のない空にいるのではない、ネイア達は今、雲の上にいるのだ。
ネイア達を乗せたドラゴン達は、凄まじい速さで雲の上の空を駆けていた。
(凄い。凄すぎる。)
その速さも、そうだが最も驚くべきは、その高さであった。
(地上が、地図みたいに小さく見える。)
ネイアがドラゴンの背の上から見渡すと、すでに先程までいた魔導国は見えなくなっており、ネイアが”魂喰らい”で一日掛けて越えた山脈を、わずか三十分ほどで越えていた。
魔導国を出発してから、わずか二時間足らずで聖王国領内まで到達していた。
そして、あっという間に、王都ホバンスが上空から見えてくる。
その時、ドラゴン達は、その速度を落とし始めた。
ドラゴン達は、王都の真上に来ると、飛行状態を停止飛行へ切り替える。
そして、ネイア達が会話できる程の距離までお互いに近づいた。
「モモン様‼このまま、ドラゴンに乗った状態で王都に降り立つと、国民が動揺致します。王都より離れた場所に着地致しましょう‼」
ネイアは、ドラゴンの羽音に負けない様大きな声で叫んだ。
「もう遅い。見て見ろ。」
モモンの大きくも野太い声を聞き、ネイアはその優れた視力で王都の様子を窺う。
王都ホバンスの街並みからは、何本かの煙が立ち上っていた。
街道には、街の住人達が溢れ出していた。
大きな荷物を抱えるの者。
子供の手を引いて歩いている者。
大きなハンマーを持って走っている者。
―様々な住人が街道に溢れ出していた。
そして、その住人たちが目指している先は、聖王の城であった。
「こ、これは一体…」
「やはり、暴動が起きていたか。」
「しかし、モモン様、聖王様は秘密裏に行動していたはずです。」
「人の口には戸は立てられんよ。そもそも、兵士達は自分の家族だけには生き残って欲しいと願うはずだ。」
(その通りだ。考えが甘かった。)
「それでは、これからどうすればいいでしょうか?」
これからどうすればいいかわからないネイアは、モモンに回答を求めた。
「そうだな…」
モモンはこれからの作戦をネイアに告げる。
聖王国の王城南門には、多くの国民が詰め掛けていた。
「し、城の中に入れてくれぇ‼」
「聖王‼出てこい。説明しろ‼」
「どうかこの子だけでも中に入れて下さい‼」
様々な人々が、門の外側を取り囲み叫んでいた。
「皆さん‼ヴァンパイアの襲撃などありません‼即刻、門から離れて立ち去って下さい‼」
門の城壁の上に立っている門兵が大声で叫ぶ。
「嘘言え‼こっちは知ってるんだぞ。」
「早く、中に入れてくれ~」
城門に訪れた多くの国民たちは一切、引き下がらなかった。
国民たちは、城壁の門兵に向かって、ビンや石や、カナヅチなどを投げる。
さらには、大きいハンマーや斧で、門をこじ開けようとしていた。
「どうしましょう⁉隊長。このままじゃ侵入されます。」
門兵は、後ろに控えていた上官らしき兵士に話し掛けた。
「門の後ろにバリケードをつくって防ぐしかないだろう。」
「しかし、この人数だとすぐ破られてしまいます。」
門の外の国民は、少なく見積もっても二万を軽く超えていた。
「ここ以外の門でも同じような状態になっています。いっそ、開門してしまうのは、どうでしょうか?」
「バカ言うな!こんな人数この城に入り切れる訳ないだろ!開門したらさらに混乱が広がって死者が出るぞ‼」
その言葉に、門兵は何も言えなくなった。
そんな中、門に群がっていた国民に降り注いていた太陽の光が大きな影に遮断される。
先程まで大声を上げいた国民達が、その影に気付き、空を見上げて言葉を失った。
―バサ、バサ、バサ、バサ、バサ、バサ
天空から、自分達では絶対勝てない存在―
―ドラゴンの姿をその目で捉えて
空を舞っていたドラゴンは、南門のすぐ傍まで迫って来ていた。
そして、ドラゴンは、門から橋を隔てた対岸の地面へと着地しようと降りて来る。
暴動を起こしていた国民達は、その下敷きになるまいと逃げ惑う。
「ドラゴンだー‼」
「逃げろー‼」
その場は、(暴動+ドラゴン)でまさに地獄絵図のような混乱状態に陥った。
ドラゴンは人々が立ち去った地面にゆっくり降り立つと、橋に取り残された母子に目を向ける。
取り残された母子は、その恐怖によって震えて一歩も動けない状態に陥っていた。
周りで見ている人々は、その母子に訪れる惨劇を理解しながらも助けようと飛び出せるものはいなかった。
そのドラゴンが母子に向かってその鋭い牙を剥き襲いかかる。
その時だった。
―ズン‼
その音と共に、そのドラゴンと哀れな母子の間を隔てるがごとく一本の漆黒に輝く巨剣が突き刺さった。
その光景に、今まで叫んで逃げ惑っていた人々の声が一瞬止まる。
そして、天空より漆黒の騎士が舞い降りた。
国民達は、まるで絵本か吟遊詩人の歌の中のような光景に息を呑む。
すかさず、天空より舞い降りた騎士は、襲いかかってきたドラゴンの頭部を、持っていたもう一本の巨剣で薙ぎ払う。
「ギャァァァァァ。痛!」
その一撃を喰らったドラゴンは、大きな鳴き声を発して倒れこんだ。
「おおおおお‼」
「すげーーー‼」
周りのすべての国民から、いや、城兵にいる兵士達からさえも歓声が上がる。
「みなさーん‼聞いて下さーーーーーい。」
その周辺に、大きな声が轟いた。
周りの国民、兵士達は、その声がする方へと目をやる。
すると、建物の屋根にマイクを持ったネイアが立っていた。
ネイアは、聖王国ではいつもつけていたミラーシェードを装着していた。
現在の聖王国国民でネイアを知らない者は存在しない。
「ネイア様だ‼」
「ネイア様‼」
「ネイア様‼」
周りには、ネイアコールが響き渡った。
「みなさん。聞いて下さい。」
その声で、周りの騒ぐ声は収まりを見せる。
「今日の夜、ヴァンパイアの襲撃があるというのは本当です。」
ネイアの一言に、収まりを見せていた国民達は騒ぎ始めた。
「ネイア様‼どうすればいいんですか‼」
「魔導王陛下は我々をお救い下されないのですか‼」
「お助け下さい‼」
「皆さん。安心してください‼魔導王陛下は我々を見捨てはしません‼」
その言葉で、また、周りの騒ぐ声は収まりを見せる。
「私は、先程まで魔導国に居ました。そして、魔導王陛下に聖王国の救済をお願いしたのです。」
その言葉を聞くと、多くの国民が魔導王陛下の姿を探そうと周りを見渡した。
「その願いは聞き届けられました。そして、魔導王陛下から遣わされたのがそちらの漆黒の英雄、モモン様なのです。」
その声を聞くと、国民の皆の目線がモモンへと集中する。
その時、倒れこんだドラゴンが突然起き上がり、口から冷気の息を吐いた。
その冷気の息は、モモンとその母子に向かっていく。
母子を含む、そこにいた国民のすべてがその母子の死を覚悟した。
その瞬間、モモンは片手に持ったその巨剣を高速で回転させる。
モモンは、回転した剣で発生した盾によって、いとも容易くドラゴンの冷気の息を吹き飛ばした。
「‼‼‼」
それを見ていたすべての国民が絶句する。
人間では太刀打ちできない地上最強種族の攻撃を軽く防ぎきったのだ。
驚かない方がおかしい。
「私にそのような児戯は通用しないぞ‼」
英雄モモンが雄々しく吠える。
国民の皆がその雄々しさに歓声を上げた。
次の瞬間、モモンは剣を逆手で持ち、ドラゴンに向かって目にも止まらない速さで踏み込んだ。
「喰らうがいい。強き者よ。
モモンストラッシュ‼〈英雄の一撃〉」
その声と共に、ドラゴンを脇を高速ですり抜ける。
そして、モモンはその場で動きを止めた。
それと同時に、ドラゴンも微動だにしない。
一瞬の静寂が訪れる。
その静寂は、崩れ落ちたドラゴンの凄まじい音で解かれた。
周りの人々は確信した。
自分達の目には見えなかったが、あのドラゴンに凄まじい攻撃が浴びせられたのだと。
多くの国民から歓喜の歓声が上がる。
モモンは動き出すと、最初に突き刺した巨剣へと向かい、それを引き抜いた。
モモンは、ゆっくりと倒したドラゴンの背に昇る。
そして、引き抜いた剣を天へと翳す。
「聞け‼聖王国の国民よ‼」
モモンの雄々しい声に、周りの国民や兵士達も沈黙する。
そして、モモンの声に耳を傾ける。
モモンはオーバーアクションで両手にその巨剣を構えて叫ぶ。
「私は、魔導王陛下が配下、モモン‼ 魔導王陛下の命にてヴァンパイア共を討伐するために来た‼」
さらに、オーバーアクションで巨剣を交差させて吠える。
「安心するがよい‼魔導王陛下の名に懸けて誓おう。ヴァンパイア共を滅する事を‼」
モモンの言葉に、聖王国の国民は皆、押し黙る。
暫くの静寂の後、
「モモン様‼どうか聖王国をお救い下さい‼」
「モモン様‼」
「モモン様‼」
「モモン様‼」
モモン様コールがその周りに響き渡った。
その後、南門の暴動は次第に収まっていった。
モモンは、「ドラゴンは死ぬと呪いを発生させる可能性がある」と言って、門兵達と共に、倒れたドラゴンを城の中へと運び込んだ。
ドラゴンを城の中に運び込むとモモンは倒れこんだドラゴンに話し掛ける。
「ご苦労だったな。ヘジンマール。」
その言葉に死んだふりをしていたドラゴンがムクッと首を起こす。
「モモン様~最初の一撃痛かったですよ~」
「すまなかった。でも、いい演技だったぞ。」
その時、後ろからネイアが小走りでモモン達に向かってきた。
「モモン様‼上手く行きましたね。」
「そうだな。」
「これで、暴動はなんとかなりそうですね。」
ネイアは、嬉しそうな声で答えた。
その頃、ナザリック地下大墳墓内にて遠隔視の鏡を使ってその一部始終を見ていたアインズは、自分の顔に両手を当ててうずくまっていた。
(あいつ、早速やらかしやがったぁ~~~)
アインズは、最速で人選を誤った事を認識した。
(これって、まんまヒーローショーじゃん‼)
アインズは、その恥ずかしさで狂い死にしそうになっていた。
ここでピンと来ていない方に補足しよう。
もし、後〇園のヒーローショーに自分の父親や、息子が実名で出演していたらどう思うだろうか?しかも、臭いセリフを吐いて。それはもう、居たたまれない気持ちにもなるのは請け合いである。
アインズは精神が狂い死にする寸前に抑制される。
(ほんと、この体じゃなかったら、とっくに精神が天に召されていたな。)
アインズは、アンデッドの体に感謝した。
(ま、まあ、これで暴動は収まったわけだし、終わり良ければ総て良しという事で、納得するしかないか…)
アインズは、パンドラズ・アクターの行動に一定の理解を示す。
しかし、アインズはまだ知らない。
このヒーローショーが北門、東門、西門、正門であと四回開催されることを…
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