第12話 謁見の間(アインズ編)
エ・ランテルにある魔導王の城の執務室で、アインズは顎に手を当てて思案を巡らせる態勢をとっていた。
部屋のドアの脇には、今日のアインズ当番のフィースが立っている。
フィースは、そのアインズの姿をうっとりとした表情で見つめていた。
(ああ、今日のアインズ様も素敵。今、この世のすべての世界情勢の事でも考えられてられているのでしょうか。)
そんな思いを馳せながら、今の情景を後でスケッチブックに描くべく、その姿を眼に焼き付けていた。
しかし、実際は、アインズは心の中で、両手で頭を抱えて首を振って悩んでいた。
(ああ、急に聖王国から使者が来るってやっぱ、あの事かな~)
アインズは、心の中に思い当たる原因がいくつかあった。
そう、デスナイトを一体、月、金貨五十枚で貸している事である。
(やっぱり、五十枚は高すぎだよね。農村では最初、無料でレンタルしてたし、今でも農村だと月、金貨十枚で貸してるから、バレたらクレーム来るよなぁ。オマケでスケルトンを値引きしてレンタルしたけど。それでも怒るよねぇ。)
アインズは心の中で頭を机に打ち付ける。
(いや、それとも物資支援の件かな。実際は、聖王国から奪った物資を少しずつ返しているに過ぎないから。バレたら絶対、怒るよなぁ。)
(いや、まさか先のヤルダバオト計画の時に、いろいろ壊しちゃったからなぁ。もしかして、いまさら損害賠償とか?)
―と考えれば切りがないほどであった。
(とりあえず、話を聞いてみないとしょうがないか…)
アインズは心を決める。
(そうだ、とりあえず、あいつに様子を見てもらうか!)
アインズは、即座にメッセージを飛ばし、パンドラズ・アクターを呼び出した。
アインズは、遠隔視の鏡で城内に入ってきた聖王国の使者の様子を窺う。
(ネイア・バラハは、ともかく、何だあの包帯グルグルのは?それに青の薔薇のメンバーもいるし…)
そんな中、アインズにメッセージが飛んできた。
―アインズ様。
―どうした。パンドラズ・アクター。
―この中に、二名、呪い受けている者がおります。
パンドラズ・アクターには、透視マジックアイテムを装備させていた。
―如何、致しましょう?
―そうだな。今、呪いを解除できるアイテムは持っているか?
―はい、一つだけ所持しております。
―一つだけか?
―はい。
(どうしようかなぁ。でも、クレームの事を考えると、恩を着せといた方がいいか。)
―パンドラズ・アクターよ。呪いを解除してやれ。
―はい。どちらの方にしましょうか?
アインズは一瞬悩む。
―とりあえず。その者達に聞いてみよ。最初に名乗り出た方の呪いを解いてやれ。
―はい。畏まりました。
使者として訪れたネイアの用件を聞き、取り合えずアインズは安心した。
(よかった。クレームじゃなかったのか~)
しかし、その内容を思い出し、心の中で思案を巡らせた。
(ヴァンパイアの軍勢か。ユグドラシルでは、低位のヴァンパイアは通常、仲間をそこまで増やせないように制限が掛かっていた筈だ。この世界でもそうとは限らないが。しかし、そんなヴァンパイア軍勢を率いられるとしたら―)
―真祖(トゥルーヴァンパイア)
(真祖のクラスを得るには、レベル80以上は必要だ。もし、このヴァンパイアの軍勢を操っているのが真祖の場合、この世界では、まだ会ったことのない強敵となる。)
―それに、カルカの復活。
(ヴァンパイアにするためには、まず、人間としての体を成していないといけない。カルカは確か、ヤルダバオトの計画の時、ほぼ、遺体を残さない程の損傷を負わせた筈だ。もし、その状態から蘇生したと考えると、第九位階信仰系魔法”真なる蘇生”以上の魔法を使ったことになる。まあ、マジックアイテムで代用したかもしれないが…)
この二つを考えると、間違いなく強者が関わっている。
それに、聖王国でそのような事をするとは、デミウルゴスから報告は、受けていない。
(―そういえば、最近、シャルティアが会いに来てないなぁ。)
ふと、もしかしてシャルティアが裏で糸を引いているかと、一瞬思ったが、シャルティアは、ナザリックから外出はしていないし、軍勢を動かす場合は、アインズの許可がいるので、それはあり得ないと。可能性から外した。
(問題は‥‥誰を、派遣するか?だよな‥‥)
アインズは迷う。
最初は、自分が!とも思ったが、先の避難訓練で、自分に何かあった場合、本当にナザリックが崩壊するという事を、嫌でもわかってしまったのだ。
そうなると、万が一何かあったとしても復活できる階層守護者達の中から選抜した方がいいだろう。
―デミウルゴスは、他に抱えてる案件が多すぎる。
―コキュートスは、リザードマン以外の部族も統治してるし、
―シャルティアは、ヴァンパイア対ヴァンパイアって何かよくわかんない事になりそうだし、
―アウラとマーレは、ありかもしれないな。でも、相手がシャルティアを洗脳した者達だった場合、危険が伴う。洗脳された時のリスクが高すぎる。
あとは…
アインズが、そうこう思案している時、突然、声を上げる者がいた。
「この件、このモモンにお任せ頂けないでしょうか?」
それは、アインズの眼下に控えていたモモン―に偽装したパンドラズ・アクターであった。
―パンドラズ・アクターか…ありかもしれない。っていうかアリだ。
確かにコイツの能力なら、応用が利くし、もし洗脳されても、他の守護者と違って、即座に対応できる。
なにより‥‥他の守護者なら殺し難いが、コイツなら、五分以内に間違いなくヤレる。(心情的にも)
「―そうだな。お前が適任だな。」
ネイア達との謁見が終わり、謁見の間には、アインズとパンドラズ・アクターだけとなった。
「パンドラズ・アクター。さっきはなぜ志願したのだ?」
アインズはパンドラズ・アクターに当然の質問をする。
「はい。ラナー王女の書状にそのような記載が御座いましたので、てっきり、アインズ様のご指示かと?」
「え?ラナー王女?…」
まったく心当たりのない事を言われ一瞬動揺したアインズは、すぐさま抑制される。
抑制されたアインズは、何事にも動じていない装いで切り返す。
「そ、そのラナー王女の書状には何が書かれていたのだ?」
「はい、”書状にヴァンパイアの情報が記載してあるという事を、青の薔薇のメンバーに伝えてほしい”という事と。”聖王国から救援要請があった場合、モモン様を派遣すると面白くなると思います”といった内容でした。」
「ほう…。そうか…。」
とアインズは冷静に応じるが、内心は、
(ラナー怖ぇぇぇぇぇ‼)
であった。
「ま、まあ、私も同意見と言った所か。」
再度、抑制されたアインズは平静を取り繕って述べる。
「それでは、どういたしましょう。アインズ様がモモンになられますか?それとも、私がこのまま対応致しましょうか?」
「そうだな。今回は基本的に、お前にすべて任そう。」
「はい、かしこまりました。」
「今回の敵は、かつてない強敵になる可能性がある。お前の能力を最大限に生かさねば、足元をすくわれかねない。」
「かしこまりました。全力で対処致します。」
パンドラズ・アクターはアインズに向かって一礼をする。
「そうだな。今回は、お前の好きに動いていいぞ。」
(いちいち、指示を出した場合、後手にまわる可能性がある。ここは、パンドラズ・アクターの明晰な頭脳を信じて、すべてを任せるべきだ。)
「好きに…でよろしいですか?」
「ああ、好きにで構わない。」
これが更なる黒歴史の始まりになる事を、アインズはまだ知らない。
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