第11話 謁見の間(ネイア編)


 先程の部屋を出て、天井高く荘厳とした通路は遥か先まで続いていた。


 そして、しばらく歩いたその先に、今まで見た事のないような巨大なドアが見えてくる。

 

 いや、ドアというのは語弊がある。


 これは審判の門だ。とネイアは思った。


 この門の先に、あの御方が居られると思うと、いろんな感情がネイアの中を駆け巡る。


 ネイアは知ってしまったのだ。


 この先には、我らを創造された神がいるという事を。


 ネイアは、思った。


 アインズ様なら、ヴァンパイアから私達を守ってくれる。と思っていたが、ヴァンパイアもアインズ様が創造されたものだとしたら、それは、自然の摂理。


―強い者が生き、弱い者が死ぬ。


 私はアインズ様からそう教わっていたではないか!


 「弱ければ、奪われる立場になる」と、


 自分の愚かさに、今気づいた。


 自分達は、聖王国の使者として救援要請に来た。という事になっているが、これは、審判だ。


 アインズ様の判断で、我ら、聖王国の民の生死が決まる。


 アインズ様が、慈愛に満ちた御方なのは、誰よりも自分が知っている。

 だが、それが自分達だけに向けられていると過信していた。


 なんと愚かなのだ。

 アインズ様に呆れられ、見放されてもしょうがない。


 そんな思いを抱いている中、門はゆっくりと開くのだった。


 門の開かれた先には、さらに開かれた幻想的な空間が広がっていた。


 天井は、その高さがわからない程高く、その天井を支える柱は、驚くほど太い。


 おそらく、我々、人間では創造できない建造物であると確信する。


 これは神の御業なのだ。


 謁見の間の左右には大きな旗が棚引き、揺れている。


 そして、門から続く、広く長く柔らかく煌びやか絨毯は、遥か先まで続いていた。


 その先の壮大な玉座に座るその神々しい姿見てネイアは、涙する。


―我等が神 アインズ・ウール・ゴウン。


 何と神々しいんだろうと、ネイアは思う。

 今、ここで死ねたらどんなに幸せなのだろうと、心から思う。


 しかし、ローブで力強く自分の涙を拭い、気持ちを切り替えた。


 自分には守るべきものがあると。


 そうだ、自分を信じている魔導教団の同志、聖王国の国民がいるのだ。

 ここで、挫けるにはいかない。


 何よりも偉大なる神に懇願する機会を得たのだから。


 そう思い、ネイアは気合いを入れて一歩を踏み出した。



「アインズ様、聖王国魔導教団教主ネイア・バラハ。お目通りをしたいとのことです。」


 ネイア達が、アインズ様の前に向かうとすると玉座の傍らにいた絶世の美女がその姿に見合う美しい声を張り上げた。


(アルベド様だ‼)


以前魔導国を訪れた際に会ったその美女の姿を忘れられなかったネイアは、心の中で叫んだ。


 この壮大な空間に入った当初は、アインズの姿しか見えていなかったネイアであったが、アインズが座る王座に近づくにつれ、周りの状況を把握する余裕が生まれていた。アインズの両脇には、従者と思われるダークエルフの少女達の姿があった。


 ネイア達は、玉座の階段のすぐ近くまで来たところで、ひざまずく。


 そして、頭を下げた後、顔を上げ、ネイアは言った。


「魔導王陛下、突然の面会に応じて頂き、誠に有難う御座います。」


 その視線の先には、会いたくて会いたくて会いたかったアインズ様のお姿があった。


「久しいな。ネイア嬢。元気そうで安心した。」


「は‼‼‼」


 その声を聞くだけで、ネイアの瞳から大粒の涙が溢れ出した。

 

 それを必死にローブで拭う。


「そ、それで、聖王国の復興はどうなっておるのだ?余のアンデッド達は役に立っておるか?」


「は、はい!陛下のアンデッドのお陰で復興を遂げる事ができました!」


「そ、そうか。それはよかった。それで、物資は足りておるのか?」


「はい!陛下の支援のお陰で国は豊かになっております。」


「そ、そうか。それはよかった。」


「では、今回はどのような用件だ?」


 アインズ様の質問にネイアは固まった。


「はい、実は…」





 ネイアは、自分が知る限りの情報を伝え、そして、懇願した。


 聖王国の危機の救済を。


 そうすると、アインズ様は顎に手を当てて思案を巡らせているようであった。


 おそらく、様々な種族のバランスを考えているのではないか。とネイアは思った。


 そう、食物連鎖である。


 一つの種が滅びると、他の種も滅びる。というものである。


 例えば、人間を食べる種族がいた場合、人間が絶滅したら、その種族も滅びてしまうのである。


 これは、我々、人間では踏み入れられない領域だ。


 我々、人間は、その判断を待たなくてはならない。



―そうした時だった。


 「その件、このモモンにお任せ頂けないでしょうか?」


 ネイア達の横に控えていたモモンが発言した。


 その声を聞いたアインズは、また、暫く顎に手を当てて思案を巡らせた後、答える。


「―そうだな。お前が適任だな。」


 続いて、アインズ様が言う。


「ヴァンパイア五万、十万程度、お前の敵ではないが、奇襲を考えると不安がある。」


 その言葉に、ネイア達、青の薔薇のメンバーが固まる。


「奇襲」とかそんな言葉にではない、「ヴァンパイア五万、十万程度」の方にである。


「ヴァンパイア五万、十万程度」は、一国の総軍事力に匹敵する。


 それをモモン一人で余りあるといっているのだ。


「そうだな。アウラ、マーレ。」


 アインズ様がそう言うと、左右にいた二人のダークエルフの少女達が返事をした。


「お前達、モモンの援護を頼む。」


「はい。アインズ様」


 二人は声を揃えて答える。


(え、こんな少女達だけでいいの?)


 と、ネイアは一瞬思ったが、アインズ様の指示に間違いなどあろう筈ない。


「そうだな。これでいいかな。ネイア嬢。」


「は、はい‼アインズ様の仰せのままに。」


 ネイアは、深く頭を下げる。


「そうだな。もう昼時だし、こちらで食事を用意しよう。食べていきなさい。」


「陛下、しかし、明日の夜にはヴァンパイアの襲撃が御座います。のんびりしているわけには…」


 アインズ様の心遣いは嬉しいが、そんな状況ではないと思い告げる。


「心配はいらない。逆にいえば、明日の夜には、ホバンスに着いていればいいのだろう?明日中に、私が責任を持って送り届けよう。今日は、旅の疲れを癒しなさい。」


「は、はい、かしこまりました。」


 元より、こちらには時間までに戻る手段がないのだ。アインズ様の提案に従う他ない。


 こうして、ネイア達は、食事の準備が整うまで、先程の応接室に待機させられていた。


 応接室で椅子に座って待っていたネイアは、アインズ様に再びお会いできた感動からか、夢見心地であった。

 自分が何か醜態を晒していなかったか、先程の謁見を思い返していた。


 そう言えば、最初に心配していたレメディオスが、一切、発言していない事に気がついた。というか、アインズ様に意識が集中していたので、周りの人間の行動を一切、把握していなかった。


 そう思い、レメディオスに目を向ける。


 レメディオスには、部屋の隅に先程のドレスの恰好で椅子に座っていた。


 ネイアは、その姿に驚く。

 衣服の方ではない。

 足を内股で組み、ナヨッとした女の子が座るような座り方をしていたのだ。

 掌で自分の頬を押さえて、顔を赤らめていた。

 間違いなく女の子がそこに居たのである。


(どうしたんだ!こいつ。)


 と思ったが、これまでの出来事を考えれば、鈍感なネイアでさえも、わかってしまう。


 レメディオスは、モモンに恋をしたのだと。


 そのモモンは、今、この応接室にはいない。


 先程の謁見の後、そのままそこに残ったのだ。


 今、ここにいるのは、ネイア達と青の薔薇のメンバー、そしてメイド達だけであった。


(アインズ様とモモン様、一体どんな話をされているのかな。)


 ネイアには想像がつかないが、神と人間の英雄の会談など、まるで神話の様ではないか、と思った。

 いや、これはまさに、神話なのだと今のネイアは知っている。


 そんな中、一人のメイドが部屋の入口のドアを開いた。


 その開かれた入口からモモンが颯爽と入ってくる。


 そして、ネイア達に向かってモモンは言った。


「食事の準備ができたようだ。私が案内しよう。」



























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