幕間
―聖王国の都市『カリンシャ』
それは、北の要所にして首都ホバンスから東に位置する大都市である。
そして、今ではヴァンパイア共の巣窟だ。
太陽が天高く燦燦と輝く昼下がり、日差しが照り付ける城壁に獣人アズロは立っていた。
「ヴァンパイアさん達は、いいねぇ。いつも日陰でグッスリだ。」
照り付ける太陽の日差しを手で顔を覆いながら、アズロは皮肉を言う。
そんな中、アズロに照らされる太陽の光を遮るように一つの影が高速で通り過ぎた。
そして、その影は大空を軽やかに舞いながらアズロに向かい迫っていった。
その影は、アズロの前で速度を落とすと、アズロの近くの塀の上へと舞い降りる。
―バサッ、バサッ、バサッ、バサッ!!
その羽音と共に、その影は、城壁の縁に舞い降りた。
「アズロ、タダイマ!」
舞い降りた影は、アズロに向かい叫んだ。
その姿は、大きな翼をしているが胴体は人間に近い。
胸はハト胸で膨らんでいた。
目は、鳥というより魚の目に近いが、頭部は鳥であった。
例えるならチョ〇ボールのキョ〇ちゃんの足が人間で、大鷲のような翼が生えているといった所であろうか。
生物感があると結構グロい。
その翼亜人―ルルは、自らのリーダーであるアズロに報告をする。
「おうルル、ご苦労様だったな。どうだ、周りに異常はなかったか?」
アズロにルルに尋ねる。
「異常ナイナイ!!」
ルルは翼をバタつかせて嬉しそうに答える。
「おう。じゃあ休んでいいぞ。お前、今日はもう飛べないだろ。飯なら、奴らの食べカスが倉庫にあるから適当に食って来い。」
「ワカッタ。イク!!イク!!」
そう言うと、ルルは嬉しそうに小走りをして倉庫へ向かう。
そうして、ルルは城壁の通路を進み、地下の倉庫室の前へと到着する。
そこには、ルルの仲間たちが奴らの食べ残しを貪っている姿があった。
「おお!!ルルじゃねぇか!!ご苦労だったな!!」
蛇王族―バロが食事を口から細かく吐き出しながらルルに向かって叫ぶ。
「バロさん。食事中ですよ。あんまり喋らないでください。」
そんな中、守護鬼族のグラギオスがバロに向かって冷ややかに口を開く。
「なんだよ!!食事でしかストレス発散できないんだからいいじゃねぇか!!」
バロがグラギオスに食って掛かる。
「バロさんは、食事中以外でも常にストレス発散してますよ…」
「なんだと!!やるか!!お前!!」
「いいですよ…。泣きを見るのはそっちだと思いますが…」
バロはその言葉を合図として自らの持っている斧を手に持ち、振り翳す。
そして、その斧を自らの足元に叩きつけた。
その斧は石畳に軽く刺さり、その石畳の上に自立して立つ。
そんな中、バロはその斧の柄からそっと手を放した。
「お前はどっちに賭ける?」
「バロさんはどっちに賭けるんですか?」
「そんなんお前の逆に賭けるに決まっているじゃねぇか。」
「じゃあ。私は右に賭けます。」
「じゃあ。俺は左だな‥‥」
二人がそうこうやり取りをしている間に、石畳に刺さった斧は、自らの重みで右に左にフラフラしていた。
その斧がフラフラ左右していた時、僅かに右に傾いた。
「やっぱ!!俺は右だ!!右に賭けるからお前は左に賭けろ!!」
「いやですよ。私が右に賭けたじゃないですか。」
「わかった。それじゃあ、左に変えて貰ったら何でもするから!!」
「わかりました。それじゃあ、しょうがないですね。左に変えてあげますよ。」
「すまない!!恩に着る!!」
―ガラン!!
その時、斧の柄が二人の眼前の左側に落下した。
そして、その場に静寂が訪れる‥‥
「ヨッシャー!!俺の勝ちだーーーーーー!!」
「そうですね…。バロさんの勝ちですね…」
「どうだ!!俺には逆らうんじゃないぞ!!」
「そうですね…。逆らいませんが、約束は約束ですから、一つ言う事を聞いてもらいますからね。」
そんなグラギオスの言葉に、先程の事を思い出したバロが怒り出した。
「何を言ってるんだ!!あんなん無効だーーーー!!賭けはこっちが勝ったんだからな!!」
「また、そういう事言うんですか‥‥。もう、私このやり取りは疲れました‥‥」
そんな両者が、またいがみ合いを始める。
「ケンカ、ヨクナイ!! ミンナ、ナカマ!! ナカマ!!」
そんな中、ルルは倉庫室中に轟く大声を張り上げる。
その大声に、バロとグラギオスが自らの耳を抑える。
大声の反響が収まった時、バロとグラギオスはお互い少し困った顔でお互いを見る。
そして、二人でルルの元に歩みよる。
「すまなかったな。ルル。でも、そうじゃなぇんだ…。俺らは別にケンカしてた訳じゃなぇんだ…」
バロはそう言うとルルの頭を撫でた。
「そうですよ…。まあ、いわゆるコミュニケーションって奴ですかね…」
グラギオスもそう言うとルルの首元を撫でる。
そんな二人の様子を見て、ルルは喜んだ。
「ミンナ、ナカヨシ!!ナカヨシ!!」
ルルは、心から喜びの声を上げた。
(ナカマ、ミンナスキ!!ルル、イママデ、ツラカッタ。
ミンナ、アウマデ、ツラカッタ…
デモ、ミンナ、アッテ、シアワセ!!
ダカラ、イツモ、イッショ!!)
そんなルルの巨大な瞳には、今にも流れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「ええ!!グ、グラギオスのせいだからな!!俺のせいじゃないからな!!」
「そんな…。こんな時ぐらいは自分の罪を認めて下さい…」
ルルを泣かせた罪を、お互いに擦り付けながら、また、いつものケンカが始まった。
そんな光景をルルは、満面の笑みで見守る。
「しっかし、暇だね~。」
カリンシャの城壁の淵に顎を載せてアズロは呆けながら呟く。
「これから、俺達…どうなるんだろうな…」
アズロは、カリンシャ城壁の前に広がる何もない荒野を見据えて口を開く。
そんな中、アズロはヴァンパイアに襲われた時の光景を思い出していた。
「さて、続きを始めましょうか?」
ヴァンパイアの若い兵士は、アズロは剣を向けて言い放つ。
「ま、待て!!お前達の目的はなんだ!!俺達を狩るためにここまで来たのか?」
アズロは、苦し紛れにその兵士に向かって尋ねた。
(奴らは、俺達が狙いじゃないと言っていた…イレギュラーだと…
ならば、ダメ元でこのバケモノ共と交渉できれば、俺達は無事に済むのではないか‥‥)
アズロはそう思いダメ元でそのチャンスに賭けた。
「へ、違いますけど?」
「じゃあ、目的はなんだ?俺達にできる事なら協力するぞ。」
アズロはこれまた、ダメ元で提案する。
「え~。本当ですか。助かるな~。じゃあお願いします。」
提案がこうもすんなり通るとは思っていなかったアズロは、いや、それを見ていた亜人達全員が啞然とした表情をした。
「僕達、これから人間達を襲うように言われているんですけど。仲間全員、夜型なんで、昼間の管理をお願いしてもいいですか?」
アズロ達を見据えて、ヴァンパイア若い兵士は満面の笑みで自分の要求を伝える。
その要求に答えた結果が今の現状である。
数日前は、俺達はいつ餓死してもおかしくない状況であった。
でも、ここでは…。奴らに従ってさえいれば、喰いカスが与えられるので、食には困らない。
まあ、いつ奴らの気が変わって、皆殺しにされるかわからないが…
この都市が占領される時、ヴァンパイアの戦いをこの目で見た。
そして、ここから逃げ出す事は、死を意味すると理解した…
面と向かって聞いてはいないが、おそらく仲間も、皆、同じ考えだろう。
今や俺達の生殺与奪権はヴァンパイアにあるのだ。
「俺達はこれからどうすりぁいいんだろ…」
アズロがそう言うと、アズロの頭部に感触に馴染みのある手が載せられる。
「男の美徳は悩むことよ…」
アズロの頭を撫でた者が小さく呟く。
その呟きに、目を瞑りながら自らの不甲斐なさを嘆いた。
そして、アズロは、何もない荒野に向けて自らの希望を、そして願いをその者に聞こえるように呟く。
「どこかに、ねぇかなぁ。俺たちみたいな外れものでも幸せになれる場所がよ…」
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