第5話 要約すると悪役登場?

 隣町と言っても、フィールドマップを移動するRPGのような仕様じゃない。

 幸いにも、ずっと町が続いてる。なんならいつクロモリの町に着いたか分からないくらいである。もうすでに住所的にはクロモリかもしれない。


「図書館っていうのは、どこなんだ?」

「あたしの記憶が確かなら、この先の森の中ね」

「なんだってそんな不便そうなところに?」

「馬車とか入れなくして、本の大量盗難を防ぐ目的があるらしいわ」

「結構シビアな理由だな。本を入荷するときは大変なんじゃないか?」

「いや、近くの図書館が潰れでもしない限り、一気に入荷することは無いでしょう」

「そうなのか」

 そういえば、この世界には印刷機の類もないのかもしれない。さすがに活版印刷の類はあるんじゃないかと思ったが、全部手書きコピーだったら大変だな。

 ということは、今度家からコピー機を持ってきたら大金持ちになれないだろうか? ダメか。持ってきてもコンセントがない。

「そういえば、メトレアは本とか読むのか」

「そんな風に見える?」

「見えない」

「でしょうね」

 結局読むのか読まないのか分からないまま、この話題が終了してしまった。まあ、暇なときに自己啓発本を読んで影響されたメトレアなんか見たくないが。


「お待ちください。そこのお二方」

 老人が俺たちを呼び止める。俺は立ち止まって訊ねた。

「どうした?爺さん」

「ああ、すみませんなぁ。ちょっと連れが事故に遭いまして、助けてほしいんです。裏路地に置いてあった資材が倒れてきて、下敷きに……」

「で、俺たちにそれをどかせっていうわけか」

「はい。幸い、痛いところは無いそうなのですが、動けなくなってしまって」

 そういうことなら、助けてやらなくもない。もともと俺は自分から人助けはしないが、頼まれたら断らない主義だ。できることは少ないけどな。

「まあ、メトレアがいたら楽勝だろう」

「いや、結局あたしかい!」

 メトレアのツッコミを受けつつ、その爺さんに道案内させる。建築資材が置いてあるって事は、何か建設中の建物の近くか?


「ねぇ。大丈夫なの?」

 メトレアが声を潜めて聞いてくる。また人見知りか?ただのジジイ相手に

「大丈夫って、何が?」

「いや、なんか怪しくない?この辺に建築中の建物は無いはずだし、この道も入ったことないわよ。行き止まりらしいし」

「いや、だったら何だよ?このジジイが何か企んでるとでも?」

「わしが、何を企んでるって?」

 俺が言ったことが、その爺さん本人にも聞こえたらしい。

「ああ、いや。すまない。俺たち別に……」

「いや、いいんじゃよ。気にせんでくだされ」

「そ、そうか」

 人のよさそうな爺さんは、笑って許してくれた。

「何しろ、本当の事じゃからな」

「え?」

「避けなさい!」

 メトレアが俺を突き飛ばす。

「危ねぇな。これ、揺らしたり傾けたりするなって言われただろう」

 依頼された薬の箱を見せながら、俺は怒る。依頼主から低調に扱えとあれほど言われたのに……


 ヒュカッ!


「……え?」

 俺たちがさっき立っていた場所に、矢が突き刺さる。

「ほぉ。よけるか。女にしては反応がいい」

 ジジイが髭をさすり、感心したように言う。その後ろからは大男が2人。そして屋根からはボウガンを持った男が2人。

 さらに、俺たちが来た方向から、こん棒を持った男が1人。合計5人が、俺たちを囲む。いや、ジジイを含めたら6人か。

「どういうつもりだ?」

「どうもこうも、最初からおぬしらを殺して、金品を奪うのが目的でな。わしらは盗賊じゃよ?」

 ジジイがにやりと笑う。最初からこれが目的か。周りの盗賊たちも笑い始めた。

「ぎひひひっ。まんまと騙されたな」

「運が悪かったんだよ。小僧」

「知られた以上、口封じはしないとな」

「この女は高く売れるんじゃないか?上玉だぜ」

「「「ぎゃはははははは」」」


 何がおかしいのか、盗賊は大声で笑った。

 そもそもこれだけの人数で俺たち二人を襲っても、大した分け前は無いんじゃないか?俺なんか金目のものも持っていないし、完全に営業赤字だぞ。

「と、いうわけで、死んでくれ」

 盗賊の一人が言う。決めたつもりなんだろうが、しかし、

「いや、喋っている間に、俺たちを殺したらよかったんじゃないか?」

 俺がそう言うと、盗賊たちはピタッと笑い止んだ。

「そういえば、そうだな」

「なんで俺たち、わざわざ冥土の土産に正体を教えているんだ?」

「俺、屋根から飛び降りちゃったけど、もしかして屋根の上からボウガン撃ってたほうがよかった?」

「俺も飛び下りちまった。いや、みんな楽しそうだったから、つい……」

 アホばっかだ。

「ええい、野郎ども!やっちまえ!!」

 ジジイが手を振って叫ぶ。


 残念だったが、たった5人じゃメトレアには勝てないと思うぞ。

「ねぇ。トーゴ。こいつら、殺していいんだよね?」

「まあ、大丈夫じゃないか?」

 この世界に殺人罪とか無いからな。それに

「あたしね。人間だと思っている相手に対しては人見知りだけど、虫けらは対象外なの」

 と、メトレアも言ってるし、な。

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