第2話

「綺麗……」

「え?」


 シルヴィアが露わにしたその素顔は顔立ちが整っており、とても美しいものだった。


「君は何も思わないのかい?この耳を見て」

「耳?ああ、少し長くてとがってますね」

「それだけかい?エルフに対して何も思わないのかい?」

「エルフって何か悪いことでもしたんですか?」

「ふふ、はははっ」


 シルヴィアが突然声をあげて笑い出した。


「ど、どうしたんですか!?」

「いや、まさか人からこんなことを言われるとはね」


 少し目尻に涙をためたシルヴィアは、少し間をおいて言葉を続けた。


「そうか、まるで君は私達の常識が通じないところから来たみたいだね」

「ええ、まあ間違ってはないんですが……」

「ん?」

「いえ、やっぱり何でもないです」


 ここで今、その話をしたらややこしくなると思ったアタルはそこで話を切り上げた。


「うむ、そうかい。まあいいや、この世界では人族が幅を利かせていてね。私たちエルフなどの亜人族と呼ばれる者たちは差別の対象なんだよ」

「……そうなんですか」


 シルヴィアが少し視線を落としながらいうと、アタルは少しテンションの下がった声で応えた。


「はは、なんで君がそんな悲しそうに言うのさ」

「ははは、なんででしょうね」


 アタルはそこで「そんなのおかしい!!」と声を上げれるほどできた人間ではない。

 だから、少し悲しく思った。少し彼女に同情した。


「まあ、君が私に対して普通に接してくれるだけでうれしいいよ」


 シルヴィアが本当にうれしそうに言った。


「あ、そうだ。おなか空いてない?」

「あ、はい。空いてます」

「じゃあ、今つくるね。ちょっと待ってて」


 そう言って、シルヴィアは料理を作り始めた。

 その間、アタルは座ったまま部屋の中を見回していると、一つの本を見つけた。

 背表紙には『アスクルの歴史』と書いてある。


「あ、俺にも文字が読めるな」


 アタルは席から立ち、本を手に取った。


「シルヴィアさん。この本読んでもいいですか?」

「ん?ああ、その本ならいいよ」


 シルヴィアの許可をもらい本を読む。

 アタルが読んだ本は人族の国『アスクル』についての歴史本だった。

 内容は、タイトルの通りにアスクルについての歴史がつらつらと書いてあるもの。

 アスクルという国は村から始まった国で、まだ人族が世界を掌握していなかった頃に異世界から贄を呼び出して、その贄を使うことにより魔物からの侵入を防ぐ防壁を築きあげ、そこに自然と人が集まり、国ができたというものだった。


「料理できたよー」

「あ、シルヴィアさん。この本軽く目を通したんですけど、この異世界からの贄って……」

「そんなことより、ご飯食べようよ。せっかく作ったんだから」

「そうですね」


 不自然に、だが自然にシルヴィアが話を変えたが、アタルはそれを疑問に思うこともなく、食事をとった。


 ***


 食事を終えて、しばらくアタルとたわいもない話をしていると、アタルは疲れたのかうとうととし始めた。


「今日はもう眠りなよ」


 それを見かねたシルヴィアが今日はもう睡眠をとるように促す。


「そう、ですね。今日は眠らせてもらいます。お先にすいません」

「気を使わなくてもいいよ、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」


 ベッドは一つしかなかったため、今日は疲れていたアタルがベッドをもらうことにして、シルヴィアはソファで眠ることになった。

 まだ、やっと夕方に入ったくらいの時刻で外も明るかったため、シルヴィアは眠ることはなく、一人机に向かい書類のようなものを書き始めた。

 書類には『贄01番』と書いてあったが、シルヴィアは一つため息をつくと、その書類をくしゃくしゃにまとめてゴミ箱に棄てた。


「はぁ、まさかあんなのが来るなんて……これじゃあ……」


 シルヴィアはどこか悲しそうに、申し訳なさそうに一人でうつむき「ごめんね」と誰もいない部屋でひとり呟いた。

 その言葉は、誰にも聞かれることはなかったが、この上ない罪悪感の籠った言葉だった。

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