白衣の内の欲望

目の前に映る彼女の眼は、今までみた凛とした目つきとは違う欲望に忠実な目。長いまつげと少し太目なまゆげ。きめ細かく白い肌。体を押し付ける強さは痛いほどなのに、押し付けられる唇のやわらかさにたまらない興奮を感じる。普段の落ち着いた様子からは想像できない情熱的なキスに酔いしれる。10秒ほどだったとおもうが、実際はもっと長く感じた。

体にかかる力が弱くなり、彼女との距離が開く。


「あ、えと、ちがうんです、こんなことするつもりじゃ、本当にごめんなさい」


赤く紅潮した顔が今度は青白くなる。ころころと変わる表情はどれをとっても魅力的で飽きない。さらに距離をとり背をむけ部屋から出ていこうとする。

俺は急いで追いつき、扉を開けようとする彼女の手をつかみ引き留める。後ろから引き留めているため表情はうかがえない。


「小室さん、待ってください」

「本当にごめんなさい! 無理やりなんて私最低でした。だからもう・・・」

「俺はうれしかったですよ。小室さんはとても魅力的な女性だと短い付き合いですけどそう感じてます」

「・・・本当ですか? 気を使ってませんか?」

「本当です。どうしたら信じますか?」

「・・・強くを抱きしめてくれませんか? それなら信じます」


それに対する答えは言葉でなく行動。腰に手をまわしぐっと引き寄せるように抱擁する。後頭部が近いため、女性らしさのあるシャンプーの香りが鼻を刺激する。


「さっきはあんなに大胆なことをしたのに、こんどは随分と可愛いお願いなんですね」


耳元でそう囁く。すると彼女は体をビクンとさせて驚くほど恥ずかしそうにする。これほどまでにリアクションしてくれるとからかいがいがあるものだ。彼女は何か言っているが、しどろもどろではっきりとは聞き取れない。あまり長すぎるとこっちがもたなそうだと思い、抱擁をやめる。


「これで信じましたか?」


もはや彼女は目も合わせてくれず、言葉も発さず恥ずかしそうにうなずくだけだった。


これ以上の発展も期待してなかったと言ったらうそになるが、俺も真面目に疲労を感じていたし彼女もポンコツロボットみたいになってしまったしでそんな雰囲気にはならず彼女は帰っていった。たいして女性経験もない俺にはキスしてからかっただけで今日は満足ということにしておこう。好きな食べ物は最後に食べる派だしな。しかし、男性専門医である彼女ですらあの恥ずかしがりようでは、ほかの女性はどうなってしまうのか。それとも小室さんが特別恥ずかしがりなだけか。

キスの感覚、後ろから抱きしめたときの感覚を思い出すだけで鼻の下がのびる。それと同時に彼女をからかったときに耳元でささやいたセリフを思い出した。まるで少女漫画に出てくるイケメンのやっすいセリフみたいで、今になってめちゃくちゃ恥ずかしい。中学生の頃の黒歴史を思い出す高校生みたいにベットで中で一人で悶絶した。

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