女医との約束
インターネットで調べた情報というものは信頼性が薄いし実感もない。生身の人間に語ってもらうほうが実感できるし詳しいことも聞けるだろうと考えた。ということで男性専門医の、たしか小室楓という女医さんに聞きに行くことにした。ナースステーションに行くまでもやはりというか男性がいないし、ものすごいジロジロ見られる。職員も女性しかいない。まあ偶然かもしれないけど。そしてナースステーションについた。
「あの・・・」
「は、はい! すぐに担当医を呼んできますね!」
すべて言うまでもなく、受付の看護師がすっ飛んでいった。すぐに小室さんがやってきて、とりあえず診察室に入った。
「桐島さん、御用でしたらナースコールでお呼びしてくださってかまいません。わざわざこちらまでありがとうございます。」
「ずっと病室にいるのもなんだか飽きちゃいまして。ききたいことがあったのでそのついでに少し歩きたかっただけです。」
「聞きたいことですか?検査結果でしたらもう少し時間がかかると思います」
「そのこととも関係することで話したいことがありまして」
自殺したということが真実なら、自殺して生き返ったと思ったら、俺はこの世界の住人じゃないんだなんて意味不明なことをいえば、下手したら精神病院に送られかねない。そう考え安易に記憶が曖昧なことにして、いろいろと聞くことにした。
「自殺したときの記憶もそうなんですけど、それ以外のこともどうも曖昧なんです。なのでいろいろと質問してもいいですか?」
「自殺以外の記憶もですか・・・・」
小室さんはしばらくいろいろと何かを考えていたようだが
「わかりました。できる限りお答えします」
「ありがとうございます。それで前にも聞いたんですけど男性が少ないというは本当なんですよね?」
「そうです。男性を構成する遺伝子に何らかの問題が見つかったのが今から百年ほど前で、それ以降男性の数は減少していて今では、千人に一人ほどの割合です。ですので、あまり病院内でもあまり他の方には話しかけないようにしてください。あまり免疫のない女性は話しかけられただけで好意だととらえる方もいますし、積極的がすぎる方もいますから。もちろん私は男性専門医ですから安心してください。」
そんな利発そうな彼女の端正な顔を崩したいいたずら心が半分、男が少ないことが真実かどうかをたしかめる思惑が半分で俺は実験してみることにした。
「こういうこともしないほうがいいんですよね?」
そう言い、向かい合う彼女の手を握る。もし俺がおかしいだけだったとしても手を握る程度のセクハラなら土下座でもすれば許してくれるだろう。逆に男が少ないことが真実なら彼女の説明した話しかけるだけでも危ないということを聞いてなおそれ以上の行為をする、というかなり思わせぶりな行動になるわけだ。
「も、もちろんこういうことは絶対控えてください」
一瞬、動揺したもののすぐに表情はもとに戻ったが、彼女はこちらが手を離すまで手を握っていた。俺は男として、化物みたいな容姿ではないが整った容姿でもないのは自覚してる。そんな普通の男に手を握られるのを拒絶の反応を見せないだけでも、やはり男性が少ないことはかなりの確率で真実だと思えてきた。十分楽しい思いをしたし、他のことについてもきいておくか。
「それで、しばらくの間この病院にいてもいいってことなんですよね?」
「もちろん、いくらでもいてくださって構わないそうですので。」
「しばらくはそうさせてもらおうと思うのでよろしくお願いします。それと外出するときは報告したほうがいいですか?」
「いえ、ご自由にしてもらって大丈夫です。ただ外出の際もなるべく人の少ないところなどは避けて行動してください」
「わかりました。聞きたいことはこれくらいですかね」
そう言って、診療室を出ようとすると小室さんの方から声をかけてきた。
「あの」
「何か」
呼び止められたが、彼女は何か言いたげのようで、言葉に詰まった様子だった。やがて口を開いた彼女はある提案をしてきた。
「実は明日大学の講義に、男性専門医としてゲストで呼ばれることになりまして」
「男性も講義に出たら、説得感があるかなと思いまして、よかったらその・・・ご一緒にでていただけないかぁなんて」
「大学の講義ですか。楽しそうだしいいですね。ご一緒しますよ」
どうせやることもないし、美人のお願いに勝てるわけもなく当然脊髄反射の二つ返事で承諾した。
「本当ですか!?ありがとうございます」
そんな彼女の喜んだ顔に、美女は泣いても笑っても得だからずるいよなと思った。
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