逆転世界において”いい男”でありたいただの普通の男
マッチングアルファ
泥酔の末
映画やアニメ、小説やドラマには”いい女”が登場することがままある。容姿が美しいのはもちろんのことだが男を手玉にとるような、あるいは男を立てる包容力がるような女というのが代表的に思い起こされる。そのような女性はなぜあんなにも魅力的で、かわいらしく見えるのだろう。例えば男を手玉に取る女のふと弱さを見せるようなシーン。そんな特別感が男を惑わせるのか。その弱さが嘘で、だまされてもついつい許せてしまうような気分になりそうだ。”いい女”というものの特別感は何事にも優る高級さがあるのは間違いない。
9月だというのに夏の暑さはまだまだ衰えを見せない。それどころかむしろカンカン照りだった。今日は久しぶりに中学の時よくつるんでいたやつらが定期的にやってるらしい飲み会にはじめて参加する。まあ今まで酒が飲めなかったが成人になるので、これで堂々と酒が飲めるというわけだ。まあ正確には誕生日は明日なんだが一日くらい大丈夫だろう。それにうちの家系は酒に強い家系だし、大学のオリエンテーションの際にやったパッチテストでも、アルコールへの耐性があるのは確認したことがあるので、酒を飲むことを心配していなかった。
久しぶりに会ったこいつらは、いつ会ってもあんまり変わってなくて安心する。就職してるやつも多くて、仕事がどうだとか、税金が云々とか、社会人なんだなって感じた。今日来てないクラスメートだったやつは今こうだとかああだとかくだらないことを話す。飲みやすいと勧められた酒は、思っていたより飲みやすくテーブルの上に空のジョッキがどんどん並んでいった。
「恭介、酒強いんだな」
そういわれたことで、調子に乗った俺は初めての酒の席で、どれだけ酒が飲めるか友達と勝負したのであった。自分の酒の許容量も知らないのに飲みまくり、お開きにしようというころには完全に泥酔状態で、友人に肩を貸してもらって店を出るときにはほぼ意識なんてなかった。
寒さで目が覚めた。ベットはかたくて、寝心地も悪い。もう一度寝なおそうと思って、寝返りをうったらベットから落ちた。
「いってぇ・・・」
そして目に映ったのは、見たこともない部屋だった。暗くてじめじめしてる部屋だ。見渡すと医療器具やらなんやらが見える。手術室みたいな感じだ。寝ていたのもベットじゃなくて、手術台みたいなやつだった。今更気が付いたが俺は全裸だった。酒の飲みすぎで病院に運ばれたのかだろうか。それにしたって全裸はおかしい。それとも友人のどっきりかなにかか?
部屋を出るためにも羽織るものがないか探そうとしたその時は、部屋の外から話し声が近づいてくるが聞こえた。
「・・・が決まりとはいえ、かなり貴重な機会です」
「わかってますよ先輩」
「もちろん、周りに自慢なんてしないように・・・・・・・」
そういいながら、ドアを開けて入ってきた白衣を着た二人の女性と、目が合う全裸の俺。どう考えてもこの事態はまずいと脳が理解するものの、この事態に対する解答が思いつく前に、最初に入ってきたこれぞ女医ですみたいな白衣を着た女性は、心霊映画のお手本とでもいうような甲高い声を上げる。続いて入ってきた眼鏡をかけた女性は、俺を見るなりふらふらと地面に倒れた。いやいや、勝手に見ておいて、それはひどくないか。
落ち着いたあと、死亡判定の誤りに関してめちゃめちゃ謝られた。昔、死亡判定の誤りがあったときのために土葬する文化のある地域では、目覚めた人が動いたときになる鈴を墓につけたなんて話を思い出した。まあ現代じゃそんな誤りなんてなかなかないのだろうけど。それよりも死んだ記憶がない俺は死因が何だったか聞くと、ばつの悪そうな顔で薬物の過剰摂取で自殺と答えが返ってきた。てっきり飲みすぎか、寝ている最中に嘔吐して喉に詰まらせたとでも思っていたが自殺?
酔ってたとはいえ自殺するほど思い詰めてもいなかったのだがと違和感を感じた。このときから違和感はおおきくなった。用意された病室は一人用でやけにでかいし、美味しくないとよく聞く病院食も専用のメニューですって感じだ。自殺したのが真実だったとしても、俺の家族はこんなグレードの病院の扱いを用意するほど裕福じゃなかったはずだ。そんな違和感も検査の際にさらに大きくなった。
一度心肺停止したことは事実だそうなので、お詫びもかねて体に異常がないか検査しませんかと提案された。お詫びならたぶん無料だろうと思いとりあえず受けることに決めた。検査を担当したのは、死亡判定のことについても話してくれた先輩とよばれていたあの女医さんだった。そこで彼女は自己紹介で男性専門医と言ったのだ。泌尿器科の男性専門医ってことなのかと一瞬考えたが、自殺したあとの検査で泌尿器科の医者が出てくるわけもない。また結構本格的な検査だったり案内された病室も豪華だったりで気になっていた俺は興味本位で、本当はどのくらい費用がかかるのか尋ねてみたが、
「男性から費用など頂きません」
と貧乏旅館でもそんなこと言わないだろというようなセリフが飛び出してきた。
「いやいやそんなことありえないでしょ。この病院は男性を優遇する経営方針をとってるとかそういうことですか?」
「この病院にかかわらず、少ない男性を優遇するのは当たり前です。男性に利用してもらうだけでその病院の地位が上がる程です」
「男性が少ない?」
「男性はあまり気にしないかもしれませんが、男性は以前よりもさらに出生率が低下しているんです。あなたもたくさんの女性に必要とされているんです。だからもう自殺なんて悲しいことしないでくださいね」
「はぁ・・・」
自殺した覚えもない俺は、そんな彼女の真剣な励ましに対しても間抜けな声を出すほかなかった。それに男性が少ないっていうことも意味がわからない。
検査が終了して、調べものをしたいのでパソコンを貸してほしいといったら快く貸してくれた。
自殺したならそのことで事件になっているかもしれないし、さっき女医が言っていたことも気になる。パソコンを起動して早速自分の名前を検索すると一番上に有名なサイトで記事がヒットした。まさか本当に自殺したのか、そう思い記事を開いた。書かれている内容はやはり俺が自殺したと書かれている。もちろんこれもおかしいのだが、その後の内容もおかしい。この記事によると「自殺の原因は、二十歳になった際の男性定期健診であることが遺書に書かれていたと判明した」と記載されている。そんな定期健診聞いたことないし、定期健診の予定もなかったはずだ。記事の続きには、健診制度の見直しを政府はおこなう必要があるだろうと批判して終了している。
やはり気になるのは男性定期健診というワード。次にこのワードを調べることにした。一番上の検索で出てきたページを開くと、男性定期健診制度の説明する飾りっ気のないお役所仕事感満載のページが表示される。そこには男性は20歳から、定期健診の義務が課され、その経緯についても説明されている。理系の難しい論理が展開されており、結論として100年位前からの男性の遺伝子の劣化を防ぐための研究と人口維持のために精液の提供を必要としており、男性の皆様にご理解ご協力のほどお願いしたしますで締めくくってある。
その後も男性についていろいろと調べていったが、人口比も男性が圧倒的に少なく1000:1程度らしいことや、男性遺伝子の劣化による筋肉量や性欲、精子量の低下が発生し、それに伴う人口の減少は問題に発展しているようだ。どうやら俺が泥酔していた間に世界はおかしくなってしまったらしい。
星入れてくれたらモチベ上がるので助かります。
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