第3話seems like

「カイ君は何にするの?リナは今月のおすすめバーガーにするよ。」

「それパイナップル入ってるじゃん?オレ無理だわ。無難にパウンドバーガーだな。」

「じゃあ決まりだね。すいませーん、注文お願いします。」



おすすめバーガーが気になっていたけど、私もカイ君に同意する。アボカドバーガーにしよう。せっかくの有給で平日休みだし、ランチだけどビールも飲んじゃおう。



「今月のおすすめバーガーと、カイ君は?」

「パウンドバーガー、飲み物はオレンジジュースでお願いします。」

「かしこまりました。おすすめバーガーのお客様もセットドリンクが付きますが、何になさいますか?」

「私はアイスコーヒーで。」

「かしこまりました。では失礼いたします。」

「カイ君オレンジジュースだなんて、見た目と全然違う。可愛い。」

「だって好きだから。」



躊躇いもなく答えたカイ君は、立ち上がったら身長180cmくらいはありそう。どちらかというと華奢な体つきで、バランスの取れた顔には黒縁メガネがよく似合っている。カジュアルなファッションで、スポーツブランドの使い込んだバックパックは、ぺたりとへこんでいてかなり軽そう。それなりにチヤホヤされてきたであろう。しかしそんなことには気付いていないような、ふわりとしている印象だ。



「リナはね、焼いたパイナップル大好きなんだ。酢豚のパイナップルって嫌われがちだけど、リナは大好き。」

「そうなんだ。オレは例にならって嫌いだな。」

「そんなこと言わずに食べてみてよ。焼いたパイナップルって必要だったんだって気づくから。」

「今度食べる機会があったらね。」

「そういえば実家に帰ったときね、ママが焼きパイナップル付きのハンバーグ焼いてくれたんだ。すごい美味しかったの。」

「よかったね。静岡だったっけ?」

「そう!覚えててくれて嬉しい!うちは浜松だから、ウナギとかミカンとか有名でよく食べてたんだよ。」



 男女のペアって難しい。ただの友達、仕事の付き合い、不純な関係。男女というだけでカップルだと想像してしまうのは、あまりに早とちりだ。

それはたとえ、二回り程歳の差があるように見えても、二人が同じ社員証を首からぶら下げていても、ブスとイケメンでも。

 私は休日だが、シンプルなヒールに紺のワイドパンツ、サテンのチュニックを身にまとい、ここがオフィス街であれば、さながら昼休憩中のOLである。もし目の前の空いた椅子にスーツを着た男性が座っていれば、仕事仲間だと誰もが思うであろう。もしくは社内不倫かもしれない。

 目の前に運ばれてきたビールでその可能性は消えるのだろう。金色の液体の上に雲のような泡が浮かぶ。もううまい。



「へー。」

「そいえばカイ君は夏休みどこ行ったの?」

「九州を一周したのと、香川にうどんを食べに行ったかな。」

「えーすごいね。九州だったら高千穂とか行った?あそこすごくきれいだよね。家族で行ったことあるけどすごくよかった。」

「行ったよ。そんなに長居はできなかったからあんまり覚えてないけど。」

「リナはね、沖縄に行ってきたよ。まあ、毎年行ってるんだけどね。」

「そうなんだ。」

「今年はパパが、ダイビングのライセンス取るって張り切っちゃってさ。」



私は店員に会釈をし、運ばれたアボカドバーガーをどう食べるか迷っていた。包み紙がついている。ナイフとフォークもある。このコンビネーションを一口で上から下まで頬張るのは難しいと判断し、ナイフとフォークを握りやむなく上のバンズとアボカドを解体して、下半分と横に並べた。一口大に切ってフォークに刺したハンバーガーを、少し顔を横に向けて遠慮がちに口を開いて頬張る。別にみている人は誰もいないのだから、大口で放り込めばいいのに。

リナは包紙にバーガーを入れて、おすすめバーガーを頬張っていた。リナがおすすめバーガーを食べている時は、包紙に隠れているために、カイ君の席からはリナの細い奥二重の目しか見えないだろう。私の席からは、リナがばっちりたらこ唇をガバッと開けているところが見える。頬張るたびにリナの細い目が一層細くなり線となる。チラチラとリナは視線をカイ君に送っていたが、そんなことには気付いていないようでカイ君は自分のペースでパウンドバーガーを味わっていた。

ああ、ナイフとフォークで食べるハンバーガーなんて美味しくないや。私も包紙使えばよかった。



「そいえば、来年何の授業とる?必修まだ取らないといけないんだよね。何がいいんだろう。」

「オレは山本教授の”生命の誕生と地球”の授業とってたけどオススメ。出席さえすれば単位取れるよ。」

「それリナの友達が取ってたんだけど、教科書代がかなりかかるって言ってたからなあ。」

「まあそれは確かに。」

「リナはね、”AIと恋愛”の授業取ってみようかなと思うんだ。」

「ふーん。」

「これからの恋愛はAIなしでは考えられないって、すごく気にならない?」

「オレは別にどうでもいいかな。」

「リナも恋してるんだけど、AIが助けてくれるならすごく嬉しいなって思って。」

「そう。」


 カイ君は大きめのプレート皿に視線を落とし玉まで、次から次へとポテトを頬張っている。

 アボカドバーガーには別添えでピクルスが付く。一口食べるとポリっとした食感と爽やかな香りが口の中に広がる。バーガーにもビールにもよく合う。


「じゃ、オレ予定入ってるから。」

「え?!リナと晩ご飯まで一緒にいてくれないの?」

「このお店に来たかっただけだろ?」

「うーん、でもその後タピオカも飲みたいし、」

「オレ予定あるから、ごめんな。」


自分の分のお会計を済ますと、カイ君は颯爽と店を出て行った。

カイ君がマウンテンバイクにまたがるとき、華奢な脚とトレンチコートの裾の間に、あたたかい春の風が流れていることを感じた。後ろからリナが舌打ちして、友達に電話をかけている声が微かに聞こえた。


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