レシピ16 実は私が真の主人公なのですよ!って誰?お前とか言わないで!
「それで、それで?」
私こと
「おばあちゃんは泣きながら美味しいって言ってくれたんだよ」
そう言うお母さんは目に涙を溜めている。お母さん昔から涙もろいけど、私は全くそんなことが無い。お父さんに似たのかな?
「じゃあさ、話戻すけど初めてキスした時ってハンバーグ食べた後じゃん! ハンバーグの味がしたの?」
「……さあ、覚えてないな」
誤魔化す気満々のお父さんに不満を訴えるとお母さんが頬を赤らめながら話し始める。
「私の初めてはハンバーグの味だったよ。
初めては色んなシチュエーション考えてたけどあれは想像出来なかったなぁ。琴子も何時いかなる時も油断しちゃダメ」
おぉ経験者からの有益な情報が。当たり前だけどハンバーグ食べた後だからそうなるよね。
食べた後の事まで考えてそう言う雰囲気に持っていくのが大事と。心のメモに記す。
「いい琴子、完璧なシチュエーションなんて無いから。大体その場の勢い! でもテンション上がってるから大丈夫!」
「なにが大丈夫なんだよ。娘に何を教えてる」
お父さんが顔を赤くしてお母さんを止めようとしている。
この夫婦、私から見ても仲が良いと思う。バカップルならぬバカ夫婦……語呂が悪いけどそんな感じだ。
「もっと聞きたいけどじゃあこのノートの表紙だけど。『メシマズ』とか『愛の』や『ひろくんから貰った』とか色々書いてるのは何で?」
今回両親の恋愛話を聞くきっかけになったレシピノートを見せる。
お母さんは料理が苦手らしくこのノートを見ながらでないと作れない。確かに昔からノートを見ながら作っていたのを思い出す。
でも食べれない様な料理は出たことは無かった。
「ひろくんに初めて貰ったレシピノートだからタイトル付けようって色々書いてみたの。でもこう良いのがないのよね」
「2冊目からはレシピノート2なんだから1で良くないか?」
「え~でも思い出のノートだし」
お母さんとお父さんがイチャイチャしてるので私がサラサラとタイトルを書いておく。
「琴子、何を書いたの?」
お母さんがノートを手に取る。
「メシマズ キッチン……その心は?」
「え~とね、お母さんがメシマズでそのノート貰って、キッチンでキスしたから」
私の意見にお母さんが手をポンと叩いて納得する。
「じゃあこの間にハートマークを入れよう」
「何が入れようだ」
お父さんがお母さんに軽いチョップを入れて突っ込む。お母さんは、にへへと笑う。
本当に仲が良い。
「じゃあ間を取って星マークを入れるよ」
そう言って私は星マークを書き込む。
『メシマズ☆キッチン』
私がノートを掲げるとお母さんは感激して手をパチパチとたたく。
お父さんは、なんとか納得してくれたようだ。
「ひろくん見て! 琴子がタイトル決めてくれたよ」
子供みたいにはしゃぐお母さんを見て良いことをした気分になる。そこで疑問に思った事を聞く。
「でもさあ、お母さんってレシピ見なくても料理作れるんじゃないの?」
「う~ん多分無理。作ったこと無いものとか無理だもん。え~とね、ほら、琴子が幼稚園の時キャラ弁作ってて頼んだ事あったの覚えてる?」
私は遥か彼方の記憶を思い出す。
「……あぁ、なんだっけあの青いタヌキロボのキャラ弁だっけ?」
「そうそう」
お父さんが眉間にシワを寄せている。どうやらお父さんは思い出したようだ。そして私もなんとなく思い出した。
「あの青い妖怪……」
「琴子酷い! お母さん頑張ったんだよ。でもキャラ弁なんて作り方分かんないし、おかずも何入れて良いか分からなくなって……」
そう前の夜にキャラ弁をどうしても作って欲しかった私はお母さんに頼んだのだ。
そして朝お母さんが作ったお弁当には不気味に笑う青い妖怪がいた。それは覚えている。
それを見た私は大泣きしたはず。幼稚園に持っていくことを拒否し近所のコンビニのお弁当を詰め替えるという荒業で乗り切ったらしい。
それ以来キャラ弁は頼んでいない。
因みにキャラ弁はお父さんが職場で食べて、ブルーハワイの味がしたそうだ。それで眉間にシワ寄せるこの表情な訳だ。
つまりお母さんはメシマズは直ってはないと言うことになる。
それが出てこないのはこの2人の愛とやらのお陰なのだろう。
私がタイトルを書いたノートを大切に持っているお母さんとそれを優しく見るお父さん。
いつか私もあんな感じなれるのだろうか?
ぼんやり考えていると、いつの間にかお母さんが私の背後から抱きついてくる。
「琴子何考えてるの?」
「あ、うん別になにも」
「琴子、今好きな人いるでしょ。お父さんには内緒にしてあげるから教えて。お母さんの好きな人教えてあげるから」
「なにもいないって! お母さんの好きな人とか聞いても私得しないもん!」
そう言ってそそくさと逃げる私を不思議そうにお父さんは見ている。
母親とはなんと勘の鋭い生き物だろうか。
いつものんびりしている様に見えて油断ならない。
逃げながらお母さんの手に持つノートを見て思う。
いつか私もお母さん達みたいな夫婦目指そうって。
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