レシピ15 約束された勝利!それって八百長じゃん!と姉は言う

 ゆめの実家でゆめの帰りを座して待つ。


 って言うとカッコいいけど実際にはゆめが買い物から帰ってくるのをソワソワして待ってるだけだ。


 そんな俺にお茶を出して隣にお母さんが座り声をかけてくれる。


「裕仁くん緊張してるわね、ゆめが心配?」

「えぇ、ゆめなら大丈夫だと思うんですけど、自分が動けないってこうもどかしいって言うか……落ち着かないです」


 そんな俺を見てお母さんが優しく笑う。


「こんなこと言ってしまっては駄目なんでしょうけど私はもうあなた達の結婚を認めてるわよ」

「え?」

「今までゆめが、あんなに真剣に物事に取り組むなんて無かったもの。ましてや料理なんて私も諦めてたんだから」


 試合前に結果が決まってる事実に驚きを隠せず顔に出ているであろう俺を見て目の前に座ってた環姉がお菓子を食べながら口を挟む。


「それって八百長じゃん! 敵は最後まで胸の内を明かしちゃ駄目だって。最後まで心を鬼にしてゆめにプレッシャー与えてよ」

「はいはい、ちゃんと最後まで作ってもらうわよ。ゆめも一年間練習してきた意地もあるでしょうし、こっちの事情は分かってて料理を作るんでしょうから」


 お母さんと環姉の話は続く。お父さんもちゃんといるけど一言も喋らない。一番緊張しているのでは?


 勝利こそ約束されているこの勝負だがゆめは今までの練習の成果を見せてお母さん達を驚かせるはずだ。

 たとえお母さんの意図に気付いてたとしても。


 ────────────────────


「えーーと里芋。ゴウボウとにんじん、それから」


 私こと夢弓はスーパーにて食材を選んでいます。

 お母さんから出されたお題は『筑前煮』『鮭の粕漬け焼き』『ワカメのお吸い物』だ。私はレシピノートから書き写したメモを広げ必要な食材を探している。

 料理に少し自信が持てたころメモを持たずに買い物に行ったら直ぐに余計な思い付き浮かびおかしな物を買いそうになる。

 多分私はこう言う人間。それならそれなりの方法を見つけて行動するしかない。


「60点を目指そう」そうひろくんに言われた。50点よりなんか良い感じで頑張った感じの60点。

 気付かない内に100点を目指してた私にとって救われた言葉だった。


 結婚生活も60点位の2人でお互足りない所を補って75点位を目指せば楽しくやっていけないかな? 志し低い?

 って聞かれたけど私にとっては嬉しい言葉だった。

 正直、料理以外でも不安だらけの私に気を使っての言葉なんだろうけど、本当に人間が出来てると思う。

 最近ひろくんは神様かなんかの生まれ変わりではなかろうかと思ってるぐらいだ。


 そんなひろくんの為にもこの勝負負ける訳にはいかない!


「お母さん鬼やから変な料理出したら結婚出来ないのは分かっとる。絶対に気は抜けん!」


 私のお母さんこと華穗さんは鬼である。

 中学生の頃飼っていたウサギ『メロンちゃん』の爪切りが買いたいとお願いし出された条件が今度の英語のテストで80点以上取ることだった。

 勉強の末78点を取った私はお情け補正もあるし爪切りゲットは約束されたものだと思っていた。


「80点以上って約束でしょ」


 確かにそう言う約束だからお母さんの方が正しい。

 それでも買って貰えると確信していた私は泣いた。そしてこの日私の胸に母は鬼である刻まれた。今回もそうに違いない。

 だがあのときの泣くだけの私とは違う。必ず勝利してみせるのだ!!


 食材をカゴに入れる手に力が入る。


 ***


 買い物から帰ってきた私はひろくんを一目見て気合いを入れ台所へと入る。お母さんの厳しい視線が刺さるが耐える。


 買ってきた食材を並べレシピノートと見比べながら作る順番を考える。

 この辺りがまだ課題なのだけど平行しての同時作業が苦手だ。ひろくんがいるときは上手く誘導してくれるけど1人の時は1品ずつ完成させていく方法を取ることにしている。

 時間はかかるけど失敗するより何倍も良い。忘れない内にご飯をセットしておく。後、鮭の切り身を酒粕と調味料に漬け込む。


 まずは筑前煮から作る。鶏肉はひと口大に切り、干ししいたけは水でもどす。

 にんじんを切り、ごぼうは乱切りにして水にさらす。

 こんにゃくはスプーンでちぎり、里芋は皮をむいて大きめに切ってぬめりを水で取る。

 鍋を温めて油を入れ、順番に炒めていく。だし汁を入れ落とし蓋をし、中火で煮る。

 後は煮詰めれば終了だ。


 話しは反れるが筑前煮の切り方は乱切り、そう本当に乱だ! 味が染み込み易いらしいが私はこの切り方が好き。名前が良い。


 ちょっと皮とか残ってるけど良いのだ。皮が上手く剥けずにオロオロする私を落ち着かせてくれるひろくんの事を思い出すと力が湧いてくる。

 次のワカメのお吸い物に移る。


 先にワカメを水で戻しておく。

 鍋に水を入れネギを加えて火に掛け沸騰したら出汁と醤油・塩などで味付けをする。

 戻したワカメと薄く切ったカマボコを入れて完成させる。


 最後に鮭の粕漬け焼き。これはお父さんの好物だ。お母さんに試されてるのがひしひしと伝わる。

 .

 温めたフライパンに油をひき、酒粕に漬け込んでいた鮭を取りだしそっと置く。ここからは焼くだけだが油断は出来ない余計なことは考えず焼き具合を観察する……これが成功すればひろくんと、にへへへへ。


「はっ!? うちは何を! 気合いを入れないかん!」


 両頬をパチパチ叩いて集中する。焼けた魚を皿へ移していく。後はそれぞれの料理を器に入れて配膳するだけだ。

 出来た料理を眺める。

 初めて1人でここまで出来た。切り方とか不器用だし台所も片付いてない。でもこれで良い。

 私は物事を平行してやるのが苦手だ、これを受け入れたとき大きく成長で出来た気がした。


 達成感からなのか涙が出てくる。涙が溢れないように食器に料理を盛り付ける。


「出来た? 配膳手伝う……」


 タイミングよく台所の入って来たひろくんが私を見て優しく微笑むと頭を軽くポンと乗せる。


「泣くのはまだ早いって。折角の美味しそうな料理、冷めない内に配ろう」


 ひろくんと一緒に配膳する。出てきた料理を見てお母さん達が驚いた表情を見せるが油断はしない。

 そして遂にお母さんの口に私の作った料理が運ばれる。


 私もひろくんもこの後の展開、結果を緊張した面持ちで待つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る