レシピ14 水族館にて愛を叫ぶ! いや叫んではない……

 私こと夢弓は今家のベットで仰向けで寝転がっています。

 ニヤニヤが止まりません。


「にへへへへへ~」


 何回見ても夢ではないですよ! 心の中でもにやけてしまいます、

 にへへへへ。


 ────3日前


 ひろくんと料理をしながらレシピを作り始めて1年経ちました。

 ノートは11冊目に入ってノートを見ながらなら作れる料理はかなり増えました。

 そして何より味のブレがあまり無くなりました。

 不器用なのはそんなに改善されてないけど大分落ち着いて作れる様になったのも大きな変化です。


 ここまで成長出来たのは嫌な顔1つせず根気よく付き合ってくれたひろくんの存在がかなり大きいです。

 勿論、るりさんや悟さんお姉ちゃんの手助けあっての今の私ですけど。


 それでもやっぱり本当はもっと早く成果を出したくてたまらなかった私に、このレシピ作りが作業にならないように一緒に楽しく考えて、作って、食べてくれたひろくんに感謝しかありません。


 作るだけでなく買い物の練習もしています。レシピにあった買い物の項目を決めそれ以外は買わない。

 もし目当ての食材が無かった場合は、無くても作るのに問題無ければそのままいけると言う事を書いてあるし、他の食材で代用が出来る場合はそれ用のレシピで対応すると言った対策をしている。

 アレンジは一切出来ない、臨機応変には対応出来ないけどこれが一番ベストだろうと結論付けた。


 最悪食材が全く見当たらない、今のレシピで作れないと言った緊急事態が発生したらその日は、料理お休みの日です。


 完璧だ。レシピを眺めながらニヤニヤしている私にひろくんが声をかける。


「ゆめ、かなりレシピも増えたしそろそろお母さんに挑戦出来るんじゃないか?」

「う~ん、出来るかな? いざとなると不安になるんだよね。もし失敗したらひろくんとの結婚が認められないのかなって思うと怖いと言うか」


 不安になる私の頭に手を置いて撫でるとゆっくり抱き寄せられる。


「3日後休み取れたんだけど、一緒に水族館行かないか? 前に行ったときはゆめ心から楽しめてないだろ」

「え、えぇといや結構楽しんでたけど、まあ考え事はしてたから真の意味では楽しんでなかったのかなぁ?」


 あの日はメシマズの事で後半いっぱいだったのは確かだけど水族館の中では思いっきり楽しんでいたのも事実なんだけど。


「根詰めてやっても疲れが溜まるしゆっくりやってこう」

「そんなに疲れてないよ。作れるものが増えるって楽しいし、ひろくんが食べてくれるの嬉しいし」

「それは俺も嬉しいけど、まあなんだこれからも時間はあるんだし息抜きっことで」


 私はひろくんを見上げてじっと見る。


「なんか必死だねぇ。ひろくんがそこまで水族館に行きたがるって珍しいよね?」

「あぁいや、俺が水族館で見ると言うか楽しそうにするゆめを見ると言うか……」


 珍しくしどろもどろになるひろくんをからかいたくなる衝動を抑え答える。


「じゃあそう言うことにしておいて、私も行きたい水族館」

「お! そう。よし行こう、また俺が計画するので良い?」

「うん、お願いするけどやっぱりひろくんおかしくない?」

「いや別に、普通だ」


 さらに挙動不審なひろくんに疑問を持ちながらも水族館行には行きたいので了承する。


 う~ん怪しい。


 ────────────────────


 水族館へ行く当日俺、裕仁は駅から出てゆめを迎えに歩いている。

 色々と考え事をしていたらあっという間に家に着く。


「あ、ひろくん!」


 家の中で待っていても良いだろうにわざわざ外で待ってくれてたゆめが手を振る。ご近所さんの噂になってそうだが可愛いし良しとしよう。


「日差しも強いし中で待ってても良かったのに」

「へへへ、楽しみで出てきてしまったよ」

「そこまで楽しみにしてもらえるとこっちも嬉しいな」


 手を繋ぎ水族館行きのバスに乗るため天神へと向かう。

 因みに今回は福岡の水族館へと行く。


 ***


「ねえ、ねえこのパフェのバナナ、イルカになってるよ!」


 嬉しそうにパフェを突っつくゆめを見ながらいつも通り可愛いなぁとか思いながらも、もっと見たい気持ちが沸き上がる。


「おーーい、聞いてる? この後イルカのショーの時間だよ。そこからペンギン見て、アシカに魚をあげてね。それから──」


 パンフレットの地図を広げて楽しさを爆発させたような表情を見せながら話しかけてくる。

 前回も楽しんでたって言ってたけど、やっぱりどこかでメシマズを告白することを気にしてたんだろうな。


 まあ俺は水族館も楽しんではいるが、水族館を楽しむゆめを楽しむ上級者の域に達している訳だが。


 ***


「イルカもアシカも近い! 思えばリニューアルして1回しか来てない気がする。近いといつでも行ける気がして逆に行かなくなるのかも」

「あぁ、そんなものかも。年パスとか買ったら定期的に行くようになるかもな」

「おぉ!? それは素敵な提案!」


 イルカショーの休憩時間『年パス』の言葉に心奪われ頭に花を咲かせてる感じでぼ~~としている。


 ***


「さっきも通ったけどここは九州各県の海を再現してるんだよね。熊本は森みたいだね」

「あぁ、各県ただ海を再現した水槽があるだけって訳じゃないのは面白いよな」

「だよね。あっち行こう。やっぱり福岡だから玄界灘水槽が迫力あるよ」


 ゆめに手を引かれ水槽の方へと歩みを進める。


 足元から天井にむけ湾曲する玄界灘水槽を2人で眺める。時々水が追加されてるのか海面が波打つ音が響く。


「今日は人が少ないね。平日だからかな?」

「多分な」


 水槽を真剣に眺め魚を楽しそうに見るゆめの頭上からキラキラと水に揺らめく光が降り注ぐ。

 そんな姿を見て本当に綺麗だと思った。

 よく恋は脳が誤作動してるだけとか言うけど、そんなのどうでも良いじゃないか、少なくとも今のこの気持ちに嘘はない。


「ゆめ」

「ん?」


 俺は鞄からリングケースを出すと震える手で開ける。

 ゆめは中身を見て目を大きく開いて固まっている。


「結婚して欲しい」


 ゆめは言葉を発することなく涙をボロボロこぼし始める。

 その場で涙をこぼし続けるゆめを抱き締めるとしばらく落ち着くまで待つ。

 やがて顔をあげると


「うん、私の方こそお願いします」


 涙を溜めながら笑うゆめの左手の薬指に婚約指輪をはめる。

 左手を水槽の光に掲げ涙の跡のある顔で笑顔を見せるゆめ。

 あれだけ一生懸命に料理を覚えて練習しているゆめを見てたら、この人以外いないだろうとプロポーズしたわけだが……緊張したぁ。


 いや、いけると思ったよ。でも万が一断られたり「料理を極めるまで結婚はしない」とか言われる可能性もあったかもしれないとか考えるとやっぱり返事がもらえるまでは不安だった。


 いつもと違う感触の左手を握って水族館をじっくりと回って帰路へ着く。


 ────────────────────


 それで冒頭な訳ですよ。


 左手でキラキラ輝くダイヤの指輪を天井の照明に向け、にやける。

 出来たら良いなと思っていたけど、まさか私が結婚出来るなんて。今の心を表してるかのように光る婚約指輪を抱き締めベットの上を転がる。


 よし! お母さんに準備が出来たと言おう。私が出来るってところを見せてお母さんを認めさせてみせる。

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