二、翁の学説

 有名な雪女の伝説がドラマで紹介された後、スタジオで紅倉美姫べにくらみきによる解説が行われた。

 もちろんこれは中央テレビ「本当にあった恐怖心霊事件ファイル」の番組内での一幕である。



「はい。

 パートナーの芙蓉ふようさんに調べてもらったんですが、『雪女』というのは実は全国各地にいろんなバリエーションがあるんですね。

 今ドラマでやっていたのは若い美人の雪女でしたが、老婆や恐ろしい鬼婆のバージョンもあるんですね。

 ここで夏の風物詩、あの怪談の名手、稲◯淳二さんが披露されていた考察を……学説として披露させていただきますと、


 雪女は昔の雪国の厳しい生活環境から生まれた、女性たちの悲しい物語がルーツにあるそうなんですね。

 つまり、雪国には美味しい酒どころが多くあります。お酒造りは冬の仕込みの時期がもっとも大切です。その酒造りに呼ばれてやってきた杜氏(とうじ)ら職人たちと、農閑期で職がなく、彼ら相手の夜の仕事に集まってきた近隣の農家の女たちとの刹那せつな的な恋物語ですね。

 まあ、昔話ですから、ルーツはともかく、広く全国で語られているお話はあくまで当時のエンターテイメントであり、口から口へ、語り手によって面白可笑しく脚色され、改作されていったのだろうと思われます。ですから今残っているお話をそのまま実際あった出来事に当てはめて説明するのはそもそも無理があると思うんですけれど。

 実際、今は全国的に『雪女』と言えば先ほどのドラマの『雪女』が共通して思い浮かべられると思うんですが、これはあの小泉八雲=ラフカディオ・ハーンの『怪談』で広く読まれ、更に映画やテレビでドラマになって大衆的に見られ、それを元に子供用の絵本や『まんが日本昔話』などテレビのアニメや人形劇で紹介され、全国的に『雪女』と言えばこれ、と認知されるようになったのでしょうね。

 いずれにしましても悲しい物語です」


 と、ここまでオンエアされたのだが、スタジオでは更に続きが紅倉によって話されていた。

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