霊能力者紅倉美姫17 雪女

岳石祭人

一、ドラマ


 Once upon a time


 冬の雪山で、木こりを生業なりわいにする父と息子が猟をしていた。その最中、天候が激しい吹雪に変じ、小屋に閉じ込められてしまった。

 二人は火を焚いて吹雪のやむのを待ったが一向に収まる気配がない。

 二人は交代で眠ることにした。父親が眠る番になると、父親は息子にくれぐれも火を絶やすことのないよう厳しく言った。

 息子は父親の言いつけを守ってしっかり火を見ていたが、疲れのためついうとうと眠ってしまった。

 ぞくりとする寒さに驚いて目を覚ますと、開いた戸から雪が吹き込み、焚き火は消えていた。

 慌てて体を起こそうとすると、小屋の中に見知らぬ人影があった。

 白い着物を着た若い女だった。

 女は床に横になった父親の上にかがみ込み、息を吹きかけた。すると父親の体は見る見る固く凍り付いていった。

 息子は恐ろしさに息をひそめてじっとしていたが、女は息子にも迫ってくると恐ろしい目で睨んで言った。

「姿を見られたからにはおまえも殺さなければならない。しかしおまえはまだ若い。殺すのは許してやろう。その代わりここで起きたことはけっして誰にも言ってはならない。もし話したならば、その時は必ずおまえを殺す。いいな、絶対に、誰にも話すなよ」

 言うと女は吹きすさぶ雪の中に消えていった。


 翌朝、吹雪はやんだが、父親は凍え死んでいた。


 数年後。

 息子は立派な若者に成長し、里に下りて家をかまえて暮らしていたが、冬の吹雪の夜、一人の若い旅の女が一夜の宿を求めて訪ねてきた。

 若者は快く泊めてやったが、吹雪は翌日になってもやまず、そのまた翌日になってもやまず、女はずっと若者の家に泊まり続けた。

 数日後ようやく吹雪はやんだが、女は旅立たず、春になっても家に居続け、そのまま若者の妻になった。

 やがて子が産まれ、二人は幸せな結婚生活を続けた。

 数年が経ち、子と共に仲良く暮らしていた夫婦だったが、村の者たちは妻を見て夫に不思議そうに言った、

「おまえのところの嫁はいつまで経っても若くて綺麗なままで、ちっとも年を取らないな」

 と。言われた男も不思議に思ったが、ある冬の夜、囲炉裏端いろりばたで針仕事をする妻の横顔を見ながらふと気が付いて言った。

「俺は若い頃雪山で雪女に出会ったことがあるが、おまえはその時の雪女とそっくりだな」

 すると妻は針仕事をやめ、立ち上がると、恐ろしい顔で夫を睨み、言った。

「あれほど言ってはいけないと言ったのに、やはり言ってしまいましたね」

 妻は真っ白な姿の雪女に変じた。驚き、恐れ、詫びる夫に、雪女は言った。

「約束をたがえたからにはあなたを殺さなくてはならない。でもこの子の父親を殺すことはできない。正体を知られたからにはわたしはもうあなたといっしょに暮らすわけにはいかない。さようなら。この子のことは頼みましたよ」

 雪女は子供を残し一人雪の中へ消えていった。

 吹きすさぶ風はまるで雪女がなげいているように悲しく響いた。

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