第21話 ドリームランド探訪 ⅩⅡ

「いやぁ、ダンジョンの件は残念だったね」



 また同じように崖上から、蝙蝠傘をさして飛び降りる。

 コメント欄では激昂しだしたナイアルラトホテプを慰めるような、詰るようなコメントが見受けられた。



【あれはリリーちゃんが悪いわけじゃないと思うがなー】

【ニャル様は完璧主義者っぽいから】

【あー、それはありそう】


「それ以前にダンジョンのノウハウも定かになってないのにね。スズキさんもあれで頑張った方だと思うよ? ほぼ丸投げした私が言うのもなんだけど」


【草】

【そういえばそうだった】

【そもそもプレイヤー以外がまともに扱えるコンテンツなの?】


「そこら辺は後続に任せるとして」



 空歩でステップを踏みながら上空を滑っていく。



【あ、アキカゼさん地上ルート諦めたな?】

【そう言えば全く降りる様子ないな】

【そもそも普通に空飛べるしな】


「後ちょっと何処かの誰かの襲撃に備えてます。あの人も空飛べますけどね」


【探偵の人か!】

【聖典陣営だからって街の中で仕掛けてくるとは思わんかった】

【聖典陣営の面汚しっぽかったなぁ>>0001の対応見るなり】

【そのくせ開き直ってるしなぁ】


「それと地上ルート以外にもルートありそうじゃない? ただでさえ三陣営に属してないと選ばれないあたり、そういうトリックありそう」


【あー、陣営入ってるのがベルト持つ条件の一つなのか】

【じゃあ選ばれた奴らは陣営入ってるんだ】

【そりゃ入ってるだろ】

【まるでそれを見せない奴もいるがはてさて】

【しっかし空路ねぇ】

【陸路以外にも道はあると?】

【確かにみんな陸路ですもんね】

【こっち側がチュートリアルあるなら、そっちに天空も地下もないわけないもんな。有ると考えるのが妥当か】


「ねぇ? せっかく空飛べるんだし、そっちの道も確認しなきゃ。何もなくても良し。あったらラッキーくらいで……」



 そんな風に思っていた時だ。

 さっきまで青空だった上空が一瞬にして夜空に包まれた。


 なんだ?

 心地よいそよ風が突風に置き換わり、まるでここから先に進むのに資格が必要であるかのような結界? のような壁に阻まれる。



【急に真っ暗?】

【いや、夜になったっぽい、星があるって事はそうだろ?】

【なんか星の動きも怪しくね?】

【すんごいギラッギラしてんな】

【あ、流れ星】

【流星雨ってやつか?】



 コメント欄が私の目の前で起きている超常現象を考察していく。しかし、私がこの場所にとどまるにはもう少し工夫が必要か。突風で体が持っていかれそうになる。

 風操作で対抗するも、突風の発生源の方が風力が一枚上だ。

 重力を上げて対抗すれば、私の体はこの空域を保てない。

 なら他の手段は?

 ショートワープ……は試しているが一向に突風吹き荒れる空域を免れることはなかった。


 明らかに異常現象。

 ならば怪異には怪異をぶつけるのみだ。

 クトゥルフの鷲掴みで握り込んでいた領域を再度展開する。

 そして結界に向けて開いた手で鷲掴み!

 そこへダメ推しの侵食も付与する。


 ビキビキ、パキッ!


 なにもない空域に突然皹が入る。

 やはり怪異の類か!

 ならばもう少し力を入れて私の領域をそちら側に流し込む。

 が、その皹の入った内側から伸びた触腕が私の顔を掴んできた。意識が闇に飲まれる。

 予想もしていなかったしっぺ返し。

 

 間違いなく魔導書関連。

 無数の触手が闇の内側から這い出てきては私を拘束するように巻きついた!

 そしてその中央に現れる大きな目玉。

 それは決して神々しいモノではなく、舐めるような視線の奥に混沌を煮詰めたような気色悪さが纏わりつく。

 逆にこちらが侵食し返されている気分だ。

 まるで触れてはならぬものに触れてしまったかのような、激しい抵抗を感じた。


 無理矢理侵入するのをやめると、こちらを掴んでいた手が離れる。侵食するように伸びた触手が剥がれ落ちて、闇の内側に戻っていった。

 まるで起こされる時がくるまでそっとしておいて欲しそうな、そんな抵抗を覚える。

 穴の空いた空間は少しづつ修復されていき、やがて穴は完全に塞がれた。


 そこにはただ漆黒の闇が広がっている。

 暗黒の空にはなおも流星群が降る光景が世界を彩り続けた。


 絶対にこの先に何かある。

 記念に写真を一枚。シャッターを切ろうとした瞬間、手からカメラが弾かれた。

 まるで写すことすらさせまいと拒否反応を感じる。



【ふぁー、アキカゼさんがカメラを弾かれるなんて初めてじゃね?】

【そのあとすかさずスクリーンショットに行く辺り流石】

【そっちは成功したのかな?】

【わからん。そっちなら写されても問題ない可能性すらある】

【じゃあカメラのもう一つの効果を嫌ってるのか】

【もう一つって?】

【なんでカメラは弾かれたんだ?】

【確かあれ神格武器だったはず】

【あー、じゃあカメラに写されたくないなんかがあるんやな】

【それっぽい】

【行動するたびになんか発見するのはアキカゼクオリティやな】

【それwww】


「取り敢えず三言語で抜ける情報とかはなかったね。だから多分、なんかの神格が眠る地の一つなんだと思う」


【明らかに邪神だろ、クトゥルフ様の能力でも押さえ込まれてたし】

【案外上位神だったりして】

【アザトースクラスか?】

【か、ナイアルラトホテプの本体か】

【あー】

【いや、あの見た目はバックベアード様だろ】

【確かに似てるっちゃ似てるけど】

【このロリコンどもめ!】

【絶対に言わないワードなんだよなぁ】

【でもあれ妖怪じゃなかったっけ?】

【怪異は怪異だろ?】

【違いない】


「そこら辺の説が濃厚かね。取り敢えず現地組に情報を丸投げしておこう。私の方はそろそろログアウトするからね」


【草】

【余計に混乱させる予感しかない】

【しっかし本当に動くだけで情報抜くなこの人】

【もし今回も参加してたら普通に上位入る活躍してるもんな】


「それはないでしょ。私は普通に遊びに来てるだけだよ? むしろ攻略より配信ネタ優先だ」


【それでこれなんだから】

【むしろ情報がひっきりなしに入ってきて考察が捗る捗る】

【その上本人が呑気だから】


「そうそう、そんな気にしなくていいよ。あとは探偵さんのこれからについて、一つ考えたんだよ。もしこれからもしつこく襲撃してくるようなら、お互いに損益を被りかねないじゃない?」


【だな。アキカゼさん本人はまるで堪えてなさそうだけど、もし俺がとりもちと同じ立場だったらマジ邪魔だもん】


「そうだね。彼には悪いことをした。せっかく雑談に応じてくれたのに、恩を仇で返してしまったよ。そこで私は探偵さんに懸賞金をかけようと思う」


【www】

【とうとう探偵さんもお尋ねモノかー】

【いや、妥当でしょ】

【あれは聖典だからって許されて良いレベルじゃない】


「私自身はあれくらいで目くじらたてたりはしないんだけどね。あの人場所を選ばずに仕掛けてくるでしょ? でも退治するのは難しいと思うんだ。と、言うのも戦えば分かるけど、あの人結構強いからね。だからもし誰かの邪魔になりそうな時、一時的に手を組んで追い払って欲しいんだよ。配当金は追い払った人数にそれぞれ配られる感じ」


【随分とルールが緩いけど、平気なん?】

【足を引っ張るだけで良いなら参加しやすそうだな】

【賞金額にもよるな】

【これって他のプレイヤーもそのうち増えていく系?】


「どうかな? あまりにも迷惑ばかりかけるなら身内でも断罪して行く予定だよ。まぁ軽いお遊びみたいなものさ。ただやられっぱなしじゃ私としても敵わない。向こうもいつどこで狙われるかわからない恐怖に震えてもらいたいのさ。悪役っぽく、私はそれを演じるだけだよ」


【向こうも別に正義を騙ってるわけじゃないのに悪役を騙るんか】

【まぁなシェリルも苦労してたっぽいしな】

【それ】

【目上だからって怒るに怒れないらしくてな】

【父親の同級生ってだけであまり上から言えないもんな】

【そら中間管理職は上と下からの意見に板挟みよ】

【シェリル可哀想】


「なに、あの子が迷惑を被っていた? じゃあ配当額は2億だ」


【草】

【親バカなんだよなぁ】

【迷惑かけてる回数では間違いなくアキカゼさんの方が多いですよ?】

【それな】


「いいんだよ、私は親子なんだから。それにもし誰かが私に懸賞金をかけたとして、誰が探偵さんを捕まえた時の報酬を支払うのさ。言っちゃあなんだけど私が捕まるようなことになったら探偵さんを捕まえても払わないよ?」


【そんな風に釘刺されたら誰も賭けない件】

【いや、ワンチャンシェリル辺りなら賭けそう】

【あり得る】

【なんだかんだ恨み買ってるからなこの人】

【でもこの人ほど賞金額が多いプレイヤーもなかなかいないのも本当だけどな】

【どのみち今のメンツで賞金稼ぎに勤しむメンツはいないだろ】

【だな、もう少し人数が増えて、探索以外に咲く余裕ができてからだと思う】



 なにやら流れが悪い方に寄ってきたな。

 こういう時、スズキさんがいてくれた方が場が明後日の方に流れて楽なのに。



「|◉〻◉)呼びました?」



 私の足元、厳密には影から突然現れたコタツ。

 その布団を捲ってスズキさんが現れた。

 別の席からはショゴ太郎も顔をのぞかせている。

 というより、このコタツって……



「ちょうどいいところに来ましたね。今ちょうど探偵さんを懲らしめるべく懸賞金を掛けていたところなんですよ。スズキさんも参加します?」


「|◉〻◉)なるほど。僕にはその似顔絵を描いて欲しいと、そういうわけですね?」



 なにをどう受け取ればそうなるのか。

 急にマジックを握りしめて落書きを始めた。

 そこには子供の落書きじみた某人間が描かれている。

 帽子を被り、本を手に持って、横に二人のお供をつけていた。

 片方は白く、もう片方は真っ黒に塗りつぶしている。

 これはスプンタ君とアンラ君かな?

 水掻きのついた手で書いてるにしては上手だけど、子供に落書き以下のそれに苦笑いを禁じ得ない。



「|ー〻ー)出来ました! どうです?」


[テケリ・リ、テケリ・リ!]


「|◉〻◉)ショゴ太郎は見る目がありますね。ぬふふ、まぁ僕くらいになればこのくらいお茶の子さいさいですよ。自分の才能が怖い!」


【おい、誰かこの茶番止めろや】

【話を明後日の方向にもっていく天才か?】

【さっきまでの流れをぶった切って脱線したのは確か】


「よし、これに賞金をかけて登録完了っと。一応だけどドリームランドの中に限るからね? チュートリアルエリアで捕まえても報酬は出しませんから。そこら辺はよろしく」


【そりゃ、な。向こうはPVPできねーし】

【向こうではあの人大人しいもんな】

【まるで水を得た魚のようにこっちではしゃいでるのが草なんだよなぁ】



 これで大人しくなってくれたらいいんだけどね。

 話を一旦切り上げ、ログアウトする前に配信を切る。

 ミ=ゴ達は特に出待ちしていなかった。

 役目を終えたと思ったのか、それぞれの持ち場に帰ったようだ。


 その後、スズキさんとダンジョンのなにがいけなかったのかを語り合い、ろくに編集せずに配信をアーカイブ化するとそのまま情報を丸投げする。

 さて、夕ご飯はなんだろう。

 時間も時間なのでスズキさんとはその場で別れ、リアルへと帰還した。

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