第83話 ゲーム内配信/特捜天空調査隊! Ⅰ

「はいこんにちは。最近プロデュース業も頑張ってるアキカゼです。そして──」


「あっ」



 スズキさんに話を振ろうとした時、ちょうどサハギンの着ぐるみに身体を入れてるところだった。

 もちろんヤラセである。打ち合わせ通りの茶番というやつだ。


 一度吹っ切れたら彼女の方から提案してきた。

 おかげでリリーとして問いかけても「なんですかハヤテさん」と問い返すようになった。計算通り、ほくそ笑む。


 無論ナイスボート宜しく急いでカメラを上に回して空の風景を写し、少ししてから元に戻す。

 どうやら準備は整ったようだ。着ぐるみに袖を通したスズキさんがどこから取り出したのかカンペに準備OKと書き込んで持ちあげていた。



「少しアクシデントが起きたようですが、皆様大丈夫でしたでしょうか?」


【一瞬冒涜的な何かが見えた気がする】


「気のせいだよ。今日も助手のスズキでお送りしまーす」



 スズキさんは鯛のボディに早変わりしてカメラの前に登場した。今や飛ぶ鳥を呪い殺す勢いの新世代アイドルとして名を馳せている彼女が一緒についてきてくれるので賑やかしは十分だ。



【魚の人はやっぱりその姿が一番】

【美少女全否定されてて草】


「あっちの姿は事務所を通してもらわないとダメなので。ね、プロデューサーさん?」


「その通り。アイドルとしての彼女は専門チャンネルでの配信を待ってください。本日はプライベートなのでいつもの姿でお送りします」


「いえーい」



 シャカシャカとマラカスを鳴らしながらペッタンペッタンステップを踏み出すスズキさん。



【こっちの姿の方がくっそノリノリなの笑う】

【いくらでも詰れるからこっちの方が好き】

【やっぱり美少女だと躊躇しちゃうもんな】


「ちょっとちょっと、うちの助手をあんまりいじめないでよ。より自由に動き出すじゃないですか」


【手綱握ってないんだ?】

【助手とはいったいなんなのか?】


「自称です」


「別に呼んでなくても来るようになったね。追い返すのもアレだから一緒にいてもらってる。そんな関係さ」


【草】

【アキカゼさん、身内に辛辣過ぎない?】

【可愛さ余って憎さ100倍かな?】

【身内になり過ぎて多少の無茶も許せる関係なんかな?】

【分からなくもない】



「さて今回のゲストはこちら!」


「俺はムッコロ。一応鳥類旅行記のクランメンバーだ」


「お初にお目にかかる。私はササライ。ムッコロ氏と同じく鳥類旅行記に席を置くもの。宜しく頼む」



 以前空の旅に同行してくれたツバメの野生種ムッコロ氏と、鳶の野生種ササライ氏である。



「今日はこのお二人とのんびり空の旅に出かけようと思います。このお二人はどうしても空撮したい場所があるそうなのだけど、その度に何かに阻まれる感覚があるにだという。今回はその謎に迫っていくよ。なのでここから先は空を飛べる前提です。落っこちても自己責任で。ね、スズキさん?」


【置いてこうとしてて草】


「僕の背泳ぎが唸る時が来ましたね!」


【それは魅せる水泳法で魚類として大きく間違ってる】

【そもそも鳥類と一緒に魚類が空を飛ぶってシュールだな】

【間違えて食われそう】


「は、身の危険!?」


「いや、こんなでかい魚食えないから」


「然り。歯がない故丸呑みも厳しかろう」


「セーフ?」


「さて、そろそろ出かけようか」


「はーい」



 空歩で一段づつ階段を登るように空を上がっていく。

 その姿にコメント欄は盛り上がっていた。

 スズキさんは尾鰭を揺らしながらついてきている。

 本当にペットみたいだ。

 リードがつけられるんならつけてみたいという気になる。

 ペットとか飼った事ないけど。



「なんですか?」



 そんな風に思っていたら、視線に気がついた彼女が訪ねてきた。



「なんだか今のスズキさんペットみたいだなって。いっそつけてみる、首輪?」


【草】

【魚をペットにするって発想www】

【辞めてあげて! 中の人女の子だから】

【自分でプロデュースしたアイドルなんやで?】


「残念ですけどリードは持ってきてません」


【オッケーなのかよwww】

【お互いにボケあっててツッコミ不在なのがまた】


「それは残念。今度その赤い鱗に似合う首輪とリードを選んでおくよ」


「楽しみにしてます!」


【これどこまで本気で言ってるんだ?】

【両方とも冗談だと思いたい】



 一足先に上空へと上がっていた御二方と合流し、真上から見た地上の風景を視聴者へお届けする。



【うわ、高っ】

【これを足場なしで登ったのは流石】

【鳥はともかく人と魚も上がれるもんやなって】


「みんなも天空の試練を頑張ればできるようになるよ。まずは雲の上に乗るところからだ。正直私もそこからスタートしたからね」


【雲の上に乗れるけど、泳げないから二の試練難しいです!】


「頑張って泳ごう」


「今なら魚人に強制進化できる青いドリンクも市場にあるよ!」


【ダイレクトマーケティングすな】

【でもそのドリンク、十日間地上での生活台無しにするでしょ?】

【それどころか飲むと確定で<深きもの>になるよな?】

【それ飲む奴は実質狂信者だから】

【ファンの獲得に健気ですね】

【ファンの第一条件が魚人になる事なのは草】

【だから狂信者って呼ばれるんやで?】

【狂信者になったおかげで毎日が楽しいです!】

【狂信者になったあと彼女ができました!】

【どこぞの詐欺広告のような提携文出すな】

【その彼女、背鰭付いてそう】

【付いてますが何か?】

【↑ここまでテンプレ】



 わちゃわちゃとしたコメントに返答をしながら私達はのんびりと空をお散歩する。休憩場所は雲の上にしよう。

 そう考えつつもなかなか見当たらない。おかげで非常に空撮が捗っているよ。風の流れが早いとかではないのに不思議だね。



【今どこら辺まで来た?】

【スタート地点がどこかわからん】


「スタートはフォークロアの山脈を抜けた先にある山道だよ。まっすぐ歩けばファイべリオンだね。そこをフォークロア方面へと逆戻りしてる形だ。つまりは山の方へと移動中だよ」


【だから山脈が多く映ってたのか】

【空撮見るの初めてだから新鮮】

【本来なら鳥類にのみ許された特権やしな】

【堕ちたら死ぬデメリットもあるが】

【アキカゼさんの打ち立てた成果でそれも緩和されたよな】

【その割に空撮少なくない?】

【好き好んでスカイダイビングする奴は居らんやろ】


「えっ?」


【えっ?】

【アキカゼさんの意外そうな顔www】

【空飛ぶ条件を満たした奴らに限ってそれを活かしてないからそんな顔にもなるよ】

【陣営入りする過程にしか考えてない奴多過ぎ問題】

【実際陣営入りしたあとジョブの検証が楽し過ぎてな】

【精巧超人もジョブの検証ばっかしてるよ】

【あれば便利程度なんやろな】


「勿体無い。それがあれば隠されたお宝だって見つかるのに。そんな考えに至るならそろそろアキカゼランドは辞めにしようか」


【待って待って待って! まだ陣営入り終わってないから】

【今までの期間何してたの?】

【こんなに長い期間運営してくれてるのに】

【ランクCのクランだという事を忘れそうになる開催期間】

【時間帯が合わない奴だっているでしょ】

【健全な時間しか運営してないからな】

【深夜組は涙目よ】

【普通のテーマパークとしても優秀だからそれのみを目的として行ってる奴らもおるで】


「別に私のクランが手綱を握らなくても後続が出てくるでしょ。そういう下地は作ったからね。あとはどのように運営するかだよ。私たちのやり方は赤字前提だから真似しない方がいいぞ。全部担当のポケットマネーから捻出されるやり方だ。給与を与えてないから好き勝手やった結果がアレだね」


【無給で働かせてたのか】

【え!? 自腹であの規模のヒーローショーを!?】

【脚本は?】


「中の人」


【リアルバラすな】

【マジかー、そういう繋がりがあるか】

【本当にクラメンに超人しかいなくて草生え散らかすわ】

【最近狂人も増えましたよね?】

【どこに向かってるんだ】


「足の向いた方にだよ。さて、雑談はここまで例の空域に着いたようだ」



 足元には先ほどまで見かけなかった雲が密集して積乱雲を作り上げていた。自然現象にしてはどうにも歪だ。



「なんだか綿飴みたいですね、美味しそう」


「スズキさん、綿飴知ってるんだ?」


「お祭りの屋台で売ってる奴ですよね? 過去のデータベースで見たことあります」



 博識だね。中の人がいるならともかく、この子はNPCなのに。いったいどの程度まで情報獲得許可が出ているのか気になるところだ。



【綿飴知ってる世代だったのか?】

【知らない奴の方が多そう】

【あれ苦手な奴もいるよな】

【あくまでも縁日で食べるイメージあるわ】

【なんもない日だとそこまで特別でもないけどな】



 意外なところで綿飴談義に火がついてしまう。

 しかし意外な場所から反応がある。それがゲストの御二方だ。



「失礼、アキカゼさん。あそこに雲があるのか?」


「ムッコロ殿、どうやらそのようであるな」


「え、お二方には見えないのですか?」


「少しだけいやーな予感がしますね。まるで鳥類の視覚を誤魔化すような、そんな類の魔術を感じます」


「魔術……もしかしなくても、魔導書関連?」


「おそらく」



 今度こそのんびりとしたお散歩気分になると思ったのに、どうも魔導書関連は私を放っておいてくれないらしい。

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