第82話 ゲーム内配信/新星アイドル爆誕 Ⅲ
私のアイドルプロデュースはプロフィール作製をしただけでは終わらない。
今回はデビュー曲として『恋のバミューダトライアングル⭐︎』を歌ってもらうことになっている。
音楽関連は探偵さんに頼んだら仕上げてきてくれた。
歌詞は私。
一応史実に基づいて切ないすれ違いからやがて異種交流の架け橋を繋ぐという希望に満ちた内容にしてある。
恋の、と入れたのは単純にウケ狙いだ。
単純にバミューダトライアングルだけだとホラーになりかねないので、恋愛の情緒を取り入れたという訳だ。
真実もほんのちょっと添えてこそ信憑性が増すというからね。
そもそもユニットネームからしてルルイエだし、乙姫様はハイドラ。スズキさんはルルイエ異本と来てる。
名状しがたきアイドルグループという側面を見せずに、彼女たちのほのぼのとした空気を感じ取ってもらいたくて撮影風景を配信してるんだ。
歌い出しはバラバラ。
もちろんそれは予測済み。
失敗しても良いと事前に言ってあるので、それぞれが気を使うようになって行く。
一番最初に気を使ったのはジーク氏。
乙姫様に合わせるように低音を担当した。
続いてミレディさん。
本来の生真面目さが表に出て、ちょっとした音ズレを意識し始めて自分で合わせて行く。
最終的にズレが激しいのが自分だと気がついたスズキさんは、テイクを重ねるごとに乙姫様に合わせて行った。
ぶっ通しで続けること45テイク目。
水中の中でのコーラスは喉が枯れる心配がないのが良いね。
みんな歌う時は水中でやれば良いのに。
と、今回はなかなか良いんじゃ無いか?
【ようやく音あってきたな】
【魚の人のドヤ顔がうざい】
【いや、たまには褒めてあげようよ】
【45テイク垂流しで視聴してる俺らも俺らだぞ?】
【ツンデレ乙】
≪いやー、良かったよ。水の中での合唱はこう、迫力があって良いね。最初は各々の個性が強くて合わないと思ってたけどね、一緒にハモった時は見事なメロディが出てたよ。ぶっつけ本番にしては上出来だ。お疲れ様≫
≪レコーディングと言うのは初めてやりましたけど、とても楽しいですね。次の機会があったらまたお願いしますね≫
≪私も最初はなんでそんなことって思ってましたけど、終わってみたらすごく達成感がありました。誰かとこんなふうに一緒に何かを成し遂げたことって初めてかもしれないです≫
≪俺も、やる前は少し舐めてたが乙姫様と一緒に歌ってると不思議と一体感が生まれてな。それがとても誇らしい気持ちになれるんだ。戦いに明け暮れてばかりの日常とはまた違った気持ちが味わえた。偶には歌うのも良いなと気が付かされたな≫
≪いやー、みんなお疲れ。輝いてたよ。特に乙姫ちゃんとは最後一緒にハモった時、意識しちゃったからね≫
≪ですね≫
≪では先程のテイクで録った歌を再度流してみましょうか≫
最初は静かな波の流れる音から始まり、ゆっくりと、ゆっくりと海の底に沈んでいく。ここは低い音程でジーク氏が担当した。
ソプラノより気持ち低い声で紡ぎ出されるメロディから、ミレディさんの人間との恋愛を思う歌詞に置き換わる。
海水の中から見る人間の姿。
そして怪我をして助けてくれた人間に近づきたくて何度も陸にあがろうとする。
そこで海の掟を憂う乙姫様へと歌詞を交代し、人とは分かり合えないことを告げられる。
ここから先はミレディさんと乙姫様のツインボーカルで進行する。
どうしても人間に会いたいミレディさんと、会った後に後悔すると訴える乙姫様。
意見が混ざることなく平行線のまま、やがて掟を破って飛び出したミレディさんは人間に囚われてしまった。
ここまでが悲恋。
見せ物として売られた彼女に待っていた運命は命の喪失のみだった。
やはり人間は愚かだ。そう判断を下す乙姫様の元に一人の人間がやってくる。男の担当をもう一度ジーク氏が担当し、人間を代表してミレディを死なせてしまった償いをしたいと頭を下げてきたのだ。
それを見ても乙姫様の意識が変わることはない。
失ったミレディと同じ沙汰を下し、平行線のまま二つの種族には大きな溝ができてしまった。
それを見た海の神様が亡くなった人魚と人間を生き返らせる。
神様役はスズキさんだ。
この曲は歌でありながらミュージカルのようなセリフが付いている。
各々の個性が強いからこそのテーマを語らせたのだ。
そして運命の二人は手を取り合い、やがて人と魚人族の架け橋となった。
最後は大円団でハモリながら終わる。
曲自体がそれなりに長く、5分近くあるが、テーマがテーマなので仕方ない。
最終的にスズキさんが全部上手いところを持って行くのも如何にもって感じだし。
【8888888】
【歌詞は不穏だったけど感動した】
【歌ってる奴らとユニット名に曲名が絡まってSAN値がピンチになったわ】
【何でもかんでも恋ってつけりゃ良いってもんじゃねーぞ】
【でも最後ハッピーエンドでよかった】
【それ、最初の重めの雰囲気からこんな終わるになると誰が思ったか】
≪そう? 詞は私だったんだけど良かった?≫
【犯人はお前か】
【なんて冒涜的な歌詞を書いてくれるんですか】
【史実とおとぎ話が混ざってるやんけ】
【真実の愛、ですか?】
【最後の神様が絶対そんなことせんやろって思いながら聞いてたわ】
【デウスエクスマキナですか】
【強制ハッピーエンドの神様】
【最後のってやっぱり?】
【十中八九ルルイエに眠ってる親玉】
【旧支配者なんだよなぁ】
≪決めつけいくない。神様はいい人。ちょっと人間の考え方と異なるだけ≫
【おや、まるでどんな人か知ってる口調ですね?】
【……人?】
≪人だよ?≫
【いやいやいや】
【人では無いだろ】
【もっと冒涜的な何かだよ
≪ムー人だって人だよ?≫
【うーん、あれが人ならワンチャンある、のか?】
【サイズ的にはどっこいか?】
【ハイドラからしてデカイし、あのサイズの人種ってことなら、まあ、ありうるのかもしれんが。うーん】
≪人間から比べたら大きいだけだし、海で生きてきたのもあって死生観が違うだけなんだよね。そこに人間のルール持ってきても魚人からはちんぷんかんぷんだよ≫
【そりゃまあそうだよな】
【郷に入っては郷に従えって言うし】
【サイズがデカイってだけで捕食対象だと思われて敵対しちゃった説もありそう】
【熊だって遊んでるつもりで人間殺しちゃったりするんだぜ?】
【あー、それと一緒なのか】
【殺された方の人間は怒り狂うし、魚人は仲良くしたかっただけってこと?】
【そう考えたらこの歌詞深いな】
【深いか?】
≪はい論破ぁ! 魚人は人間と仲良くしたいだけでした~。ま、いがみ合ってばかりもあれなんでこうやってアイドルデビューしたってわけさ≫
【さっきまで嫌がってたとは思えないほどの掌の返しようである】
【知ってる? この人さっきまでアイドル否定してたんだよ?】
≪おやおや、僕の演技に騙されちゃった人がいたんだ? これは演技賞ものかな?≫
【この顔ムカつく】
【どれだけ顔が小綺麗になっても魚の人なんだよなぁ】
【隙あらばマウント取りに来るのやめろ】
≪ふひひ、サーモン≫
≪さて、視聴者弄りはそこら辺にして、次は振り付けを頑張ろうか≫
【この配信者、弄りって認めたぞ!?】
【ゲストに好き勝手させるとか配信者の風上におけないですね】
【お前新規かよ? 肩の力抜けよ】
【アキカゼさんを一般配信者の枠組みで捉えてはいけない】
≪やっぱり振り付けもあるんですか?≫
【振り付けwww】
【素人に振り付けはハードル高くないか?】
≪でも君達、アイドルが棒立ちで歌ってたらどう思う?≫
【それは確かに解釈違いですね】
≪といっても最初から激しいダンスは要求しないからそこは安心して≫
・
・
・
おおよそ30分に及ぶダンス訓練。
さすが水棲系と言うこともあり、水中の中でキレッキレのダンスを披露してくれた。
この低酸素内運動の中でさらに歌う。
それを要求した時、流石に声が上がった。
≪もっと振り付け激しくしても大丈夫です≫
≪私のセリフ、もっと入れても平気です≫
≪俺のダンスパート、乙姫様と一緒に踊るやつがあってもいいと思うんだ≫
≪僕の出番少ししかないので、ダンス多めでもいいですよ≫
声と言っても、出来上がりに対するダメ出しの声だった。
いつの間にか一致団結して、自分たちの中に浮かび上がった完成系へと歩み始めたのだ。
やってみたら楽しかった。
それが上手いこと伝わったのが大きな成果だ。
結局そのあとテイク25までダメ出しが続き、完成品が出来上がったのは翌日のことだった。
一応アキカゼプロデュース第二弾と言うことでPVを無料配信し、再生数でどれだけの人が自分たちの歌を聞いてくれたか様子を見ている。
最初こそ不穏な始まりなのがまずかったのか、出だしは緩やかに。しかしマリン達のユニットと数度絡みがあったあと、爆発的に再生数が伸びた。
最初こそ異色すぎるメンツに食わず嫌いがあったが、キャラの良さで目を引いてそのまま再生数を稼いだようだ。
本当についさっき、1万再生を達成したばかりだ。
≪おめでとうみんな、RU⭐︎RU⭐︎I⭐︎Eのファーストシングルは無事1万再生されたよ。リピートしてくれた狂信者や、興味本位で聴いてくれたにわか狂信者のみんなにお礼を言おう≫
【ファンの事を狂信者って言うのやめません?】
【草】
【冒涜的なアイドルのファンは狂信者としか言いようがないんだよな】
【何言ってんだ。乙姫ちゃん可愛いだろ?】
【アニキだってかっこいいよ】
【ミレディちゃん、こっち向いてー】
【あ、スズキさんはお座りで
【一人だけ扱いがペットに向けるものになってるんだがwww】
≪サブマスターのいけず≫
【そうやってコメントで誰かを特定するのは感心しないよ?】
【速攻バレてて草】
【この前犬扱いされたお返しか】
【みみっちぃやっちゃな】
≪きっと昨日散歩に連れて行かなかったのを拗ねてるんだ≫
【君、ねぇええ!!】
【ほんと仲良いよね、ここのクラメン】
【ほぼ身内、またはご近所さんらしいよ】
【おかげで新規が入りづらい雰囲気】
≪あ、そうそう。私ようやくランクBに上げたんですよ。でもお誘いしたい人がいるので募集はしません≫
【それはしゃーない】
【元々クラメンになりたい奴は下心が大きすぎるし】
【誰をクラメンにするかは決まってるんですか?】
≪まずはRU⭐︎RU⭐︎I⭐︎Eのみんな≫
【プロデュース関連での繋がりかー】
【確かにクラメンにしておけば連絡関係は楽だな】
≪次にアンブロシウス氏とセラエ君≫
【これ以上クラメンのSAN値を削ってはいけない!】
【ちょっとマスター、聞いてないよ?】
【いつも事後報告なのかよ】
≪この二人は連絡待ちだね。他にルアーさんとカイゼル君も誘ったよ≫
【ほぼ配信に関わった人達やんな】
【どれもこれも頭おかしい人達しか居ない件】
≪それは現クラメンに失礼では?≫
【筆頭キチガイの魚の人がなんか言ってるで?】
≪ひどーい≫
まだスタートしたばかりのアイドル業務だったが、最初の一歩はつつがなく終わった。
あとは配信を個人に任せて、こちらで歌や衣装を用意させて歌ってもらったりする予定だ。
配信の都合上、私との関わりは今回で終わるけど、スズキさんは引き続き出てもらうので、キャラを売って貰えばいいか。
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