第84話 ゲーム内配信/特捜天空調査隊! Ⅱ

「よし、見なかったことにしようか」


「でも向こうのほうがこっちに気づいたみたいです」


「えー、放っておいてよ」


【草】

【逃れられない運命なんだよなぁ】

【むしろ今魚の人、セラエちゃんと同じような検知してなかった?】

【魚の人だぞ? その時のノリで適当いってるだけ】

【言い方www】

【普段が普段だからなぁ】



 そして私たちの体がその雲に覆われて……

 私の内側に何かが流れ込んできた。



≪Now Loading≫


<魔導書との邂逅……達成>

<古代人との邂逅……達成>

<妖精との邂逅……達成>

<条件を満たしました>


<ドライバーシステムが実装されます>



<<アナウンス>>

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

 プレイヤーが初めてドライバーシステムを解放しました。

 このアナウンスはキーアイテムを所持している人にのみお届けしています。また、未発見のキーアイテムを所持した時にも流れます。


 各種キーアイテム

 [聖典]

 [魔導書]


 ドライバーシステムは本来なら起こりうるデメリットを大きく減退させ、代わりに本来以上の能力行使を行う『聖魔大戦』限定アイテムです。

 神格召喚を実行する際の肉体奉仕をベルトに肩代わりさせ、人型のまま権能を行使する事ができます。

 ※イベント期間中以外では能力は大きく減退されます。

 イベント期間中……100%

 イベント期間外……50%

 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・



 そんな内容が頭の中に流れ込んで、いつの間にか腰には取り外せないタイプのベルトが巻き付けられていた。


 つまりこれが例のイベントの参加者資格というわけだ。

 これじゃあまるでバッタマスクの変身ヒーローみたいである。

 もしかしなくてもそこから引っ張ってきたか?

 虫じゃなくて神格を取り込むあたりは新しいのかも知れないが。



【なんか頭に変なアナウンス入ったぞ?】

【え、聞こえなかったよ?】


「多分そのアナウンス発生させたの私かも。さっき雲に包まれた時、イベントの発動条件を満たしてしまったらしい。そのイベント参加資格がこのベルトみたいだよ」


【なんか変身出来そうなベルトですねぇ】

【装飾過多なベルトですね】

【チャンピオンベルトかな?】

【そこまででかくはない】

【どっちかと言えばライダーベルトみたいな?】

【変身しそう】

【実際変身するらしいぞ。でも気がかりなのはアキカゼさんがどっちかって事だな】

【どっちって何が?】


「今は古代獣のイベント中です。あまりここで話すことでもないでしょう。後で掲示板を建てて、そこで話し合うのはいかがでしょうか?」


【それもそうか】



 うまく話を誘導できたみたいだ。

 騒いでいたコメントを見かけなくなったあたり、スレを立てにいったのだろう。あまり騒ぎにならなければいいけど、私の最近の行動はアーカイブ化されてるからねぇ。

 彼の言うどっちかなんてすぐ判明しそうなものだけど。



「さて、ムッコロ氏」


「ああ」


「話は大きく脱線しましたが、探索の続きといきましょうか」


「随分と見晴らしが良くなりましたからね」


「然り]



 私の言葉にスズキさんとササライ氏が頷いた。

 コメント欄はさっきのイベントの話題の考察で忙しそうだった。


 目の前に現れた空域は、どこもおかしな点はなかった。

 ただの山林だ。

 だからおかしな点があるとすればあの雲だけだったと言える。



「一応降りてみましょうか」


「そうだな、念のため」



 確認を取り、その地域に降り立つ瞬間、空間が歪んだような気配に包まれた。

 汗がどっと吹き出し、焦燥感に心がかき乱される。

 こんな状況に陥るのは大体ゲームマスターのような存在に陥った時くらいか。

 それもそのはず、そこに居たのはみたこともない化け物だったからだ。



[むう? 資格のない者以外は立ち入ることさえできないはずだが。どこから入り込んだ]


 剥き出しの脳みそのような頭部からは触覚が生えており、首から胴体にかけて甲殻類のような殻に包まれている。

 海老のように腹部から四本の鋏を持つ腕を生やし、背中からは虫でも獣でもない独特の翼を複数生やしていた。

 伸ばした尻尾の先端からは蜂のように尖った針がついている。

 まず間違いなくキメラ。それにしては地球上のものとほとんど一致しない。



「なんでしょうか、あれは」


「分からない。だが人でない事は確かだ」


「然り」


「ミ=ゴと呼ばれる奉仕種族ですね。どうしてこんなところにいるんだろう。少しお話ししてきますね」


【ミ=ゴwww】

【スズちゃん、知ってて行くのか!】

【まぁミゴくらいならなんとか】

【このゲームこんなやつまで存在してるのか、怖】

【ハイドラがいた時点でわかってた】

【なおそのハイドラ、アイドルデビューしてるで】

【乙姫ちゃんなんだよなぁ】

【スズちゃんも深きものよ? ワンチャン話通じるのでは?】

【仕えてる主人次第で戦争起きそうなですが、それは……】

【サハギンプレイヤーでも話通じるのん?】

【乙姫ちゃんもプレイヤーっぽいしな】



 残念、どちらもNPCだとスズキさんが明かしてくれた。

 あの中で純粋にプレイヤーなのは一人しかいないよ。

 そう考えるとやらせ感がすごいなと思う。

 そこまでして私を引き入れたかったのか。



「お話し聞いてきました」


「なんだって?」


「ここから先はとあるイベントの舞台となる場所なので今はお通し出来ないそうです」


「それは残念だ。でもよく話が通じたね?」


『ちょうど仲良くしてくれている相手だったのでよかったです』



 敢えて念話で言葉が返ってくるあたり、あまり外に漏らしてはいけない情報なのだろう。



「いや、話が通じたならいいんだ。それよりこれからどうするかだけど」


「この場所の探索はしちゃダメなのか?」


「然り。非常に気になるのである」


「うーん、ちょっと待ってくださいね。そこら辺も聞いてみます」



 すててててーとミ=ゴと呼ばれるものへと駆け寄るスズキさん。二、三頷きあい語り合ってる。側から見ればご近所さんと中良さそうに会話してるようにしか見えない。



「ドリームランドに入らない限りはオーケーらしいです」


【ドリームランドwww】

【あ、次のイベント会場はそこなのね】

【しかし出口がこことか秘境もいいところじゃん】

【言うてフォークロア近郊やけど】

【あの山脈の一部にそんな場所に繋がるところがあったとは盲点だったな】

【俺らその下の鉱山を素知らぬ顔で素通りしてたんだなって】

【知らなきゃ知らないでしょうがないよ】

【しっかしドリームランドか。ムーンビーストも出てきそうで怖い】

【ニャル様の奉仕種族な】

【ミ=ゴもヨグ様の奉仕種族なんやで】

【どいつもこいつも神格がヤバい奴しかいない】

【やばいから神格扱いされてるんやで】

【それ】


「その神格を召喚して戦うのが次のイベントらしいね」


【普通は未曾有の危機なんだろうけど】

【舞台が舞台だし、いいのか?】

【まるで本当のマスクドライダーみたいやん】

【今から勝利条件が気になりますね】

【俺は参加資格の方が気になるわ】

【そう考えるとどの神格を引けるかで勝率変わってくるのか】

【SAN値が持てば俺も挑戦するんだけどな】

【普通は出会わない前提で探索するんやけど】

【逆手に取ってきたか】


「私は強制参加らしいですよ。魔導書とか持ってないのになんでこんな目に」


【アキカゼさんは踏み抜いたイベントがアレすぎて擁護できない】

【確実にクトゥルフ関連踏み抜いてますし?】

【どこかで断片手に入れてたりするんじゃないですか?】

【ありそう】

【でもセラエちゃんみたいな美少女おらんで?】

【そこにいるやろ?】

【魚の人www】


「呼びました?」


【呼んでない帰れ】

【美少女から程遠すぎる】

【アイドルの方はまだ可愛いけど、アレは違うんだよなぁ】

【そう、魔導書らしくないって言うか】

【もっと神秘的なものが欲しいよ】

【みんなスズちゃんに辛辣すぎない?】


「うわーん、ハヤテさん。コメ欄が虐めてくるー」



 鳴き真似しながら腰の入ったタックルを仕掛けてくるスズキさんを熟練のマタドールのように躱し、彼女はそのまますっ転んだ。



「いたーい」



 ダメージなんて受けてないくせに、鳴き真似をしてでもすり寄ってくるあたり根性は認めよう。



「馬鹿やってないで向こうの答えを聞かせてください」


「あ、はい」



 そのあとおふざけモードから真面目モードになってドリームランドに入らないなら自由にしてよしとのことらしいです。

 そのかわり、門番の彼の種族が周囲を探索してるので逐一説明する必要があるらしい。



「連絡してくれなかったんだ?」


「向こうはこちらを判別する手段を持ちませんので、全部エネミーに見えるっぽいですね」


「取り敢えず戦闘にならない事だけを祈ろう」



 パシャリとスクリーンショットでドリームランドと思しき場所を撮影する。



<ドリームランドへの入り口を記録しました。以降、マップへ映り込みます>



 おっと。記念撮影のつもりが変な地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 向こうに気づかれる前に、私達はそそくさと上空へ飛び上がった。

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