第14話 ゲーム内配信/雑談枠 Ⅲ
B3の天井では結局何も見つからずじまいだったので、私達は上の階層に戻ることにした。
しかしB3まで探知出来なかったように、B2、B1ではナビゲートフェアリーの反応すら起きなかった。
結局振り出しに戻ってB3まで戻って来たが、相変わらずの騒がしさだ。
こうなってくると私のような探索特化相手へのフェイクのような気がしてならない。
探偵さんやジキンさんならもっと違う考えを示してくれるだろう。今度誘ってみようかな。
「結局ギミックは分からずじまいでしたね」
「逆に怪し過ぎてフェイクの可能性も出て来たくらいだよ」
【ナビゲートフェアリーを使うフェイクとかあるん?】
【聞いたことないな】
【大体反応した場所には何かがあるのが通例】
【アキカゼさんが探し切れないとか曲者ですな】
「私だって初見で見抜くのは無理だよ。こういう場合はどこかに古代語のヒントとかあるんだけど、それすら見つからないしね。もしかしたら戦闘フィールドやエネミーに隠されてるかもしれないので私も次から戦闘に参加するよ」
「じゃあポジションどうしようか?」
「私はショートワープのスキルを持っているので前衛でいいよ。基本的に撮影しかしないけどね」
「えっ、今なんて?」
【おい!】
【草w】
【やっぱりあれ霊装じゃなかったんかwww】
【そりゃ(霊装は紋様出るし、出なきゃ)そうよ】
マリンが驚きに表情を強張らせ、コメント欄も加速する。
そういえばこのスキルは誰にも開示してなかったな。
「おっと、これは機密だった。出来れば忘れてくれたまえ」
「しっかりメモしておきますね^ ^」
「シグレ君……」
【だめだこの人、隠し事するのに向いてなさすぎる】
【お口ゆるゆる過ぎない?】
【だがそこがいい】
【ナイスだぞ記者のお嬢ちゃん! そのまま追い詰めてやれ!】
「ハイハイ、私が悪うございました。戦闘配置はそのままで。シグレ君はどうする?」
「天井で応援してます!」
「分かった。じゃあ上空にヘイトが向かないように気をつけよう」
【この子、弁えてやがる】
【今までアキカゼさんもそのポジションだったんだよなぁ】
【言うて、パッシヴ極が戦闘に参加しようとは普通は思わないが】
【大丈夫だ、この人普通に戦闘センスあるから。アタックスキルがないだけで】
【ゲームに何をしに来てるかがスキル骨子見るだけでわかるよな】
「勿論私は風景写真を撮りに来ているよ。ブログだって家族やフレンドに見せればいいかなぐらいでフレンド枠のみにしたくらいだ」
【目的が俺らと初期段階から違いすぎるw】
【そりゃアタックやサポートに目が向かないわけだ】
【だからってパッシヴ極は極論すぎない?】
【その結果がお宝の山よ】
【みんなその情報が知りたくて配信見に来てるんやで】
【普通にファンの人もいるけど、大半はそうだな】
【でもスクリーンショットでいいだけならどうしてAWOに?】
「マリンと一緒に遊べなくては意味がないよ。私は彼女に誘われてこの場にいるだけの年寄りだからね。ゲームをしてなきゃリアルで撮影をしていたよ」
【納得。第一世代はリアルの毒素を耐え抜くもんな】
【第三も耐えられるけど、人のいない空間に意味を見出せずVRに来てる連中多いからな】
【親の第二世代がVRに引きこもってれば子供はそっち行くのが当たり前だからな】
【なんだかんだVRのログイン率が高い理由はそこら辺よな】
【特にAWOは三世代が楽しめるような仕組みがあるし】
【掲示板が高速で流れるからブログなんてものがあるんだぞ】
【そういえばそうだった。今じゃ掲示板以上に情報収集に欠かせない記事が多くてな】
【そりゃ体験談と誰かから聞いた話を自分の体験のように語ってるやつとどっちを信じるかって話よ】
コメントを流して読んでいると、AWOは私達の世代も配慮してくれているのだそうだ。
確かに遊びやすくここまでハマれているのは実感していた。
コメントは勢いを増し、収拾がつかなくなったのでエンカウント狙いで練り歩く。そこへちょうどよくガラスが砕け散るエフェクトが入り、戦闘フィールドへと誘われる。
「敵はシャドウ/ハウンド、バイパー。それぞれ2」
「耐久はそれぞれ2000だ、行けるか?」
【スクリーンショットで情報抜けるのは今やお約束とはいえ】
【たぶんこの情報の出処もこの人だぞ】
【スクリーンショットに移行するまでの流れがスムーズすぎる】
【武器構えるより先にスクリーンショットに移れる人はそうそう居ないけどな】
「残念だがシャドウは私の敵じゃない。ケンタ君、隙は私が作る、きついの一発頼むよ?」
「おうよ!」
【ん?】
【どゆこと?】
【見てればわかるんだろ】
【そりゃそうだ】
基本的に私には襲っては来ないので、ショートワープを使って戦闘体制に入ったケンタ君に食らいつこうとした<シャドウ型/ハウンド>を『影踏み』で固定する。その隙に溜め動作が完了したケンタ君が動きだす。
「今だ!」
「ナイス爺ちゃん! くらえぇえええ!」
ゴズン!
影踏みで強制的に実体化したボディにケンタ君の一撃が突き刺さる。
今の一撃で耐久の半分は削ってしまうほどの威力は火力特化ならではだろう。
【は?】
【シャドウ型に物理当てよったぞ!?】
【光属性以外何やったって無駄なシャドウ型に?】
「私のスキルには『影踏み』と言うのがある。これは影を固形化して強制的に足場にするものだが、今回のようにエネミーの動きを止めるだけでなく、物理も通じるようになるのを発見したんだ。カネミツ君あたりが情報まとめてると思うけど?」
既出情報だろうと高を括って発言するも、コメント欄は大いに賑わっている。
あれ、また私は間違えてしまっただろうか?
えっ、でもだいぶ昔の情報だよこれ。
他の情報が重すぎてどうでもいいと捨て置かれてしまったのかもしれないね。可哀想に。
【は、えっ? 知らねーぞそんな情報!】
【まず影踏みが生えてこない件】
「ああ、そこからか。影踏みは木登り補正から派生の垂直移動、重力無視からの派生だよ」
【そりゃ生えるわけなかったわ】
【木登り補正から重力無視が生えたのか】
【俺の木登り補正もっと頑張って!】
「たぶんアキカゼさんみたいにマナの大木をソロで到達でもしない限り垂直移動も重力無視も生えてこないと思いますよ」
【シグレちゃんの正論が俺に致命傷を与えてくる】
【全方位攻撃やめて!】
【俺たちに足りないのは努力と根性か】
【知性派の第二世代には厳しいのでは?】
「フレンドでクラメンのどざえもんさんも第二世代だし、金狼君も第二世代だ。その世代だから無理だと言い訳するのはよしなさい。頑張ってる人たちに失礼だよ」
【どざえもんって誰?】
【地下ルート発見、開拓者】
【えっ、その人アキカゼさんのクラメンだったの?】
【元登山部のマスターだった人だよ】
【ああ、あの変わり者の……】
「変わり者と言えば私もそうだけどね。ちなみに彼は単独で妖精との邂逅も済ませている。フレンドでありながら私も尊敬する偉人だよ。ちなみに登山においては私は彼に勝ったことがない」
【えっ】
【えっ】
【は?】
【ドワーフの癖してアキカゼさんより早いってどういうこと?】
【ドワーフは器用さ特化でLP補正が高く、その上鉱石類と対話出来る。たぶん山と対話してるぞその人】
「彼もそう言ってたよ。俺はズルしてると。今やれば空を飛べる私が勝つけど、今の彼は巨大化出来るムー陣営で唯一の精霊使いをしている。だから実際に競ってみなきゃ本当のところはわからないね」
【あれ、じゃあ精霊使いの情報提供者ってその人か】
【あのマメな情報提供してくれる人ね、そうか、その人が……】
【名前がふざけてるからもっと偉そうな人かと思ってたけど違うんだな】
「見た目は厳ついけど、真面目な人だよ。私なんかよりずっとね。そして第二世代だからあまりログインができないんだ。それでも成し遂げている。私は今でも尊敬の念を抱いているよ。唯一のライバルは彼だと」
コメントが盛り上がってるうちに戦闘も終わり、私達は次の階層へ進む。
結局戦闘フィールドから情報らしい情報は出てこなかった。
「お爺ちゃんのテイムエネミー、強いね」
「うん?」
いくつかの戦闘を終えると、マリンがそんなことを言ってくる。
そうかな?
実際のところは私のダメージソースになり得ているが、そこまで強いかという感覚は薄い。
敵対したときの厄介さを自分で扱いきれている自信がないからだ。
【あ、だめだこの人。気がついてない】
【天井にボール強化型/マジック貼り付けて一斉掃射する攻撃が弱いはずないんだよな】
【ノータイムで数種類の魔法が飛んでくる地獄絵図】
【スワンプマンタイプは為す術もなく爆発四散】
【設置型であの威力はずるい】
【ユーノちゃんも泣いてるで】
「逆にバフに集中できてありがたいですけどね」
【天使や】
【やさしい】
【やっぱりテイマーだけで過剰戦力じゃないですかー】
「あれでも一番弱い部類なんだけどね。ボール型だし」
【あ、この人捕まえた種類が厄介だって気がついてない】
【その弱いで7の街までのエネミー虐殺できるんよなぁ】
【耐久2000を瞬殺で弱いは嫌味ですよ?】
【アキカゼさんの中の強敵がきっとレムリアやアトランティス規模なんだよ】
【ああ、納得】
【物差しがそもそも違った件】
確かに強敵といえば彼らが代表に上がるけど、試練で出会ったエネミーの本来の力を出したらもっと驚くんだろうなと思わなくもない。
私達はなんの発見もできないまま階層を下に降りて行き、3の倍数で精霊がより騒がしくなる現象に陥った。
きっとこの仕掛けは階数そのものより、数字が起因しているのだと気がついたのは私だけではないだろう。
「シグレ君、過去にデータで3の倍数の階層から何かが取れたデータは?」
「ええと、少々お待ちください。父のデータベースを調べてみます」
「お爺ちゃん? 何か見つかったの?」
「いや、B6ではB3の比較ではないほど妖精が騒いでいる。称号特典でOFFに出来なければ耳鳴りと頭痛で気が滅入るほどのものだ」
「何かあるんだね?」
「そう思うのは確かだよ」
「分かった。気を引き締めるよ、みんな!」
マリン達はこのダンジョンに初めて来ていた。
事前情報は調べたが、ある意味ぶっつけ本番なのだ。
私からそう頼んだのもあるし、彼女達もそれに応えてくれた形だ。
そしてシグレ君がハッキリと口にした。
「ありませんでした。そもそもエネミーとの遭遇率も悪いようです」
「ビンゴだな。妖精達が騒ぐ原因がどこかにある。それをみつけよう」
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