第15話 ゲーム内配信/雑談枠 Ⅳ

 何かがある。そう確信して周囲に警戒を促すも、それが何かはさっぱりわからない。



「何故エネミーとエンカウントしないんだろう?」


「もしかしたら妖精と相性が悪かったりして」



 私の呟きにマリンが答える。

 そんな事ってある?

 そもそも妖精とはなんなのか。それすら分かってないのだ。


 私達や天空人、地底人よりは高尚な生き物であることは間違いない。

 土着信仰の地底人、竜神族の敬う精霊とはまた何か違うのか?

 エネミーとはアトランティスの使役生物だ。

 それが蔓延る時点でこの世界はアトランティスが攻略中である証。


 しかしアトランティスが何故この場所を攻略しているのか?

 答えは簡単だ。

 ここがムーの民が支配する世界だからだ。

 ……まさか陣営分けとはそう言う事なのか?



「もしかしてこの場所は地底ルート開拓者じゃなきゃ解き明かせないかもしれないな」


「それはなんで?」


「地底ルートには特有のスキルを獲得できる『契り』がある。それが俗に言う精霊契約だ」


「あ、精霊使い? 私掲示板で見たことあるよ!」



 的を射たりとはにかむマリン。それに私は頷いて見せた。

 それ以外にも音の精霊との契約能力である妖精誘引。あれが関係しているように思う。

 どざえもんさんがそれを取得しているかどうかは知らないが、一人だけ心当たりがある。



「シグレ君、おじいさんと連絡つく?」


「ええと……お爺ちゃんが必要な感じですか?」


「うん。私一人じゃ荷が勝ちすぎていてね。私の方からもある人物に連絡を取ってみるからここに来れるように誘導してほしい」


「わかりました」


【なんだなんだ?】

【何が始まるんです?】

【第三次大戦だ】



 二人のゲストを待ってる間、雑談枠らしく雑談に耽る。

 私達はダンジョンの入り口にまで戻っており、そこで呼びつけた友情出演の二人に手招きした。



「少年探偵アキカゼ、救援に応じて推参した!」


「まさかこんな時期にお呼ばれするとはな。アキカゼさんには遠く及ばないが、頼られたら断りきれない。どざえもんだ。今日はよろしく頼む」



 本日のゲストは探偵さんことガチロールプレイヤーの少年探偵アキカゼと、どざえもんさんである。



【機関車の人来た!】

【つーてクラメンだけど】

【わざわざ個人で連絡せんでもクランチャットで呼び寄せればええやん】


「うちのクランはご近所さんやフレンドさんの憩いの場所だからね。いくら同じクランのメンバーだとしても、折り合いはつけるよ。それに配信に映す前提だから来てくれるかどうかも交渉しなきゃでしょ?」


【割と良いクランなのか?】

【かもな】

【うちのマスター達も見習って!】


「騙されない方がいいぞ。無茶振りとか普通にしてくる。まぁ、それに目を瞑れば過ごしやすいクランではあるよ。好きな時間にログインしてもどやされないし、クラン運営費を徴収されたことは一度たりともない」


【クラメンは語る】

【無茶振り自体はどこのクランでもあるだろ】

【それな】

【無茶振りの規模が違うことは容易に想像できるが】

【例えばどんなの?】


「ある日突然地下ルートのお手伝いと称してクラン「精巧超人」が派遣されてきて、うまく扱えとか」


【うわっ、それは……】

【雲の上の人物すぎて話聞いてくれるの?】


「俺も開拓ルート自体取り上げられると思ってたんだが、話せば普通にいい人たちでな。聞けばクランマスターはアキカゼさんの娘さんらしいじゃないか。それにしたって物分かりが良すぎて内心ハラハラし通しだったよ」


【これは間違い無く苦労人ですわ】

【どざえもんさん、いつもムージョブ掲示板の情報更新助かってます】

【結局精霊使いってどんなジョブなの?】


「言葉で説明するのは難しいが、超越種族である精霊にお願いしてとある行動をとってもらうジョブだな」


「へぇ、アトランティスみたいに使役するんじゃないのか」


「一応こっちじゃ名目上は高位存在らしくてな。祝詞が失敗したり、条件が揃ってないと精霊契約自体が不発に終わる時があってやたら扱いが難しい」


【話を聞く限りじゃ弱そう】

【スタンピードも競争率激しいだろ?】

【ムーは常に誰かのご機嫌取りに忙しいわけか】

【さすが戦闘民族】

【戦闘民族は草】


「まぁそんな事もあるさ。テイマーだって使役できるまで結構苦労するからね。まずテイマー自体がエネミーを何回か討伐しないとテイム率が0%から変動しないから。力関係を理解させるところから始めるんだ」


【初耳】

【使役そのものが苦行なんだ?】

【テイマー人口増えない理由がそれか】

【単純にアトランティスに行く人はロボに乗りたい層が多いからじゃね?】

【確かに】


「少年、呼んでおいて僕だけスルーとは悲しいな」


「だって探偵さんはおまけだから」


「酷い」


【言い方】

【扱われ方が酷すぎて草】

【それでも呼ばれる辺り優秀なんだろうな】



 そうだとも。探偵さんはここでは保険なのだ。



「では私達三人は別にパーティを組むから君達は若い者同士で頑張りなさい」


「うん! お爺ちゃんにいいところ見せれるように頑張る!」


「あ、あたしはアキカゼさんの取材係なのでそっち行きますね」


【シグレちゃんwww】

【この子ブレないな】

【ただでさえ寄生気味だし居づらいんだろ】

【分かる】

【案外お爺ちゃんが心配なのかもな】

【放っておいたら勝手に出発進行しそうだし】

【言えてるw】



 こうしてコメント欄に見守られながら、私達は二つのパーティに分かれて探索を開始した。







「少年、ここが?」


「これは確かに騒がしいな。俺とアキカゼさんのナビゲートフェアリーが特別性だからか、若しくは精霊使いに起因するのか?」



 問題の地下三階。

 私がうるさく感じる妖精の声を、同時に二人が感知する。



【お?】

【流石助っ人なだけある】

【助っ人達はアキカゼさんと同じ優秀な探索者なのが窺えるな】


「優秀かどうかはともかく、出来ることはするさ。アキカゼさん、俺たちに何をやらせるつもりだ?」


「そうだね、まず探偵さんには妖精誘引を全方面に」


「全方面!?」


【めっちゃびっくりしてるじゃん】

【しらみつぶしだからそりゃビビるよ】


「ここで補足しておくが、妖精誘引とは、音の精霊と契る事で獲得出来る精霊術の一つだ。地下ルート開拓にはこれを取得してるとしてないじゃ竜神族との会話の成功率が変わる。あと連続して能力の行使は出来ないからびっくりしてる理由はそこだな」


【無茶振りの極地で草生え散らかした】

【流石! 情報提供者の鏡】

【補足助かる】

【竜神族との会話に成功率とかあるんだ?】


「あるぞ。竜神族は各属性の精霊達を敬う巫女が居てな、それぞれの属性を高めてないとキレて戦闘フィールドに突入する仕掛けがある。そんな癇癪持ちの彼らを宥めるのに使われるのが妖精誘引だ」


【戦闘民族してるなぁ、竜神族】

【そらスタンピードの末端に居るからな】

【天空人も確認してるって目撃情報もあるぞ】


「そりゃあるよね。あの人たちは古代人をムーの民と呼ぶもの」


【おい、なんだこの濃密な情報開示は!?】

【雑談で語られる情報の破壊力が強すぎるぞ!】

【ある意味期待してたがそれ以上の情報が来たな】

【この人達が驚く情報を俺らが掴める日は来るのか?】


「私が知らないことなんていっぱいあるよ。特にどうやったらスキルが50個以上派生するのとかさ」


【悩みの規模が小さいぞ、この人】

【アタックスキル持ってれば簡単に超えるんだけどな】

【アタック極だとそりゃもう100まであっという間に増えてくからな】

【アタック特化とか逆にバランス悪すぎてお荷物になるだろ。速攻スタミナ切れてさ】

【バランスが大事だよな、スキル骨子は】

【それ】



 やっぱり特化型ってバランス悪いんだ。

 じゃあ私が派生数少なくてもなんら問題はないな。

 なんせスキル派生数に悩んでる理由は概ねクラン人員の拡大くらいしかないからね。



「アキカゼさん、少しいいか?」


「はい」


「まずは俺が音の精霊術と交渉してみる。全方位に音を振動させて怪しい場所を突き止めてみる。それから妖精誘引をしてみてほしい。俺は音の精霊との契約は2までしか取ってないからな」


「うん、良いよ。私のアイディアなんかより100倍良い。流石どざえもんさんだ」


「僕はそっちの方が大歓迎だよ。EPは自然回復でしか回復しないからさ」


「なら交渉してみる。ここは妖精が多いからな。精霊達も悪い気はせんだろう」


【ところでEPって何?】

【地下ルート特有のポイントらしい】

【空のAPがAirから来てるならEPはEarthか】

【そこら辺だろうな】



「精霊は協力してくれるとさ。ならば俺の仕事は果たせるか。音精霊術 一の響〝広域音響〟!」



 ──キィイイン

 金属を擦り付けた高音が周囲に響く。

 どざえもんさんの使役した音の精霊が琴をかき鳴らしたのだ。

 地の精霊と契って視覚を強化した私だからこそ見えたが、マリン達は何も聞こえず、そして私たちの動きに困惑していた。



「捉えた! こっちだ!」


「マリン、一緒に行こう。そこに秘密が隠されているようだ」


「よくわかんないけど、分かった!」



 物分かりのいい孫達はマリンの声に釣られて動き出す。



「ああ、ちょっと待った。乗り物ならこちらで出すよ。動き回ってはスタミナを無駄に消費してしまうだろう?」



 そこで走り出す私たちに待ったを掛けたのは探偵さんだ。

 子供五人と大人3人。

 合計8人を乗せる乗り物はピンとこない。

 


「えっと、これは?」


「マイクロバスだよ。君達はお目にかかった事はないだろう? ここら辺はただただ横に広い。高さも十分だし、これ以上にうってつけの乗り物はない」



 得意げにしている探偵さんだが、びっくりしているポイントはそこじゃないと思うよ?

 差し当たっては君の運転技術とかをね、心配してると思うんだ。



「あ、僕の運転が荒いことを心配してる顔だな? 大丈夫だよ。目的地までオートドライブで走らせるだけだ。どざえもん君、マップのどこら辺に反応が出た? 目的地をリンクさせる」


「ここだ」


「了解した。そら、子供達は乗った乗った。楽しい遠足の始まりだぞー」


【急に遠足が始まって草】

【今行けばあの乗り物に乗せてもらえるのかな?】

【乗りたいか?】

【メカニックで乗り物に特化してるのってあの人くらいだろ】

【アキカゼさん困惑してるじゃんか】

【この人自由すぎんだろ】

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