第13話 ゲーム内配信/雑談枠 Ⅱ

 私個人の準備は特に必要ないので、孫達が何を買い足すのか非常に興味をそそられながら買い物を見守る。



「マリン、それは何を買ってるの?」



 マリンが緑色の瓶を買い足していたので尋ねてみる。



「これ? LPポーション。私のスタイルはLPも消費するからすぐ危険域に入っちゃうんだ。そんな時によくお世話になってるの」


「ふぅん。私はお世話になった事ないなぁ」


【えっ】

【いや、流石にそれは……】

【普通に冒険してればLPゲージに気をつけるものでは?】


「私は紙装甲だからね。当たれば終わりなんだ。そもそも積極的に戦闘しないしね」


【ピーキーな生き様すぎる】

【そら(パッシヴ極なら)そうよ】

【戦闘以前の問題だった】

【まず攻撃できないからね】


「だから戦闘特化がどれぐらい戦えるか今からとても楽しみなんだ」


「えっ? 爺ちゃんて親父の戦闘見たことなかったっけ?」



 ニコニコしながらコメント欄に語りかけていると、ここでずっとダンマリだったケンタ君が聞き捨てならないと口を開く。

 ジキンさんの家族と一緒にダンジョンアタックした時だよね?



「あるよ。でもあの時は別行動だったじゃない? それに金狼君も本気だとは言えなかった。こう、レムリアの民みたいに相対したら死ぬような緊張感はなかったよね?」


「そりゃ、親父にとってセカンドルナにダンジョンとか序盤すぎて本気を出すまでもねーけど」



 そこなのだ。

 私が見たいのは本気の戦闘である。

 別になぁなぁでもいいのだけど、私のジョブがどこまで通用するかを確かめてみたいんだよ。

 接待に興味はないんだ。



「お爺ちゃん、一応私も戦闘特化なんだけど?」



 知らなかったっけ? と不満そうにマリンが答える。



「そうだね。でも君は私の前だといい所を見せようとしすぎて変に緊張してしまうところがあるだろう? だからいつものようなカッコイイ姿だけじゃなく、そこそこピンチな状況に私がどれくらいサポート出来るかも必要だと思ってるんだ。それに余裕なダンジョンじゃ配信的にもつまらないしね」


「そっか」


「どちらにせよファイべリオンには最近到着したばかりなのでフルパーティじゃないと厳しいのは確かです。マリンちゃん、たまにはアキカゼさんに頼るのもありだよ?」


「うん。そうする」



 マリンはユーノ君に言いくるめられて素直に頷いた。

 流石相棒と名乗るだけある。

 普通の友達じゃここまで気遣えないもの。



「あ、あたしは今回記録係としてきてますので」


「記録係?」


「はい。お爺ちゃんが言ってました。どうせまた何か発見するだろうから、お前が記録しなさいって」


「えー、信用ないなー」


【仲間から信用されてなくて草】

【逆に言えば信用されてるんだよなぁ】

【これは名推理】

【だがフルパ推奨ダンジョンに戦力外宣言はきつくね?】

【普通ならキックされてもおかしくないけど……】


「しないよ。自分が一番足手纏いの自覚があるからね。それに探偵さんのメモには今まで世話になってる、逆に心強いと思うけどね」


【知ってた】

【アキカゼさんの前のパーティーも言うて戦闘特化居たか? って話】

【逆に丁度いいハンデかもしれん】

【テイマーだけで過剰戦力だしな】

【言えてる】


「それを調べるために来てるんだけどね。他に苦手分野の宣言がある人は居る?」


「ん。私も素材回収特化で戦闘は苦手」



 ルリが申し訳なさそうに手を挙げる。



「ルリちゃんは回避盾だからね。お爺ちゃんをさらに速度に特化させたタイプだよ」


「マリンちゃん、大袈裟」


「忍者みたいですよね、目で追うのがやっとです」


「照れる」



 ふむふむ。私とはまた違うパッシヴ寄りなのだろう。

 口数の少ないところと、無表情なところも忍者っぽい。



【アイエエエ、なんで、ニンジャなんで!?】

【ニンジャ殺すべし、慈悲はない】

【ニンジャプレイは毒殺が基本だからな。そりゃ火力ないわ】


「俺の獲物はツヴァイハンダーだ。みんなと違って威力こそあるが、モーションが遅いのが難点だ。隙も多いからダメージも受けやすい。なのでここぞと言う時は任せてくれ!」


【ツヴァイハンダーとかまたニッチな武器を】

【チビッコが扱うにはピーキー過ぎんか?】

【金狼の息子とは思えない浅慮さ】

【言うて金狼も脳筋だぞ? 魔法特化なだけで。あれは血筋だと思う】

【女の子の前でいいカッコしたがるのは男の子の特権】

【気持ちはわかる】

【がんばれー】



 最初こそはどこかダメ出しが多いコメントだったが、それでもデメリットを正直に話したりハキハキとしゃべる姿勢に応援するコメントも増えていた。

 真に受けたのか、ちょっと得意げになってるのは確かに血筋だね。すぐ調子に乗るのは金狼君よりもジキンさんの方に似てると思った。



「私は短剣デバッファー。手数と状態異常で戦場を撹乱するのが得意かな?」


【短剣ならそのスタイルが普通よね】

【なお、ワープも実装してるので実質アサシン】

【Wニンジャ編成とは恐れ入った】

【回避盾二枚とか事故る危険性多そう】


「そうならないためにもルリちゃんと打ち合わせしてるから平気だよ。前衛は私、後衛はルリちゃんが護ります」


【ポジション分けがしっかりしてるのなら安心】

【初見でここまで息ぴったりなのもすごいけどね】

【身内パーティーの強みはそこよね】

【謎の安心感】


「ん、マリンちゃんは攻撃担当。私は迎撃担当」


「心強いです。私は基本的にバッファーですが、中位魔法も扱います。選択魔法は火、水、風。詠唱中は無防備になるのでルリさん頼みになると思います」


「分かった。ユーノは私が守る」


「ケンタ君は私と一緒に攻撃だね」


「おう」


【なんやかんや噛み合ってるのがすごい】

【銀姫ちゃんコミュ強だからな】

【見習いたいわ】


「そうかなぁ? 私は普通だよ。なんだったらお爺ちゃんの方が色んな人とお話し合わせられるし」


【この祖父にしてこの孫あり】

【元凶はアキカゼさんだった!】

【アキカゼさん、お孫さんはこう言ってますが?】


「はっはっは。全くなんのことやら見当もつかないなぁ」


【安定のスルー能力】

【これ照れてるだけやぞ】

【偏屈者のAWO飛行部を言い負かした時点でコミュ強なのは確か】

【普通はあの圧に負けるもんな】



「それであたしはクランマスターの動向調査と」


「なんだか私だけ扱い違くない?」


【草】

【自業自得なんだよなぁ】

【アキカゼさん、もっと自覚して!】

【正直視聴者はそこら辺を楽しみに見てるんやで】


「こういうのは時の運もあるからね。まぁなるようになるさ」



 会話を打ち切り、目的のダンジョンに向かう。

 場所は深海回廊の奥にある海底ダンジョン。


 既に検証班の手垢まみれで新発見も特にないまま一行は順調に階層を降りていく。


 しかしB3で私は違和感を感じた。



「ここは随分と妖精が騒がしいね」


「ナビゲートフェアリーですか?」


「うん。私のは称号特典で最高のパフォーマンスを見せるからね。多分グレードによって見え方が違うんだろう」


【ナビゲートフェアリーって正直謎が多いよな】

【隠し通路の発見とかに便利やぞ】

【なお要求グレードは最低でもⅣ以上必須だが】

【購入にはランクも関わってくるからアキカゼさんのグレード仕入れるのに最低でもランクAA必須な件】



 へぇ、それは知らなかった。

 あとシグレ君、無言でメモ書き込まないで。

 その早速やらかしたなんて目で見るのはやめてよね。



「案外既存情報に反応しただけかもだけどね。少し探索してみようか。みんなはそのまま戦闘で。シグレ君は私と一緒に来るかい?」


「そうですね」


「重力操作は出来たよね? 風操作は私が制御する」


「0まで下げちゃう感じです?」


「うん、お願い」


「なんかちゃんと重力切れてるのか実感湧かないもんですね?」


「こういうのは慣れだからね」



 彼女にとっては初めての称号スキルの操作。

 しかし実感は湧かないのか戸惑いの方が多そうだ。

 風操作で浮き上がると、手足をバタバタさせてその場で慌てだす。うまい具合に浮き上がるまで少し時間がかかりそうだった。



【この子ちゃっかり五の試練超えてるのか】

【クラン特権エグくない?】

【あやかりたいわー】


「お爺ちゃん、私まだ持ってないよ?」


「私もまだです」


【銀姫ちゃん達可哀想】

【アキカゼさん、贔屓は良くないですよ?】


「これはうちのお爺ちゃんが独断でしでかした事です。例の機関車にあたしを乗せたかったらしく……マスターの意思とかじゃないですので責めないであげてください」


【把握】

【機関車の人ならやりかねない】

【まぁ身内だしな】

【自慢も兼ねて乗せるだろう】

【納得】

【俺だってロボ作ったら身内に自慢するしな】



 コメント欄に見守られながら探索は続く。

 配信用のカメラは私の方についてくるらしく、地上で戦闘をしているマリン達を写すことはなかった。

 そこはちょっと残念だけど、配信を通じてマリン達にも私の見る景色を拝ませることができるのでよしとする。



「少し暗いね。陽光操作を使うよ」


【うおっまぶしっ】

【うおっまぶしっ】

【うおっまぶしっ】

【うおっまぶしっ】

【うおっまぶしっ】

【うおっまぶしっ】


「大袈裟だね。でも嫌いじゃないよそういうの」



 ピカッと体を発光させて、恒例行事で騒ぐコメント欄にレスバしながらナビゲートフェアリーを明るくなった天井に向ける。

 天井付近では一段と妖精達が輝いている。

 それこそ目も眩むような眩しさだ。



「シグレ君。この上、何かあると思う。過去のデータではどう?」


「該当はありませんね。そもそも天井を調べようという発想があたし達にはないです」


【正論で草】

【ファイべリオン在中組はナビゲートフェアリーで探知できなかったの?】

【ランクAAクラスは大体ナインテイル辺りにいるだろ?】

【察し】

【単純に精度が悪くて感知しなかった系か】

【安心と信頼の探知能力やな】

【探知できても普通は天井まで登れないんだが】

【どっちみち無理ゲーやんけ!】

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