第05話 ゲーム内配信/陣営散歩 Ⅴ
ジキンさんと別れてからは空を再び飛んで移動する。
アトランティス陣営のほとんどは防衛システムと格納庫が占めているので、中央エリアに行くまで他人の作ったロボットを眺めるか殺風景な景色を眺めるしかなかった。
【それにしてもなんもないな】
【距離感が街の規模じゃないの笑う】
【もっと人が増えれば見応えあるんだろうけどな】
【飛行できなきゃ歩いてこいって感じで地獄だよな】
【何言ってるんだ? ここに来れるやつは空を飛べる前提だぞ?】
【そういやそうだった。それ込みの広さか】
【お、そろそろ人間用の門が見えてきたぞ】
【今までロボット用のデカさだったからな】
【ようやくか】
門の前では門番は居らず、センサーとホログラフ映像のみが浮かび上がっている。
私を認証すると扉が開いた。
ちなみにこの認証は正規ルートを通ってない人では開かない様になっている。
今回は動画の都合上、彼らは私の権限で招き入れた形となった。
【門があるけど、門番は居らずか】
【自動ドアなんか?】
【顔認識か?】
【案外認識内容細かく設定されてそう】
【ありうる。ビーム兵器とか振り回す種族だからな】
「さて、ここが中央エリアだよ。今まで上ばかり見ていて首が疲れたろう。ここからは普通にしてくれていいからね」
「色々とありがとうございます」
ペコリとランディス君が首を垂れる。
律儀な子だね。
ハーノス君もそれに倣って会釈をした。
彼女は極力会話をせずに態度で示す。
言うべきことは言うけど、まるでシェリルと接しているみたいだった。クラメンまで彼女そっくりだとは思わなかったよ。
「なに。こちらも配信に付き合わせてしまってすまないね。本当なら出演料を支払わなければいけないが」
「そんな、これ以上は貰いすぎですよ」
「そう言ってもらえると助かるね。まずはパスの発行をしようか」
【パスってなんぞ?】
【言葉から察するに通行証じゃないか?】
【アキカゼさんは必要としてないってことは】
【多分正規ルート以外の人は門前払い食らうんだろ】
【げぇ、長々格納庫エリアを歩いてきたら門前払いとか地獄やん】
【むしろここにくる過程で空飛べてなきゃおかしいんやで】
【そうだった】
コメント欄での議論は当たっていた。
認識パスはアトランティス文明のどれかにかすっていること。
私やクランメンバーたちは真・シークレットクエストクリア者として認められて認識されている。
以降この地に辿り着いたプレイヤー達は私達が率先して導いた。
まず最初にパスを発行しなければこの陣営ではなにもできないのだ。
「これが僕のパスですか。なんか中央に変なマーク入ってますね」
「それは古代アトランティス言語だよ。ジョブを解放すると読み取れる様になる。それを取得したならシステムからジョブ選択を確認できる様になってるよ。早速選んでみたらどうかな?」
「あ、はい。ではテイマーに」
ランディス君がシステムをいじっている横でハーノス君が神妙な面持ちでシステムと睨めっこしていた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。今ここで決めてしまっていいものかと決めかねています」
「ジョブチェンジは基本的にアトランティスマネーを支払えばいつでも変更可能だよ」
「あ、そうなんですね」
「ただし中途半端は途方もなく手間だと結論が出ている」
「それは何故でしょうか?」
「それはジョブが熟練度制だからだ」
「熟練度。スキル派生と似てますが、どう違うのです?」
「ジョブは熟練度が一杯になったら職業ギルドで試験を受けるんだ。その試験を合格すればジョブランクが上がる。ⅠがIIになる感じだよ。ランクが上がればやれることが増えるのは今までと同じかな?」
「本格的にスキルとは別物なんですね」
「うん、ぶっちゃけ手間だと思うのは同意だ。でもね、このジョブにはアトランティスの技術の粋が集められている。解放したからって全部扱えるとは思わないことだ」
【運営、エグいシステム作るな】
【これは他の陣営も似たり寄ったりだな】
【陣営ごとに特色がありそう】
【それな】
「ちなみにアキカゼさんのランクは?」
「私? テイマーのⅢだけど」
「具体的になにが変わるんですか?」
「使役できるエネミーの種類が増えるよ。Ⅰだとボール型。Ⅱからサンドマン型。Ⅲになるとシャドウ型とね。ちなみにランクを上げる毎にテイム上限値が上がっていくよ。最初なら一体のみだけど、Ⅲだと三体まで可能だね」
【それって通常のエネミーと同じ特色なんか?】
「同じだと思うよ。なんせ通常エリアのエネミーにテイムを掛けるんだからね」
【それは初耳。つまりゲットした地域で耐久も変わってくるのか】
「そうだね。私のボール強化型/マジック(八の試練)、サンドマン強化型/ホバー(七の試練)、シャドウ強化型/タワー(七の試練)と戦ってみたい人がいるならいつでも相手になるよ」
【選別の仕方がエグくて草なんですけど】
【生息地が全部天空の試練やんけ】
【しかもボスクラスの強化型ばっかじゃねーか!】
【七の試練とか準備なしで行くと全滅必至なんだよなぁ】
【逆に朗報だぞ?】
【なんでだよ】
【強化型ってイベント限定なところがあるじゃん。つまり今後イベントで出てきてもテイムできる!】
【天才】
【天才】
【天災】
【最後意味違うwww】
「なるほど。そこら辺は実力によるんですね」
「うん、身の丈に合わせて使役できるエネミーを切り替えていくのがいいと思うよ」
「わかりました。参考にさせてもらいます」
うん、素直な子はいいね。
ちなみにテイマー同士で使役エネミーを戦わせる闘技場があったりする。
ⅢからⅣになる試練はそこで5勝することが条件なのだ。
だから私の使役エネミーはガチで選ばせてもらっている。
「今回はメカニックを選ばせていただきます」
そこでようやくハーノス君が決意を固めた様だ。
ジョブは変えられるには変えられるけど、それを可能にするにはアトランティスマネーが必要になる。
それらは地上で使えたアベレージ通貨とは全く別のもので、ランクによって振り込まれる定額マネーが10,000ほど必要になる。
ランクⅠだと一ヶ月で1000。
ランクをⅩに上げるか、10ヶ月Ⅰで過ごせばチェンジは可能だけど、彼女は平気だろうか?
「うん、うちの身内がバカばかりやってなんのお手本にもならなくて悪いけど」
【酷い言われよう】
【アキカゼさんも大概なんだよなぁ】
【アキカゼさん、ブーメランですよ!】
【脳天直撃で致命傷出来ちゃいますよ!】
「平気です。元々コツコツやるのは性分ですので」
【期待】
【期待】
【機体】
【気体】
【途中から字がおかしくなってるぞ】
「では期待しておくよ。それじゃあ今回の配信はここら辺でおしまい。次の配信までさようなら」
【お疲れ様です】
【乙でした】
【お疲れ様ー】
【88888】
【楽しかった!】
【同時接続数の伸びが圧倒的なんだよなぁ】
【本当だ220万人!】
【世界中の人が見てるってマジ?】
【世界中でやってて300万人は少ないんだよなぁ】
【それ。もっと増えてもいいんだけど】
【そこばっかは運営次第だろ】
【だな】
配信を終了して、二人に向き直る。
「いやぁ、最後まで付き合ってくれてありがとうね。お陰でたくさんの人たちに見てもらえた様だよ」
「なんだかんだ慕われてるのが見て取れましたね」
「そうかなぁ、ツッコミが多かった様に思えるよ。普段私の方がツッコミ担当なのにおかしいね」
「「ノーコメントで」」
二人して苦笑している。
つまり若者からしてみたら私はボケの方が多いのだそうだ。
ちょっとどころではないくらいショックだった。
「さて、冗談はさておきこれからどうする?」
「このアトランティスマネーというのはどうやって増やすんですか?」
ランディス君からの質問は、アトランティス陣営のプレイヤーなら知っておきたいところだろう。
ああ、こんな事ならもう少し配信を続けていればよかったかな? まぁいいか。
「基本的にランクに応じて月に一度パスを持ってる人に支払われるよ」
「ゲーム内での一ヶ月で?」
「うん」
「その間にログインできていなくてもですか?」
「そこまではわからないよ。何せ解放して一ヶ月経ってないからね」
「そうですよね」
「それ以外は賭け事でも増やしたりできるよ」
「賭け事……ギャンブルですか?」
「基本的には闘技場しかないよ。テイマー専門とメカニック専門のね。ギャンブルであってる。勝ちそうな方にベットして、倍率に応じて手元に戻ってくる。もちろん賭けを外せば胴元の懐に入るので減っていくのは仕方ないよね」
「ああ、ジョブのランク上げにそういうのも使われるんですね」
「流石にテイマーvsメカニックは見た事ないけど、同じランクで対戦してるのをみたことあるよ。テイマーの人数が少ないから開催されるのはメカニック同士のものが多いけどね」
「あはは。いつかアキカゼさんに追いつける様に頑張ります」
「うん、頑張ってくれたまえ」
ランディス君は質問するたびにコロコロと表情を変えて驚く。
その横でハーノス君がシステムと睨めっこしつつ、精神体になるための試練を受けに行った。
それをランディス君と見送った後、お互いにログアウトする。
現実に帰ってくると、リビングで寛いでいた美咲が私の胸に飛び込んできた。
もうすっかり腰は良くなっているが、たまに勢いが良すぎて受け止めきれない時がある。
元気なことは良い事だけど、ゲーム内と違ってリアルの私の肉体はそこまで頑強ではなかった。
こうして彼女のタックルを受け止められるのは後何年くらいだろうか。
そんなふうに感傷に浸ってしまうのは良くないな。
すぐに話題を変えてAWOの配信の話をした。
早速みてくれる様だ。
配信を切ったら、あとは勝手にチャンネルに登録されるので最新から読み込めばいい。
誰も居ないリアルの世界で、少しだけのんびりとした時間を過ごした。
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